購買と嗜好のデータからOne to Oneのコーヒー体験を実現する。UCC「My COFFEE STYLE」の顧客起点のDX #exp_liveout
デジタル技術によって顧客体験を変革する取り組みを紹介する「CX/DX Session」では、UCC上島珈琲株式会社のマーケティング本部 デジタル推進部部長 染谷清史氏が登壇。「My COFFEE STYLE」でが、データを活用して「個」に合わせたコーヒーを提案しています。オフラインとオンラインを統合し、どのようにデータを活用しながらCXを向上させているのか。良質な顧客体験を支える同社のDXの取り組みについてご紹介いただきました。
2020年9月29日に、顧客にとっての価値を高めるCXと「DX(Developer Experience / Digital Transformation)」および「EX(Employee Experience)」という、「3つのX」の連環に取り組む企業の実践と思想を紹介する「Experience LIVE OUT」を開催しました。
デジタル技術によって顧客体験を変革する取り組みを紹介する「CX/DX Session」では、データを活用して「個」に合わせたコーヒーを提案する、UCC上島珈琲株式会社のマーケティング本部 デジタル推進部部長 染谷清史氏が登壇しました。
オフラインとオンラインを統合し、どのようにデータを活用しながらCXを向上させているのか。良質な顧客体験を支える同社のDXの取り組みについて、「My COFFEE STYLE」の事例を中心に紹介いただきました。
オフラインとオンラインをつなぐ「My COFFEE STYLE」のサービス設計
「コーヒーを、誰でも楽しんで選べる」体験を届けようとUCCは「My COFFEE STYLE」の提供を開始。コーヒー銘柄数という選択肢が増えるなかで、選ぶという体験を改善しようと立ち上がったそうです。
「My COFFEE STYLE」では、店舗である「COFFEE STYLE UCC」の運営や、好みに合った豆が毎月届くサブスクリプションサービス「My COFFEE お届け便」などを展開しています。店舗では、チーズやチョコレートといった食べ物とコーヒーのペアリングを紹介するワークショップや、試飲しながら自分にあったコーヒーを見つけられるイベントを開催しています。(※新型コロナウイルスの影響で2020年11月24日時点現在はイベントは開催していません)
「My COFFEE STYLE」は、LINE上で味覚診断テストを実施し、自分にあったコーヒーをマップ状に表示できるサービス「My COFFEE マップ」を作成できます。こうした味覚のデータを、オンラインでの購入やサブスクリプション、店頭での体験など諸々サービスに活かしています。
染谷氏「『私にぴったりのコーヒーに出会うことができる』『私らしいコーヒースタイルを見つけることができる』というコンセプトのもとで、顧客とコーヒーの良質な出会いを実現するために、オンラインとオフラインを組み合わせてサービスを展開しています。
コーヒーの味や匂いの違いは、オンラインでは伝わりません。そのため、店舗での良質な顧客体験を入り口にしつつ、そこから『COFFEE STYLE UCC ONLINE SHOP』や、My COFFEE お届け便などのオンラインサービスへとスムーズにつなげていく、店舗を起点にして展開する想定でサービスを設計していきました」
オフラインを起点に、オンラインへの顧客体験をシームレスにつなげていくうえで、鍵となったのがDXの取り組みです。
UCCの事業であるカフェ『上島珈琲店』やデパ地下のコーヒー豆物販店舗『UCC Cafe Mercado』などは、運営会社も顧客データ管理システムも異なり、連携ができていません。データの連携ができていなければ、各事業における顧客体験はバラバラな状態になってしまいます。UCCグループとして、オンラインとオフラインをシームレスにつないだ顧客体験を実現するために、DXの一環としてデータ統合やサービス連携を進めていったそうです。
※UCCにおけるDXについての詳細はこちらの記事も合わせてどうぞ。
コーヒー体験をスマホ時代にアップデート。店舗とLINEをつなげたUCCのサービス設計とは? |Experience Insights #5
店舗を起点に、LINEでつながる。UCCの顧客接点の創出
UCCでは、デジタルで顧客基盤を統合し、どのように顧客との接点をつくっているのでしょうか。染谷氏は、LINEを活用した実践例についてセッションで紹介してくださいました。
染谷氏「『My COFFEE STYLE』では、LINEを基盤にサービスを設計しました。店舗でお客様とのつながりが生まれ、LINEで友達になっていただきます。その際、各店舗とECと統合したポイントカードをPOSで読み込んで、ポイントを蓄積します。
LINEで友達になった後は、味覚診断の体験を促したり、来店翌日のThanksメッセージ、2週間以上来店がない場合には再来店のプッシュ配信等を実施しています。同じ仕組みは、上島珈琲店のLINEでも実施して、施策運用をしています。
例えば、しばらく来店のないお客様には高額のクーポンを配信するなど、全体に一括で配信するのではなく個別配信への取り組みを意識しています」
LINEを簡易的なCRMとして活用し、数字を分析していったところ、染谷氏はある発見があったそうです。
染谷氏「LINEの施策を通じて、どのような結果が出ているかをデータ分析したところ、登録初月の来店回数が多い方が、翌月の来店率が向上することがわかりました。であれば、登録後の1ヶ月以内の期間にお客様とどう関わるかが重要になります。これはアプリやWebサービスのCRMの考え方と近いんです。お客様のオンボーディングが大事なのはオフラインでも同じだと実感しています」
店舗を軸に顧客接点をつくるという取り組みは、意外な形で結果がデータに現れたそうです。
染谷氏「これはMy COFFEE STYLEのケースですが、LINEアカウントの増加と反比例してブロック率が下がっていきました。単にアカウント数の獲得をKPIに設定していたら、この結果にはならなかったと思います。オフラインをベースに接点が生まれたお客様は、エンゲージメントが高いことがデータで見える化されました」
購買と嗜好のデータを蓄積し、一人ひとりに合わせた顧客体験の提供へ
My COFFEE STYLEでは、オフラインとオンラインをつなぎ、購買のデータと嗜好のデータの両方を蓄積していくことで、顧客の体験をよりよいものにしていこうと取り組んでいます。
染谷氏「My COFFEE STYLEのカスタマージャーニーは、上記のようになっています。LINEを基盤にして来店やサイト訪問を促して、来店履歴や購買データと嗜好データを紐付けることで、いつ何を購入していただいたのか、どんな好みをお持ちなのかをECも含めて統合しています。
これにより、お客様のニーズもより詳細に知ることができるため、ニーズに合わせてコンテンツを提供しています」
来店履歴や購買データについては、先述のとおりデータをうまく活用して顧客とのつながりをつくりだしています。また、My COFFEE マップを通して収集された嗜好データの蓄積も、顧客体験の質を高めていくための重要なヒントになっているそうです。
染谷氏「My COFFEE マップに感想が打ち込まれるタイミングは、顧客がコーヒーを飲むタイミングだと考えられます。そのデータを見ると、例えば『40代以上では朝コーヒーを楽しむ人が多い』など、性別や年代などの属性ごとに、コーヒーを飲む時間帯に特徴があることがわかってきました。今後は、生活習慣の違いも含めて、One to Oneに取り組んでいけるようにしたいと考えています」
最後に染谷氏から、オフラインとオンラインの体験をシームレスに接続する必要性と、その顧客体験を支えるDXにおけるデータ活用やユーザーインターフェースの重要性に言及され、イベントは締めくくられました。
染谷氏「コーヒーのような嗜好品は、ファンになってもらうためにはリアルな体験が重要であり、その体験の基盤となる実店舗の重要性は高いものです。とはいえ、このコロナ禍において、デジタル上の体験にスムーズに接続していく重要性も格段に高まっています。両者をデータでつないで相乗効果を生み、さらに質の高い顧客体験を提案していくためにも、DXの視点が企業には求められているのではないでしょうか」