カスタマーサポートは「顧客の翻訳家」──VoCを起点に顧客理解を深めてタッチポイントの最適化を推進するauじぶん銀行
2024年11月に開催された国内最大のコンタクトセンター/CRM関連イベント「コールセンター/CRM デモ&コンファレンス 2024」において、「auじぶん銀行が推進する、VoCを起点にした顧客中心のコンタクトセンター運営とは?」と題したセミナーが行われました。
本セミナーでは、auじぶん銀行が実践する、カスタマーサポート(以下、CS)部門で取得した顧客の声・行動データを活用した、顧客起点の経営改革事例が紹介されました。
auじぶん銀行株式会社 執行役員 CS本部長 兼 CS企画部長 堀野 和明氏と、株式会社RightTouch 代表取締役 野村 修平が登壇し、RightSupport by KARTE(以下、RightSupport)の活用についても紹介されたセミナーの模様をお伝えします。
auじぶん銀行が推進する、「顧客の翻訳家」としてのCSの在り方
セミナー冒頭で堀野氏は、auじぶん銀行のパーパスである「デジタルを駆使する。お客さま視点で考える。そして、期待を超える金融へ。」について触れました。同行は、インターネット専業銀行として、Web上での顧客対応が企業の信頼性とブランドイメージに大きく影響すると考え、特に注力してきました。
堀野氏「顧客対応の品質を高めることで、企業イメージは大きく向上すると考えています。人との温かみを感じられる応対や、Web上でのスムーズなサポート体験は、企業の差別化要因となっています。
生活者は、企業やサービスを選ぶ際に価格だけでなく、安心感や企業に対するイメージも重視します。特に私たちのような無形商材を提供する企業では、お客さまがサービスを認知した後、実際に利用するかどうかを検討する過程において、CSが大きな役割を果たします。そう考え、私たちは日々の活動を進めています。」
堀野氏は、これらの考えに基づき組織変革を進めてきました。2020年のコロナ禍を転機とし、まず顧客対応の品質とマネジメントの課題に取り組むため、約230名の外部委託体制から派遣社員体制へと移行しました。
さらに、人件費抑制の観点から、電話中心の問い合わせ対応から脱却し、Webサイト上での顧客による自己解決を促進する仕組みの強化を進めています。
その後、サポート品質の強化を進め、差別化を図りました。その結果、HDI-Japan主催の『HDI格付けベンチマーク』で三つ星を獲得するなど、経営陣にCSの重要性を強く訴求できました。そして、高い品質のサポートを支える従業員満足度の向上にも取り組みました。

現在も「顧客のタッチポイント最適化とバリュー・満足度の最大化」をテーマに、3つの戦略を柱として取り組みを進めています。
1.品質の追求: 企業ブランディングを目的としています。
2.効率化の推進: 経費削減と競合他社と比較して劣る点の改善を目指します。
3.従業員満足度の向上: サポート品質の向上と効率化の強固な土台を築くことを狙いとしています。
堀野氏が、現在推進していると語ったのが、「VoC改善」強化プロジェクトです。

「4Aサイクル」は、VoC分析を進める手法のひとつとして知られていますが、堀野氏は、このフレームワークを目指して推進したわけではないと語ります。
堀野氏「品質向上には、まず目の前の事実を正確に把握し、それが良いのか悪いのかを客観的に評価することから始めます。もし課題が見つかれば、解決後のあるべき姿(ゴール)を設定します。そして現状とゴールまでのステップに差があれば、それがギャップとなります。
品質を高めるためには、このギャップにどう対応するかが重要です。私たちは継続的に改善に取り組み続けた結果、振り返ってみると自然と『4Aサイクル』のようなプロセスが形成されていました。」


続いて堀野氏は、VoC起点での改善を進めていくうえで生まれた2つのキーワード「CSは企業の翻訳家」「BtoCStoC」を紹介します。
堀野氏「マーケティングやサービス企画の各担当は常にお客さまのことを第一に考えています。しかし、そうした姿勢があってもお客さまからの声(VoC)がなくなるわけではありません。お客さまからは『サービスの利用に不安がある』『説明の意味がわからない』といった声が寄せられます。
これは、私たちがいかに顧客視点を持っていても、お客さまが実際に体験する現実との間にギャップが生じているためです。このギャップを埋めるには、真の顧客視点が不可欠です。
CSは企業とお客さまの間の翻訳家となることで、顧客視点を組織に取り込む役割を果たします。ただ、CSの担当者も顧客視点を強く認識しているかというとそうでもなく、『顧客視点ではどう思う?』と直接的に尋ねても、良い回答は出てきません。たとえば、『この表現でキャンペーンを出したときに、どんなお問い合わせが来そう?』と聞くと、潜在的な懸念などが出てきます。これこそが、CSの担当者が日々の業務の中で培っている顧客視点なのです。
こうした視点に基づいたコミュニケーションを構築しなければ、お客さまに意図が正しく伝わりません。CSが企業の意図を翻訳し、お客さまに伝わる内容に磨き上げることで、問い合わせや疑問を未然に防いでいます。
もしお客さまから『それでもわからない』という反応があった場合には、サービス企画担当者へ情報を共有し、改善プロセスに沿って対応し、再発防止に努めます。これが企業とお客さまの間にCSが入る『BtoCStoC』のモデルです」

RightSupportの活用で入電数はピーク時比較で約2割軽減し、応答率も改善
近年同社が取り組んでいるのは、「VoC改善」に加えて、「タッチポイントの最適化」と「顧客理解」です。セミナーでは、それぞれどのような取り組みを行っているかが紹介されました。
堀野氏「外部評価の調査では、『用件を解決するにあたり、労力がかかる(=エフォート)』と回答した方が約50%を占め、ネット銀行の中で最下位となりました。カスタマーサポートにおいて電話品質の向上は重要ですが、それだけではお客さまのニーズに応えられないことが分かりました。
この課題を解決するため、私たちは複数の施策に取り組みました。お客さま自身で問題を解決できるチャネルやコンテンツの拡充、最適なサポートへスムーズにつながる導線の整備など、お客さまが問題を解決するためにとられる行動に注目し、必要な改善点を洗い出し、実行しました。その結果、外部評価の結果も向上し、お客さまから多数の好意的・高評価の声をいただける結果となりました」
顧客からの問い合わせ理由を分析し、タッチポイント(お問い合わせ先)の最適化を行いました。同時にRightSupportの導入によるWebサポートの高度化も進め、タッチポイントをさらに最適化することで、お客さまがストレスなく問題を解決できる状態を目指したといいます。
堀野氏は、タッチポイント最適化に向けた取り組みのなかでも大きな効果をもたらした事例として、コールリーズン(問い合わせ内容)分析からFAQの改修につなげた取り組みを挙げます。
堀野氏「コールリーズンを分析し、優先度の高いものからFAQを改善しました。具体的には、結論を最初に簡潔に記載したり、関連ページのリンクを追加したり、お客さまにとって分かりやすい表現を用いるなどの修正を行いました。その結果、お客さまの自己解決を促進でき、入電件数はピーク時と比較して月間で約2割減少しました。」

さらに、RightSupportを活用したフィッシング対策の顧客サポート事例も紹介されました。
堀野氏「ちょうど、フィッシング被害に関するお問い合わせが急増していたタイミングで、RightSupportのサポートアクションを活用しました。
Webサポートの中でお客さまの状況を把握するための質問を設け、その回答に基づいて最適なサポート方法へと案内する取り組みを実施しました。たとえば、電話での対応が必要かどうかを確認し、不要な場合は他の方法を案内しました。また、念のため確認したいお客さまには、メールでのサポートを提案するなど、柔軟に対応しました。
多くのお客さまが困っている状況だったため、この対策がなければコールセンターは大混乱していたでしょう。この取り組みにより、約1,200件の電話問い合わせを未然に防ぐことができ、コールセンターの応答率も5.2%改善することができました。」

堀野氏によると、お客さまの中には、検索エンジンで電話窓口を調べて直接電話をかけてくる方もいました。Web上の行動データをRightSupportで分析した結果、本来は電話で解決する必要のないお客さまも電話を利用していたり、問題解決につながらないWebコンテンツを閲覧していたりすることが明らかになりました。
堀野氏「お客さまが電話番号の掲載されているページを訪問した際に、Webサポートへの案内をポップアップで表示する取り組みを始めました。また、電話番号をタップした後も、すぐに電話につながるのではなく「自己解決のためのコンテンツもご用意しています」という案内も行いました。
FAQを充実させても、お客さまが検索から直接電話窓口にアクセスしてしまうと、その効果は十分に発揮されません。RightSupportを活用することでお客さまの行動を可視化し、その行動パターンに合わせた適切な施策ができるようになりました。その結果、お客さまの反応数(クリック数)は約20倍に増加しました。」

堀野氏は「Webは画一的なので変えようがない、という考え方を根本から変える必要がある」と強調します。
堀野氏「電話対応においてマニュアル通りの事務的な応対がNGとされるのと同じように、Webサイト上でも画一的な対応から脱却し、お客さま一人ひとりに寄り添う個別対応(One to One)のサポートが求められています。
Webサイトを訪れるお客さまの行動には、明確なメッセージが込められています。たとえば、ページを下までスクロールした後に再び上に戻る動きや、特定の情報に興味を持ったお客さまがスクロールを止めてその箇所に長く滞在するといった行動です。
こうした行動に対して、お客さまの真のニーズを汲み取り、お客さまが困っている点やつまずいている点に対して、適切なサポートコンテンツを提供することで、自己解決を促すことが大切です」
サイレントカスタマーのVoC活用が真のニーズ対応の鍵
こうした取り組みを踏まえて、堀野氏がセミナーの最後で述べたのが「VoCの考え方」について。従来のような、苦情や不満、ご意見、ご要望などのお客さまからいただく声だけでなく、Webでの行動や外部評価なども含めてより広く捉える必要があるといいます。
堀野氏「私たちは、お客さまの声(VoC)を従来よりも広く捉えるようにしています。実際、サービスに不満を感じても、わざわざ電話でオペレーターに伝える方は少数派です。大多数のお客さまは、不満があっても声に出さない『サイレントカスタマー』なのです。この潜在的なVoCとも呼べるお客さまの声も含めて、どれだけピックアップできるかが重要になります。
お客さまが声を上げてくれるのを待つだけでは、真のニーズに対応できません。Web上の行動や外部評価以外にも、応対後のアンケートや有人チャット、SNSでの声などに耳を傾け、お客さまが私たちに期待していることをどれだけプロアクティブに収集できるかが、CSには求められています」

これらの改善を進めた結果、RightSupportを活用した未然防止や再発防止が円滑に進むようになり、苦情やクレームといったVoCは月平均2,103件から1,382件へと減少してきているといいます。

最後に、堀野氏は来期に向けた課題を挙げて、セミナーを締めくくりました。
堀野氏「現状の課題は、Webとアプリでお客さまの行動データが分断されており、RightSupportで一元的に確認できないことです。今後はWebとアプリのデータを連携し、お客さまの行動を一貫して把握できる環境を整える必要があります。
また、Webでのサポートを充実させても、内容を理解できないお客さまがいらっしゃる際には、最初から電話でサポートするのではなく、事前問診などを活用して効率的にサポートできるようにしていきたいと考えています。サポート時間を短縮できれば、お客さまの満足度も向上するはずです。
CSが企業の翻訳家として顧客視点を経営に組み込むことに挑戦し、お客さま一人ひとりに合わせたパーソナライズされたサポートを提供できるようにしていきます。」

セミナー内では、株式会社RightTouch 代表取締役 野村 修平より、RightSupportについてのご説明や新たにリリースしたカスタマーサポートの各種顧客接点で柔軟に活用できる生成AI「Right Intelligence」の紹介も行いました。
こうしたプロダクトの提供を通じて、RightTouchはauじぶん銀行のような先進的な企業との連携を深め、次世代のカスタマーサポート部門変革を支えていきたいことについても来場者のみなさまにお伝えしました。
本セミナーでのauじぶん銀行におけるRightSupportの活用事例については、これまでにNewsPicksやCX Clipでもインタビュー記事を掲載しております。合わせて、ぜひご覧ください。
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