データでカスタマーセンターの価値を再定義する。CXとEXの循環を成長エンジンにするソニー損保の挑戦
ソニー損保では、価格やスペックの競争に陥らないためには顧客体験が鍵になると考え、カスタマーセンターを、利益創出センターへと変貌させました。
2021年2月2日から4日まで、KARTEを活用する企業やパートナーのプレゼンテーションを通じてCXを追求するうえでの思考と実践を学べるカンファレンス「KARTE CX Conference 2021」を開催しました。
KARTEを導入いただいている企業をゲストにお招きしたセッション「CX Case Study」では、KARTEの活用事例だけでなく、CXを向上するための考え方や取り組みを紹介いただきました。
本記事では、ソニー損害保険株式会社(以下、ソニー損保)の清水悌二氏、片岡伸浩氏の2名が登壇したセッション「カスタマーセンターにおけるプロアクティブサービスの実現~KARTE活用によるプロフィットセンターへの取組み~」の模様をレポートします。
同社は、いかにコストを削減するかが支配的な考えだったカスタマーセンターを、どのように利益創出につながるプロフィットセンターへと変貌させていったのでしょうか。パラダイムを変える鍵となったのは、「データ」による貢献の可視化でした。
価格やスペックの競争に陥らないためには顧客体験が鍵になる
1999年に開業したソニー損保は、2015年から全社横断でCXの向上に着手。同社は顧客に提供する価値には、広告のイメージや補填内容といった加入前に感じる知覚品質、申込や契約変更手続き、事故対応などの際の顧客体験、顧客が支払うコストである保険料などが関係すると考えています。これらの変数によって生み出される顧客価値に対する顧客ロイヤルティをNPS®で計測しているといいます。
片岡氏「知覚品質を上げると顧客価値も向上しますが、商品内容などのスペックをすぐに変更することは難しく、また変更したとしてもすぐに追随されてしまいます。これでは、意味のないスペック競争に陥ってしまいます。また、保険料が下がれば、お客様にとってはコストパフォーマンスが良くなりますが、こちらは価格競争に陥ってしまい、消耗戦となります。
そこで、私たちは顧客体験、中でもカスタマーサポートに着目しました。カスタマーサポートは差異化の余地が大きく、また競合からは見えにくいため、マネもされにくい。価格競争やスペック競争に巻き込まれず、成長を続けるにはカスタマーサポートの向上が鍵になると考えたのです」
もともと、ソニー損保の顧客満足度調査では、コール、ウェブ、事故対応、ロードサービスなど各タッチポイントで、90%以上の満足率を達成していたそうです。タッチポイントの最適化はできているものの、全体のロイヤリティを捉えるNPS調査では評価は高くなかったそうです。
片岡氏「NPS調査を経て、さらに顧客インタビューで継続理由を伺ったところ、『保険料が安いから』『他社に乗り換えるのが面倒』など、消極的な理由で継続いただいていたことが浮き彫りになりました。各部門では、お客様に最適な顧客体験を提供できているものの、全体ではお客様のロイヤリティ向上にはつながっていなかったのです。理由はコミュニケーションの空白エリアを見落としてしまっていたことでした。そこで、流れ全体を見てお客様接点の「つなぎ」に着目しました。」
片岡氏はチャネルの個別最適によるボトルネックの例として、保険の注意情報の伝え方を挙げました。
片岡氏「我々は金融商品を扱っているため、お客様に注意情報を説明しなければならず、これまでのオペレーションでは、同じお客様に4回ほど注意情報を説明していました。その結果、お客様に説明の重複や無駄が生じていたんです。保険加入に至るまでの流れで一度お客様に注意情報を説明すれば、よりシンプルなご案内ができることに気がつきました」
顧客を知り、サポートの“空白エリア” を発見する
個別最適に取り組みながら、各部門が連携し、全体での顧客体験向上に取り組む「サービス・CXイノベーション推進部」が2015年に発足。顧客体験の向上に向けて、まず「お客様を知ること」に着手したそうです。
片岡氏「お客様を知るために、縦横2軸4象限で『サポート依存度』と『お客様自身が知りたいこと』を基準にマトリクス図をつくって考えました。 縦軸は、お客様の『サポート依存度』を表しています。上半分は、自分で決断するのが怖く人に頼りたいお客様。下半分は、お客様自身で意思決定したいお客様です。横軸は、『お客様自身が知りたいこと』を表しています。左半分は操作方法など、定型的で単純な部分。右半分は、補償内容など、自分では決断しづらい非定形で複雑な部分です。お客様はこの四象限のどこにいらっしゃるのかを考えるところから始めました」
整理したことで、片岡氏は実はサポートができていない空白のエリアがあるのではないかと考えたそうです。特に左下の『これくらいは自己解決しよう』のエリアに存在する空白に着目しました。
片岡氏「実は困っているのにお問い合わせいただけていないお客様のために、人や機械による能動的なサポートを取り入れ、コンタクトの総量を増やすことを検討しました。FAQやAIボット、有人チャットでの対応範囲を拡大。電話で補償内容などの複雑な対応は人が行い、お客様が自己解決できるところはチャットボットやFAQなど自動化することにしました」
ソニー損保が考えた顧客サポートのチャネルの将来形。その実現のため、KARTEを導入しました。
オンライン上の行動を把握した問い合わせ対応が、顧客とオペレーターの負担を軽減
ソニー損保カスタマープロセスデザイン部長を務める清水氏からは、KARTEを活用してどのように顧客のサポートを実現しているかを共有いただきました。
清水氏「約9割のお客様がWebからお申し込みいただいており、アンケート調査でも多くのお客様が自己完結で契約手続きをしたいという意向があることが明らかになりました。一方で、約半数は何かしらの理由でプロセスの途中で電話でお問い合わせいただいる状況がありました。
お問い合わせ内容は、『ウェブサイト上でどのような操作をしているか説明しづらい』『このページでどの点がわからないか素早く伝えられない』といったもので、お客様は困りごとをうまく伝えるのが難しく、コンタクトセンター側も状況の把握に負担がかかっている状況だったのです」
この状況をKARTE Liveを活用してお客様をサポートすることで解消することができました。 お問い合わせ時に顧客から識別番号を聞き、オペレーターが顧客のサイト上の動きを確認。速やかなサポートが可能になった結果、顧客体験が大きく向上したと清水氏は語ります。
清水氏「KARTE Liveを使用して対応している時と、そうでない時の成約率を比べた結果、KARTE Liveを使用した時のほうが成約率が高くなりました。 また、当初は見込んでいなかった副次的な効果もあったんです。お客様との通話時間も短縮され、お客様と同じ画面を見ながら案内できるようになったことで、オペレーターの負担も軽減でき、お客様との会話にストレスがなくなったという声も上がっています」
顧客がつまずく前に、プロアクティブなカスタマーサポートを
KARTE Liveを利用し、コンタクトセンターでの顧客体験は改善できました。一方で、契約に至るまでのフローにも課題があるのではないかと考えた清水氏。次はお問い合わせの前段階に着目しました。
お客様がつまずく前に声がけサポートをするプロアクティブサポートのためにも、KARTEを活用しています。顧客の行動データやコールチャット等のデータをKARTEで蓄積し、顧客は何につまずいているのか、その分析を行った上で、接客のアクション設計をするようにしました。
清水氏「具体的な例だと、5〜10秒間、サイトのある部分で動きがなく滞在しているお客様に対して、『〇〇の入力にお困りですか』といったお声がけを実施しました。『何かお困りですか?』というオープンクエスチョンでのお声がけはありますが、困りごとを特定してお声がけするようなクローズドクエスチョンであることは珍しいかと思います。これにより、お客様のセルフ解決を促しやすくなりました。
セルフ解決が難しい場合も、お客様の困り具合に応じてFAQに誘導したり、オペレーターと直接お話して解決するための電話を案内したりと、最適なお問い合わせチャネルに誘導できるようになりました」
成果を可視化し、カスタマーセンターを“プロフィットセンター”へ
「コンタクトセンターは人手がかかると言われます。業態は違えど、これは当社に限らず、他社でも共通の課題と認識しています」と、清水氏は語ります。
清水氏「コンタクトセンターはコスト削減に目が向きやすく、うまく運営できているかの指標も生産性向上、通話時間の減少などになっていました。ですが、本当にコストセンターなのだろうか、という疑問があったのです。
以前からサイトを通じて成約に至る過程で、コンタクトセンターがお客様をサポートしている場面は多々あると考えていました。これはサッカーで例えるなら、『アシスト』に近いものです。
しかし、このサポートを可視化し、定量化できていませんでした。そのため、新しい施策がやりにくかったり、オペレーターの動機づけがうまくできていなかったりと、活動がやりにくい状況がありました」
「電話やチャットなど様々なチャネルにおいて、お客様をサポートした後の行動がわかれば、チャネルごとの貢献を計測でき、成果を可視化できるのでは?」そう考えた清水氏は、コンタクトセンターが抱える課題を解消するべく、KARTE Datahubを使った成約貢献の可視化に挑戦します。
清水氏「お客様からの様々なチャネルでの問い合わせに対して、KARTE Datahubを使うことで、その後の成約率を計測できます。これにより、コンタクトセンターのサポートを可視化し、プロフィットにつながっていることを定量的に証明できました」
成果を定量的に可視化できるようになったことで生じた変化は、コンタクトセンターをプロフィットセンターへと変化させただけにとどまりません。これにより、ハイパフォーマーの育成にもつなげることができると清水氏は続けます。
清水氏「お客様がどのようなケースでお申し込みした場合に、成約率が高いのかがわかれば、その対応をしたオペレーターもわかります。成約率の高いオペレーターの応対を分析できれば、成約に結びついている要素を可視化できると考えています。
成約に導いている要素を可視化できれば、モデル化できます。それを日々のオペレーションや研修に活かし、ナレッジを充実できれば、お客様に提供できる価値も向上できます。
今後は、パフォーマンスの高いオペレーターの育成を加速し、会社の売上に貢献するプロフィットセンターを作り上げていきたいです」
KARTEを通じて、顧客接点の改善を行った同社。コンタクトセンターがお客様の課題を素早く把握できるようになっただけでなく、ウェブ上でお客様がつまずきそうな点は先回りでサポートし、お客様により良い体験の提供ができたと感じていると言います。
清水氏「従業員もお客様にスムーズな案内ができるようになり、働きやすさだけでなく、やりがいも感じるようになりました。CXとEXの好循環が生まれた結果、会社全体としても収益の拡大に取り組めるのではないかと感じています。KARTEを通じて、多様なデータ取得からアクションまで一気通貫で実行し、カスタマーセンターの価値変革にチャレンジしていきたいです」