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 メガネの「あたらしい、あたりまえ」をデジタルでつくる。JINSは店舗とアプリをつなぎ、顧客との関係構築に挑む|Experience Insights #6

メガネの「あたらしい、あたりまえ」をデジタルでつくる。JINSは店舗とアプリをつなぎ、顧客との関係構築に挑む|Experience Insights #6

8th Oct, 2020

向殿文雄

向殿文雄

むかいどの・ふみお

株式会社ジンズホールディングス CX戦略本部 事業統括リーダー

新卒で大手小売企業に入社。販売、MDを経験し、女性向け衣料品チーフMDを担当。並行してEコマースの立ち上げも担う。2010年JINS入社。以来JINS Webサイト、オンラインショップおよび受注管理システムの構築、デジタル戦略の立案と推進、新サービスの導入を実施。

JINSは、2017年に公式アプリをリリース。デザイン選びや保証書の登録など、顧客にとっての便利さを提供してユーザーを伸ばす一方、JINSはこれを機にCRMに乗り出しています。2009年に創業してから一切の顧客データを取得していなかったJINSですが、現在ではアプリで顧客データを取得・分析し、新たな提案に活かしています。
一人ひとりの度数に合ったレンズを加工し、顔にフィットさせるメガネは、まさしくOne to Oneのプロダクト。顧客の手に渡るまでの工程が複雑だからこそ、JINSでは顧客が好きなように、スムーズに購入できるオムニチャネル化を進めています。
「ファストフード店のプレオーダーくらい、簡単にしたい」と語る同社CX戦略部長の向殿文雄さんに、自由でストレスのない顧客体験と、徹底したバックエンド効率化の両立への道のりを聞きました。

継続的に顧客とコミュニケーションを図るためにCRMに乗り出した

JINSでは2017年に公式アプリをローンチし、同時にCRMを開始しています。どのような課題から、こうした取り組みに至ったのですか?

実は2009年の創業以来、当社はそもそも一切の顧客データをとっていませんでした。その理由は、店舗で紙の形でデータを管理するリスクが高かったからです。私自身は2010年に入社してからずっと、世の中がデジタル化して生活者に浸透する中で、顧客データの取得と分析は必須になると感じていました。それによってファンを可視化し、より多くの方にファンになっていただくことも必要になると思いました。

データを蓄積し、顧客に向き合うことの必要性は、以前から感じていらっしゃったんですね。

はい。アプリの発端は2015年ごろ、店頭販促のチームからデジタル会員証のようなイメージで販促用クーポンの配布などのためにアプリを開発しようという話が出てきたことです。
「せっかくアプリを開発しても、クーポンを配布するためだけに使っては、顧客との関係を継続することは難しい。これを機に、アプリを通じてCRMとしての機能を果たせるようにすべき」だと主張して、デジタル部門で主導することになりました。顧客データを集めることに関して、社内から反対の声も多少ありましたが、押し切って進めていったんです(笑)。アプリを通じたCRM、そしてそれによって実現した顧客と継続的にコミュニケーションできる状態を社内の人々に思い浮かべてもらうのは難易度が高そうだったので、実現して提示したほうが早そうだと考えました。

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JINS公式アプリの画面。メガネを選んでバーチャル試着ができたり、コンタクトレンズの注文、保証書や度数の管理などができる。JINS商品に関するスナップの投稿や閲覧も。

開発が始まった当時の目的と、成果を測る指標はどのようなものだったのでしょうか?

CRMは基本的に、継続的にお客様とコミュニケーションを図ることで購入額や頻度、リピート率を高めていただくための活動です。当社のメガネは、そもそも1本5000円という価格。また、お客様の購入サイクルも1.5~2年と長めなので、CRMに注力したとしても、私たちが得られるリターンは正直見込みにくい。CRMに注力して、お客様とのコミュニケーションを継続できるようになっても、メガネを買っていただける頻度がすぐに上がるわけではないと認識していました。

しかし、お客様の購入サイクルが長いからこそ、その間の接触を図ってファンになっていただきたい。ファンになっていただけたら、購入のサイクルが1カ月短くなるかもしれませんし、1本よりも2本、3本とJINSのメガネを買っていただけるようになるかもしれない。
指標としてはアプリのダウンロード数と月次のアクティブユーザー数(MAU)、購入のリピート率を当初から見ています。

仮説を立ててスタートしてみて、現在の利用状況はどのようになっていますか?

現在、累計600万ダウンロードとなっています。日本の人口約1億2000万人のうち、視力矯正が必要な人がおおまかに約半分の6000万人だとすると、1割カバーしていることになります。まだまだ伸びる余地はあると思っていますが、同業他社でこの規模の会員数を有している企業はないと思います。
また、来店したお客様がアプリをダウンロードしてくださる割合が想定よりかなり高く、4割を超えている状況です。店頭にいるスタッフがお客様にアプリをご紹介する声掛けも奏功していますね。今、来店してくださったお客様の5割以上の方にダウンロードいただけるようにしよう、と目指しています。

まったく保有していなかった顧客データを取得してわかったこと

今、顧客はどのようにアプリを利用しているのでしょうか。

以前は紙で管理していたメガネの保証書や度数を、デジタルで管理できるようになったので、お客様には便利に感じていただけています。これがアプリを利用いただける大きな動機になっています。

LINEの公式アカウントもあるかと思いますが、アプリとどのように使い分けているのでしょうか。

アプリはより結びつきの強いお客様との接点、LINE公式アカウントはよりライトなお客様との接点と位置づけています。LINEではできることに制限があるので、店頭でメガネが完成した際にお知らせするような一時的な使い方が中心ですね。ただ、スマホにアプリを入れたくないというお客様もいるので、とにかくアプリのダウンロードを促せばいいわけではありません。LINEの公式アカウントは店頭で案内するにもハードルが低いですね。

CRMを開始してみて、どのような顧客の姿がわかりましたか? また、アプリができたことで実現した施策などはありますか?

お客様のデータに触れるようになって、やはり複数持ちの人は購入サイクルが短いとか、おそらく誕生日クーポンの効果で誕生月に新調する人が多いなど、これまで肌感で捉えていたことが確かめられました。

アプリによって実現できた施策の例は、お子さま向けにメガネを購入された保護者へのアプローチがあります。子ども用のメガネを購入する際は、アプリに登録するのは保護者です。そこでJINSと保護者との接点が生まれます。お子さまがメガネを利用する場合、保護者の方もメガネやコンタクトユーザーの場合が多く、保護者向けにアプリを通じてメガネをレコメンドしたときは、高い購入率になりました。

とはいえ、アプリはまだスタートして3年弱。そもそも、メガネというプロダクトの購買サイクルが2年なので、まだそこまで目に見えて売上など数値変化があるわけではありません。顧客体験が向上したかどうかがわかる事例もこれから生まれてくるところです。購買理由を分析すると、割引のプロモーションが有効だいうことも見えてきます。私たちが向き合わなければならないのは、割引になっているから買うという動機ではなく、いかにファンになってもらえるか。これは以前から目指していたことですし、お客様のデータが蓄積してきたことで動くための材料が整いつつある実感はあります。

購入はあくまで結果。デジタルで商品や購入体験の良さを伝える「デジタルコマース」

アプリユーザーからの感想や意見などはありますか?

お客様の声をウォッチしていると、声として多いのはやはり前回購入した度数情報や保証書がデータとして保持できるようになったことがメリットとして受け入れられています。
その他、メガネのバーチャル試着と似合い度を判定する機能を搭載しているのですが、購入の後押しになっているという感想は聞こえています。

アプリの運用体制は、どのように構築したのですか?

当初はもともとECのチーム内にあった、メルマガなどの販促やCRMに近しいことを担当していたチームに、IT部門からデータ分析ができるスタッフを加えて運用チームをつくりました。
組織体制上、運用チームはECチーム内に発足しましたが、私は以前から「Eコマースではなくデジタルコマース」だと社内に伝えてきました。「デジタルコマース」とは、オンラインで購買を完結させるという”Eコマース”に閉じず、デジタルを使ってJINSの商品や購入体験の良さを伝え、結果として購入につなげることだと定義しています。

メガネは試着もせずにオンラインで買うのが難しいので、単純にECにお客様を誘導してEC化率の向上を目指すのは以前から違和感があったのです。そこで、デジタルをベースにしながらオフラインも柔軟に連携することで、一人ひとりのお客様にスムーズな顧客体験を提供する構想を描いていました。
そうした考えの下、昨年にデジタル事業部が再編となり、新たにCX戦略本部が発足しました。現在はCRMチーム、デジタル戦略チーム、新規事業のチームがあり、私が全体を統括しています。

CX戦略本部への再編は、顧客体験を重視する表れですね。

おっしゃる通りです。当社の創業以降、メガネを手頃な価格で提供する業態は他社も乱立し、差別化が難しくなっています。今、グローバルでは5カ国に展開中ですが、創業期の日本のようには伸びていません。
そこで、CXこそがJINS差別化要因になる、JINSならではのCXを追求しないと生き残れないと考えています。現在、たまたまコロナ禍の影響で企業のDXが急務だと叫ばれていますが、ずっとデジタルコマースの重要性を訴えてきたので、JINSではコロナ前の段階からDXを進める体制を整えることが出来ていたと考えております。

アプリで注文、待たずに店舗で。もっと気軽にメガネを買える世界

では、JINSが考える理想的な顧客体験とは、どのような体験でしょうか?

いつでもどこでもメガネやコンタクトレンズを選んで決済し、待ち時間なく受け取れることです。同時に、その一連のパッケージがJINSのビジネスモデルそのものであり、顧客に支持される理由……となっていたら、美しいなと。
実はメガネって、ほぼその人のために合わせてつくるプロダクトで、完成までの工程が複雑です。メガネのフレームを選ぶ、試着する、決める、決済する、検眼測定する、レンズ加工する、枠入れする、顧客の顔に合わせて調整する、お渡し、というプロセスがあります。
この9つの各工程で、オンラインでできる、オフラインでできる、どちらかしかできない、という区別があります。これらの組み合わせを最適化し、お客様にとってよりよい体験を提供できるように試行錯誤を重ねています。

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例えば、検眼測定はオンラインでできると良いですが、まだ難しい。ただ、リピーターでレンズの度数がわかっていれば不要なステップなので、リピーターの方にはこの工程をなくしてご案内ができます。
レンズ加工の工程も、最適化の余地があると考えています。例えば、オンライン注文の場合、レンズ加工は国内の工場で対応しています。ですが、レンズ加工は各店舗でも可能なので、オンラインで店舗のレンズの在庫が閲覧できれば、決済後に店舗でレンズ加工をしてメガネを受け取ることもできるはずです。

このお客様に合わせた対応ができれば、ビジネスとしても効率が上がるんです。この先、オンライン注文のすべてのレンズ加工を工場で対応するとしたら、EC化率が高まっていくと工場を増やさなければならないかもしれません。店舗でうまく対応できれば、設備投資をしなくてもすみます。
お客様の利便性を高めつつ、ビジネス的にも最適な各工程を縦横無尽に組み合わせられるオムニチャネル化を整備中です。

オムニチャネルを進めていくと、各工程を顧客に合わせた形で組み合わせることができるんですね。その実現の道のりは今、何合目ですか?

今はまだ、理想のオムニチャネル化までは5合目くらいでしょうか。お客様にとって少し便利になったくらいだと捉えています。
目下、オンラインと店舗の在庫の統合に取り組んでいます。オンラインで店頭在庫を確認できれば、ファストフード店のプレオーダーくらいの気軽さで決済まで済ませ、店舗では待ち時間なく受け取れる。そのためには顧客のUI/UXとあわせて、バックエンドのアーキテクチャも重要です。
この取り組みは、新サービス「CLICK&GO(クリック アンド ゴー)」として間も無く全国のJINS店舗で展開予定で、この仕組みが実装すると、ようやく理想像の8合目という感じです。

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JINSの公式アプリまたはLINEで商品選びから決済までを事前に完了し、待ち時間なく店舗でメガネを受け取ることができる新サービス「CLICK&GO(クリック アンド ゴー)」をローンチする

さらに、今は渋谷パルコ店にのみ設置しているコンタクトレンズの自動販売機「TOUCH&COLLECT」をJINS外へ出していくことを構想中です。その考えの下、最初からJINSの名称をつけていないんです。ドラッグストアなどでアイウェア関連の他社商品を扱うなどチャネル化し、データプラットフォームとしての活用も見据えています。これは1-2年のうちに実現したいですね。

着々と体験が豊かになっていきそうですね。

そうですね。オムニチャネル化を含め、デジタルは非常に重要なファクターですが、あくまで「顧客体験を向上させるための方法論」です。
JINSはこれまでも業界のイノベーターとして、新しいことに次々と取り組んできました。例えば、メガネをかけたまま画面の前に立つとバーチャルで試着ができる「MEGANE on MEGANE」には、16年に開発したAI「JINS BRAIN」に加え、AR技術も駆使しています。
ただ、そうしたテクノロジー自体がお客様にとって重要なわけではありません。その点は、はき違えないようにと思っています。今、渋谷パルコ店の「MEGANE on MEGANE」を特に説明せずともお客様がごく自然に使い、試着を手軽に楽しまれているので、手応えを感じています。
メガネを楽しむことで人生の豊かさを広げ、JINSのミッションである「あたらしい、あたりまえ」を創ることが目標です。今後もアプリの運用と合わせて顧客データの厚みを増し、よりよい体験の提供へ結び付けて、JINSで得られる体験や世界観に惹かれる方を増やしたいと思っています。

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