好業績の陰に「顧客体験」への伴走 ゴールドウインとプレイドの事例

ゴールドウインは、OMOの切り札としてKARTEを活用し実績を上げてきた。KARTE導入は小売業にどんな変革をもたらすのか。ゴールドウインの梅田輝和氏とプレイドの金井良輔氏が語り合った。

梅田 輝和うめだ・てるかず
ゴールドウイン販売本部EC販売部長(右)
入社以来、営業、商品企画、直営店運営などに従事。その後、デジタルのことはほぼ無知ではあったが、EC領域へ自ら志願。同僚からのレクチャー、セミナーや勉強会への参加、気になる本を読んだりしながら日々勉強中。趣味は散歩とランニング、たまに山登りと冬はスキー
金井 良輔かない・りょうすけ
プレイド カスタマー・エクスペリエンス・プロデューサー(左)
新卒で博報堂法務部に入社。複数の事業開発やM&Aの推進に従事したのち、TBWA\HAKUHODOに出向。大手自動車クライアントへの統合マーケティングを支援したのち、プレイドに参画。カスタマーサクセスとしてエンタープライズ企業へ「カルテ」を主軸にしたマーケティング支援に邁進しつつ、ビデオ接客プロダクトである「カルテギャザー」の事業開発をリードしている。直近ではゴールドウインとスマートフォン版カルテギャザーの共同開発や、カルテを拡張したOMO店舗構想を推進

さまざまなデジタルマーケティングツールが存在する中、数多くのアパレル企業から信頼を得ているのが、プレイドが提供する「カルテ(KARTE)」だ。「ザ・ノース・フェイス」などで知られるゴールドウインは、OMO(オンラインとオフラインの融合)の切り札として「カルテ」を活用し、実績を上げてきた。「カルテ」導入は小売業にどんな変革をもたらすのか。ゴールドウインの梅田輝和氏とプレイドの金井良輔氏が語り合った。

※この記事は、2022年7月26日に「WWD Japan」に掲載されました。

オンライン接客の導入で感じた手ごたえ

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リアル店舗での接客とデジタルでの接客を高いレベルで融合できるのが「カルテ」の強みだ

WWD:ゴールドウインが「カルテ」を導入した経緯は?

梅田輝和ゴールドウインEC販売部長(以下、梅田):以前から接客ツールの提案をプレイドから受けていた。ただ当社の環境が整っていなかったこともあり、見送っていた。第1回目の緊急事態宣言が出た2020年4月、再び新しいツールの提案があった。コロナ禍での私の問題意識とも一致したため導入を決めた。店舗を休業せざるを得ず、店に行きたくても行けないお客さまがいる。売り上げにも大きな打撃を受けた。ちょうどZOOM接客を始める小売業も出始めていたが、プレイドの提案はさらに進んだものだった。

金井良輔カスタマー・エクスペリエンス・プロデューサー(以下、金井):私たちが提案したのは「カルテ ギャザー(KARTE GATHER)」という店舗スタッフとEC上のお客さまをビデオでつないで接客できるツールだ。ECサイトと店舗スタッフは違う土俵で捉えがちだが、「カルテ ギャザー」を使えばデジタル上で店舗と同じリッチな接客が可能になる。お客さまがECサイトを回遊する中、適切なタイミングでオンライン接客のご案内を提示。店舗スタッフは店頭の端末を通じて、お客さまとコミュニケーションが取れる。店舗スタッフが「カルテ ギャザー」を通じてECの顧客に接客した場合、店舗からお客さまに商品を直送することもできるし、後からECサイト上で購入した場合も、その履歴が分かる。分断されたECと店頭を一体化して、その後の成果検証もできるようにした。

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梅田:オンライン接客ツールにつなげるお客さまは、何かしらの商品に興味があり、課題をお持ちだ。「ザ・ノース・フェイス」ならバックパックのサイズ感、あるいはダウンジャケットの暖かさなど、購入前にいろいろ聞きたいことがある。ダウンジャケットの暖かさについて、ECサイトの文字だけで伝えるのは難しい。お客さまから「週末から北海道旅行に行く」と聞いて初めて、「でしたら、これがいいのでは」と具体的な接客ができる。

WWD:顧客データの活用とは具体的にどんなことか。

金井:接客スタッフにも、お客さまのニーズを拾い上げるのが得意な方と、不得手な方がいる。不得意な方でも「カルテ」を使うと、顧客がECサイトでどんな商品に興味を持っていたのか、今はこんなカテゴリーを探しているのでは、ということが分かる。データを集約していけば、過去に店頭で受けた接客も分かる。「以前購入したアウターに合わせるなら、このボトムスがいいと思います」というように、コミュニケーションが洗練されていく。一斉に同じ内容を送っていたメルマガを、顧客に合わせて変えていくことも可能だ。

梅田:デジタルの浸透によって、店舗スタッフの役割が変わった。仕事を再定義する必要性を感じる。店舗での売り上げだけでなく、ECの売り上げに貢献してくれたことを、会社として適切に評価する。インセンティブやモチベーションにつなげることも大切だ。

金井:ゴールドウインはどの部署の人もお客さまのことをすごく考えている。店舗スタッフとECをつなぐというソリューションからスタートしたが、「カルテ」導入から付随するプロジェクトへと取り組みがどんどん広がり、現在は週3回くらいの割合でディスカッションしている。どんな顧客体験を作りたいか、リアル店舗の役割とは何かなど、突っ込んだ議論を重ねてきた。当社がその期待にどれだけ応えられるか、宿題は多い。

WWD:ゴールドウインが考える顧客体験とは?

梅田:難しくは考えていない。お客さまが求めているものを提供する。そのためにお客さまのことを深く知らなければいけない。お客さまをワクワクさせ、お客さまの想像を超える感動を提供できるか。感動によってゴールドウインのファンをいかに増やすか。長い関係性を築いていくか。最高の顧客体験を築く土台にデータがある。

金井:顧客体験というと、漠然としたものになりがち。でも求められる売り上げにも寄与していくことが大前提だ。ゴールドウインがお客さまに対してどんな存在でありたいかなど、抽象的かつ本質的なところから話し合い、ポップアップのメッセージはこんな雰囲気がいいんじゃないか、サイトを訪問したらいきなりクーポンを出すようなことは違うのでは、といった具体的な話を詰める。言語化するのが難しいけれど、ディスカッションを重ねていく中で、ゴールドウインが目指す顧客体験を私たちも理解し、一緒に深めていく感覚だ。

ECサイトの利便性向上に伴い売り上げも伸長

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WWD:売り上げも両社で共有しているのか。

梅田:週単位で共有している。やるからには数字を共有して、一緒に成果と課題を考えた方がいい。年間の平均購入単価×平均購入回数というシンプルなLTV(ライフタイムバリュー)の指標も大切にしている。直近ではVOC(お客さまの声)の分析も始めた。

金井:「カルテ」では、お客さまがこの画面でサイトを閉じたなどの行動データが集積できる。そういったアクションとVOCとを合わせて次のコミュニケーションに生かしたい。

梅田:一番大事なのは、デジタルもフィジカルも一つに捉えることだ。これまでは店舗でお客さまと対峙し、ある商品をしっかり売っていればよかった。今は新しいツールを導入することで、店舗スタッフがデジタルに貢献できる。データを活用しながら、人の力をうまく組み合わせるということが非常に大事だ。最近「コトラーのマーケティング5.0」(フィリップ・コトラー著、朝日新聞出版)を読んで、腑に落ちたことがある。情報や知識はAIや機械に置き換えることができるが、知恵を出すとか知見を活かすことは人間の領域であって、機械にはできない。それぞれで線を引くのではなく、データと人の力をうまく組み合わせて、お客さまに新しい価値を提案できるというのが、まさに「カルテ」でやっていることなのかなと。新しい取り組みが、次の新しい取り組みを生む。

金井:まさにそうだ。ゴールドウインにはさまざまなブランドがあるが、「カルテ」はあらゆるケースのお客さまにチューニング可能な設計なので、それぞれ解決策を紹介できる。各社のお客さま一人一人を分析して、どんなソリューションを組み合わせて使っていただくかを提案するのが私たちの仕事。この分野ではどこにも負けない自信がある。

販売に限定しない「カスタマージャーニー」

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プレイドのゴールドウイン支援チームは、カスタマーサクセスのほか、R&D、店舗設計に長けたアーキテクト、データサイエンティストなどデータと体験設計に長けたメンバーが支援体制を構築している。バックボーンも豊かで、何より全員が大の「ザ・ノース・フェイス」好きだ。左から金井良輔プロジェクトリーダー(CXプロデューサーとしてカスタマーサクセスの枠を超えて全体施策設計、ビデオ接客の実装を推進)、宮下弘大CXプランナー(建築家の経験を活かし、データを活用した店舗体験の設計を推進)、渡辺育海カスタマーエンジニア(KARTEの技術仕様に精通し、データ連携等のテクニカルサポートを担当)、神尾悟史PLAID Chimeディレクター(独自のCX人材開発プログラムを通じてインプットからアウトプットまで支援)

WWD:今後の「カルテ」活用の展望は。

梅田:当社のカスタマージャーニーは、販売がゴールではない。特にアウトドアウエアやアウトドア用品は、長く愛用していただけるよう高品質な物作りをしてきた。修理・修繕の仕組みも整っている。膨大なデータの中に、お客さまに喜んでいただけるヒントが潜んでいる。一人一人のデータをしっかり見て、それを積み上げていくことが大切だ。それを磨き上げた結果、当社のファンになってくれる。

金井:ゴールドウインの販売だけでなく、MD、生産のスタッフまでが、僕らの提供するデータを通じて、その向こうにいるお客さまのことを想像し、それを未来につなげていく。「カルテ」を通じて、そんな姿を実現したい。

梅田:金井さん含め、プレイドのチームの皆さんと本音で議論した結果、OMOに本気で取り組む腹を決めることができた。会社は違えども考えているベクトルは同じという安心感がある。週に1回は私と金井さんの2人で話し合っている。現場レベルでも頻繁にコミュニケーションをとる。今も4〜5つの新しいプロジェクトが動いている。スポーツメーカーなので、良い商品を作ればいいと考えがちだった。でもプレイドとの取り組みによって、宝のようなデータを活用すれば、さまざまな可能性が広がっていくことが分かった。長年培ってきたリアル店舗の価値と、デジタルのテクノロジーをうまく組み合わせて顧客体験を磨いていきたい。

PHOTO : KAZUO YOSHIDA
TEXT : MIWAKO ANNEN

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