Event Report

「継続」につながる顧客行動をどう見つける?ポケットマルシェの顧客中心グロース戦略

2023年7月に開催されたプレイド主催の顧客向け年次カンファレンス「KARTE CX Conference 2023」内のセッション「ぼくらのグロース戦略のつくりかた -ズルく“ハック“しない。顧客中心の考え方-」のレポートです。株式会社雨風太陽の小林工馬氏と、プレイドのCXプランニングユニットマネージャーの藤井陽平が登壇。KARTEの行動データ分析と定性的なインタビューによって、継続につながる行動や実現したい顧客体験を探索し、グロース戦略を策定したプロセスについて共有しました。

2016年にローンチし、今では70万人以上の顧客が利用する食材の産直EC「ポケットマルシェ」。着実に成長を続ける同サービスでは、KARTEに蓄積した行動データを駆使し、サービスの継続率向上に取り組んでいます。

2023年7月「事業成長をCXのデジタル変革で牽引する」をテーマに開催された「KARTE CX Conference 2023」内のセッション「ぼくらのグロース戦略のつくりかた -ズルく“ハック“しない。顧客中心の考え方-」では、ポケットマルシェを運営する株式会社雨風太陽の小林工馬氏と、プレイドのCXプランニングユニットマネージャーの藤井陽平が登壇。

KARTEの行動データ分析と定性的なインタビューによって、継続につながる行動や実現したい顧客体験を探索し、グロース戦略を策定したプロセスを共有しました。

CVまでのプロセスが見える、KARTEのデータは“宝の山”

ポケットマルシェは日本全国の生産者が旬の食材を出品、消費者と直接やり取りしながら販売できる産直ECです。

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2019年末にKARTE for Appをアプリに導入。翌年にはWebサイトでもKARTEを使い始め、デバイスを横断した施策の仮説検証を行い、体験の改善につなげてきました。2021年末からはKARTEのデータを使った顧客分析や顧客戦略の策定、実行にも取り組んでいます。

小林氏「導入当初は、サイトやアプリで次々と施策を試す“アクション軸”の活用が中心でしたが、ふと『蓄積されているデータをもっと活かせないか?』と思い、プレイドのカスタマーサクセスの方に分析でもっと活用できないか相談しました。

最近では顧客の解像度を高める“分析軸での活用”が増えています。KARTEに貯まった行動データから体験向上につながるインサイトが沢山見つかっており、KARTEは宝の山のようだと感じています」

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「宝の山」という言葉を受けて、小林氏とともに継続率向上に取り組むプレイドのCX Planning Unit(※)の藤井は、KARTEに蓄積されるデータの特徴について語ります。

※CX Planning Unitは、マーケターやアナリスト、プランナーなどが所属し、KARTEを駆使した顧客分析や顧客戦略の策定、施策実行など、さまざまな支援を行う

藤井「KARTEに蓄積される行動データからは、行動の始まりから結果(コンバージョン)までの顧客行動のプロセスがみえます。

例えばポケットマルシェであれば『商品購入』といったコンバージョンまでに、ページやサイトの回遊、商品のお気に入り登録など、様々な行動が起きています。KARTEのデータはこうした一つひとつの行動を把握する上で役立つもの。そういった意味を込めて、CX Planning Unitでは『プロセスデータ』とも呼んでいます。

プロセスを分析することで、顧客がどういったニーズや課題を抱えているのかについて解像度を高め、改善のためのインサイトを得られます。小林さんがおっしゃる通り、顧客の体験向上に向き合う人にとって、プロセスデータ『宝の山』と言えるでしょう」

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購買促進だけでなく、継続につながる“行動促進”を重視

このプロセスデータを活用し、ポケットマルシェが取り組んできたのが「継続率の向上」です。

継続率向上は、かねてから注力したいと思いつつ「どの指標を追うべきか定められていなかった」と、小林氏は当時の課題を語ります。

小林氏「ポケットマルシェの顧客は、何週間かに一度、月に一度くらいのペースで商品を購入する方が多いので、一つの施策が継続率向上に及ぼした影響を測るには3ヶ月から半年程度かかります。

事業をグロースするためには、週単位で改善を回していくくらいが理想ですから、継続率につながる中間指標を定めたいと思っていました。

ですが、具体的にどういった行動が継続率向上につながるのか、どういった指標を設定すべきかは分析しきれていませんでした。『何となくこの行動が継続につながっていそう』という経験則はあっても、ぼんやりとして根拠がないため、どの顧客にどのような施策を行うべきか検討しづらい状況でした」

こうした課題を解消し、継続率向上のための戦略・中間指標を策定する今回の取り組み。小林氏と藤井を含め、雨風太陽から6名、プレイドから4名の合計10名でチームを結成しました。

チームではプロジェクトの開始時に、継続率向上に取り組むにあたって大切にすることを決めたと言います。

藤井「短期的な売上だけを優先しないこと。これを『ズルくハックしない』と表現し、チームの共通認識としました。たとえば、顧客全員にクーポンを配信して単発の購入を促進する施策は、目的によってはとても効果的です。けれど、ポケットマルシェの行動データを見る限り、クーポンを利用した単発の購入だけでは、継続的な利用にはつながりづらいことがわかっていました。今回の取り組みの目的は継続率の向上。それは忘れないようにと、チームで強く意識していました」

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もう一つ、チームにとって大事な指針となったのが、小林氏の「購入促進よりも行動促進を」という言葉でした。

小林氏「いち顧客の目線に立つと、今はどの店舗、どのサイトやアプリを訪れても、何かしらクーポンが配られるような時代です。決してそれを否定するつもりはないですし、効果的な場合もあります。ですが、クーポンだけがサービスを使い続ける理由にはなりづらい。

では、どうすれば継続的にサービスを使ってもらえるのか。改めて考えたときに、買ってもらうための購入促進』だけではなく、『使い続けてもらうための行動促進』が重要ではないかと思ったんです。

たとえばポケットマルシェの場合、顧客は購入の前に『生産者について詳しく知る』や『商品をお気に入り登録する』といった行動をとっています。それらの行動を通してサービスの理解を深め、楽しい体験ができた先に、購入や継続利用があるはず。継続の鍵は、購入前のプロセスにあるのではないかと思ったんです。

こうした考えのもと、今回の取り組みでは購入の前に着目し、使い続けてもらうための行動と追うべき指標を探っていきました」

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KARTEに蓄積したデータから、継続につながる行動を探る

チームは、顧客にサービスを使い続けてもらうための行動を探索するにあたり、KARTEのプロセスデータを活用。4つの仮説をもとに、どの行動が最もリピート購入につながっているのかを分析していきました。

仮説1 商品ページの閲覧回数:商品を沢山見て、得られる情報を広げた方が、継続につながる
仮説2 生産者ページ閲覧回数:生産者を見て、情報を深めた方が継続につながる
仮説3 お気に入りの登録数:商品をお気に入り登録して、自分好みに使う方が継続につながる
仮説4 サービス内検索の合計数:欲しい情報を検索して積極的に探す方が継続につながる

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藤井「グラフの横軸は4つの行動の量、縦軸はリピート購入率を指します。行動の量が増えるにつれ購入率が上がる。右上がりの直線を描いているのが理想です。

仮説を立てた指標ごとのグラフを見てみると『生産者ページの閲覧回数』や『お気に入りの登録数』は変動が大きく、行動量が増えてもリピート購入は増えていません。

『検索の合計数』をみると、ほぼ横ばい。行動量が増えても、そこまでリピートにはつながっていないことがわかります。

『商品ページの閲覧回数』は、ほぼ右肩上がりの線を描いています。このグラフでは示していませんが、全体の行動量を比べても、『商品ページの閲覧回数』が圧倒的に多い」

さらにチームは「初回購入までに何回商品ページを閲覧すると、継続につながりやすいか」を分析しました。達成すべき数値目標も設定することで、より施策を立案・評価しやすくなるためです。他の分析結果も加味した上で、『初回購入までに7回の商品ページ閲覧』が最も効果的であることがわかりました。

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顧客へのインタビューから“ポケマルならではの価値”を言語化

こうして継続率向上のために促進すべき行動と指標、数値目標が明確になりました。

取り組み前の課題は一定クリアできたように思えますが、小林氏は顧客に使い続けてもらうために、定量的な数値目標の達成だけでは不十分ではないかと考えていました。

小林氏「極端な話ですが、来訪時に商品ページを7回表示して、無理に7回の閲覧を達成しても、顧客は決して使い続けてくれないでしょう。

7回の閲覧を通して、ポケットマルシェならではの価値を感じるからこそ、『また使いたい』と思ってくれるはず。数値目標を達成するのは重要なのですが、同時にサービスの価値が伝わる体験を届けていく必要があると考えていました」

7回の商品ページ閲覧を通して、どのような体験、価値を届けていくべきか。チームはサービス提供者の目線に偏りすぎないためにも、実際に顧客の声を聞きにいくことにしました。小林氏は「最もサービスを理解しているのは、自分たち以上に、実際に今使い続けているお客様」と話します。

インタビューは2週間で4人のリピート顧客に対して実施。インタビュー設計にはKARTEのプロセスデータも活用しました。

小林氏「事前にKARTEのユーザーストーリー(※)で顧客の行動を分析した上で、気になったポイントを深掘りする質問を作成しました。一人ひとりのお客様がどんな使い方をされているのか、事前に把握できたことで、質問の質も変わりました。

たとえば『まったく購入に至っていない期間』があったとき。そもそもポケットマルシェに訪問していない場合は『訪問しなかった理由』、訪問したけれど買わなかった場合は『買わなかった理由』について質問を準備して臨みました。

サービスの利用について広く聞くのではなく、気になる行動の背景やニーズを細かく掘り下げることで、より深いインサイトを得られたらと考えました」

※顧客一人ひとりの行動ログを詳細に分析できるKARTEの機能

細かな行動の理由や背景を尋ねていくと、顧客からはポケットマルシェならではの価値、体験のヒントとなる言葉がいくつも挙がりました。特に多かったのは「名前がわかっている人から買える」「生産者へのリスペクトがある」「旬の食材を買えるのが良い」といった言葉です。

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小林氏「サービスを立ち上げた当初から、実際にマルシェに来たような感覚で、様々な生産者さんや商品と出会い、関われる体験を目指してきました。

ECサービスの中には、買い物の効率化を価値として提供しているものもあります。ですが、ポケットマルシェが届けたいのは『何を買おうかな』と楽しく悩み、考える時間。私たちは『マルシェ時間』と呼んでいます。

マルシェ時間を楽しんでもらうことこそ、ポケットマルシェならではの価値であり、実現すべき体験です。そうインタビューを通して言語化、再確認できました」

促すべき行動が明確になり、施策の議論が活発化

促進すべき行動と実現すべき体験が明確になったことで、チームからは様々な施策のアイデアが生まれています。

同一カテゴリの商品訴求や生産者の理解を深めるコンテンツ、マルシェらしい活気を感じてもらうためのコミュニケーションなど幅広いアイデアを探索中です。

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小林氏「ポケットマルシェの実現すべき体験につながるのかを念頭に置き、数値目標を達成するための施策を検討・議論できるようになりました。また継続率向上の手前の指標が定まったことで、サイトやアプリでの施策以外にメール配信施策でも『どういった情報を伝えていくべきか』の見直しが起きていました」

今後は施策の仮説検証を行いながら、顧客ターゲットの設定やジャーニーの運用などにも取り組んでいくそうです。

小林氏「今は主にKARTEを使った施策を行っていますが、取り組む中でプロダクト自体の改善が必要だと気づくことがあれば、プロダクトにも反映していきたい。そこまでやり切っていきたいと考えています」

藤井はポケットマルシェとの取り組みを振り返り、継続率向上のポイントをまとめます。

藤井「まず、購入促進だけではなく継続につながる行動促進を行うこと。顧客は様々な行動を経て、購入や継続利用にいたります。施策を行う前に『どの行動に焦点を当てるのか』をしっかりと検討し、その行動を促していくことが大切です。

次に、データによる分析と定性的なインタビューを組み合わせること。データから把握した行動をもとに、実際に顧客の声を聞くことで、顧客のニーズや求める体験をより深く理解できます。

最後に、これらの取り組みにおいてKARTEのプロセスデータは心強い味方だということ。定量的な分析はもちろん、今回のように定性的なインタビューにも活用できます」

藤井は「CX向上の取り組みに正解はない」と強調し、今後もポケットマルシェを含む、幅広い企業と実践を重ねていきたいと語りました。

KARTEに蓄積されたプロセスデータを活用した顧客戦略の策定・実行のポイントについては、以下の記事でも詳しく解説していますので、本セッションに興味を持った方はぜひ合わせてご覧ください。

*参考記事:顧客をどう理解し、その課題を汲み取るか。KARTEのデータを活用した「顧客戦略」の立案と実践
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