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銀行に“体験のデザイナー”が入ったら、組織がユーザー目線になった。三井住友銀行アプリのCX向上プロジェクト|Experience Insights #7

銀行に“体験のデザイナー”が入ったら、組織がユーザー目線になった。三井住友銀行アプリのCX向上プロジェクト|Experience Insights #7

13th Oct, 2020

堀 祐子

堀 祐子

ほり・ゆうこ

株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 デジタル戦略企画グループ デザインコンサルタント

2017年に三井住友銀行に入行。銀行内のアプリやウェブページ、銀行内システムのUI/UXデザインを担当。ユーザビリティテスト、UI仕様設計、ビジュアル制作など上流工程からプロジェクトに参加し、具体的なデザイン・ビジュアルの提案・制作を行う。
安藤里奈

安藤里奈

あんどう・りな

同部 デジタル推進第一グループ 部長代理

2013年に三井住友銀行に入行し、法人営業に従事。2018年より現在の部署へ異動し、アプリリニューアルプロジェクトに参画。以降三井住友銀行アプリの改善・新機能リリース等の企画に従事。

“デザイン”は長らく、グラフィックやプロダクトなど、目に見えるものを形づくる領域で機能してきました。

それが現在、目に見えない体験の設計というUXデザインの領域の重要性が増しています。三井住友銀行では、「重要な顧客接点であるWebやアプリにはUXデザインの考え方が必要」との考えのもと、2016年に同行として初めてデザイナーをインハウスに採用しました。

アプリリニューアルのプロジェクトは苦労もあったそうですが、顧客の熱い支持を受け、今も改善が進められています。この経緯をまとめたnote「三井住友銀行アプリについてお話しします。」は多くの人に読まれ、”体験のデザイン”への関心の高まりを印象付けました。

UXデザイナーとして三井住友銀行アプリのリニューアル刷新プロジェクトを中心的に進めた堀さんと、三井住友銀行で銀行員のキャリアを経てプロジェクトに加わった安藤さんは、口をそろえて「“顧客体験から考える”姿勢が行内に根付いてきた」と話します。お二人に、体験をデザインするという考え方が組織をどう変え、顧客体験がどう変わったかを聞きました。

銀行内でUXデザインのプレゼンスを上げていこう

――堀さんは、三井住友銀行さんにインハウスで入行された3人目のデザイナーなんですね。これまでのご経歴と、堀さんがお持ちの資格「人間中心設計専門家」についてうかがえますか?

堀:私は美大出身で、もともとはWebデザインの仕事をしていました。ただ、その中で次第に、目に見える部分のUIだけでなく、人の体験からを包括的に考えてUIやUXを設計していくことに興味を持つようになりました。

UX界隈で資格として提示できるのが「人間中心設計専門家」だったので挑戦し、取得しました。これはNPO人間中心設計推進機構が認定するHCDやUXデザインの唯一の資格で、この領域ではメジャーです。HCDとはHuman Centered Designの略で、人の自然な行動や使い勝手の観察から、インターフェースや形を考えていく考え方のことです。

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――三井住友銀行でインハウスにデザイナーを採用することになった背景を教えてください。入行時、銀行からどういったことを期待されていたのでしょうか?

堀:デザイナーを採用するきっかけについては、私を採用してくれた今の上司が、デザインやコンサル関係の協力会社と一緒にプロジェクトを進めていく中で、デジタルトランスフォーメーションの推進には、体験のデザインができる人が内部にいるべきだと感じていたことがきっかけです。また、「時代が変わっても、常にお客さまにより良いものを提供し続ける」という課題認識を経営層が持っており、その考えを行内に根付かせる第一歩として、140年以上の歴史の中で初めてデザイナーの採用に踏み切った……と聞いています。

上司とは「当行としてデザイナーがどうポジションを確立していくかも含め、体験のデザインを一緒に模索していきましょう」と話をしていました。そこで、行内でデザインのプレゼンスを上げることも見据え、最初の大きなプロジェクトとなったのが、顧客の今のデジタル環境を心地よいUI/UXへとアップデートする、三井住友銀行アプリのリニューアルでした。

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リニューアル後のアプリ画面(左)と、家計管理画面(右)

アプリリニューアルは、行内の皆がUXデザインを知る体験でもあった

――では、実際の三井住友銀行アプリのリニューアルプロジェクトについてうかがいます。こちらはUXデザイナーとして堀さんと、もともと三井住友銀行でキャリアを重ねてきたリテールIT戦略部の方々で進めたそうですね。

安藤:はい、私もその一人です。三井住友銀行の銀行員として支店での経験を経て法人営業を担当し、2年前にリテールIT戦略部に異動しました。現在の三井住友銀行アプリではビジネス視点での戦略や業務要件をまとめています。その中で、デザイナーのカウンターパートとしてユーザー視点とビジネス視点の両立を目指しています。

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堀:さらに、三井住友カードのアプリも同時リニューアルしたので、三井住友カードのプロジェクトメンバーとも連携して進めました。これを機に三井住友銀行と三井住友カードのアプリを一体化することも検討したのですが、顧客の使用状況を調べると併用率は4割だったので、別々のほうがいいだろう、と。ただ、共通部分はUIを統一し、近しい体験になるように調整していきました。

――なるほど、アプリのあり方も顧客体験から考えられたのですね。リニューアルは、どのようなプロセスで進行したのですか?

堀:HCDプロセスという手法を踏襲しました。全体で4段階あり、これらを行き来しながら繰り返していくことが基本です。

まず、①調査の段階ではユーザーの1日の行動を観察し、カスタマージャーニーマップとペルソナを策定します。そもそも私たち銀行とお客様との接点がどこにあり、どこにストレスがあるのか、またアクセス解析を主とした数字も把握した上で、仮説を立てます。それをもとに、②動線とUIを設計し、③ページ遷移も考慮してプロトタイプをつくり、④実際にユーザーに使ってもらって検証、改善点をあぶり出していきます。

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HCDプロセスの流れ。4つのフェーズを行き来しながら繰り返していく(転載元:https://note.com/smbc_design/n/n4ff739c3d1e9

――今回のプロジェクトの進め方のポイントになったのは、どういったことでしたか?

堀:銀行アプリとしてプロジェクトを進める上でのポイントは、2つありました。ひとつは銀行業務に精通するメンバーと一緒に進めること、もうひとつは銀行としての公共性を保つことです。

まず、私を含めて三井住友銀行に入行したデザイナーはUXデザインのことはわかっても、銀行内の業務にはそこまで詳しくありません。なので、それらを良く知る三井住友銀行歴が長いメンバーとタッグを組んで進めることがひとつ。ただ、最初はお互いに視点や知見が違うので、苦労もたくさんありました。

もうひとつは、銀行というサービスの公共性をUXデザインに反映することです。通常UXデザインは「誰が使うのか」=ターゲットの設定から始まることが多いですが、銀行は誰もが使うサービスです。アプリとはいえ、高齢の方を省くというわけにもいきません。なので、ユーザー像は幅広い属性の500人に協力いただき、機能ごとにどう使われているかを調査していきました。

ただ、500人のデータを定量的に分析すれば十分かというと、それもまた違います。定性的な意見にも示唆がたくさんあるので、そのバランスも意識しました。それから、ユーザビリティだけを優先すると、銀行としてのビジネス要件や金融商品として規定上守るべき点と相容れないことも出てきます。

そういった譲れない部分と、ユーザビリティをどう融合させるかのバランスも熟考した点ですね。策として、銀行という硬いイメージを軽減するために、例えばチュートリアルの表示も当行のキャラクター・ミドすけを活用してアテンションを図ったり、文言も少しポップな言葉に変えていきました。また注意文言が多く画面スペースを取ってしまうときは、ヘルプページアイコンにまとめるといった対応をしました。

――2019年3月に、新しいアプリがリリースされました。その反響や現在の改善体制などをうかがえますか?

堀:お客様にはとても好意的に受け入れられ、新規ダウンロード数が同時期3カ月間の前年比で1.8倍になりました。また、三井住友カードのアプリと併せて「2019年グッドデザイン賞」を受賞しました。その受賞も含め、今回のプロジェクトの成果は行内にも広く届いたので、顧客体験の向上だけでなく、行内の皆さんに「UXデザイン」を知ってもらう体験にもなったのかなと思います。

安藤:デザインを重視したプロジェクトが奏功したことは、行内に対してわかりやすい好例になりました。今では多くの行員が、私たちの部署に「こういう点はアプリではどう対応したのか」と聞きに来ます。

またお客様からの予想外な反響もありました。リニューアル時は銀行として優先度が低かったため「ミドすけ」デザインへの着せ替え機能を省いたんですね。すると、復活を望む声がSNSを通じてすごくたくさん届きました。お客様の要望に応えるべく、新たな着せ替え機能をリリースした際は「俺たちのミドすけが帰ってきた!」ととても喜ばれ、愛されているなと実感しましたね(笑)

このように、SNSやアプリストアの口コミを常にチェックし、2つ3つ重なったら同じ意見が相当あるものと考えて、極力すぐに対応するような改善体制をとっています。

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着せ替え機能で「ミドすけ」デザインにしたホーム画面

「もう、デザイナーに相談せずに企画なんて立てられない」

――以前も、顧客の声をプロダクトに反映したりしていたと思いますが、アプリリニューアルのプロジェクトの前後で何が変わっていったのでしょうか?

安藤:おっしゃるように、従来から常にお客様のことを考え、ご意見を取り入れようとしてきました。ですが、アプリのプロジェクトを通してUXデザインの重要性を理解した今は、以前の取り組みはやはり企業視点だったと思います。

「このサービスはここが売りだから、しっかり伝えたい」という当行の考えがまずあって、その上で伝え方を検討したり、お客様の「この部分がわかりにくい」といった指摘に応えたり。でも、するとやたらと注意文言が多くなったりして、一部の人の声には対応したけれど全体にとっては最適じゃない、といったケースが多発していました。根底にあったのは、企業からの発想だったのだなと。

そうではない、完全に顧客を起点に、行動の観察や気持ちの推察から発想し構築する手法は新鮮でしたね。次第に私たち三井住友銀行歴が長いメンバーもその考え方がわかるようになっていきました。要望に応えるというより、そもそも「どんな人にも使いやすいものって?」と考え、根本的な使いにくさが生じない設計をすることが大事なんですね。深いヒアリングも含めたユーザーテストから始めると、そうしたことが実現できるんだと、まさに体験しました。

――デザインの理解がどう深まっていったのか、よくわかるお話ですね。堀さんが「SMBC DESIGN」名義で書かれたnoteの反響は?

堀:本当にたくさんの方々からSNSで感想もいただきましたが、行内の遠い部署の人から「ぜひ相談したい」と声がかかったのはうれしい驚きでした。皆、自分たちのサービスやプロダクトの伝わり方を改善したいけれど、どうしたらいいかわからなかったのだな、と。

行内でUXデザインが役立つシーンは、まだまだあると感じています。デジタルの顧客接点が増えているので、DX推進の上でももちろん機能しますし、デジタルに関係なくても十分活かせます。店舗での行員用の操作画面や、お客様向けのチラシにもUXがあり、改善していけます。

――デザイナーと、中に長く在籍する方々との連携で、今後も顧客体験が向上していく好循環が生まれそうですね。

堀:そうですね、その連携は今後も欠かせないと思っています。同時に、現時点でも行内でのデザインの理解が進んでいるなと、手応えを感じています。

安藤:もう、デザイナーに相談せずに企画するなんて、不安すぎてできません。自分の主観的な視点だけだと、お客様にとって本当にいいものにはたどり着けないのだなと、わかってきました。すべて「お客様がどう体験するか」から発想しようと、私自身の考え方も変わりましたし、銀行に長くいる者としても行内の変化を感じています。

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三井住友銀行アプリは、三井住友カードアプリとともに2019年度グッドデザイン賞を受賞

広く浸透する仕組みには、自然に使い続けられる設計がある

――もともと三井住友銀行では、UXデザインに対して経営層にも一定の理解があったとのことですが、加えて、新しいことに挑戦しようという文化や社風もあるのですか?

安藤:そうですね、あると思います。社内はとてもフラットで、役員が私たちのフロアに来てアプリについて尋ねたり、私や堀が直接説明したりもします。SNSの口コミを捕捉できる仕組みがあるのですが、そうした意見にも役員が目を通していて、問い合わせが来たりします。

スピード感もありますね。ただ、これまではスピードを重視するあまり、三井住友銀行側の視点だけで企画をどんどん進めて、結果的に理想の顧客体験にならないこともあったと思います。それがデザイナーに相談する流れができたことで、着実にいいものをつくれるようになりました。

堀:皆さんすごく優秀ですし、UXデザインに関しても吸収が早いと感じています。最初はやはり、UXデザインの理解が人それぞれなのでうまく伝わらなかったり、進行中のプロジェクトにデザイン発想を込めるのは無理だったりしましたが、そういうことがぐっと減りました。

安藤:先日も、急ぎで企画化して見積もりを依頼する案件がテキストベースで進もうとしていたので、堀と議論しながらすぐにサンプル画面をつくりました。まず、プロトタイプをつくり、「これはお客様の体験を良くするものか?」を議論することで、チーム内での認識も揃いますし、お客様が求めていることの解像度が高まります。今、私たちの部のUXデザイナーは皆、行内で引く手あまたですよね。

堀:だから、UXデザイナーを絶賛募集中です(笑)。先ほどの「SMBC DESIGN」のnote 以外にも、行内向けにデザイナーから活動報告や、トレンド情報の共有をしています。三井住友銀行におけるデザイン組織を今後どうしていくか、といった考えも発信しています。

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アプリ開発中の模様。アプリが広く受け入れられたことは、行内にデザインが根付くきっかけに(転載元:https://note.com/smbc_design/n/n4ff739c3d1e9

――では今後の展望と、UXデザインに関心がある企業に知ってもらえたらいいなと思うことは?

堀:直近では、部署を横断したUXの改善に取り組んでいます。顧客は複数のサービスを同時並行で使うことも多いので、ひとつのUXが良くても横の連携がないと結果として最適なUXにはなりません。それぞれのつながりを可視化してスムーズにしていくと、銀行全体のサービス向上にも寄与すると思います。ユーザーの動きを踏まえたサービス全体の設計に、今取り組んでいます。

中長期的には、やはり銀行のサービスとして、信頼できるアプリにしていきたいです。すぐに解決できない部分もあるのですが、自分の資産を安心して任せて設計するなら、ライフプランを考えるなら三井住友銀行だよねと思ってもらえるチャネルのひとつになれば、と。広く浸透している他業界のプラットフォームのUIやUXも参考に、自然と開きたくなるアプリを目指したいです。

経産省から、デザインを取り入れることで利益率が上がるといった報告も出ていますし(※)、今後UXデザインが役立つ余地はもっと広がると思います。個人的には企業の内部の人として根本解決から取り組める点は、インハウスデザイナーのいいところだと感じています。

安藤:UXデザイナーが仲間に入ったことで、課題解決の選択肢が大幅に広がりました。デザインの領域は奥深く、手法も多いので、やはり専門職なのだなと感じます。お客様に選ばれて使い続けていただくため、顧客体験向上のために、デザイナーの力は頼るべきですね。

銀行アプリは給与の確認や振込時など用事があるときにしか使われないことが多いですが、お金のことはどんな方にも大事なテーマです。お客様がお金について考えるときに、いつもそばにいて、頼りになる存在となるように今後もレベルアップしていきたいと思います。

※参考:デザイン経営宣言 経済産業省・特許庁 産業競争力とデザインを考える研究会

(取材時はマスクを着用し、写真撮影の際にのみマスクを外して撮影を行いました。)

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