Event Report

デジタルでも“親近感”あるコミュニケーションを。かんぽ生命の描くCXとKARTE活用

「KARTE CX Conference 2022」のセッション「CX向上のために顧客とつながり、つなぐ」では、取り組み当初に直面した“壁”や乗り越えるためのSaaSやRPAの導入、活用方法などについて、株式会社かんぽ生命保険デジタルサービス推進部企画役の中村瑞木氏に語っていただきました。

顧客の生活のさまざまな場面にデジタルが浸透している今、主にリアルの接点でサービスを展開してきた企業のなかにも、デジタルの接点の拡充に取り組む企業が増えています。

全国2万ヶ所を超える郵便局、82ヶ所の支店で養老保険や終身保険など保険サービスを提供している株式会社かんぽ生命保険も、そうした企業の一つです。2018年に新設したデジタルサービス推進部が中心となり、リアルの接点で顧客に提供してきた価値を大切にしながら、デジタルでのサービス展開や体験向上を進めてきました。

「KARTE CX Conference 2022」のセッション「CX向上のために顧客とつながり、つなぐ」では、取り組み当初に直面した“壁”や乗り越えるためのSaaSやRPAの導入、活用方法などについて、株式会社かんぽ生命保険デジタルサービス推進部企画役の中村瑞木氏に語っていただきました。

その試行錯誤からは、単に従来のサービスをデジタル化するのではなく、リアルとデジタルの接点で顧客と「つながり、つなぐ」ことによって、体験向上を実現するためのヒントがみえてきました。

サービスをリリースできない。直面したデジタル活用の壁

近年、保険・金融業界でもDXの重要性が叫ばれています。一方、かんぽ生命では「全国の郵便局やコールセンターが主な顧客接点であり、押し寄せるデジタル化の波に乗れていなかった」と中村氏は語ります。その波に応えるべく新設されたのがデジタルサービス推進部でした。

中村氏「デジタルサービス推進部では、大きく3つの取り組みを掲げています。
まずは顧客の行動や属性に合わせたWebサービスの提供です。リアルタイムのWebサイトへのアクセス情報、属性や契約内容などの顧客情報を活かして、パーソナライズされたサービスを提供したいと考えています。
続いてリアルとデジタルチャネルの融合です。郵便局やコールセンターでの対応履歴とWebサイトのアクセス履歴を連携させ、より便利なサービスを実現することを目指しています。
最後はデータにもとづいた顧客の理解です。Webサイトのアクセス履歴やお客様へのアンケート結果などから施策の効果を定量的に把握し、改善するサイクルを回したい。
さらに、これらの取り組みに必要な開発や改善を、外部の協力会社に頼りすぎることなく、社内のメンバーで素早く行える体制づくりも必要だと捉えています」

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デジタルサービス推進部では、部署の立ち上げ後、保険商品の契約主向けページの企画・開発を進め、2019年4月に「ご契約者さま専用サイト『マイページ』」をリリースしました。2019年6月には公式Webサイトの管理・運用の内製化を見据え、ディレクターやデザイナーを新たに採用。社内のメンバーが中心となって更にスピーディーにサービスの開発を進める想定でした。

しかし、その後1年以上、公式Webサイトでは既存コンテンツの更新のみで、新たなサービスはリリースできませんでした。マイページでも複数のサービスを追加する見込みでしたが、公開できたのは「契約内容の確認」と「住所・電話番号の変更」「払込証明書の再発行」のみ。社内ではデジタルサービス推進部の取り組みの進捗を心配する声も挙がるほどでした。中村氏は「現実は厳しいものでした」と当時の様子を振り返りつつ、その要因を分析します。

中村氏「考えられる要因はいくつもあります。まず、日常の運用業務に追われ、サービスの企画や開発などに時間を割けなかったことです。データの格納先が複数あるためデータの分析にも手間がかかり、具体的なサービスに落とし込む余裕がありませんでした。

さらに基幹システムと連携したサービスを提供する場合、その開発にも一定の工数がかかる。当初イメージしていたスピーディーな開発や改善には程遠い状況でした」

SaaSとRPAの導入で加速したサービス開発

しかし、2020年から開発の状況は好転していきます。Webサイトでは、2020年5月に問い合わせ用のチャットボット、2020年12月にはWeb会議ツールを使ったオンライン保険相談、2021年7月には有人チャットによる問い合わせ対応サービスなどを開始。

契約者向けのマイページでは、2020年11月から2021年10月までの間に、入院・手術保険金の請求や登録家族の登録・変更など、9つの新たなサービスをリリースしました。

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サービスの開発スピードの向上に寄与したのは、KARTEをはじめとしたSaaSプロダクトの導入だったと言います。

中村氏「2020年以降、Webサイトでの体験向上や、特定の機能・施策の実装に役立つプロダクトをいくつか導入しました。

これにより自社でゼロから開発する手間をかけず、チャットやオンライン保険相談など、新たなサービスや機能を構築できるようになりました。既存のシステムもうまく組み合わせて利用することで、より効率的に進められました。

さらに導入したSaaSプロダクトは、いずれもリリースした機能やサービス、施策の分析を行う機能も備えています。お客様の反応・評価を細かく確認し、改善に反映できるようになりました。リリースを『ゴール』ではなく『スタート』として捉え、お客様の反応を確かめながら、サービスを磨き込んでいく。そうしたサイクルを素早く回せる環境が整ったのです」

中村氏は、オンライン保険相談の前後のコミュニケーションをKARTEで実装した例を共有します。

中村氏「まず、お客さまには見積もりシミュレーションや資料請求といったコンテンツを入り口にランディングページを訪れて、オンライン保険相談の予約をとっていただきます。

その後、自動送信でお客様に予約完了メールをお送りするとともに、オペレーターからも前日に予約状況を確認するメールをお送りし、オンライン保険相談を実施。終わった後はオペレーターからお礼メールをお届けします。さらにアンケートに回答いただき、お客様のご希望によっては支店の担当者が直接ご自宅に訪問し、評価のためのヒアリングやより詳しい商品説明、契約の手続きを行うこともあります」

こうした一連の流れを構築するにあたって、資料請求ページのポップアップやランディングページの予約フォーム、予約後のメール配信、相談後のアンケートをKARTEで実装しました。従来であれば、半年もしくは1年程度かかっていたかもしれませんが、およそ2ヶ月で完了しています。

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中村氏「実装が完了した後は、様々な施策を試し、予約数の拡大につなげてきました。例えば、資料請求ページに表示するバナーのABテスト。1ヶ月足らずで6種類のバナーの作成からテストの実施までを行い、最も効果の高いバナーを特定できました。バナーの大きさやデザインのちょっとした違いでクリック率に10倍ほどの差が出ることもあります。より多くのパターンを試して反応を確かめる重要性や、テストをより素早く行えるSaaSプロダクトの利点を実感しました」

スピーディーに施策の改善を行った結果、オンライン保険相談会の予約数は、スタート時の数値から大きく伸びていると言います。さらに相談を行った後のお客様の反応もしっかりと確かめ、相談自体の質を高めてきました。

中村氏「具体的には、相談後の説明内容に対する理解度や、相談会に対するお客様のNPS®スコアを取得し、改善に活かしてきました。

現状、相談を利用したお客様のうち、説明内容について『理解できた』と答えた方の割合は、ほぼ100%を達成。さらにNPS®️スコアも18.5ポイント、10段階評価の平均が8.0です。オンライン保険相談を始める前に、お客様の資料請求に応じて資料を送付するのみのサービスを提供していた頃のNPS®️スコアがマイナス80.2ポイント、10段階平均が4.5でしたから、大幅に向上しています。

いずれの結果も、お客様の相談後の反応を現場にフィードバックし、相談の質を高める取り組みを続けてきた結果だと考えています」

注:ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

こうしたサービス開発・改善に時間を割くことができるよう、かんぽ生命ではRPAツール(単純な定型業務やデータの収集・分析業務などを自動化できるツール)も積極的に活用、効率化を図っています。特にバックオフィス業務において役立っているそうです。

中村氏「たとえば、マイページで入院・手術保険金などの請求処理が行われた際、その情報を基幹システムにも連携させたかったのですが、開発コストと時間が多くかかることがわかっていました。

そこで、請求情報を基幹系システムにも流し込む処理をRPAで代替しました。開発コストと時間を抑えつつ、実際に連携しているのに近い状態で開発を行えるようになりました」

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デジタルでお客様に親近感を抱いてもらうには?

SaaSやRPAなどテクノロジーを駆使し、デジタルでのサービス展開を加速させてきた中村氏。今取り組んでいるのは「デジタルでも顧客が親近感を抱くコミュニケーションを届けること」です。

中村氏「かんぽ生命は、お客様にとっての『親近感』を強みにしてきました。『親近感』の捉え方はさまざまあると思いますが、困った時にすぐ相談できる、親身に話を聞いてくれると感じることではないかと、私たちは捉えています。

これまでのかんぽ生命では、デジタルのコミュニケーションにおいて、十分な親近感は与えられていなかったと思います。たとえばメールなどでお知らせを送っても、それをお客様が見たのかを知る方法もありませんでしたし、フォローする連絡などもできていませんでした」

では、「親近感を抱いてもらう」ためにはどうするのか?中村氏「従来の満期終了のお知らせは契約期限について伝えるのみでしたが、現在はメールから遷移した先のランディングページに、感謝を伝える動画コンテンツを用意。その後に学資保険や養老保険などの提案、チャットによるサポートの案内しています。

一方的に満期をお知らせするだけでなく、私たちの感謝を伝え、これからお客様の人生をどのようにサポートできるのか一緒に考えたいという想いを込めました。

当初、社内からは『ただメールや動画を送って意味があるのか』という疑問の声も挙がりましたが、蓋を開けてみたらメールの開封率は65%、動画の視聴率は29%を超えました。

そのうち9割以上の方が動画を最後まで見て、全体の13%がLPに進んでくださったんです。アンケートでも半数以上の方がオンラインでの定期的なコミュニケーションを「必要」と回答してくださいました。

困った時にすぐ相談できる、親身に話を聞いてくれるといった親近感を、一定抱いていただけたのではと思っています」

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さらにデジタルの接点はもちろん、リアルの接点も横断した施策にも力を入れていきたいと考えています。

中村氏「分析結果から、デジタルでサポートした後、さらにリアルの接点でサービスを提供すると、お客様に満足していただきやすいことがわかってきています。たとえば、オンライン商談の後、オフラインの商談に関心を持つ人は多いんです。関心を持たれたお客様は全体の44%、商談の成約も50%を超えています。

今後はWebサイトはもちろん、郵送物やメール、郵便窓口など、様々な接点でのお客様の反応を一元的にデータベースに貯め、ニーズや困りごとの傾向を掴み、最適なタイミングでの提案につなげたいと思っています」

その一環として、かんぽ生命ではKARTEを活用し、デジタルの行動履歴をリアルの顧客接点にも連携し、活用する仕組みを整えてきました。今後の契約段取りの方法を記載したFAQのページを確認しているか等、お客様のWebサイト上での行動履歴やオンライン相談時の予約情報、予約内容などをまとめたデータベース『カスタマーカルテ』を作成、オペレーターに連携していく仕組みを構築しているそうです。

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お客様に喜んでいただく一連のプロセスをKARTEで経験

セッション終盤では、かんぽ生命のデジタル化が進むようになった大きな要因の一つとして、ツールの活用に加えて「メンバーの成長や頑張り」を強調しました。とくにKARTEの活用によって「人の育成が進んだ」と感じているそうです。

中村氏「デジタルサービスの開発・運営においては、分析から課題設定、施策立案、実装、サービス提供、評価・改善まで一連のサイクルを、いかに素早く的確に回すかが重要だと考えています。

KARTEでは、経験や知識の少ない若手メンバーでも、分析から改善まで一連の流れを経験できます。自分で考え、作り、提供したもので、お客様に喜んでいただくプロセスを体感できるのです。

それにより、分担をしてサービスの開発・運営を行う場合、各メンバーが最終的にお客様に喜んでいただくまでの流れを意識し、動けるようになったと感じます」

こうした“人”の育成とツールの活用の両方が、CX向上、そのためのDXの推進において重要であると強調し、中村氏はセッションを終えました。

中村氏「なかなか、うまく進まなかった時期から、何とかよちよち歩きつつ、デジタル化を進めてきました。試行錯誤を通して感じたのは、やっぱり最後は人が重要であるということです。今後もどのようにツールを活用するのかはもちろん、どのように人を育てていくのかを大切に、取り組みを進めていきたいと思っています」

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