Event Report

生成AIの活用も視野に、サポートチャネル最適化で目指す「次世代カスタマーサービス組織」への進化

2024年11月7日、カスタマーサポート業界における世界最大のメンバーシップ団体であるHDI-Japanとプレイドからスピンオフしたグループ会社の株式会社RightTouchが『Web Support Summit』を共催しました。

2024年11月7日、カスタマーサポート業界における世界最大のメンバーシップ団体であるHDI-Japanとプレイドからスピンオフしたグループ会社の株式会社RightTouchが『Web Support Summit』を共催しました。

HDI-Japanが毎年実施する「HDI格付け調査」では、毎月1つの業界、年間で12の業界の企業を対象に、Webサポートの有効性と問い合わせ窓口のサポート内容について、生活者からボランティアの審査員を募って実施した評価結果をもとに格付けしています。

今回のWeb Support Summitでは、2024年の「HDI格付け調査」の結果から、どのようなカスタマーサポートにおけるCX(顧客体験)の変化が読み取れるのか、どのように実践していけばいいのかが語られていました。

登壇者は、HDI-Japan 代表取締役CEO 山下 辰巳氏とダイレクターの品川 宏暢氏、株式会社SBI証券 カスタマーサクセス推進部長 河田 裕司氏、株式会社RightTouch 代表取締役 野村 修平です。

さまざまな企業に求められる顧客視点のサポートチャネル

イベントの冒頭では、HDI-Japanの山下 辰巳氏が「HDI格付けベンチマーク」の結果を踏まえて、カスタマーサポートや問い合わせ窓口対応における「CX(顧客体験)」の現状に関しての話題を提供しました。!

rt_hdi_sbi_event_image02

(HDI-Japan代表取締役CEO 山下 辰巳氏)

2023年度の「HDI格付けベンチマーク」において、三つ星という高評価を取得した企業のカスタマーセンターにはどのような傾向があったのか。山下氏は以下の5つの特徴を挙げ、順番に紹介していきました。

  1. 顧客視点のサポートチャネルが必要
  2. セルフサービスから効果的な支援サービスへ
  3. 呼量削減のためのDXはビジネスを失う
  4. 顧客対応で作成したナレッジは利用価値が高い
  5. テキストメッセージが問い合わせ対応の主体になる

今回は、これらの特徴のなかでも、特に「顧客視点のサポートチャネルが必要」という点を中心にカバーします。

問い合わせの緊急度や顧客の年齢層などによって、顧客のサポートに求められるチャネルは、Webサイト、SNS、電話、テキストサービスなど多様化してきています。加えて、チャットボットやFAQなどWebサイト上で展開されるセルフサービス型のサポートから、Webチャットや電話サポートなどの有人応対型の支援に容易に切り替えられるなど、各サポートチャネル間の連携も求められるといいます。

山下氏「メールも、チャットと同様に素早い返信が必要になってきています。定型文での対応は機械的・事務的な印象につながり、顧客満足度を上げられません。一問一答の対応や顧客の意図を理解しない対応をしてしまっては、結果的にメッセージのやりとりが多くが発生し、顧客の満足度は下がってしまいます」

こうしたニーズの顕在化と合わせて必要になっているのが、効果的な支援サービスの存在です。インターネットの普及により、いつでもどこでも顧客が利用できるWebサポートへの要求は拡大を続けています。とはいえ、顧客の自己解決を支援するWebサポートでは解決できないような、複雑または新規の問題や質問が寄せられることもある場合には、問題の解決ができるスペシャリストと適切に接続できること(=インテリジェント・スウォーミング)が大切だと山下氏は述べます。

rt_hdi_sbi_event_image03

山下氏「Webサポートなどで時間をかけた後に解決ができず、支援サービスにたどりついた顧客は満足度が低下しています。効果的な支援サービスを実現するためには、顧客の負担を少なくして、CXを高める『シフトレフト』を進めること。まずWebサポート、次にコミュニティで解決をはかり、カスタマーセンターは最後にたどり着く場所です。

カスタマーセンターに届くVOCは、全体のほんの一部。カスタマーセンターで月1万件の対応をしたとしたら、Webサポートでは10万件が発生し、コミュニティでは30万件が発生しています。Web上やコミュニティの問い合わせを含めてVOCとして分析し、初めて製品やサービスの開発や改善ポイントがわかるようにもなります」

rt_hdi_sbi_event_image04

こうした傾向と合わせて、山下氏は「チャネルが多様化しているにもかかわらず、企業都合で特定のチャネルに集約しようとすると顧客が離れてしまう」と、呼量の削減だけを目的としたDXへの警鐘も鳴らしました。

Webでの顧客行動を可視化し、適切なサポートチャネルに案内する

続くパネルディスカッションでは、「サポートチャネル最適化で進化する、SBI証券の次世代カスタマーサービス組織とは」をテーマに、株式会社SBI証券 河田 裕司氏とRightTouchの野村がパネリストとして登壇。モデレーターは、HDI-Japanの品川 宏暢氏が務めました。

SBI証券では、Webサポートプラットフォーム「RightSupport by KARTE」(以下、RightSupport)、そしてWebと電話の分断を解消し、問い合わせ体験を刷新するプロダクト「RightConnect by KARTE」(以下、RightConnect)を導入。カスタマーサービス組織の変革に取り組んでいます。パネルディスカッションでは、その活用の様子についても触れられました。

まず、品川氏は「カスタマーサービスの組織づくりに力を入れることになったきっかけは?」と河田氏に問いかけます。

河田氏「新NISAの導入や株式手数料の変更などが影響して、入電数がこれまでの約2.5倍に増加しました。その結果、応答率が大幅に悪化し、多くのお客さまにご迷惑をおかけする状況となってしまいました。

この課題に対応するため、オペレーターの増員を進めるべく採用にも力を入れました。その結果、新しいオペレーターが増えましたが、約半数が業務経験6ヶ月以上1年未満という状況になりました。

これまで私たちはオペレーターのマルチスキル化を推進してきました。しかし、商品の種類やサービスの多様化が進むなかで、オペレーターがすべてのスキルを習得するまでに約2年かかることが課題でした。

経験不足のオペレーターが増えたため、特に問い合わせが増加するタイミングでは、お客さまをお待たせしてしまうことがありました。また、回答できる範囲も限られてしまい、迅速な対応が難しい場面も出てきました」

rt_hdi_sbi_event_image05

(株式会社SBI証券カスタマーサービス部長 河田 裕司氏)

こうした課題に対して、河田氏は顧客視点でサポートチャネルの最適化を実行することで、対応していったといいます。

河田氏「私たちの事業は、インターネットでサービスを提供するネット証券です。そのため、FAQが充実していたり、チャットボットがあったりするのは前提として、さらにお客さまのサポートをするために、サポートチャネルの最適化に取り組んできました。

RightSupportを活用して、お客さまの状況に合わせた情報をポップアップで表示したり、適切なコンテンツに案内したりと、自己解決につながるように取り組んでいます。たとえば、お客さまが画面操作を誤ってエラーメッセージが出たときには、そのエラーメッセージに適した解消方法をポップアップで表示するなどの施策です。

電話でのサポートにおいては、お客さまに発生している状況に応じて最適な窓口におつなぎするように力を入れています。以前は、どの電話も経験豊富なオペレーターにつなぐべきだと考えていたのですが、実際にお客さまからのご相談内容を数千件聞き起こしてみると、一問一答で終わっているケースが多いことがわかりました。そのため、オペレーターがマルチスキル化がよいという考えはいまも変わりませんが、お客さまが不快にならない範囲でIVR(自動応答音声)の最適化は可能だと考えて取り組んでいます。

たとえば、新NISAについてのサポートは真っ先にIVRを細分化して対応しましたが、クレームなどは一件もありませんでした。大切なのは、お客さまがつながった先で適切に回答できるかどうかです。そこで回答ができないときには、すみやかに対応できる専門の人間につなぐ。それができれば、IVRを細分化してもお客さまの満足は得られると考えています」

rt_hdi_sbi_event_image06

この河田氏の発言を受け、野村は顧客の行動を可視化することの重要性について、こう続けます。

野村「Webサイトを来訪するお客さまのなかには、ただ情報を調べに来ただけの方もいらっしゃいます。そうした方もいるなかで、問い合わせにつながっている方や、お問い合わせをせず諦めて去ってしまった方などをいかに把握するかが、カスタマーセンターの品質向上のためには重要です。

これまではお客さまがなにに困っているのかを発見するのは難しいことでした。私たちのプロダクトではWebサイト上の行動データを起点にした課題発見を支援していますが、まさに河田さんは一人ひとりのお客さまの問い合わせとそこに至る行動をつなげて見ていらっしゃいます。

おそらく、具体的なお客さまのつまずきを捉えて、どう自己解決につなげ、解決が難しい場合は電話でどう対応するのかなどについて、日々入念に議論されていらっしゃるのではと考えています」

rt_hdi_sbi_event_image07

「削減」ではなく「最適化」、カスタマーサービス組織の変革プロセス

SBI証券は、どのようにカスタマーサクセス組織の変革を進めてきたのでしょうか。品川氏がこれまでとの違いや苦労した点を尋ねると、河田氏は大事なのは「削減」という捉え方をしないこと、と語ります。

河田氏「カスタマーセンターでなにか新しいことをしようとした際に、最初に出てくる観点は、コストや問い合わせなどの「削減」です。この言葉は独り歩きしがちなので、削減という言葉を使わないようにしています。

では、どのように取り組みを表現するのか。弊社では4つのポイントを挙げて話をしています。問い合わせの最適化、呼量分散化、コスト最適化、顧客接点最大化の4つです。

「削減」を念頭においた取り組みでは、お客さまが置き去りになったり、オペレーターの負担が過重になったりする可能性があります。必ず、お客さまを念頭において取り組まなければなりません。

たとえば、なにかのプロダクトを入れる際は、導入後にお客さまに対してメリットがあるのか、プロダクトを実際に利用するオペレーターにもメリットがあるのか両側面を考えます。その結果として、コスト削減などが担保されるものでなければいけないと考えています」

rt_hdi_sbi_event_image08

(左上:河田氏、中央下:HDI-Japan ダイレクタ CRMの品川 宏暢氏、右上:株式会社RightTouch代表取締役 野村 修平)

カスタマーセンターの合言葉としてお客様・会社・カスタマーセンターの「三方よし」を毎日言い続けているという河田氏。「変わらなければ」と強く考え、変革を推進するようになったのは、どのような理由からだったのでしょうか。

河田氏「コロナ禍以降、お問い合わせが増加し、どれだけ人を採用しても追いつかない状況に陥りました。これまで20年以上カスタマーセンターに関わってきましたが、長年考えてきたことをまっさらな状態にして、カスタマーセンターがどうあるべきなのかを考えたのです。イベントなどにも足を運び、自分にない知見を積極的に取り入れるようにしました」

河田氏はまず自分を変えることからはじめ、カスタマーセンターのオペレーターにも「顧客の時間」に対する考え方を丁寧に呼びかけていったといいます。

河田氏「お客さまがWebでお困りごとをすべて解決できていれば、本来は問い合わせ数はゼロになります。お問い合わせをする方は、『Webを見たけれど解決できなかった』『文字だらけでわからなかった』といった、なにかしらの不満がある状態です。不満のある状態で、貴重なお時間をいただいて対応していることになります。

たとえば、法人のお客さまであれば、10分のお問い合わせ対応の時間を営業に充てることで売上を増やせたかもしれません。個人のお客さまでもご家族やご友人との時間を削って、電話をかけているかもしれません。こうしたお客さまの大切な時間を使わせていただいているという感覚を持つことが大切なのです。

この感覚があるかどうかで、オペレーターの仕事は変化します。最近では、全センターを回って、すべてのオペレーターに口頭で説明しました。さらに、オペレーター向けに『お客さまの一瞬に最高の体験を、お客さまの時間に最高の価値を』というスローガンを掲げ、お客さまに向き合っています」

徹底的に顧客に向き合うという姿勢は、SBI証券におけるカスタマーセンターの指標設定にも現れています。

河田氏「カスタマーセンターでは、通話時間の長さやお問い合わせ先が間違っていたら転送が発生するため『転送率』を削減できているかもチェックしています。最適化によってオペレーターの負担が軽減されているかどうかはオペレーターの離職率を見ています。

あとは、独自の指標としてお客さまからの『ありがとう』を指標化していて、この『ありがとう率』が上がっているかどうかをチェックしています。これらをKPIとして追いかけながら、新たにNPS®️(※1)調査の開始をしています。
※1 ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

カスタマーセンターの対応がよかったかどうかは、最終的にはお客さまが判断するもの。したがって、もっとも重要な指標は、ありがとう率になります。この指標を高めるために、通話時間や接続までの時間、応対品質などの中間指標が無数にある。このありがとう率を上げるために、各指標の改善を継続して行っています」

これらの指標も踏まえて、SBI証券では新たなプロダクト導入における経営陣とのコミュニケーションをどう行っているのかという質問に対して、河田氏はこう回答します。

河田氏「プロダクトを導入してカスタマーセンターの生産性が上がれば、経営としてはオペレーターを削減しようと考えるかもしれません。しかし、私たちは逆の捉え方をしています。

たとえば、1日1万件のコールに対応するとして、通話時間を1分削減できれば、1万分の通話時間を削減できる。そうなれば、お客さまが増えても、現状の人員で対応できる、という伝え方をしています。

オペレーターを増やすとなると、採用のコストも増えますし、対応品質の管理リスクも上がります。このコストやリスクが低下するので、プロダクトを導入したいと考えている、と伝えています。

経営とのコミュニケーションで大切なのは、事実をすべて透明性高く伝えることと、スモールスタートをすること。そのうえで、実績を積みながら丁寧に説明していくことが重要だと考えています。

新しいプロダクトの導入は難しくても、止めるのは簡単です。そして、一度止めてしまうと、もう二度と近いプロダクトの導入はできません。そのため、導入後は止めることでカスタマーセンター全体にどんな影響を及ぼすか、という観点も伝えています。」

どれだけテクノロジーが進歩しても、カスタマーセンター運営の鍵は人であり、プロダクトによって、人にどのような良い影響が出るのかが大切だと語って、河田氏はセッションを締めくくりました。

SBI証券さんにおけるRightSupportとRightConnectの活用の様子はこちらの記事でもお伝えしています。さらに詳しく知りたい方はこちらもぜひご一読ください。

あらゆる問い合わせをRightConnectで。オペレーターの生産性を大幅改善して目指すSBI証券の次世代CS構想


生成AI活用でさらに進化するカスタマーサポートを支えるRight Intelligence

今回のWeb Support Summitでは、RightTouchの野村より「カスタマーサポートがさらに進化するための生成AI活用」という観点でも発表を行いました。

カスタマーサポートの領域は、生成AIによる改善インパクトが最も大きい領域だとされており(※2)、各社も高い期待を持って導入検討を積極的に進めています。
※2 McKinsey & Company, “The economic potential of generative AI: The next productivity frontier,” June 14, 2023 のレポートを参照

rt_hdi_sbi_event_image09

RightTouchでは、AIネイティブなサポート体験を実現する生成AI基盤「Right Intelligence」をリリースしました。カスタマーサポートにおけるあらゆる顧客接点で柔軟に活用できること、またハルシネーション発生を防げることが特徴です。

「スマートエージェント(β)」「ライブアシスト」「ボイスボット(β)」という3つの機能モジュールを、RightSupportとRightConnectをはじめとした各プロダクトに順次実装していきます。

rt_hdi_sbi_event_image10

今回のWeb Support Summitで語られた、次世代のカスタマーサービス組織への進化のために、RightTouchはRight Intelligenceをはじめ、さまざまなプロダクトを通じて支援をさらに強化していきます。

SHARE