CX戦略、NRIが見据える課題と可能性:PLAID × NRI
ユーザー個々に対してきめ細やかなターゲティングが可能になった現在、一時的な効果の最大化ではなく、いかにLTV(顧客生涯価値)を高めるかという中長期的な観点からの取り組みが重要になってきています。
ユーザー個々に対してきめ細やかなターゲティングが可能になった現在、一時的な効果の最大化ではなく、いかにLTV(顧客生涯価値)を高めるかという中長期的な観点からの取り組みが重要になってきています。
そんななか、ガートナーが発表した調査「日本におけるCRMのハイプ・サイクル:2018年」にあるように、「CX(カスタマーエクスペリエンス、顧客体験)戦略」がいま、大いに注目を集めています。実際国内でも、ファーストリテイリングや全日本空輸(ANA)、キリンなどの日本を代表する企業はその重要性に気づき、すでに取り組みをはじめています。
長年、コンサルティング・ソリューションの両面から、企業のデジタル戦略支援をグループ全体で行ってきた野村総合研究所(NRI)。2017年7月、弊社はそのNRIグループでデジタルビジネスを専門とするNRIデジタルと業務提携を締結しています。これを機に、より一層CX戦略に基づいた、ユーザー起点のデジタルマーケティングを推進しています。
本稿では、弊社の宮原忍と、野村総合研究所の上級システムコンサルタント吉田純一氏に、これからのデジタルマーケティングにおけるCX戦略の可能性と課題、展望について語り合ってもらいました。
NRIがCXを重視する理由
宮原忍氏(以下、宮原):NRIといえば、シンクタンク・コンサルティングファームのイメージが強いです。CX(顧客体験)を事業として取り組みはじめたのは、いつごろからでしょうか。
吉田純一氏(以下、吉田):実はNRIでは、システム開発の仕事を多く手掛けています。UI、UXについては2005年頃から取り組んでいましたが、「CX」というキーワードについてはここ数年でしょうか。
宮原:近年、なぜ、CXに着手されたのでしょう。
吉田:システム開発の仕事というのは、昔は会計システムのように、バックオフィスのIT化が中心でした。2000年代に入ってネットの常時接続が普及し、顧客接点がWebになっていきます。2010年以降はスマホが一般化し、顧客接点にアプリが加わりました。当初はIT化する、Webやアプリに対応するといったこと、それ自体に価値がありましたが、最近ではチャネルがあるのは前提で、機能以外の体験での差別化が問われるようになってきています。
宮原:どこの企業でも、Webやアプリであれこれできるようになってしまえば、それ自体には価値はなくなってしまいますからね。
吉田:そうです。そこでお客様のことを理解し、その要望をサービスや機能に落とし込んでいかなければならないという意識が、企業に芽生えてきたのです。
横断的なCXの実現を損ねる原因
宮原:お客様の商品やサービス選択において、CXの重要性はかつて以上に高まりつつありますが、現場の営業担当者、デジタルマーケター、カスタマーサポート、ミドルマネジメント・経営層といった、企業内での役割・レイヤーによってその認識や理解には違いがあるようにも感じます。
吉田:確かにそうですね。まずその「理解度の違い」を知ることが、CX施策を実行するうえで、とても大事な観点だと思います。たとえばデジタルマーケターは、WebのUIや、メール、アプリのチャネルなど、タッチポイントそのものをCXだと思っている一方、現場の営業担当者は、自分たちの接客のコミュニケーションそのものがCXだと思っている。どちらも正しいですが、それだけがCXではない。CXを考える際には、それらを横断的かつ俯瞰的に見ることが重要です。
宮原:多くの企業、特に大企業は、部署はもちろん、ひとつひとつの業務が個別最適化されていて、合理化を徹底しているところが多い印象です。
吉田:そうですね。それがプロセスを横断したCXの実現を損ねる原因のひとつになっています。こうした現状を解消するためには、CXを「戦略」と捉えて、会社組織や評価制度も含めた設計が必要とNRIでは考えています。
CX視点のPDCAサイクル
宮原:弊社のオウンドメディア(KARTE CX Clip)でも公開させていただいている三井ダイレクト損保様は、貴社がCX戦略の導入および実行支援をされています。そこには、どのような課題があったのでしょうか?
吉田:三井ダイレクト損保様の商品は、個人向け自動車保険を中心とした通販型の損害保険です。通販型の保険商品は他社と比較したときに特徴が出しにくいうえ、対面での接客もできません。このためオンラインでのアプローチをいかに最適化するかが重要になります。
そこで、KARTEを活用し、データを使いながらお客様の行動を理解し、理解した内容に対してコミュニケーションの仕方を変えていくこと、CX視点のPDCAサイクルを実施されています。
宮原:PDCAを繰り返して問題点や課題を見つけることで、いままでなんとなく想像するしかなかった、お客様の嗜好や行動が、具体的に分かるというメリットがありますよね。
吉田:そうですね。そうやって、お客様ひとりひとりの行動がわかることで、また新たな顧客目線の施策のアイデアも出てきて、よいサイクルが回るようになるわけです。
なぜ、KARTEなのか?
宮原:NRIが担当するCX戦略の多くの現場で、KARTEを活用いただいています。導入の決め手はどこにあるのでしょう?
吉田:弊社では大手企業のECサイトを数多く運用しているのですが、ECには特に素早いPDCAが求められます。しかしながら、都度プログラムの改修をしていると、PDCAを1サイクルさせるのに数週間から数カ月かかってしまうこともあり、1年で数サイクルが回せないといったことが起こりえます。KARTEに着目した最初の理由は、この課題への解決に最適ではないかと思ったからです。
宮原:顧客目線でのサービスを提供しようとすると、仮説検証のサイクルをどれだけ高速かつ低コストに回せるかが重要になってきますよね。
吉田:はい。事業担当者がひとりでクイックに行えるからこそ、試行錯誤のスピードを速いまま保つことができるわけです。また、KARTEでは効果が定量的に測定できるため、施策の提案や評価も、担当者の感覚ではなく、根拠に基づいて判断できるようになります。
KARTE Datahubの価値
宮原:CX戦略を多くの部署で横断して推進するには、さまざまなデータの連携が必要になってきます。そこでPLAIDは、顧客データや行動データ、オフラインデータなど分断されているデータベースを統合して、顧客の解像度を上げることで、より深く顧客を知り、あらゆるチャネル・タッチポイントでワンストップにCXを向上していくことを可能にするプロダクトとして、2018年12月にKARTE Datahubをリリースしました。NRIにとって、このプロダクトの価値はどういうところにありますか?
吉田:KARTEは、以前は「Web接客ツール」という名称で、Web施策の出口のところで使うプロダクトというイメージがとても強かったですよね。しかし現在では「CXプラットフォーム」とサービスの立ち位置を大きく変え、そして今回のKARTE Datahubのリリースによって、データを溜める、分析する、施策を実施するという一連の作業をシームレスにできるようになったのが一番のポイントだと思います。しかも、施策の実行結果データがすぐにDMPに反映されるので、その結果を踏まえてまた分析をして、実施をしてというサイクルがすごく早くなったと思います。
もしDMPのようなデータ分析基盤を持っていないとしても、KARTEとKARTE Datahubの組み合わせだけで、高度な分析基盤が構築できてしまう。これは驚異的なことではないかなと思います。
宮原:数年前だったら、億単位の予算と、優秀な人材を揃えないとできなかったことが、KARTE Datahubを導入するだけでできてしまう。しかも、手前味噌になりますが、以前よりも、はるかにROI(投資対効果)が高く実施できているんですよ。
吉田:それは実感としてあります。以前は、施策を実施する前の準備に1年かかっていましたが、KARTE Datahubを活用すれば下準備ではなく、施策の実行に注力できるようになりますね。
CX戦略、成功のカギ
宮原:ちなみに、現場の担当者が社内でCX戦略を進めていく際に、どういったことを意識すればいいとお考えでしょうか。
吉田:やはり、経営層に理解してもらうことが大事だと思います。CX戦略を実践するにあたっては、必ず社内から、「それは儲けに繋がるのか?」という疑問が出てきます。それに対して、定量的に成果を示すことも必要です。
宮原:なるほど。それは、自分の部署だけではなく、常に会社全体を見ながら、CX施策が売り上げに反映されているかどうかという視点が大事ということでしょうか。
吉田:そうですね。全体最適という意識は大切だと思います。顧客目線というと、とにかく「カスタマージャーニーを書きましょう」となりがちです。ただ、関連する部署がバラバラにカスタマージャーニーを書くと、Webとリアルがそれぞれ全力でアプローチすることになる。お客様にとってみれば、認知から購入まで、つねに同じ会社から猛烈にプッシュされていることになる。現実には、そういう施策はマイナスにしかなりません。
PLAIDとNRI、協働から生まれるCX
宮原:もともと、KARTEは人軸でデータを溜める設計になっていましたが、KARTE Datahubのリリースによって、オンラインからオフラインまでワンストップで人軸のデータが溜められるようになりました。ただ、そのデータを活用するためには、そのデータがどういった業務で、どういった流れで使われるかを理解し、それを踏まえて全体を設計できる人が必要になってきます。
吉田:確かに、KARTEはマーケターが自分で使える手軽さがウリですが、KARTE Datahubを使いこなすにはエンジニアスキルも必要になってきます。また、幅広い種類のデータを溜められるということは、データの活用にはそれなりの分析スキルも必要になります。この部分は、もともとNRIが得意としているところです。KARTE DatahubにNRIのコンサルティングスキル、エンジニアリングスキルを活用することで、新しい価値を提供していけると思います。
宮原:本当はクライアント自身が自社ですべてできればいいですが、やはりそれが難しいクライアントもいる。そこに、NRIが持っているコンサルティングやシステムインテグレーションのケイパビリティを合わせることで、CXを軸とした事業成長のお手伝いができるよう、これからもプロダクトをブラッシュアップしていきます。
本記事は、DIGIDAY[日本版]に掲載したものを再編集したものです。