用語解説

インサイドセールスとは?情報の蓄積と共有で顧客に寄り添った丁寧な営業活動を

近年は訪問をせず、電話やメール、オンライン通話で営業活動を行う企業が増えています。営業効率を加速する 「インサイドセールス」について解説します。

「営業」といえば、顧客のもとへ直接足を運び、商談を行う姿を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし近年は訪問をせず、電話やメール、オンライン通話で営業活動を行う部隊を専任で設けて営業効率アップを目指す企業が増えています。

この「インサイドセールス」と呼ばれる、新たな営業活動とはどのようなものなのでしょうか。今回はインサイドセールスの概要やメリット、注目されている理由、ツールの活用事例を紹介します。

インサイドセールスとは?

インサイドセールスは、電話やメール、オンライン通話などを使って、遠隔で行う営業活動や、それを担う役割です。具体的な活動として、顧客のニーズや課題のヒアリング、集めた情報の分析、それらにもとづく商談の実施などがあります。

インサイドセールスに対し、顧客のもとを訪れて行う営業活動は「フィールドセールス」と呼ばれます。インサイドセールスが顧客へのヒアリングから商談まで担う場合、商談のセッティング以降はフィールドセールスに引き継ぐ場合など、どのように分担するかは企業によってさまざまです。

インサイドセールスやフィールドセールスは1990年代の米国で生まれました。米国は国土が広く、移動にかかるコストが高いため、顧客のもとを訪れる「フィールドセールス」だけで営業を行うのは限界があったからです。そこで、顧客へのヒアリングからアポイントの設定、商談までを遠隔で行うインサイドセールスを設け、フィールドセールスと営業活動を分担し、効率化を試みたのです。

なぜインサイドセールスが注目されているのか?

日本は、米国に比べ移動のコストが低いこともあり、フィールドセールスが顧客へのヒアリングから商談まで行う企業がほとんど。遠隔でコミュニケーションするよりも、直接営業が足を運んだ方が早いと考えられていました。

それでは、なぜ今インサイドセールスが注目を集めているのでしょうか。

生産性向上に向けた取り組み

近年、日本の労働生産性の低さ、とくに長時間労働が問題視されるようになりました。少子高齢化により働き手の不足も進むと予想されます。企業にとって生産性向上は急務です。これまで「足で稼ぐ」が当たり前であった営業においても、効率化に向けてインサイドセールスを行う企業が増えています。

コミュニケーションツールの発達

ツールの発展も挙げられます。オンライン通話ツールやチャットツールなど、遠隔でコミュニケーションを行うツールが次々に登場。安価かつ気軽に導入できるツールも増えました。また通信速度の向上によって、今ではオンライン通話でも問題なく商談を行えます。以前より企業にとってインサイドセールスを行いやすい環境が整っています。

集められる顧客情報の充実

インターネットの普及や分析ツールの発展により、企業は訪問をせずとも、顧客にまつわる多様な情報を得られるようになりました。ウェブサイト上の行動履歴、ダウンロードした資料の内容などをもとに、顧客の検討度合いを事前に一定把握できます。検討度合いをヒアリングするためだけに、フィールドセールスが顧客のもとを訪れる必要性は薄れています。

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SaaS企業の増加

SaaSを提供する企業の増加も挙げられます。SaaSとは、クラウド上で利用するソフトウェアサービスです。こうしたサービスは従来のサービスに比べ一度の利用料が低いため、より多くの顧客に継続的に利用してもらわなければ、企業は利益を得られません。

継続的に利用してもらうためには、顧客に製品やサービスのメリットを理解してもらった上で、契約してもらわなければいけません。仮に顧客が契約してすぐ解約してしまえば十分な利益は得られませんし、顧客にとってもネガティブな体験になってしまいます。

そのため、営業には顧客にとって本当に役に立つのかを見極めることが求められます。顧客がどのような人なのか、どのような課題やニーズを抱えているかを把握し、自社の製品やサービスがいかに役立つかを考えなければいけません。

そうした顧客へのヒアリング、課題やニーズの分析などを、フィールドセールスと並行して行うのは容易ではありません。そこでインサイドセールス部門を新たに設置する企業が出てきています。

一人ひとりに合わせたコミュニケーションの重要性

SaaS以外の製品やサービスを扱うとしても顧客一人ひとりの課題やニーズを理解し、製品やサービスについて伝える必要性は増しています。

インターネットの普及により顧客は日々多くの情報に触れています。ヤンケロビッチ・パートナーズの調査によると、人が企業から受け取るマーケティング目的のメッセージの数は、1970年代の1日500程度から、昨今では最大1万に増加しています。

膨大な情報から顧客は、興味関心のあるものや役に立つものだけを選んでいます。そのため、一人ひとりの課題やニーズを無視したメッセージは、ますます届きづらくなっています。飛び込み営業やテレアポなど、企業からの一方的な営業に対してネガティブな印象を抱く顧客も少なくありません。

顧客体験を損なわず、製品やサービスの営業を行うには、顧客一人ひとりの課題やニーズ、最適なタイミングを見極める必要があります。そのためにもフィールドセールスとは別に、インサイドセールスを設け、顧客へのヒアリングや分析、それにもとづくコミュニケーションを行う企業が増えているのです。

インサイドセールスを行うメリット

注目されている背景を確認した上で、インサイドセールスによって得られるメリットを説明します。

商談の数を増やせる

インサイドセールスでは電話やメール、オンライン通話を用いるため、移動にかかる時間を節約できます。そのため同じ人数でより多くの顧客に対してヒアリングや商談を行えます。

より丁寧に顧客へコミュニケーションできる

多くの顧客とやりとりするだけでなく、一人の顧客に対し、頻度を上げてヒアリングや、製品やサービスの説明を行えます。丁寧なやりとりによって受注率や継続率の向上も見込めるでしょう。

例えば、福利厚生サービスを提供する株式会社ベネフィット・ワンでは、インサイドセールスを行い、一人の顧客とより頻繁にコミュニケーションを取った結果、商談数の増加だけでなく、受注率の向上や解約率の低下も達成しました。

やりとりのデータが蓄積される

電話やメール、オンライン通話などで顧客とやりとりをすると、「いつ、誰が、どの顧客へコミュニケーションしたのか」を記録しやすくなります。

またインサイドセールスは、コミュニケーションの内容や、そこから得た課題やニーズ、検討段階をマーケティングやフィールドセールスと共有しながら進めます。顧客情報や営業ノウハウの蓄積・共有が促され、営業の質向上、営業スキルの属人化の解消が期待できるでしょう。

インサイドセールスをどのように行うか?

実際にインサイドセールスを始めるには何から取りかかれば良いのでしょうか。以下に基本の流れを説明します。

インサイドセールスの始め方

  • 1.インサイドセールスの役割とKPIを決める

インサイドセールスがどのような役割を担うべきかは企業によって異なります。現状の営業活動における課題、マーケティングやフィールドセールスの役割やKPIを踏まえ、インサイドセールスが担うべき役割やKPIを整理しましょう。

スカウト型採用サービスを開発するPOL株式会社では、フィールドセールスがアポイント数をKPIに設定し、商談数の増加に注力しています。インサイドセールスの役割はマーケティングが集めた見込み顧客から、契約につながる顧客を見極め、フィールドセールスに引き継ぐこと。KPIにはアポイントの設定率だけでなく、サービスの利用を検討している顧客の割合、受注した顧客の割合を設定しています。

  • 2.検討段階にまつわる共通基準を設定する

顧客の検討段階について、マーケティングやインサイドセールス、フィールドセールスの間で共通の基準を設けておきましょう。

基準が統一されていないと、マーケティングと顧客の検討段階を正確に共有できません。フィールドセールスへ引き継ぐ場合も、どのくらい検討が進んでいるのか、なぜ優先的に商談を行うべきかを伝えられません。

広く用いられているのが「BANT」と呼ばれるフレームワークです。このフレームワークでは、以下に沿って顧客の検討段階や優先度を分類します。

  • Budget:予算(予算はあるのか?)

  • Authority:決裁権(今会っている人は決定権を持っているのか?)

  • Needs:必要性(個人の興味ではなく企業として必要性が高いのか?)

  • Timeframe:導入時期(導入・購入する時期は具体的に決まっているのか?)

  • 3.業務内容を整理する

上記の基準と照らし合わせ、インサイドセールスは、どの段階の顧客に、どのように対応するのか、業務内容を整理します。顧客の情報を共有・管理するためのツールの導入、顧客とやりとりする際のマニュアルやヒアリングシートの作成、フィールドセールスに引き継ぐ手段の策定も行います。

インサイドセールスのベストプラクティス「The Model」

インサイドセールスを始めるうえで参考になるのが、サブスクリプション型の営業支援ツールを提供するセールスフォース・ドットコムです。同社は「The Model」と呼ばれるモデルに沿って、営業を分業しています。

「The Model」では、潜在顧客を集めるマーケティング、見込み顧客を商談へ促すインサイドセールス、契約を獲得するフィールドセールス、契約後のフォローを行うカスタマーサクセスの4つの部門を設けます。

各部門のKPIや役割は、後に続く部門のKPIに影響するよう設計し、KPIの進捗はリアルタイムで共有します。どの部門のどの数値がボトルネックになっているのかを可視化することで、営業の改善が進みました。同社マーケティング本部の田中 裕一氏は「The Model」が継続的な成長に寄与してきたと語っています

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さらにセールスフォース・ドットコムの日本法人では、インサイドセールス部門のKPIにフィールドセールスの契約数も含まれます。同部門のマネージャーを務める鈴木淳一氏は、これにより契約につながる質の高い商談が獲得できていると述べています

インサイドセールスに欠かせないツール

マーケティングやフィールドセールスと連携し、効果的にインサイドセールスを行うには、顧客の情報を共有・分析するためのツールが欠かせません。以下に代表的なツールを紹介します。

マーケティングオートメーション(MA)

マーケティングオートメーション(MA)は見込み顧客の属性や検討段階をスコアリングし、その数値にもとづいて適切なコミュニケーションを行うためのツールです。主にマーケティングとインサイドセールスで顧客情報を共有し、どの顧客にどのタイミングでコミュニケーションを図るかを検討する上で活用されます。

参考記事:マーケティングオートメーション(MA)のメリットと導入のポイントとは?

営業支援ツール(SFA)

SFA(営業支援ツール)は、顧客情報や商談のやりとりを記録し、営業の可視化・効率化を図るツールです。主にインサイドセールとフィールドセールスが顧客とのヒアリングや商談内容を共有し、顧客の状態を把握するために活用されます。

ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)ツール

ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)は顧客個人ではなく、所属する企業の課題やニーズを分析し、契約につなげるマーケティング手法です。例えば、同じ企業から複数の顧客が資料請求をしていた場合、企業単位でどのような課題やニーズがあるかにもとづき提案を行います。

ABMツールでは、MAツールやSFAツールに保存された顧客の情報と、顧客が働く企業情報を合わせて分析。見込みの高い企業を把握し、マーケティングやインサイドセールス、フィールドセールスが注力すべき企業を特定できます。

「KARTE」で営業における顧客体験を改善

上記のようなツールに加え、MAやSFA、ABMツールと連携し、営業活動を支援するツールもあります。

CXプラットフォームKARTEでは、見込み顧客の獲得からナーチャリング、商談の整理まで、営業のあらゆるプロセスを最適化。KARTEで集めたサイトのデータだけでなく、他のツールからもデータを統合。顧客一人ひとりに合わせた営業を可能にします。

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どのように一人ひとりに合わせた営業が可能になるのか。以下に代表的な活用例を紹介します。

顧客の企業属性に合わせたコンテンツの表示

KARTEとABMツール「uSonar」を連携すると、ウェブサイトを訪れた顧客の企業属性を把握し、属性に合ったコンテンツを表示できます。例えば、来訪者の企業属性がアパレル企業であれば、小売・アパレル業界での事例を載せた資料、不動産会社であれば、不動産・住宅販売の事例を載せた資料を届けられます。

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顧客情報にもとづいて検討段階をスコアリング

ウェブサイトを訪れた顧客の閲覧履歴や滞在時間、来訪頻度、企業情報などにもとづき、顧客の検討の進み具合をスコアリングします。スコアリングにもとづき、マーケティングとインサイドセールスが連携し、的確なコミュニケーションを行えます。

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顧客のサイト訪問を業務コミュニケーションツールへ通知

KARTEでは見込み顧客がサイトを訪れ、問い合わせをすると、その内容や算出したスコアを、社内のSlackやメールへ通知できます。すでに製品やサービスへの関心度が高く、利用を検討している顧客に対し、素早くインサイドセールスが対応し、商談を設定するなどが可能です。

参考:営業・営業企画部門での具体的なKARTEの活用方法

インサイドセールスでより良い顧客体験を

インサイドセールスを行うことで、密に顧客とコミュニケーションを図り、課題やニーズを深く理解できるでしょう。より良い顧客体験を実現するために、自社でインサイドセールス行えないか、ぜひ検討してみてください。

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