データを価値として人々に還元するまちづくり。三菱地所によるリアルとデジタルをつなぐ街のプラットフォームとは
「三菱地所が考える“まちづくり“のアップデートと、インフラとしてのKARTEの活用」と題したセッションでは、街を訪れる全ての人を顧客と捉え、一人ひとりに街を訪れる意味を明示するための取り組みが紹介されました。三菱地所は、オフライン・オンラインの行動データをどのように活用されているのでしょうか。
2021年2月2日から4日まで、KARTEを活用する企業やパートナーのプレゼンテーションを通じてCXを追求するうえでの思考と実践を学べるカンファレンス「KARTE CX Conference 2021」を開催しました。
「三菱地所が考える“まちづくり”のアップデートと、インフラとしてのKARTEの活用」と題したセッションでは、三菱地所株式会社DX推進部の春日慶一氏が登壇。
同社が捉える「顧客」とは、街を訪れる全ての人。提供するサービスの業態も様々です。そして訪れる人の手元にはスマートフォン。顧客接点は、リアルもあればデジタルもある。そもそもオフラインとオンラインという区分け自体がもう有効ではないのかもしれません。一見、カオスにも映るこの状況で、三菱地所はどのように顧客と向き合い、顧客体験を向上させているのでしょうか。
春日氏が語った内容からは、アフターコロナにおける街の体験、活きた顧客の行動データを集め、良い体験として顧客に還元するために必要な仕組みなど、複数のポイントが浮かび上がってきました。
社会変化に合わせ、関係人口全体を「顧客」と捉える。130年を経ても終わらないまちづくり
今回のセッションでは、春日氏から大手町・丸の内・有楽町の3つの街を合わせたエリア「大丸有」のまちづくりの事例が中心に紹介されました。同氏は、三菱地所の活動について、多様な交流の生まれる場であることを本質的な価値に置いたまちづくりを推進してきたと語ります。
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デベロッパーがビルに限定して不動産価値を考えると、対象となる顧客はビルに入居する事務所や店舗、ホテルなどになります。一方、エリアにまで視野を広げて不動産価値を考えると、対象となる顧客は拡大します。三菱地所は、顧客の対象を広げ、エリアを訪れる全ての人たちを顧客と捉えているといいます。
明治政府から丸の内の払下げを受けて以来、約130年に渡って社会の変化に適応しながら、街を訪れる関係人口全体を顧客として価値を提供してきた三菱地所。しかし、近年生じている社会や顧客の変化により、まちづくりには更なるアップデートが求められていると春日氏は語ります。
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春日氏「近年、デジタルを活用した顧客の行動も増え、一人ひとりの価値観も多様化しています。当社も、この2つの社会変化への適応が求められる状況にありました。この変化は以前から生じており、コロナショックを経てさらに加速しています。
人々は常時インターネットに接続して様々な情報を得られるようになったため、アクセスするデータによって行動が最適化されるようになりました。また、通勤や通学といった決まった経路からも解放されつつあります。
これらの変化により、人々は自覚的にリアルとデジタルを使い分けるようになっています。これは大きな変化です」
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春日氏はこうした変化を踏まえて、「これまで物理的接点があることを前提に価値を提供してきたが、これからは一人ひとりに対して“街を訪れる意味”を明示できなければ、顧客にすらなりえない 」と語りました。
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“街を訪れる意味”を生み出すために、街に散在する様々なサービスと顧客を「データ」でつなぐ
変化しなければならない一方で、三菱地所が管理するエリアで提供されるサービスは点在しており、データの連携ができていなかったと春日氏は語ります。「顧客との物理的接点におけるデータ収集力が弱い」「数少ない顧客との接点も点在してしまっている」という2点をどう乗り越えるかが、三菱地所の課題でした。
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春日氏「現代のビジネスは、お客様の行動データをいかに集め、活用していくかが重要になっています。Webやアプリを利用しているお客様の行動データ解析はビジネスの現場では一般化していますが、それに比べると、リアルでのお客様の行動データ収集は未成熟です。リアルを主戦場とする私たちは主流となっているビジネスのトレンドに追従できていませんでした。
また、オンラインでお客様との接点があったとしても、横断的なデータ蓄積の仕組みがない状態。お客様の状況把握やサービスを横断したシームレスな顧客体験の実現が困難な状況でもありました。さらに、提供するコンテンツはプロジェクトや部署のなかに閉じており、街や企業へのブランド貢献は局地的になっていたのです」
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こうした状況を変えていくために、複数のサービスをつなぐ必要があると考えた春日氏は、まず「データ蓄積」と「データ活用」に取り組み始めました。
春日氏「データの蓄積については、三菱地所のあらゆるサービスの統合認証基盤として『Machi Pass』を開発しました。これとGoogle Cloud Platformを組み合わせて、一人ひとりのお客様がどんなサービスを体験したのかのデータをひとつの場所に格納できるようにしています。蓄積したデータの活用では、GoogleのデータポータルとKARTEを組み合わせて利用しています」
街ナカにおけるリアルとデジタルを組み合わせた行動データの活用例
データの蓄積と活用を行う土台ができた三菱地所は、展開する様々な業種のサービスにてKARTEを活用。春日氏からはどのようにKARTEを使っているのかがシェアされました。
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春日氏「当社のサービスのあらゆる場面でKARTEの活用が始まっています。例えば、就業者向けのサービスサイト『update! MARUNOUCHI』でアンケートを配布したり、横浜ロイヤルパークホテルのWebサイトのトップに予約ページに遷移するタブを実装したり。KARTEを使うと、実装が簡単にできるので、クイックに施策を試しています」
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Webでの事例に続いて、まちづくりに取り組む三菱地所ならではのリアルにおける顧客の行動も含めたKARTEの活用事例が共有されました。
春日氏「一部のマンションでは、フードトラックの実証実験も行いました。住宅の1階にフードトラックを置き、クーポン配信をきっかけにお客様の行動データを収集。この施策も、KARTEでつくったコンテンツを埋め込んで実現でき、構想からわずか2〜3日で実行できました」
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春日氏「当社のカフェテリアである『Sparkle』では、オフラインも連動したクーポンの実証実験も行っています。お客様がサイトにアクセスした後に、Machi Passに登録・ログインしてもらい、QRコードのクーポンを取得します。店舗を訪れた際に、レジ横の端末にQRコードをかざしてクーポンを利用する取り組みです。
この取り組みでは、2つの行動データが取得できました。QRコードを表示するWebでの行動データと、レジで端末にQRコードかざすという位置情報も含むリアルでの行動データです。両データを合わせて結果に表示でき、より詳細に行動データの分析ができました。 店舗の利用回数に応じて、お客様に提示する割引額を変動させるなどの対応も実装しています」
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KARTEを使い、多様なサービスをスムーズにつなぐための基盤をつくる
KARTEを使った様々な事例を紹介いただいた後、春日氏からはこの先どのように街に関連するサービスを連携させていくかの構想が語られました。
春日氏「当社が運営しているサイトやアプリは多岐にわたります。これらの個別サービスに加えて、会員やポイント、クーポンなどを管理する共通サービスもあります。共通サービスと個別サービスを連携させようとすると、N対Nの連携が必要になり、膨大な労力がかかってしまいます。両サービスの間にKARTEを入れることで、システム連携のコストや開発期間の大幅な圧縮の実現を目指すのが当社の構想です」
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春日氏は、これまでバラバラになっていたサービスをKARTEを通じて連携させていく構想を語った後、顧客接点においても複数のサービスをつなぐための構想を語ります。
春日氏「今後、多くのお客様にご利用いただいている丸の内ポイントカードや、みなとみらいポイントカードなどをアプリ化していく予定です。これは私たちが提供している多様なコンテンツと、データの基盤となるインフラをつなぐためのアプローチなんです。
イベントやクーポンなどの当社のコンテンツとBigQueryやMachi Passなどのインフラを直接つなぐだけだと、お客様は自ら一つひとつのコンテンツにアクセスしなければなりません。そうすると、お客様は同じ街の体験にも関わらずどこに何があるのかわからない状況になってしまいます。
各街のプラットフォームアプリがコンテンツとインフラの間に入る役割を果たせば、お客様はそれぞれのアプリを利用することで、適切なコンテンツにアクセスできるようになると考えています」
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リアルのデータも集めて顧客にとって価値ある体験を提供する
セッションの終盤で春日氏から語られたのは、リアルとデジタルをいかにつなぐかです。三菱地所はこれまでにも、リアルの場におけるデジタル活用に取り組んできました。カメラを利用した店舗の混雑予測や、ビーコンを利用した顧客への情報発信など、様々な取り組みをしてきたものの、これらは活かせていなかったといいます。
春日氏「これまではカメラやビーコンなどそれぞれのデバイスから収集したデータの連携はできておらず、またプル型の情報発信以上には顧客への働きかけにも活かせていませんでした。これからは収集したデータを連携させ、顧客への働きかけが重要だと認識しています」
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KARTEを活用して、リアルとデジタルをつないでいる事例として、春日氏から共有されたのが有楽町のイノベーション拠点「Shin Tokyo 4th」です。
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春日氏「Shin Tokyo 4thのカメラで混雑状況を検知して、BigQueryにデータを送り、KARTEと連携。KARTEからお客様に混雑状況を通知すると同時に、優待クーポンを配信するとお客様の行動は変化するかという実証実験を計画しています。
クーポン配信は付加価値を生み出す実験ですが、ペインを解消するアプローチの実験も行っています。感染症対策による入場規制で、行列が起こりがちな喫煙所をご利用のお客様向けに、混雑状況の発信に加えて『これから行くボタン』を用意して、自席からお互いに行くタイミングを通知することで、混雑を回避し合う文化を生み出せないかを実験しています」
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この他にも会員制施設では、検温スタンドによる顔認証をMachi Passと連携し、PCやスマホすら使わず施設の利用ログを活用した接客につなげる実証実験も構想しているそうです。
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三菱地所は、リアルとオンラインの双方で様々な顧客との接点から生まれるデータを収集し、一箇所にデータを蓄積して意味づけを行い、顧客への働きかけをグループ横断で実行できる仕組みを構築しています。
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「この仕組みを実現するうえでKARTEは欠かせません。蓄積したデータの連携にKARTE Datahubを使い、KARTEでお客様の可視化やセグメントの作成等を行って、コミュニケーションをつくっていきたいと考えています」と春日氏は語りました。
セッションを通じて、これからのまちづくりにおけるデータの重要性を語ってきた春日氏は、最後に「ただ、データを集めるだけではダメ」だと語り、セッションを締めくくりました。
春日氏「私たちは、いただいたデータを活かしてサービスを磨き、最大限の価値をお客様に還元できている状態を実現しなければなりません。それが実現できていれば、お客様は愛着を持って街に来て、街のサービスを使い続けてくださいます。お客様から"活きた行動データ"を共有いただくためには、これが欠かせません。 このデータが循環する仕組みをつくっていけるかどうかが、これからのまちづくりには肝要なのです」
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