データをもとに“毎日”改善する新たなポップアップイベントの形。三井不動産がKARTEで創るD2Cブランド支援とは?

三井不動産株式会社のD2Cブランド支援プロジェクト「NEW POINT」は、同社の商業施設などのアセットを活かして2021年10月に始動。これまで複数のポップアップイベントを開催しながら検証を重ねてきました。プレイドのプランニングチーム「EDIT」は、NEW POINTの立ち上げ間もない2022年1月、事業開発メンバーとしてジョイン。KARTEを活用した顧客体験の設計と実装、データドリブンな事業検証をリードしてきました。三井不動産ビジネスイノベーション推進部の可児盛明氏、EDITの宮下巧大と川島拓也に、これまでの取り組みや手応えを振り返りながら、NEW POINTによるブランド支援のあり方と展開の可能性を語ってもらいました。

街なかで、商業施設で、時折見かけるポップアップイベント。生活者にとっては、何気なく訪れた場所で新しい商品・サービスを知ることができ、出店側としてはブランドの魅力を顧客に直接伝えられる機会になっています。とりわけリアル店舗を持たないD2Cブランドにとってポップアップイベントは重要な顧客接点ですが、出会い以降の関係が続かないなどの課題も多いのが実情です。

そうした課題に、データで一つの解決策を示しているのが、三井不動産株式会社のD2Cブランド支援プロジェクト「NEW POINT」です。同社が商業施設などのアセットを活かして、2021年10月に始動。これまで複数のポップアップイベントを開催しながら検証を重ねてきました。

NEW POINT」の手がけるイベントは、D2Cブランドにとって「出店して終わり」ではありません。データをもとに、限られた期間内に棚の配置から商品ディスプレイ、接客にいたるまで細かく改善。さらに会場やWebサイトなど各接点で得たデータを活用し、開催後の顧客とブランドの関係構築も支援します。

さらにCXプラットフォームの「KARTE」を使って、顧客の行動や興味関心にまつわるデータを適切な方法で集めて分析。同時出店したブランドとの比較による顧客の傾向や訴求ポイントなど、体験向上につながる気づきを提供します。

00

(2022年10月、三井不動産が運営する渋谷・宮下公園跡地の商業施設「MIYASHITA PARK」で開催されたポップアップイベントの様子)

ブランド活動を支援するプレイドのプランニングチーム「EDIT」は、NEW POINTの立ち上げ間もない2022年1月、事業開発メンバーとしてジョイン。建築や空間設計の分野に明るい宮下、川島がその素地を生かし、KARTEを活用した顧客体験の設計と実装、データドリブンな事業検証をリードしてきました。

三井不動産ビジネスイノベーション推進部の可児盛明氏、EDITの宮下巧大と川島拓也に、これまでの取り組みや手応えを振り返りながら、NEW POINTによるブランド支援のあり方と展開の可能性を語ってもらいました。

「不動産×デジタル」で、ブランドの成長を支援

NEW POINTは、どのようなプロジェクトなのでしょうか?

可児:三井不動産が培ってきたアセット、リアルとデジタルのデータを用いて、顧客とブランドの出会いから関係構築まで包括的に支援するプロジェクトです。

ポップアップイベントなど出会いの場の体験設計、デジタルコンテンツの企画発信、商品在庫の管理、会場の什器や販売スタッフの手配、開催後の継続的な効果測定までを支援するソリューションを検証しています。RaaS(Retail as a Service:小売業のサービス化)モデルを採っているため、ブランドは出店場所や物流オペレーション、データ、システムなどを自前で用意せずとも、必要なときに必要なものを利用できます。

現在はポップアップイベントのRaaSソリューションを検証していますが、いずれブランドの方々が常設店を展開するとなった際に、必要なサービスやソリューションを提供できるようにしたいですし、三井不動産の他のアセットを活用する展開なども検討しています。

そもそも三井不動産がNEW POINTを立ち上げた背景を教えてください。

可児:NEW POINTは不動産業界という枠を超え、デジタルを駆使して新たな価値を生み出す試みの一つです。

三井不動産では、創業以来、オフィスビルから商業施設、ホテル・リゾートなど、幅広い不動産の開発や街づくりによって、人々の暮らしに価値を創出してきました。

近年は、新型コロナウィルス感染症によって人々の暮らし方や働き方は大きく変化し、デジタル化も加速しています。オフィス以外で働くことも珍しくありませんし、商業施設ではなく自宅からECなどでお買い物を楽しむ人も増えました。

こうしたライフスタイルの変化に対応するため、三井不動産では従来の不動産ビジネスにとらわれない事業・サービス創出に力を入れています。なかでも私の所属するビジネスイノベーション推進部では「働く」 「住まう」「楽しむ」という3つの戦略テーマにおいて、デジタルを活用した新たな事業を推進しています。NEW POINTは「楽しむ」における取り組みとして始動しました。

01

可児盛明:三井不動産ビジネスイノベーション推進部。2020年に入社し同部に所属。全社から幅広く事業アイデアを募集する事業提案制度「MAG!C(マジック)」の運営や、不動産とデジタルと掛け合わせた新規事業開発を推進。2021年から商業領域の事業を担当し、同年9月に「NEWPOINT」の実証実験を開始。

最近では、他の不動産会社もRaaS型の事業に取り組んでいると思いますが、NEW POINTはどういった点が強みですか?

可児:まず、三井ショッピングパークららぽーとや三井アウトレットパークなど、高い集客力を誇る商業施設を活用できること。ブランドがより多くのお客様と出会う機会を提供できる点は大きな強みです。

次に、商業施設に出店されている数百の店舗や、オフィスビルに入居されている数千の企業と三井不動産が築いてきたリレーションです。テナントの皆様と、NEW POINTの支援するブランドとの交流を促し、ビジネスのきっかけを創出するなど。これまでのつながりを活かした支援は、総合ディベロッパーだからこそ提供できるのではないかと考えています。

最後はリアルとデジタルのデータ活用です。NEW POINTでは、WebサイトからSNS、イベント会場、出店ブランドのECサイトなど、各顧客接点でデータを取得することができます。異なる接点で集めたデータを合わせて分析して、イベント開催中のアジャイルな店舗改善、イベント後の効果測定、継続的な顧客との関係構築をサポートします。データを活用した一連の体験設計を整理したのが以下の図です。

02

これまで私たちも含め、多くの商業施設では、リアルとデジタルのデータを収集したり、ブランドに還元したりといった動きをとりきれていなかったと考えています。これからEDITの皆さんとKARTEの力も借りながら、さらに強みとして磨き込んでいくつもりです。

イベント体験を瞬間で終わらせず、後の関係構築につなぐ

EDITがNEW POINTに参画した経緯を教えてください。

宮下:プレイドは、NEW POINTの始動後しばらくしてジョインしています。きっかけは、NEW POINTに関わっている什器・空間デザインの企業の方から、相談をいただいたことです。私は建築家としても活動しており、最初は「空間設計について聞きたい」と伺っていました。

ですが、可児さんを含むNEW POINTチームの実現したいことを詳しく聞いていくと、ブランドや生活者に価値を還元するにあたって、デジタルやデータの活用も鍵になりそうだと思いました。同時に、それらの領域を専門で担う人や企業がいない状態だと気づいたんです。それならプレイドとしてEDITが担うべきなのではないかと考え、同じく建築のバックグラウンドを持つ川島とともに参画することになりました。

03

宮下 巧大:東京藝術大学にて建築のデザインを学んだのち、新卒で建築設計事務所に勤務。住宅、商業、公共などの建築デザインを担当。設計業務と並行して、地方行政のまちづくりや企業のブランディングもおこう。2020年よりissue採用をきっかけにPLAIDに参画。KARTEがもつユーザーデータを活用し、新しいサービス、新しい体験を創造するプロジェクトに従事。

現在、EDITはどのような役割を担っているのでしょうか。

川島:主に、ポップアップイベントの来場前後も含めた顧客の体験設計、アンケート施策の実施や改善、イベント後の行動データ計測、LTVによる効果測定の仕組みの構築などを、KARTEを駆使して実施してきました。

加えて、NEW POINTという事業自体のデータドリブンな検証も支援しています。

04

EDITによる体験設計、KARTEを使ったデータの収集・連携によって、NEW POINTはどのように進化したのでしょうか?

川島:一つは、ポップアップイベントをデータによってアジャイルに改善できるようになったことです。

NEW POINTの主催するイベントでは、 KARTEを使って、さまざまな接点でリアルとデジタルの顧客の行動や興味関心にまつわるデータを収集しています。以下の図のように、会場でのくじ引き施策から得た来場者の属性や認知チャネル、POSデータや購入者アンケートの回答、SNSの反応やブランドサイトでのCV率などをレポートにまとめ、出店ブランドの方にお伝えします。接客するスタッフもNEW POINT側で手配しており、「こういう声かけや言葉が購買につながった」など、接客中の気づきなども聞き取り、レポートに盛り込んでいます。

05

その結果をもとに、NEW POINTの運営チームが中心となり、商品の位置からポスター、ブースの配置、接客などのPDCAを回し、体験向上を図ります。実際、初日に試飲を行っていなかったブランドが「商品の味を比べたい」という顧客の声に応えて試飲を始めた結果、翌日の売り上げが飛躍的に伸びた例などもありました。

06

川島 拓也:オカムラグループ、GCstoryにてチェーンストアの設計施工/屋外広告PRJのPMや事業立上を担当。その後、乃村工藝社で商業空間/オフィスのPMや社内DX推進を担当。2021年よりPLAIDに参画、現在はCXのプランニングユニットに所属し顧客体験設計やディレクションを担当。

宮下:会場のレイアウトが初日と最終日で大きく変わることもあります。通常、建築や空間は一度作ったら簡単に変更できませんし、実際にすることも少ないですが、データによって評価できるようになったことで、リアルの場でPDCAが回り続けているのは、とても面白い試みだと感じています。

可児:私たちも、たくさんの気づきがあります。日々改善を重ねることで、ブランドにとってはお客様と出会える可能性が広がり、お客様にとってはより自分に合ったブランドを発見し、イベントを楽しめる。両者にとって「また来たい」と思っていただけるイベントを目指しています。

ブランド側にとっては、打ち合わせなどで事前に決めた出店ブースのディスプレイなどが、途中で変更される可能性があるわけですよね。それに対してネガティブな反応などはありませんか?

可児:いや、ないですね。むしろお客様の声を聞き、よりよい体験づくりに活かせることを喜んでくださっています。ECやポップアップイベントを主な顧客接点とするブランドのなかには、実店舗での商品ディスプレイや接客の経験やノウハウが少なく、お客様に魅力が伝わるのか不安を感じている方も多いのだと思います。

イベントの終了後も、参加ブランドへのフォローがあるのですか?

可児:はい、開催後にポップアップイベントの結果や改善点をフィードバックし、次の機会につなげていただくことを大切にしています。データを共有すると、過去に他のイベントに出店した経験のある方でも「そんなお客様の声があるとは知らなかった」と驚かれることが多いんです。

2022年2月に開催したポップアップイベントは、初めてリアルの場へ出店するブランドがほとんどだったので、商品のレイアウトや接客などについて、様々な気づきを持ち帰っていただけました。あるブランドではNEW POINTのイベントから得た改善点を反映し、別のイベントで商品のセット売りを試したところ、売り上げが大幅に上がったと聞き、大変嬉しく思っています。

NEW POINTはお客様とのコミュニケーションがしやすいような、場と体験の設計をしているので、次に活かせる示唆や学びを得る場としても参加していただけたらと思っています。

KARTEが基盤にあるからこその深い示唆を還元

NEW POINT自体も、改善を重ねているそうですね。直近開催したイベント『GOOD TIMES』は、どう進化しましたか?

可児:まず、出店ブランド数が前回の6から23へと大幅に増えました。ただ増やすだけではなく『GOOD TIMES』というテーマで、過ごしたい時間ごとに5つのエリアを用意しました。陳列されている商品が多くなると、お客様は見るものを迷うようになります。KARTEで構築したオンラインの診断コンテンツを通して、来場者に合わせたエリアやブランドをマッチングすることで、体験の量と質を拡充しようと試みました。

07
08

川島:アンケートは、ブランドごとの購買理由や来場者の併売も把握できるよう設計しました。さらに、ブランドの方々に前回以上に深い気づきを届けるため、各ブランドの購入者向けのアンケートに独自の質問を設定できるようにしました。

また、来場者向けのアンケートと各ブランドの購入者向けのアンケートを別々に実施していると、回答するお客様の負担が膨らんでしまう懸念があったため、性別や年齢など重複する質問は非表示にするなど回答数の最適化も図りました。

より回答数を高めるという観点では、回答した方向けの特典を全員が受け取れる方式ではなく、当たり外れのあるくじ引き方式にしました。通常のアンケートに比べて、(ゲーム感覚で試してくれる人が多くなり)回答数が増えました。一般的に、実店舗でお客様にアンケートに回答いただくのは難しいと言われており、回答率が20%でも良いほうだと聞きますが、NEWPOINTでは平均して来場者の2人に1人が回答してくれました。

可児:今回、購入者向けのアンケートでは、美味しさやパッケージ、接客、ストーリーなど10項目から購入理由を選んでいただいています。その回答をブランドごとに比較してみると、傾向が分かれていて、ブランドごとの強みや訴求ポイントが浮かび上がってきましたよね。

具体的にどのようなことが浮かび上がってきたのでしょうか?

宮下:たとえば缶つまやワインを展開し、アンテナショップの「ROJI日本橋」を運営する国分グループ本社の場合、他のブランドと比べて、若い女性による購入の割合が高い傾向がありました。

さらにデータを詳しくみていくと、併売の組み合わせからも面白い発見がありました。若い女性のなかには、缶つまとおしゃれなアクセサリーや美容系のプロダクトを、併せて買っている方が多かったんです。そうした併売が多いとは国分グループ本社の方も想像していなかったようでした。

また、試飲や試食を行っているブランドは、アンケートの購入理由として「味」が選ばれていることが多いのですが、国分グループ本社の商品では、今までの結果と比較して「パッケージ」も理由にしているケースが見られました。

09

国分グループ本社に限らず、各ブランドが別々にアンケートを実施するのではなく、KARTEを活用し、複数ブランドと一括でアンケート結果を取得・蓄積しているので、「あなたのブランドは比較してこうだった」という示唆を返すことができました。23ブランドの共通基盤としてKARTEを活用いただくからこそ、提供できる価値があるのではという発見につながりました。

10

先ほど思いがけない併売など定性的な気づきの話がありましたが、定量的な成果などはいかがですか?

川島:1日20万円以上の売り上げを達成したブランドや、1ヶ月の目標会員獲得数の半数を獲得したブランドもありました。購買数あたりのアンケート回答の割合は、3日間で60%と非常に高くなっています。ほぼ100%に近い日もあったほどです。

11

ブランドのため、生活者のためを追求し続けたい

NEW POINTとして、今後の展望を教えてください。

可児:まだ実証実験の段階ですが、今の取り組みがブランドや生活者の方々、三井不動産という会社、ひいては社会にとって価値のあるものであるという手応えを、少しずつ得られています。すでに何度も出店してくださっているブランドもあるので、そうした方々と一緒に事業を成長させていきたいです。

今後も三井不動産の培ってきた蓄積を大切にしながら、時代やお客様に合わせて変えるべきところを変え、新たな価値を生み出していきます。

そうした展開において、EDITやKARTEに期待することはありますか?

可児:最近、ポップアップイベントに出店したブランドがKARTEを導入する例が少しずつ増えています。導入が進めば、NEW POINTのサイトやアプリ、イベント会場で取得したデータと、ブランドの自社サイトやアプリのデータを連携できます。するとブランドの得られる示唆も広がり、それらを体験向上に生かすことで成長が加速する。そうしたリアルとデジタルをつないでいく試みが可能なのは、EDITの皆さんとKARTEあってこそなので、今後の広がりにも期待しています。

また、NEW POINTではリアルとデジタルの接点を横断した体験を設計していきます。「お客様にアンケートに答えてもらう」にも、アンケート用のQRコードの設置場所、そこまでの導線、スタッフの案内など多くの検討が求められます。建築や空間デザインのバックグラウンドを持ち、デジタルでの体験設計やデータ活用にも明るい宮下さんも川島さんはとても心強い存在。今後もお二人の専門性を生かしていただけたらと思います。

12

宮下:リアルとデジタルを横断的に考えていくスタンスは私たちが大切にしていることなので、そう言っていただき嬉しいです。私たちも普段はリアルの接点の仕事が多いわけではないので、その両方を捉える複雑さを感じることもありますが、試行錯誤しながら、手法や考え方を磨いていきたいです。

そんなチャレンジも含めて、EDITとして、今後どのようにNEW POINTに貢献していきたいですか?

宮下:これまで分断しがちだった商業施設とブランドのデータ、リアルとデジタルの接点のデータを、よりよい顧客体験に寄与する形でつないでいきたい。そのための基盤を構築していけたらと考えています。

可児さんのお話の通り、百貨店などの大型商業施設がテナントであるブランドとデータを連携するのは、技術的にもビジネス的にもハードルが高かったと思います。そこを乗り越えて、ブランドや生活者に新たな価値を届けていきたいです。

また、NEW POINTを通して得た知見やノウハウを、ビジネスイノベーション推進部の取り組みにも還流することで、三井不動産さんの事業推進にも寄与していきたいですね。

川島:まさに今、NEW POINT自体もポップアップイベントを軸に、クイックに事業検証のサイクルを回しています。KARTEを駆使して、例えばブランドへのフィードバック内容やレポートの充実といったNEW POINTのアップデートにも貢献していきます。

SHARE