Event Report

挫折とリトライから見えてきた、事業インパクトをもたらすKARTE活用法

「KARTE CX Conference 2023」にて、ラクスル株式会社 ラクスル事業本部 印刷・集客事業統括 マーケティング部長の一條穂高氏が登壇。KARTE活用を事業インパクトにつなげるためのポイントを語ったセッションの内容を紹介します。

「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をビジョンに掲げるラクスルは、印刷から始まり、物流、テレビCMをはじめとした広告、さらにコーポレートIT領域まで横断しながら産業構造の変革に取り組んでいます。

ラクスルでは以前、KARTEを導入するも活用がうまくいかず、解約に至ったことがあるといいます。しかし、のちに活用方法を見直して再導入し、事業成果に結びつけることができました。

2023年7月に「事業成長をCXのデジタル変革で牽引する」をテーマに開催された「KARTE CX Conference 2023」にて、ラクスル株式会社 ラクスル事業本部 印刷・集客事業統括 マーケティング部長の一條穂高氏が登壇。

最初のKARTE導入時に直面した課題を、再導入時にはいかにして乗り越えたのでしょうか? 一條氏がその軌跡とKARTE活用を事業インパクトにつなげるためのポイントを語ったセッションの内容を紹介します。

KARTEをうまく活用できなかった「3つの理由」とは?

一條氏がマーケティングを担当する印刷事業では、印刷会社とパートナーシップを組み、シェアリングプラットフォーム「ラクスル」を運営。2022年には会員数が200万人を突破し、印刷通販の会員数としては国内No.1※の規模になりました。

※東京商工リサーチ調べ(2022年12月時点/主要ネット印刷サービスにおいて)

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そもそもラクスルがKARTEの導入を決めた背景には、「印刷やデザインに慣れ親しんでいないユーザーにとって、オンラインでの印刷注文はハードルが高い」という課題感がありました。

一條氏「基本的にカスタムメイドで発注に際してデザインが必要だったり、紙の種類の選定が必要だったり。ラクスルはそういう商材なので、KARTEを活用してCXを改善していける余地が大きいのではないかと考え、導入を決めました」

ただ、導入から約半年間は接客施策数が伸びていったものの、以降は頭打ちになって停滞。事業成果にもつながらなかったため、導入から約1年半後の2021年8月には、解約に至ってしまいました。

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最初の導入時にうまく活用できなかった理由として、一條氏は「施策が増えない」「リフトアップ※の成果が出ない」「事業インパクトにつながらない」の3点を挙げました。
※編注:「接客による純粋な効果」を意味する、KARTEにおける効果測定指標(参考:「リフトアップ」の定義 | ドキュメント / アクション / 配信結果・効果測定 | KARTEサポートサイト

一條氏「『施策が増えない』のはなぜかというと、明確なオーナーシップが不在だったことが主な要因だと思います。『リフトアップの成果が出ない』のは、施策が顧客に沿ったものでなかったことが大きいでしょう。『事業インパクトにつながらない』要因としては、『KARTEを使う』という手段が『目的』になってしまっていたことがあると思います」

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「PDCAサイクルを回し切る」ための工夫と、社内メンバーの巻き込みを徹底する

しかし、解約からわずか4ヶ月後の2021年12月には、KARTEを再導入。その決め手は何だったのでしょうか?

一條氏「当時は社内でエンジニアリソースがボトルネックでサイト改善をはじめとしたWEBマーケティングの実行に課題がありました。そうしてプロダクト改善のための施策が進まない状況の中、サービスグロースのためにどうすればいいのかを考えると、やはりKARTEこそが、マーケティングサイドからプロダクト改善が行える数少ないツールだと改めて気づいたんです。

またラクスル社内で、データウェアハウス『BigQuery』を中心にデータ基盤が整備されてきており、データ活用のための環境が整ってきていたというのも理由の一つだったと思います 」

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再導入に際しては「同じ轍は踏まない」という決意のもと、プレイドにKARTE活用のための定例会議への参加や、細かなQ&A対応といったサポート協力も依頼。二度目の挑戦が始まりました。

そうしてKARTEを再導入した結果、一度解約をした2021年当時と比べて接客施策数が4倍になり、PDCAサイクルが大いに加速したといいます。以前の課題を乗り越え、なぜここまで大きな変化を引き起こせたのでしょうか?

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まず、以前課題であった明確なオーナーシップの不在が引き起こす「施策が増えない」という課題については、革新的な解決アイデアがあったわけではなく、「専任担当の設置」と「定例会議の実施」を愚直に遂行していくことで解決を図ったといいます。

一條氏「その際、とても重要だと考えていたのが、まずPDCAサイクルを回し切ること。売上や利益率といった事業インパクトに直結し、『KARTEで何を改善するのか』が反映されたKPIに落とし込み、専任担当を中心に、毎週効果測定をしながら施策を推進していきました。

そして、社内を巻き込むこと。新たに加わった中途入社の方々に『こんなツールがあって、こんな活用ができる』と啓蒙活動を行ったり、KARTE活用と直接は関係のない人に対しても定例会議などを通じて現状をシェアしたりと、エネルギーと意志を持って社内を巻き込んでいきました」

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データからの傾向分析だけでなく、一人ひとりのユーザー心理を深掘りする

施策が顧客に沿っていないことが引き起こす「リフトアップの成果が出ない」という課題は、どう乗り越えたのでしょうか。その解決につながった事例として、一條氏はクロスセル促進施策を紹介してくれました。

ユーザーの行動ログと注文内容を踏まえて、商材・顧客・タイミング・訴求をかけ合わせたパターンを一つずつ検証し、名刺を購入したユーザーに対する封筒のクロスセルを促進する施策を実施。ところが、期待した成果は上がらなかったといいます。

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一條氏「思うようにコンバージョン率が上がらなかった理由について、ユーザーインタビューなども実施しながら深掘りすると、『施策が顧客のニーズに合っていないのではないか』という仮説が出されました。やっとの思いで名刺の発注を終えたユーザーにとって、労力をかけて新たに封筒発注を重ねるためのメリットは薄かったのではないかと」

そうした気づきを踏まえ、訴求メッセージの方向性を「ユーザーが楽に業務をこなせるようになるための訴求を徹底する」に転換。その方針のもとで編み出されたのが、「チラシと同じデザインでポスターも買えます」というメッセージを強調する訴求です。そして結果として、見事にその施策は成功したといいます。

一條氏「ユーザーからすれば『ポスターもあった方がいい』という気づきがあると同時に、『同じデザインなら労力がかからない』ことも説得できる訴求になっていたのだと思います。データを見て親和性を推測するだけでは不十分で、お客様一人ひとりの人間としての真理を踏まえて訴求を考える必要があるのだなと、改めて学びました」

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さらにはその成功事例を、メールやアプリプッシュなどのサイト外のコミュニケーション施策を支援する「KARTE Message」を活用し、メール配信にも展開しました。訴求メッセージに関して「まずはポップアップでライトに試す」という、言わば「PoC(概念実証)」を実施した上で、KARTE Messageでその成果を広げていくことにより、ゼロから作り込むと工数のかかるメール配信のクリエイティブを最適化する「王道パターン」が確立できたといいます。

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その他にも、実際に印刷物を見てみて使われ方や発注プロセスを分析したり、ユーザーアンケートやオンラインでのユーザーインタビューを実施したりして、顧客と商品、ユースケースの解像度を高めていったと一條氏は振り返ります。

まずは事業課題ありきで、その仮説検証のためにKARTEを活用する

最後に、「KARTEを使う」という手段が「目的」になってしまっていたことが引き起こす、「事業インパクトにつながらない」という課題についてはどう乗り越えたのでしょうか。

一條氏「とりあえず接客を設定して、ここの文言を変えて、2週間経ったら効果測定をして……という進め方だと、『CVR勝ち負けなし』という結果が出たときに、何の学びも得られず時間が無駄になってしまいます。ですから、まずは事業課題とそれに対する仮説を持ち、その分析・検証のためにKARTEを活用する、というプロセスを取れるよう徹底しているんです」

ラクスルで事業課題からKARTEを活用した取り組みに落とし込めた事例として、「行動チェーン」機能(編注:ユーザーに発生する複数の行動(イベント、セグメント、ディメンションなど)を一つの流れとしてまとめて定義して、集計値を表示したり、該当ユーザーの一人ひとりの行動シーンを見ることができる機能)を活用したケースを紹介してくれました。

生じていた事業課題は「新規ユーザーの獲得を増やしたい」というもの。どのようなユーザー層にアプローチしていくべきかを検討していく際に、「行動チェーン」機能による分析が役立ったといいます。

一條氏「ラクスルはBtoBサービスなので、スマホからの流入ユーザーにあまり見込みはないと考えられていました。そのため、クロスデバイスでのユーザー行動をしっかり追えていませんでした。しかし、『行動チェーン』機能で分析してみると、想定以上にクロスデバイスのユースケースの比率が高いとわかったんです。

この結果を踏まえ、スマホユーザーの割合や購買行動、単価などを詳細に分析し、ボトルネックを解消するためのプロダクト改修にも取り組むようになりました。これは大きな事業インパクトがありましたね」

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また、こうした「事業課題ありきでツールを活用する」という意識を浸透させるため、社内での勉強会なども開催しつつ、実際の課題設定やKPI設計に落とし込んでいるといいます。

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ここまで紹介した「3つの課題」へのアプローチも踏まえ、今後ラクスルにおいて取り組んでいきたいテーマとして、一條氏は最後に「『ARPU』(編注:1ユーザーあたりの平均的な収益・売上)の向上」を挙げてくれました。

一條氏「単価や利用回数を増やすということは、ラクスルの印刷ECにおいては重要なポイントだと思っています。その実現のために、先程も触れたようにKARTE Messageも活用しつつ、CRM運用の体制構築も進めながら、クロスセル施策・アップセル施策を進めているところです。

既にKARTE Messageを活用してメール配信施策を実行したりもしているのですが、ただ毎月同じメールマガジンを配信しているだけでは、成果は頭打ちになってしまう。顧客の思考や行動タイミングに応じて細かくカスタマイズしたメッセージを送る必要があるので、今後はこのあたりのポイントにフォーカスしていきます」

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