CX Story

顧客の声を作り手に届け、モノづくりのパートナーになる。MOON-Xの共感・感動・共創のサイクルの作り方|Experience Insights #17

MOON-Xは作り手とお客様の媒介になり、「共感」→「感動」→「共創」という独自のサイクルを回すことで、顧客の声を商品へ反映。顧客の日常が豊かになるような商品を目指して、改善を重ねています。その独自のサイクルとはどういうものなのか、顧客、作り手と共創していくために大切にしていることを伺いました。

宮田達也みやた・たつや
Business Director, SKIN X
新卒で株式会社資生堂に入社。 PMOとして事業戦略立案、大規模な事業経営、新ブランドの立ち上げを経験。2017年アディダスジャパン株式会社に入社し、複数の新商品ローンチプロジェクトなどを手掛ける。2020年にMOON-X入社。ブランドディレクターとして、全ブランドに包括的に携わっている。

「お客様だけではなく、作り手とも“共創”していくのが、MOON-Xのやり方です」

そう語るのは、クラフトビール「CRAFTX」、男性スキンケアブランド「SKINX」、女性スキンケアブランド「BITOKA」の3つの自社ブランドを展開するMOON-X株式会社 ブランドディレクター宮田達也さんです。

MOON-Xは作り手とお客様の媒介になり、「共感」→「感動」→「共創」という独自のサイクルを回すことで、顧客の声を商品へ反映。顧客の日常が豊かになるような商品を目指して、改善を重ねています。

その独自のサイクルとはどういうものなのか、顧客、作り手と共創していくために大切にしていることを伺いました。

個人の想いから立ち上がったブランドたち

まず、MOON-Xの事業について教えてください。

MOON-Xでは、「共創を通じてJAPAN BRANDSの発射台となる」をビジョンに掲げて、現在は3つの自社ブランドを展開しています。

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1つ目は、クラフトビール「CRAFTX」です。弊社代表の長谷川が海外出張をした際に飲んだ ビールの美味しさに感動した過去の体験が、ブランド立ち上げにつながっています。 そこで飲んだのが、強いホップの香りが特徴的なIPA(インディア・ペールエール)という種類のビールでした。その感動を届けたいという思いでビール醸造所にアプローチ。

生まれたのが、CRAFTXのフラッグシップ商品である「クリスタルIPA」です。立ち上げ以来、期間限定商品を含め、香りや味わいをじっくり楽しめるクラフトビールを生み出してきました。また、ビールは長期保存だと味が落ちてしまうため、限定数量販売で新鮮なものだけを提供しています。

2つ目は、男性向けスキンケアブランド「SKINX」です。これも、長谷川が趣味のサーフィンで海風を浴びると肌荒れしてしまうことを気にしていて、男性にもスキンケアが必要と感じた経験から始まりました。 脂性肌と乾燥肌、それぞれの肌タイプで選べるスキンケアになっています。

3つ目は、女性向けスキンケアブランド「BITOKA」です。このブランドはブランド創立者兼弊社の執行役員を勤める下村の 「日々忙しく、肌の調子が乱れやすい女性でも安心して使えるスキンケアアイテムを作りたい」という思いのもと生まれました。 共創パートナーの日本コルマーさんから多くのご提案をいただく中で、安定剤や香料、着色料などが使用されていないシンプルなスキンケアが一番だと感じ、BITOKAが誕生しました。

どのブランドも、個人の体験や想いが原点になっているのですね。ビジョンのなかにお客様だけでなく作り手がはいっていますが、どのような想いが込められているのでしょうか。

CRAFTXやSKINX同様に、ビジョンも代表の長谷川の体験から生まれたものです。彼は、前職のフェイスブック ジャパン時代に地域活性化プロジェクトを担当し、素晴らしい日本のモノづくりに触れました。その質の高さに感銘を受ける一方、うまく社会に広められていないという課題も目の当たりにして。そこで、質が高い商品を作っている「作り手」と共創し、商品の良さを広げていきたいと考え、MOON-Xを立ち上げたんです。

良いモノづくりをしている作り手とMOON-Xが手を取り合うことで、多くのお客様に商品が届きやすくなる。そして、作り手・お客様それぞれとMOON-Xが“共創”することで、商品をブラッシュアップしていく。その結果、ブランドはさらに飛躍し、お客様の生活も豊かになる――そんな未来を創る“発射台”でありたいという想いがビジョンに込められています。

作り手と顧客、双方の心が動くことで「共感」→「感動」→「共創」のサイクルが生まれる

作り手と一緒に商品を広め、お客様には質の高い商品が身近にある豊かな生活を提供していこうとしているんですね。具体的に、どうやって作り手とお客様に価値を生み出しているのでしょうか。

私たちは 「共感」→「感動」→「共創」のサイクルを、作り手とお客様との間で作っていくことで、価値を創造していける と考えています。

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まず、作り手とのサイクルでは、MOON-Xのビジョンと作り手のやりたいことが重なり合う部分、つまりは「共感」できるかをお互いに確かめます。そして、作り手が作るモノを実際に私たちがお客様の立場に立って体験し「感動」した先で、共にブランドや商品を作り、改善を繰り返す「共創」をしていきます。

お客様とのサイクルでは、お客様のニーズを捉えた商品を開発、背景のストーリーも含めて伝えることで「共感」を生み出します。また、商品を手にとった瞬間、そして使っていく過程のなかで驚きや発見などの「感動」が続く体験を届ける。そして、お客様の声をもとにブランドや商品を進化させる「共創」を大事にしています。

作り手・お客様ともに、共感や感動など“心が動く”ことをベースにした上で、共創しているのが特徴的だと感じました。

そうですね。今は、ビールやスキンケアアイテムに限らず、安くて良い商品が市場に溢れていて、手に入れることは容易です。でも、仕事終わりに飲む特別なビールや、使うたびに気分が上がるスキンケアなど、日常のなかでちょっとした“感動”を味わうためには、ブランドのこだわりや込められた想いが必要だと思います。

作り手側も、発注されたものをその通りに作るのと、お客様にどんな価値をもたらしているのかを考えてこだわりを持ちながら作るのとでは、作るときの楽しさや出来上がる商品の質が違ってくる。

お客様と作り手、それぞれの心の動きを含めて、商品を作ったり、体験してもらうことが大切だと思っています。

対話やストーリーテリング、丁寧なコミュニケーションが共感・感動につながる

共感・感動・共創のサイクルをどのように回しているのか、具体的にお聞きしたいと思います。まずは、作り手の共感・感動から教えてください。

作り手とは互いに共感するポイントがあるかどうかを確かめるために、“対話”を重視しています。私たちのビジョンと作り手がやりたいことが重なれば、パートナーになります。

会社を立ち上げた初期は、代表の長谷川が1件ずつ企業ホームページから問い合わせたり、直接代表の方とお会いしてMOON-Xのビジョンを説明したり、地道にパートナーを開拓していました。そこで共感してもらったのが、クラフトビール「CRAFTX」の共創パートナーである木内酒造さんや宮崎ひでじビールさん、スキンケアブランド「SKINX」「BITOKA」の日本コルマーさんやサティス製薬さんです。

地道に熱意を伝え、共感してもらった作り手だからこそ、良いモノづくりが実現できるんですね。お客様に対してはどのように共感・感動を生み出しているのでしょうか?

お客様からの「共感」では、商品のストーリーテリングに力を入れています。気をつけているのが、ただの商品説明ではなく、いろんな角度から商品について伝えること、MOON-Xや作り手など“中の人”が見える発信をすることです。 商品説明ページで伝えきれないことは、SNSやオウンドメディアなどに載せるようにしています。

具体的に、CRAFTXでは、CRAFTXマガジンで情報を発信。作り手へのインタビューや、ビールをより楽しむためのおつまみのレシピなどを掲載しています。

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醸造士のコメントとともに商品を紹介(CRAFTXマガジン

また、缶の中心に印字されたQRコードからアクセスできる「Tipsy by CRAFTX」では、さらに一歩踏み込んだ、味わいの秘訣やビールを飲むベストシーンなどを届けています。

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「感動」では、商品そのものの品質の高さに加え、商品が届いた瞬間の高揚感の演出にもこだわっています。 例えば、女性スキンケアブランド「BITOKA」は、定期配送で販売していますが、毎月同じモノが送られてくると感動が薄れてしまうこともあるのではと。

そこで、季節にあったノベルティ、入浴剤やポーチなどを制作して商品とともにお届けしたり、お花の定期便「bloomee」と提携し、2〜3ヶ月に1回お花と一緒に届くプランもご用意したりしています。スキンケアの時間全体が充実するような体験を届けるために、試行錯誤を繰り返しています。

現在では、「BITOKA ポイントケアシリーズ」という9種の肌悩みにピンポイントで応える新製品をCAMPFIREページ上で先行販売しています。こちらの新製品は、お客様に「今後欲しいスキンケア」をヒアリングした結果で生まれた製品です。

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顧客の本音を反映し、素早く改善につなげる共創プロセス

続いて、共感・感動・共創のサイクルの「共創」について伺います。まず、お客様の声はどのように集めているのでしょうか。

MOON-Xでは、様々なチャネルから幅広くお客様の声を集めるようにしています。例えば、Amazonのレビューと対面で話を聞くのでは、お客様から出てくる言葉も変わる。こういったチャネルによる違いも含めて、できるだけ多くのご意見を集めることを大切にしています。 具体的には、購入者へのアンケートや各モールのレビュー、SNSなどへの投稿、電話やZoomでのヒアリングです。

電話やZoomでは、お客様が商品の悪い部分を言いにくい傾向があります。そこで、「普段どんなビールを飲んでいるか」「ビールを飲む頻度はどの程度か」などの事実ベースで答えられる質問を重ねながら、生活スタイルや、その中で商品がどのように使われているのかを捉えていきます。このように、できるだけリアルな声を集められるよう工夫しています。

また、ECサイトの行動データの分析などももちろん実施しています。流入経路など基本的な分析に加え、ユーザーインタビューで言葉になっていない部分を行動データから読み取れるよう、細かい数値まで見ながら、その行動の裏にあるユーザー心理を考えるよう心がけています。

それぞれのチャネルの特性を活かして、お客様の本音を導き出しているんですね。お客様の声を集めてから、商品に反映する意見をどのように選択しているのですか?

まず、集めたお客様の声はすべて社内に共有されます。そこから、内容を吟味し、お客様のニーズが強そうなもの、ブランドの思想を体現するために重要そうな意見をピックアップ。どれを優先して商品に反映するかを社内で話し合います。

お客様の声を改善に反映するときは、安易に多数決では決めないようにしています。 ブランドそれぞれに立ち上げに至る個人的な思いやこだわりがあり、いくらお客様からの声が多くとも、譲れない部分もあるんですよね。逆にそのこだわりこそが、共感や感動につながる部分にもなりえます。 とことん社内で話し合った上で、最後はブランドディレクターが決定します。

また、直接お客様に「どのデザインがいいですか?」といったことを伺うときもあります。男性スキンケア「SKINX」では、新商品の発表前にデザインパターンをお客様にお見せして「どれがテンション上がりますか?」と意見を求めることも。お客様と絶えずコミュニケーションを取り、実際にいただいた意見を商品にも反映。その積み重ねで信頼関係を築くことで、お客様とより近い距離で、正直な声をきかせてもらえるのだと思っています。

集めた声一つひとつに向き合った上で、改善の方向が決まっていくのですね。一方で、作り手との「共創」はどのようにしているのでしょうか。物理的な商品だと、製造過程から変更しないといけないため、迅速な改善のハードルが高いのではと。

1つは、作り手とパートナーになる時点で、「お客様の声を聞いて、改善していく」という思想に共感してもらうこと です。現在のパートナーは、直接お客様の声を聞き、より良い商品作りに活かせることが嬉しいと感じてくださっていると思います。

これまで、実際に商品を手に取るお客様の声を聞く機会がなかったという作り手は多いです。また、私たちのようなベンチャー企業に対して、パートナーもスピード感を求めてくださっていて。ビジョンやスタンスへの共感が、協力関係の土台になっていると実感しています。

もう1つは、作り手と常にコミュニケーションをとることです。 共創パートナーとは頻繁に会議を実施しています。在庫の減り具合や新商品のアイデアなど、細かいコミュニケーションを取り続けています。また、より良いモノづくりに向けた正確な議論ができるよう、顧客の声やデータはすべて共有しています。 結果として、改善までのやり取りもスムーズに進んでいると思います。

そもそも、改善スピードなどの期待値を作り手とすり合わせておくのですね。実際に、顧客の声が商品に生かされたものはありますか?

1つは、CRAFTXの贈答品対応です。カスタマーサポートに寄せられた「のしや紙袋はつけられますか?」という質問から、CRAFTXのビールが贈り物として利用されていることに気づきました。そこで、様々なタイプののしや、手渡し用の紙袋を購入時に選択できるようにしました。

また、贈答品として購入されるお客様のために、プレミアムラインの商品も開発。復刻した「CELEBRATE ONE」や先行販売中の「ルビーレッドエール」は、お祝いの日にピッタリな商品として、利用されています。

もう1つは、CRAFTXブランドでのレモンサワーのリリースです。CRAFTXのビールを愛飲してくださっているものの、「ビールはお腹にたまって、食事をあまり食べられない」「プリン体やカロリーが気になる」という声もあったんです。ブランドコンセプトである「あなたが華やぐ、お酒の体験。」を実現するためにはビール以外の商品が必要だと考え、レモンサワーを開発。 クラフトビールブランドから総合アルコールブランドへとリニューアルする際に、レモンサワーの扱いも始めました。

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日常を彩る商品を、「共創」で続々と

今後、MOON-Xとしてどんなことに力を入れていきたいですか。

今後は、「共創」の範囲を広げていきたいと思っており、2021年9月に「MOON-X BRAND STUDIO™️」を立ち上げました。これまでは、自分たちゼロからブランドを創り、成長させてきました。今後は、自社ブランドだけではなく、日本各地のすでにあるブランドが成長していく支援もしたいと思っています。

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具体的にはどのような手法でやっていくのでしょうか。

1つは、より多くのお客様に商品を届けるための支援です。特にオンライン販売に課題を感じているブランドは多いため、ECやAmazon、楽天などの各種モールの運用を、これまで培ったノウハウを元にサポートしていきます。

また、素晴らしい商品を作っていて、MOON-Xのビジョンに共感してくれたブランドへ出資する共創型M&Aという形も用意しています。MOON-Xのブランドポートフォリオに参加してもらうことで、共に成長していきたいと思っています。

さらに最近力を入れているのが、クラウドファンディングの活用です。私たちもCRAFTXやSKIN Xでクラウドファンディングを活用したのですが、製品がなくとも反応をもらえてお客様のニーズを把握でき、より良いモノづくりに向けた可能性を感じました。2021年8月には、株式会社CAMPFIREと業務提携を実施。魅力あるブランドのクラウドファンディング立ち上げから運営、拡販、ブランディングまでを一気通貫し、ブランドの成長に生かしていきます。

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現在MOON-Xが立ち上げているクラウドファンディングプロジェクト
BITOKA「ポイントケアシリーズ」:https://camp-fire.jp/projects/view/483840
CRAFTX「ルビーレッドエール」:https://camp-fire.jp/projects/view/503991

最後に、今後ブランドを通してどのような顧客体験を届けていきたいですか。

私たちが扱うブランドや商品が増えていくことで、お客様の日常をより豊かにしていきたいです。 例えば、スキンケアブランドでは、日々のスキンケアが面倒なものではなく、ワクワクするものへ変わったり、アルコールなら、「今週末は、このおつまみと一緒に味わおう」と楽しみが増えたり。

こだわりを持った作り手のブランドや商品が日常に溶け込みつつも、特別感やワクワク感ももたらしてくれる。そんな体験を届けていきたいです。

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