デジタルでも温かさや思いを大切にできる。 三田市が進める市民体験向上のためのデジタル活用

兵庫県三田市における行政サービスの利便性向上の取り組みや実証実験の内容、それによる変化などについて、三田市スマートシティ推進課の岩崎謙二さん、若者のまちづくり課の鈴木さやかさん、藤村絵美さんに伺いました。

「市民一人ひとりが幸せを実感しながら住み続けられるまち三田」を目指し、デジタル技術やデータの活用を進める兵庫県三田市(さんだし)。市民を中心に、移住検討者など市に関係する方々を含めたニーズの多様化に合わせて、行政サービスの利便性向上に注力してきました。

2022年7月からはプレイドと協働し、市のホームページにてKARTEを用いた個別最適な情報発信を検証(プレスリリース:プレイドと三田市の協働による実証の結果報告 〜データ利活用による利便性の高い行政サービス創出の推進について〜)。自治体において住民が得られる体験価値(Citizen Experience, CX)に注目し、その向上に取り組んでいます。

今回は、取り組みの背景や実証実験の内容、それによる変化などについて、三田市スマートシティ推進課の岩崎謙二さん、若者のまちづくり課の鈴木さやかさん、藤村絵美さんに伺います。

“デジタル時代に相応しい市役所”を目指して

初めに、三田市がデジタル活用によって実現したい行政サービスとは、どのようなものか教えてください。

岩崎:前提として、三田市では2020年10月にスマートシティに取り組む旨を公表、市民などからの意見を集めながら、2022年4月に「さんだ里山スマートシティ構想」を策定し、デジタル技術やデータ利活用による地域課題の解決、市民の暮らしの質の向上などに力を入れてきました。

構想において重要な取り組みの一つが「デジタル時代に相応しい市役所になる」です。近年、市民の暮らしや抱えるニーズは多様化しており、行政が提供する制度やサービスの種類が増えています。さらに、インターネットやスマートフォンなどのデジタル技術の進歩は、多くの人にとって欠かせないものになりました。

その中で市民のニーズに応えていくためには、これまでのように時間制約のある対面窓口での対応だけでなく、オンラインでもアクセスできる利便性の高い行政サービスが必要だと考えています。情報発信についても、より市民にとってわかりやすく、知りたい情報を見つけやすい状態が理想です。

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三田市スマートシティ推進課 岩崎謙二氏

実証実験では、ホームページでの情報発信にまつわる施策を検証されました。情報発信について、どのような課題を感じていますか?

岩崎:自治体のホームページにおける情報の探しづらさは、多くの自治体にとって重要な課題だと考えています。

とりわけコロナ禍では、市民がホームページを訪れても情報量が多く見づらいため、知りたい情報に辿り着けないといった事態が起きていました。

市長も含めて、市民に正しい情報を、さまざまな手段で届ける重要性を痛感しました。2021年10月に市LINE公式アカウントを開設、プッシュ型の情報発信により、登録者の属性に合わせて市からのお知らせを届けています。他にも、2022年3月末に市公式ホームページをリニューアルしました。

とはいえ、まだまだ改善の余地は大きいです。今回の実証実験も、さまざまな企業の情報発信を支援してきたプレイド社の知見やナレッジを共有いただき、取り組みを加速させたいという思いから始まりました。

移住検討者にオンラインでも丁寧に寄り添いたい

実証実験では、具体的にどのような取り組みを?

岩崎:まずは、プレイド社から職員向け研修を実施してもらいました。KARTEの使い方だけでなく、CX(カスタマーエクスペリエンス/顧客体験)の概念について丁寧に解説いただく内容で、検証の土台となるマインドセットの醸成を図りました。

概念を学んだ上で、参加した職員からホームページで検証したいテーマやアイデアを募り、今回は「移住・定住」と「子育て」に焦点を当てることに決まりました。

鈴木さん、藤村さんは「移住・定住」を推進する若者のまちづくり課から研修に参加されたのですよね。どのような課題意識がおありでしたか?

鈴木:若者のまちづくり課は、2022年4月に新たに「移住・定住・少子化対策係」を設置し、「移住・定住」に関する推進を強化しました。市公式ホームページやポータルサイト『さんだうぇるかむサイト』での情報発信や対面での移住相談、オンライン移住体験ツアーなど、移住などを検討される方に対して、さまざまな取り組みを進めてきました。

その中で、対面で寄り添うような丁寧な対応が移住につながるという手応えは得られていた一方、オンラインでの発信には、大きな課題を感じていました。

移住を検討する方は、まちの雰囲気や環境、移住に関する補助金など、それぞれ知りたいことが異なります。対面であれば、目の前の方に何を知りたいかを聞き、必要な情報を提供できますが、ホームページでは大量の情報が並列に掲載されているような状態になりがちです。

遠方に住んでいたり、日中はお仕事があったりと、窓口を訪れるのが難しい方もいらっしゃいます。そうした方にも、対面と同じように一人ひとりに合わせた情報発信を実現できないか。そう考えていたところスマートシティ推進課から研修の話を聞き、参加しました。

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若者のまちづくり課 鈴木さやか氏

藤村:私は移住・定住に特化したポータルサイト『さんだうぇるかむサイト』の情報発信を担当しており、認知の拡大やアクセス数の向上に取り組んでいました。その中で、現状のサイト構造や管理ツールでは、訪れた方がどのように行動したのかなどが把握しづらく、仮説や取り組みのアイデアを出しづらいという課題を感じていました。

研修を通して、KARTEというツールで「この人はどのページから来て、どこへ移動したか」などの細かな行動がわかると知りました。こうして一人ひとりのニーズが見えると、今後のサイトでの改善にも生かせるかなと期待していました。

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若者のまちづくり課 藤村絵美氏

データから見えたのは、移住を検討する人の“思い”

具体的にKARTEを使って、どのような仕掛けを検証しましたか?

鈴木:一つは、市ホームページの「移住・定住」ページにポップアップを表示する仕掛けです。「お探しの情報は何ですか?」と聞くものや、希望する居住エリアをたずねるものなどを試しました。いずれの仕掛けでも、訪れた方の選んだ回答に沿って、最適な情報を案内します。

たとえば居住エリアをたずねるポップアップでは、「住宅エリア」と「自然エリア」のどちらかを選択すると、そのエリアに住んでいる移住体験談へのリンクを表示するようにしました。

対面窓口で知りたい情報をお聞きし、一人ひとりに合わせた情報を提供していくような対応を、ホームページでも再現できればと考えて設置したものです。

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希望する居住エリアをたずねて、回答に応じたコンテンツへの誘導をおこなう施策のイメージ

藤村:その他には、移住者体験談や空き家バンクなど、『さんだうぇるかむサイト』内のコンテンツに案内するバナーやリンク誘導テキストも設置しました。

今回はいずれの仕掛けもテスト環境にて実施しており、モニターとして市職員がホームページを触って、情報の探しやすさなどを検証しています。職員ではありますが、三田市で暮らす市民の一人として率直にフィードバックをもらい、検証や改善に生かしました。

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KARTE活用によるページ内コンテンツの変化イメージ

また、サイトやページを訪れた方のデータ分析も実施しています。来訪頻度やページの遷移、閲覧時間などを見ながら、ニーズや改善策の仮説を立てました。

ひとり親向け家庭向けサポートの接客イメージ
アンケートからさらに知りたい情報のご案内をする接客イメージ

データ分析からどのようなニーズや改善策のアイデアが見えてきましたか?

鈴木:たとえば「移住・定住」ページを訪れたことのある方の行動をみていくと、過去に小中学生の就学援助制度を案内するページを複数回見ていました。さらに、市からの補助金ページをチェックしてから、移住定住者のみを対象としたテレワーク補助金の案内ページにも遷移し、かなり長い時間ページを閲覧していたんです。

そうした行動から、サイト訪問者は小中学生の子がいる子育て世帯で、リモートワークをしており、移住意欲が高まっているのかなと想像できました。さらに移住後も、現在の仕事をリモートワークで継続することを希望されているのではないかな、と。

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サイト訪問者の行動履歴の画面イメージ

定期的にオフィスに出勤することもあるなら、オフィスへのアクセスも重要でしょうし、平日は学童の利用なども考えているかもしれません。

であれば、ホームページでお子様の学年に合わせた就学関連情報や放課後児童クラブの情報、オフィス所在地エリアまでのアクセス情報などを案内できると良いのではないかと、仕掛けの仮説を立てていきました。

ページを訪れた一人ひとりの行動の流れから、ニーズを想像していったのですね。

鈴木:そうですね。KARTEのデータからは細かい行動はもちろん、そこで一人ひとりが抱いた「思い」が見えてくる感覚がありました。日頃、対面窓口などで意識している「温かさや思い」といったものを、データの分析や仕掛けの立案においても大切にできるなと感じて、嬉しかったです。それまでデジタルというと、冷たく機械的なイメージがあったのですが、データからは訪れた方の“思い”がみえるようで、印象が大きく変わりました。

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藤村さんは、実証実験を経てどのような変化を感じていますか?

藤村:まだまだ発展途上ですが、『さんだうぇるかむサイト』でもアクセス数を見ながら、閲覧者の視点を意識したコンテンツ改善を進めているところです。具体的には、移住体験者の声をまとめた「移住者の声」というページのデザインを、イラストや写真を用いたものに変更しました。三田市に移住された方の多様な暮らし方を、視覚的にも明るく親しみやすい形で伝えられたらと考えています。

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イラストを用いて明るいイメージが並ぶ移住者の声のページ

“情報の出し分け”にとどまらない、市民体験向上のためのDXを

そうした変化を経て、今後チャレンジしたい取り組みについて伺えますか。

鈴木:まずは、知りたい情報があってホームページを訪れた方に、適切な情報が届くように情報を発信していきたいです。

その上で、移住を検討されている方の困り事や課題にもっと寄り添う対応も実現できればと思っています。これまでも対面で移住相談などを行ってきましたが、今後はオンラインでもそうした相談のようなサービスを用意するなど、対面とオフラインの両輪で、移住や定住を推進していきたいです。

藤村:私たちが情報を届けたい方々は、市外の方が多く、実際に三田市に来ることが難しい方も少なくありません。ですからオンラインはとても重要な接点です。

ホームページを訪れた方が「どういう暮らしをしたいのか」といった思いや願いから、必要な情報を探すことができる、そんなサイトの構成やコンテンツを整えていきたいです。

市全体のデジタル活用を推進する岩崎さんからも、今後の展望について伺えますか。

岩崎:移住・定住に限らず、他の領域でもKARTEでできることを検討し、試していきたいですね。
また、CX(カスタマーエクスペリエンス/顧客体験)という概念や体験設計について知り、実践することで、市職員のデジタル活用に対するマインドが変化することも期待しています。

さらに言えば、KARTEを活用した情報発信の取り組みは、市役所の縦割り組織を打破することにも寄与し得るのではと思っています。現状、市公式ホームページの編集作業は、課ごとに権限が設定され自由にページを編集することができる一方、情報発信が課ごとにバラバラになりがちで、利用者が情報を得にくくなることがあります。

ですが、そこに共通基盤としてKARTEが入れば、課の垣根を超えて市民のニーズを分析したり、仕掛けを実施したりと、より市民目線で一貫性のある情報提供ができるかもしれないと思います

今後もホームページでの情報の出し分けにとどまらず、デジタルの活用を推進するうえで、仕組みや体制も必要に応じて変えることで、市民体験向上のためのDXを実現したいです。

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