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複数のユーザー層の体験価値向上を目指す「ラジコ」。“Super Specific Who=超特定のユーザー”の抽出に挑む

2023年1月に、アプリの大幅リニューアルを行い、ユーザーの継続率を改善したradiko(ラジコ)。リニューアルを担当したプロダクトオーナーの帆苅氏より、大幅リニューアルで得た学びから、現在進行形の顧客体験の改善の取り組みまでを共有いただきました。

「モノの消費」から「コトの消費」へと消費者のニーズが変わった昨今、サービスにおける顧客体験の重要性が高まっています。月間ユニークユーザーが850万人を超える国内最大級のラジオ配信プラットフォーム「radiko(ラジコ)」を提供する株式会社radikoも、便利で使い心地のいいアプリを追求してきました。2023年1月にはアプリの大幅リニューアルを行い、ユーザーの継続率を改善しています。

ただ、ラジコの探求はそこでは終わりません。リニューアルを担当したプロダクトオーナーの帆苅 晃太氏は、2023年7月に「事業成長をCXのデジタル変革で牽引する」をテーマに開催された「KARTE CX Conference 2023」にて、「さらなる顧客体験の改善に取り組む」と語りました。

そのコンセプトは「“Super Specific Who=超特定のユーザー”の抽出」。それには「KARTEが有効活用できる」と帆苅氏。準備段階として顧客層を大きく3つに分類し、まさにこれからKARTEを用いて超特定のユーザーを抽出しようとしています。本セッションでは大幅リニューアルで得た学びから、現在進行形の取り組みまでを共有いただきました。

「月4日聴取」と「10分聴取×2番組」がラジオ習慣化の分水嶺

2010年にサービスを開始したラジコは、2020年までに全民放ラジオ局の番組が聞けるようになり、2022年には有料会員100万人を突破。一見、順調に伸長しているように思えますが、帆苅氏は「2020年頃から、ある課題を抱えていた」と切り出します。

帆苅氏「それは、ユーザーの『ラジオ聴取の習慣化』という課題です。ユーザーの行動を分析すると、少なくない割合が『特定の番組の、特定の放送回だけを聴いている』ことがわかりました。ラジオ自体が習慣化しているわけではなかったのです。

友人に勧められたから、ネットで話題だから、推しのアイドルが出演するからなどの理由で、特定の放送回を聞くためにアプリを利用するライトユーザーは、その回に飽きたらradikoを離れてしまっていました。そうした方々の継続率の向上が課題でした」

そこで帆苅氏は、逆に「アプリを継続利用しているユーザー」がどのような行動をしているのかを調べました。見えてきたのは、継続率の分かれ目となる2つの条件です。

帆苅氏「分析によって、継続利用ユーザーの割合が劇的に増えるポイントが『1ヶ月で4日以上ラジオを聴いている』『1ヶ月間で10分以上聴く番組が2つ以上ある』であることがわかりました」

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帆苅氏「これらの分析をもとに、ラジオ聴取の習慣がないユーザーでも、簡単に『気になる番組と出会う・見つけること』、『次回放送も継続して聴くこと』ができるようなUXを実現すれば、ラジオリスナーが増える可能性が高いと仮説を立てたんです」

新規・休眠復帰ユーザーの継続率UP。見えてきた新たな課題

こうして始まったUXの大幅リニューアル。番組をザッピング聴取できるスワイプ機能の追加、「おすすめの番組」や「急上昇」タグの付与、検索機能の強化、番組単位でのフォロー機能追加などを実施したラジコは、ライトユーザーの継続率を向上することができました。

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しかし、リニューアルの結果、新たな課題も出てきたと言います。すでにラジオが習慣化していた既存ユーザーから批判の声があがったのです。

帆苅氏「新規ユーザーや休眠復帰ユーザーの『アプリダウンロードから1日目、7日目、28日目の継続率』が軒並み上がりました。ただ、既存ユーザーのなかには、慣れ親しんだUXが変わったことに戸惑っている方もいて、実際に多くのお声もいただきました」

そんな状況を冷静に受け止めた帆苅氏は、さらに良い顧客体験を生み出すための取り組みを始めます。

“超”具体的なユーザーを知るために、アプリ利用の違いによってユーザー層を3つに分類

その取り組みこそが、冒頭で触れたKARTEを活用して行う「Super Specific Who(以下、SSW)」の策定です。「SSW」とは、そのサービスが解決すべき・できる“大きな”課題を抱えた、“超”具体的なユーザーのこと。北米のスタートアップの間で広がりつつある考え方で、InstagramやTikTok、Netflixなど世界中のユーザーが利用するプロダクトも、SSWを定めることが成長の鍵のひとつだったそうです(*)。

*参考:https://www.lennysnewsletter.com/p/consumer-business-super-specific-who

“超”具体的なユーザーを知るための前段としてラジコが行ったのが、アプリの使い方の違いによって、潜在ユーザーを含めた顧客全体を大きく3つに分類することです。それぞれの属性、ユースケースを整理し、SSWを深掘りするための土台を作りました。

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帆苅氏「アプリをどう使っているかの違いによって、『今までのラジオリスナー』『ネオラジオリスナー』『ポストラジオリスナー(仮説)』の3つに分類しました。

『今までのラジオリスナー』とは、学生時代からラジオ文化があった40代以上の方々をイメージしています。車の運転中や仕事中のBGM代わりに、長時間のラジオ番組(ワイド番組)を聴いているのが特徴です。

『ネオラジオリスナー』とは、デジタル移行期に学生だった20〜30代の方々をイメージしています。ラジオに興味はあるものの、推しのアーティストや芸人の番組のみを聴取し、ながら聴きをすることが多いのが特徴です。

最後に『ポストラジオリスナー』とは、潜在的なユーザーのこと。現段階では、10代〜20代前半のデジタルネイティブ世代をイメージしています。短時間に大量の情報が流れてくるデジタルコンテンツに慣れ親しみ、興味がないものに時間を取られたくないという特徴があります。

分類することで、それぞれのユーザーがどんなニーズや課題を抱えていて、どんな価値を提供できればラジコを使っていただけるかを明確にするための土台ができました」

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KARTEを用いて「Super Specific Who」特定へ

850万人を超える既存ユーザーと、それ以上に存在する潜在ユーザーを含めて、ユーザー層を3つに分類したラジコ。ただし、この段階ではユーザー像の解像度はまだ高くはありません。特定の1人のユーザーの解像度を上げ、ニーズや課題の芯を捉えたサービスの磨き込みを行う、SSW抽出というアプローチ。そこにKARTEが有効だと帆苅氏は語ります。

帆苅氏「アプリの使い方は、人によってさまざまです。それらを全部カバーしようと、最小公倍数をとるような改善をしても、誰の課題も解決できません。3つのリスナー群、それぞれにおいて『特にこの人はどういう生活をしているのか』『ラジオを聴くきっかけや、聴き続ける理由は何だろうか』といったことを知り、『SSW=超特定の1人のユーザー』を具体的に捉えることが重要です。

そして、多くのユーザー行動を分析・観察してSSWを突き止め、よく知るために、KARTEがとても役立ちます。豊富なテンプレートから選ぶだけで簡単にアンケートをとることができ、アプリ上のユーザー行動のN1分析も可能です。こうした分析のための機能を通して、SSWを深掘りしやすくなります。

SSWをしっかり捉え、その課題を解決すると、サービスが新しい価値を示すことができ、新たなユーザー獲得や継続利用につながります。今後はその構図を前提に、顧客体験の向上に取り組んでいきます」

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SSWの特定にKARTEが貢献できる点に言及したのち、帆苅氏はより良い顧客体験を追求するプロダクトオーナーの方々に向けたメッセージを送り、セッションを締めました。

帆苅氏「顧客体験を改善するためには、解決すべき課題の特定が必要です。対象ユーザーを狭めることを恐れず、Super Specific Whoを定めることから始めてみませんか」

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