「KARTE」の“AI-Ready”なデータ基盤を活かし、HISがツアーコンサルタント業務をアシストする生成AIベースのダッシュボードを開発
AI技術の急速な発展により、企業・組織がAIを業務ないしはビジネスの変革に活かす動きが活発化している。とりわけ、自然言語を通じて人と対話し、ナレッジワークをこなせる「生成AI」への関心は高く、多くの企業・組織が活用に乗り出している。しかし、生成AIの活用を実質的な成果へとつなげている例はそれほど多くないのが現状だ。そんななか、店舗における接客の効率化と品質向上に生成AIを使い、成果を発揮する企業がある。大手旅行会社のHISがそれだ。ここでは、同社におけるAI活用をリードする鈴木 佳祐氏と、その取り組みを全面的に支援するプレイドの川島 拓也氏に話を聞く。
AI技術の急速な発展により、企業・組織がAIを業務ないしはビジネスの変革に活かす動きが活発化している。とりわけ、自然言語を通じて人と対話し、ナレッジワークをこなせる「生成AI」への関心は高く、多くの企業・組織が活用に乗り出している。しかし、生成AIの活用を実質的な成果へとつなげている例はそれほど多くないのが現状だ。そんななか、店舗における接客の効率化と品質向上に生成AIを使い、成果を発揮する企業がある。大手旅行会社のHISがそれだ。ここでは、同社におけるAI活用をリードする鈴木 佳祐氏と、その取り組みを全面的に支援するプレイドの川島 拓也氏に話を聞く。
(この記事は、株式会社インプレス「Web担当者Forum【生成AI活用ガイド】」で2025年6月1日に公開された記事を転載しています。引用元:https://webtan.impress.co.jp/e/2025/07/09/49640)
顧客データを店舗業務の変革に活かすために
エイチ・アイ・エス(以下、HIS)は、ご存じの通り、日本を代表する旅行会社だ。1980年の設立以来、着実な成長と発展を遂げ、国内に150拠点、海外57カ国に143拠点を展開している(数字は取材時点)。加えて近年では、旅行業のみならず、ホテルをはじめとする旅行関連事業や飲食などの非旅行事業にも力を注いでいる。
同社では、2030年の創業50周年に向け「挑戦心あふれ 世界をつなぎ 選ばれ続ける企業に Change &Create」というビジョンを掲げている。そのビジョンを実現すべく取り組んでいる1つが、CX(顧客体験)の向上によるLTV(顧客生涯価値)の最大化であり、データ活用による国内業務の効率化(=DXの推進による業務プロセスの変革)である。同社における生成AI活用は、これらの取り組みの一環として推進されているものだ。その取り組みについて、HISにおけるAI活用をリードするデータ活用推進チーム チームリーダーの鈴木 佳祐氏は次のような説明を加える。
「我々(データ活用推進チーム)のミッションは、お客様(顧客)データを駆使しながら、旅行業のビジネスを支えるWebサイトや店舗のCXを向上させ、LTVを最大化させることにあります。生成AIの活用は、本ミッションを遂行するための一手として、当社が保持するお客様(顧客)データを、店舗における接客の効率化や品質向上につなげるためのシステムに、生成AI技術を使っています」

株式会社エイチ・アイ・エス 販売管理グループ データ活用推進チーム チームリーダー 鈴木 佳祐氏
「顧客データ×生成AI」で店舗業務の効率化とCX向上に乗り出す
鈴木氏のいう「お客様データ」は、プレイドのCXプラットフォーム「KARTE」で管理されている顧客の行動データを指している。KARTEは、Webサイトなどに来訪した人の行動データをリアルタイムに収集・解析・可視化し、顧客理解の深化や接客のパーソナライズに活かす仕組みだ。また、データ連携基盤の「KARTE Datahub」を通じて、KARTE以外の多様なデータソースのデータをKARTEに統合し、包括的に分析・活用することも可能としている。
HISでは2016年にKARTEを導入し、同プラットフォームに蓄積された顧客データをパーソナライゼーション施策などに役立ててきた。そのデータ活用の幅を店舗での接客の効率化や品質向上へと押し広げるべく、同社は2023年にプレイドに協力・支援を要請した。それに応じたプレイドがHISとともに作り上げたシステムが、生成AIを使った「相談予約ダッシュボード」である(図1)。

図1 HISの「相談予約ダッシュボード」の画面イメージ
HISの店舗で顧客に応対するツアーコンサルタント(以下、コンサルタント)の知識量・提案力は目を見張るものがある。顧客は、旅行予約の不安を解消し快適なプランへの後押しを求めて、店舗に来店する。相談予約ダッシュボードは、そんなコンサルタントの業務を効率化するためのシステムだ。このダッシュボードでは、店舗のコンサルタントへの相談を予約した顧客が「どんなニーズを持っているか」「どんな商品にフックする可能性があるか」「接客時にどのようなヒアリングを行うべきか」を、KARTEに蓄積された顧客データを基にAIが分析・予測して、そのサマリーを生成し、AIによる顧客データの分析結果として要約して表示される仕組みになっている。
例えば、これまでは「台湾旅行を計画している」としか把握できなかったところが、「実は東南アジアで自然を体験するプランに興味があり、期間や予算により台湾が最終候補に絞られた」という顧客像を事前に想定できるのだ。同システムを開発した背景について、鈴木氏は「コンサルタントによる接客は通常、お客様のニーズをヒアリングして理解するところから始まります。このヒアリングには相応の時間がかかり、結果として、1件の相談に1時間~2時間の時間を要するのが一般的です。そんな接客時間を短縮すべく開発しました」と説明する。
相談予約ダッシュボードを介して、顧客ニーズに関する情報を事前にコンサルタントに提供できれば、顧客ニーズを一からヒアリングして理解し、それに沿ったツアーを考案して提案するプロセスが効率化され、接客時間を削減できるはずだと考えた。また、接客の効率化によって時間的なゆとりが生まれれば、接客品質の向上へとつながり、それが結果としてCXの向上や案件成約率のアップへとつながっていくと期待したという。
「AI-Ready」のデータ基盤によりダッシュボードの短期開発を実現
相談予約ダッシュボードは2023年12月に都内にある1つの店舗でトライアルが始まり、そこから約1年間の試行錯誤を経て2024年末から関東圏内16店舗での運用がスタートした。のちには国内全店舗への展開が段階的に進められている。
その辺りの経緯について、ダッシュボードの開発を担ったプレイドの川島 拓也氏は次のように振り返る。

株式会社プレイド AI solution architect 川島 拓也氏
「ただ集計しただけのデータから、結局どのようなニーズを持った顧客なのかを解釈するのは難しいため、AIで自然言語に変換して表示させています。全店舗のコンサルタントに便利に使っていただくためには、顧客ニーズをよりシンプルに把握できるシステムを構築する必要がありました」
生成AIを使った相談予約ダッシュボードの開発は、AIによる開発支援の機能を備え、必要最小限のコーディングでユーザーオリジナルのアプリケーションやWebサイトが作成できる「KARTE Craft」や「KARTE Datahub」を使って進められ、2024年10月からの約2カ月間で開発が完了した(図2)。

図2 「相談予約ダッシュボード」のシステム全体イメージ
約2カ月間で相談予約ダッシュボードのようなAIシステムの開発が終えられるのはかなりのスピードだ。その短期開発を可能にした要因として、川島氏はKARTE Craftの生産性の高さに加えて、HISの顧客データが「AI-Ready」の状態にあった点を挙げる。
「生成AIの有効活用を図るうえでは、データ、ないしはナレッジベースを整備して、データ基盤をAIによる意味ある分析・活用が可能な“AI-Ready”の状態にすることが必須です。それによって初めてAI活用を成功に導くことが可能になるといっても過言ではありません。そのようなデータの整備には、多くの場合、相応の手間と時間を要しますが、HISがKARTEの使用を通じて蓄積してきたデータは、まさしく“AI-Ready”状態にあり、商品データも整備されていました。そのことが、生成AIを使ったダッシュボードのスムーズな開発につながったといえます」
また、KARTEの場合、顧客の行動データと併せて、その行動がどのような意味を持っているかを表す「文脈(コンテクスト)」もくみ取ることができる。日程や価格帯は決めているが、旅先は迷っている、といった顧客それぞれのコンテクストだ。川島氏は、コンテクストデータもAIを使ったシステムづくりに欠かせない要素であると説明した。
コンテクストは、顧客がどんな行動をとったかをとらえるだけではなく『顧客がなぜその行動をとったのか』をAIが解釈するうえでとても有効な情報だ。このデータがあることで、AIは、行動データから顧客の適切なグルーピング(=顧客クラスターの生成)を行ったり、適切な商品を適切なタイミングでレコメンドしたりすることが可能になる。
「実際、KARTEに保持されたコンテクストは、今回の相談予約ダッシュボードの開発にとても役立ちました。また、ダッシュボードをAIエージェントに発展させたり、Webサイト上のレコメンデーションに役立てたりするうえでもコンテクストは有効に機能すると見ています」(川島氏)
こうした川島氏の言葉を踏まえつつ、鈴木氏はデータ整備の重要性とKARTEを使用してきた効果を次のように表現する。
「今回の相談予約ダッシュボードの開発を通じて、AIの有効活用には、事前のデータ整備がいかに大切かを痛感しました。その意味で、KARTEを使い続け、プレイドの支援を受けながら顧客データ基盤を整えてきたことが奏功し、早期に成果に繋がって本当に良かったと思っています」
AIエージェント化を視野にダッシュボード活用の裾野を押し広げる
生成AIを使った相談予約ダッシュボードは、店舗での使用開始から数カ月で相応の効果をHISにもたらし始めている。その効果について鈴木氏はこう明かす。
「効果の1つは、経験の浅いコンサルタントでも自信をもって接客に臨めるようになったことです。結果として、店舗での案件成約率もアップし、特に入社3年未満のコンサルタントの成約率には上昇が見られています」
加えて、相談予約ダッシュボードの導入以降、相談予約をとった顧客のニーズに適合したコンサルタントが常にアサインされるようになり、顧客ニーズとコンサルタントの得意分野とのミスマッチが回避されるようになった。鈴木氏は「こうした成果をさらに上げるべく、ダッシュボード活用のすそ野を押し広げていき、CXの向上やLTVの最大化につなげていく考えです」との意欲を示す。
HISではまた、先に川島氏が触れたダッシュボードのAIエージェント化も視野に入れている。相談予約の受付時に、生成AIベースのエージェントがオンライン上で接客して、顧客ニーズをヒアリングし、ツアーや宿泊先をレコメンドしたり、AIでは対応が難しいニーズを適切な人(コンサルタント)に自動でエスカレーションしたりできるようになれば、店舗業務はさらに大きく効率化されるだろう。川島氏は、こうしたAIエージェントの開発を含めて、これからもHISにおけるAIの活用を積極的にサポートしていく構えだ。
「当社では、AIソリューションの提供力を強化するために、2024年10月にCTO直下の組織としてAI専任チームを立ち上げました。これからもHISをはじめとする多くのお客様のビジネスやマーケティングの強化にAIを役立てていきます」(川島氏)
こうした川島氏の発言を受けたかたちで、鈴木氏はプレイドによる支援に次のような期待を寄せる。
「今回、生成AIを使い、接客業務の効率化や品質向上に有効なダッシュボードを形にできたのは、KARTEの利用とプレイドによる強力なバックアップがあったおかげです。今後は、AIエージェントの開発など、オンライン上での接客の変革にもAIを活かしたいです。その実現に向けて、プレイドにはこれまでと変わらぬサポートを大いに期待しています」
PLAID AIサイト:https://ai.plaid.co.jp/
お問い合わせ:https://karte.io/enterprise/