Event Report

MicrosoftのGenerative AIとKARTE Craftで広がる次世代の顧客体験

2023年7月に開催した「KARTE CX Conference 2023」内のセッション「MicrosoftのGenerative AIとKARTE Craftで広がる次世代の顧客体験」のレポートです。日本マイクロソフト株式会社 Azure ビジネス本部 AI GTM マネージャー 小田健太郎氏とプレイド カスタマーエンジニアの池上純平が登壇。MicrosoftのAIに関連する取り組みや、今後の展開の中で重要な役割を果たす「Copilot」と「プラグインエコシステム」の詳細。そして、KARTEを拡張する新機能「KARTE Craft」と、MicrosoftのAI関連サービスの連携が生み出す、次世代のソリューション開発手法について語りました。

2023年1月、MicrosoftはAI開発をリードするOpenAIとのパートナーシップ拡大を発表しました。OpenAIと共に「AI の民主化」を目指すことを宣言し、この発表以降、次々と生成AIを導入した新プロダクトや機能をリリースしています。

「事業成長をCXのデジタル変革で牽引する」をテーマに開催された「KARTE CX Conference 2023」内のセッションに、日本マイクロソフト株式会社 Azure ビジネス本部 AI GTM マネージャー 小田健太郎氏とプレイド カスタマーエンジニアの池上純平が登壇。

このセッションで語られたのは、MicrosoftのAIに関連する取り組みや、今後の展開の中で重要な役割を果たす「Copilot」と「プラグインエコシステム」の詳細。そして、KARTEを拡張するための新機能である「KARTE Craft」と、MicrosoftのAI関連サービスの連携が生み出す、次世代のソリューション開発手法です。

AIの今までとこれから。注目すべきは「マルチモーダルの可能性」

セッション冒頭、小田氏はAIを取り巻く環境変化と今後の展望を解説しました。

小田氏「従来のAIモデルは、画像分類や物体検知など、単一のタスクに特化してトレーニングされたものが一般的でした。ところが、最近注目を浴びているChatGPTをはじめとするLLM(大量のテキストデータを学習して構成されたAIモデル)と呼ばれるAI基盤モデルでは、一つのモデルでさまざまなタスクに順応することが可能になっています。質問応対や要約、翻訳など、ある程度ハイコンテクストなタスクにも対応してくれるのです」

飛躍的な進化を遂げるAIにまつわるトピックの中で、今後特に注目すべきはマルチモーダルAI、つまり「テキストや画像、音声、動画などの複数の情報形式に対応できるAI」だと小田氏は言います。

小田氏「今は自然言語が中心ですが、今後は言語タスクのみならず『画像によって指示を出し、画像によってアウトプットする』など、マルチモーダルなタスクに対しても利用可能になります。

すでにMicrosoftの研究機関であるMicrosoft Research Asiaより研究成果としてマルチモーダルモデル『Kosmos-1』が登場しています。GPT-4の可能性もここに秘められています」

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マルチモーダルAIへの注目に加えて、小田氏はLLMのパラダイムが量から質へと変化していることも指摘します。

小田氏「これまでは『スケーリング則』と呼ばれる、パラメータ数(※1)が多ければ多いほど、AIは賢くなるという考え方が正しいとされていました。

ところがデータの品質を向上させることで、パラメータ数で劣っていても精度の高いアウトプットが出せるようになってきています。Microsoft Researchは、わずか13億パラメータ(※2)のLLM『ph-1』を発表しています」

※1……AIモデルが学習中に最適化する必要のある変数の数。パラメータ数が多ければ多いほど、予測生成とクエリ解決の能力は高くなるとされているが、学習にかかる時間や計算リソースが増加するため、学習や推論に高性能なハードウェアが必要になるなどのデメリットもある。
※2……OpenAIが2023年3月に発表したLLM「GPT-4」のパラメータ数は非公開ながら、1兆を超えるとする説もある。

製品へのAI実装の先にあるもの。生成AIで広がる新たな顧客体験

2023年に入ってから、MicrosoftはAIを活用した新製品や新機能を矢継ぎ早に打ち出しています。セッション当日には、AIによるCX向上と機能開発支援の新機能が発表されました。これらの機能を支えるのが、OpenAIとの提携により実現した「Copilot(副操縦士)」と「プラグイン」です。

小田氏「Copilotとは、GPT-4などの次世代型LLMを活用し、複雑なタスクをアシストしてくれるアプリケーションのことで、『Word』や『Excel』などの多くのMicrosoft商品に実装されています。一方、「プラグイン」とはAPI連携によって、Copilotを実装したサービスを拡張するための機能のことで、OpenAIとMicrosoftは標準化されたプラグイン規格を採用することを発表しています。つまり、サードパーティが『ChatGPT』向けに開発したプラグインを、Microsoft製品にも組み込めるようになるのです。

先んじて、ChatGPTにプラグイン機能が実装されています。そして今後、Copilot機能が実装されたMicrosoft製品からも、さまざまなプラグインの利用が可能になります。当然、みなさんが開発したサービスもCopilotを実装した製品に組み込めるように。圧倒的なユーザー数を誇る『Microsoft 365』など介して、ユーザーにリーチできるようになるため、ビジネスに与えるインパクトはかなり大きいと言えるのではないでしょうか」

今後、ますますビジネスシーンでのAI活用が進むことが見込まれます。日本における生成AIのユースケースとして、小田氏は「従業員の壁打ちチャットボット(アイデア出し、情報の要約や、言語翻訳)」「社内情報の検索(社内に散らばる様々な資料を統合。対話をベースに必要なドキュメントの検索)」「コールセンター(お客様からの問い合わせを受けるコールセンターの最適化)」の三つを挙げます。

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最後に、小田氏はAI利用とLLMの変遷とこれからの変容をまとめながら、AIとの向き合い方について提言しました。

小田氏「これまでは、特定のタスクに特化したAIの局所的な活用にとどまっていました。しかし生成型AIの登場によって、より汎用性の高いユースケースにシフトしてきています。『AIに仕事を奪われるのではないか』といった議論をしばしば耳にしますが、いま我々に求められているのは『仕事』を再定義し、網羅的にAIを利用する方法を考えることでしょう」

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AIを活用したKARTEの新機能と、「KARTE Craft」で広がる次世代のCX

ビジネスにおけるAI利活用の変遷とMicrosoftのAI実装について紹介した小田氏に続き、プレイドのカスタマーエンジニアである池上が登壇。AIを活用したKARTEの新機能の発表に加え、「KARTE Craft」とAIを組み合わせたソリューションを紹介しました。

KARTEの機能を拡張するための開発プラットフォームであるKARTE Craftが生み出された背景には、KARTEと外部サービスのリアルタイム連携に関する課題があります。

池上「KARTEと外部サービスのデータは同期ができるものの、データ連携ジョブの実行は最短でも一時間おきになってしまい、リアルタイムな連携が難しいという課題を抱えていました。リアルタイムかつ柔軟な連携機能で、システムを自由自在につなぎこむことを目的にKARTE Craftを開発したのです。

そのコア機能として挙げられるのが、実行基盤でKARTE Friendsがコードを自由に記述し保存して、KARTE上で動作させることができる『Craft Functions』。これは『KARTEの新機能を自由につくるための機能』と言い換えてもよいでしょう。

では、具体的にどのようなことができるのか。たとえば、KARTE Friendsがあるアプリを提供していたとしましょう。そのアプリが位置情報を取得できるものだとした場合、KARTE Craftを介して天気予報サービスと連携すれば、エンドユーザーがいる場所の天気に応じてセグメントを更新し、そのセグメントに応じたアクションを起こすことが可能になる。

これまでも独自のサーバーを構築することによって、このような機能を実現できましたが、KARTE CraftがあればKARTE内で実装を完結させられるのです。そういった意味で、夢は大きく広がったと思っています」

ただ、KARTE Friendsの多くはマーケターであり、JavaScriptを使いこなせる人はそれほど多くありません。また、マーケティング目的の施策にエンジニアリソースを確保するのは困難を伴います。では、実際には誰がCraft Functionsを利用し、KARTEの機能拡張を進めるのでしょうか。池上は実装を支援するのは人ではなく、「Copilot」だと言います。

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池上「Craft Functionsで機能開発するデベロッパーを支援するためのAIアシスタントが、Copilotを活用した『Craft Assistant』です。上記のスライドにあるように、画面の右側にハーフモーダルでサイドバーが表示されます。

まずは、日本語で実装したいFunctionの仕様を入力。そして、サンプルコードを検索し、意図と違うものが出てきた場合『質問内容より自動生成』を選択すると、コードが自動生成されます。もちろん最後にレビューをしたり、検証したりするのに人間の手は必要ですが、驚くほど便利な機能になっていると思います。この機能を裏から支えていただいているのが、Microsoftの技術なんです」

実際にこの機能は、プレイドの社内エンジニアの開発工数を大幅に削減したと池上は言います。また池上は、Craft FunctionsからAIモデルを簡単に利用できる機能「Craft AI Modules」についても言及しました。

池上「この機能は、自社サービスやサイトのCX向上の施策や取り組みに、GPTなどのAIモデルを簡単に組み込むことを可能にします。ユースケースとして想定されるのは、アンケートの自動分類やチャットの自動要約など。エンタープライズレベルのセキュリティが担保され、センシティブなデータの取り扱いも可能なので、AIによるCX向上と業務効率化の実現が期待できるでしょう。

KARTE Craftが登場したことで、KARTE上でソリューション開発ができるようになりました。また、Craft Assistantによる“Copilotな開発”は、新機能の実装コストを劇的に削減します。さらに、Craft AI Modulesを活用すれば、自社サービスのユーザーに向き合う業務効率を大きく向上させることが可能です。今後もプレイドはMicrosoftと協力しながら、AIを活用したCX向上に取り組んでいきます」

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指数関数的な発展を遂げる生成AI。その脅威やリスクにフォーカスが当たることも少なくありませんが、小田氏が言及したように、いま私たちが求められているのは、「これまでの仕事」を見直し、その改善を促進するためにAIをうまく利用することでしょう。Microsoftの技術によってパワーアップしたKARTEの活用を、そのきっかけにしていただければ幸いです。

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