広告運用の「質」、どう高めていますか?成長企業3社の事例をふかぼりしました!──ふかぼりマーケティング vo.2 レポート
「デジタル広告運用」をテーマに開催した「ふかぼり!マーケティング」の第2回。成長企業3社をゲストにお迎えし、各社のデジタル広告運用の実践に関してお話しいただきました。
マーケティングの課題解決につながるテーマを取り上げてトークを行う「ふかぼり!マーケティング」。前回の「n1分析」に続く、第2回のテーマは「デジタル広告運用」です。イベントの概要はこちら。
3rd Party Cookieの規制に伴い、自社で保有する1st Party Dataを活用して、デジタル広告運用の改善に取り組む企業が増えています。売上向上につながるように、自社のビジネスに合った顧客にどうアプローチして広告成果の「質」を高めるかは、共通の課題。
今回の登壇者は、自社の広告運用を推進する株式会社ABCash Technologies 取締役 兼 執行役員山口 裕平さん、株式会社SmartHR ブランディング統括本部 デジタルマーケティングユニット 荒木 智陽さん、ニフティライフスタイル株式会社 第1サービスビジネス部 チームリーダー 増尾 健太さんの3名。
登壇者のみなさんから、各社の広告運用で設定しているKPI(Key Performance Indicator)、広告成果のモニタリングダッシュボードのイメージ、改善施策例などを共有いただいた後、パネルトークと交流会を行いました。
約150個のダッシュボードで指標を分析し、PDCAを素早く回すABCash Technologies

株式会社ABCash Technologies 取締役 兼 執行役員山口 裕平さん
ABCash Technologiesは、「お金の不安に終止符を打つ。」をミッションに掲げる金融教育ベンチャー。今回の登壇では、山口さんより個人向け金融教育サービス「ABCash」における取り組みを中心にご紹介いただきました。
山口「ABCashでは、広告を運用してリードを獲得しています。送客先となっているのが無料体験会です。こちらの申し込みのCPA(Cost Per Acquisition)がマーケティングとしてのKPIになっています。
この無料体験会では入会のご案内もしており、入会率をどれだけ上げられるかが事業のKPIです。一人当たりのお客様が入会するまでにかかったCPO(Cost Per Order)も指標として追いかけています。
入会後、3ヶ月ほどで受講が修了。その後、継続して学びたい方向けの継続プランもご用意しており、卒業後までトータルで見て、LTV(Life Time Value)の最大化を事業のKPIとして動いています」

こうしたKPIを追いかけるためにABCash Technologiesで運用しているモニタリングダッシュボードについても、共有していただきました。申し込みのCPAやリード獲得数の推移を可視化し、毎日の朝会にてチェックを行っているという山口さん。見るべき指標や深堀りしたいポイントに応じて、150ほどのダッシュボードを用意しているといいます。

こうした入念な分析を踏まえて、どのようにPDCAを回しているのかについて、クリエイティブの改善を例に挙げて、山口さんは説明します。
山口「以前は、さまざまな広告クリエイティブを作成していたのですが、それぞれのパフォーマンス評価ができていませんでした。そのため、まずクリエイティブごとのパフォーマンスの計測・可視化に着手しました。
パフォーマンスの良し悪しをチェックし、そこからお客様の属性データやその他のデータをかけ合わせて深堀りして、結果の要因を分析。その分析をふまえて、クリエイティブのチューニングを行っています。現在では、常時約50個の広告クリエイティブでPDCAを回している状態です。
また、今年から「KARTE Blocks」を導入し、広告の経路ごとに20種類以上のLPを出し分けて、CVRを改善しています。加えて、お客様が入会しやすくなる仕掛けにも取り組んでいます。たとえば、デモグラフィックやアンケートなどのお客様のデータを広告の流入経路ごとに解析し、そのお客様の属性が得意な営業に引き合わせられるようにしています」

広告運用のインハウス化を進め、商談の質と量の向上に取り組むSmartHR

株式会社SmartHR ブランディング統括本部 デジタルマーケティングユニット 荒木 智陽さん
続いて、登壇したのはSmartHRの荒木さん。SmartHRは、クラウド人事労務ソフトの提供からスタートし、近年ではタレントマネジメント領域や情報システム領域など、バックオフィス全体に向けて複数のプロダクトを展開しています。
同社での広告運用のKPIは、シンプルに「リード数」「商談数」「売上金額」の3つとなっているという荒木さん。これらKPIをどのようにモニタリングしているのでしょうか。
荒木「弊社では、広告ダッシュボードとリード分析ダッシュボードと呼んでいる2つのダッシュボードを活用しています。
広告ダッシュボードでは、各媒体ごとの広告成果を一目で確認できるようになっており、リード獲得数、商談数、売り上げといった数値を媒体別やキャンペーン別に確認できます。さらに詳細をドリルダウンすれば、広告レポートや日別数値も確認できる構造になっています。
獲得したリードの属性を詳しく分析する際は『リード分析ダッシュボード』を使用しています。このダッシュボードでは、リードにはどのような役職の方が多いのか、どの部門の方が多いのかといった情報を確認できます。
たとえば、『このeBookを通じて部長クラス以上のリードが多く獲得できた』と分析できれば、それを次の施策に反映させるといった取り組みを行っています」


同社では、こうしたモニタリングダッシュボードを活用しながら、広告改善、キーワード追加、予算配分などの基本的なPDCAを社内で回せるようにインハウス化を進めてきたそうです。インハウス化に向けた取り組みを始めてから約3年。現状の取り組みについて、荒木さんはこう述べます。
荒木「KARTE Blocksを活用してLPの改善を進めています。その一環として、LINEヤフーと提携し、広告の品質スコアを向上させるキーワードをLPに追加しました。
また、KARTEを活用して、広告経由のリードに対してサイト上のポップアップでアンケートを実施しています。このアンケートでは、回答結果を見たインサイドセールスが電話で話しやすくなるような質問項目を設けています。たとえば、お客様の関心やニーズをアンケートで回答してもらうことで、トークの精度を高めることができています。この結果、商談数の増加にもつながっています。
さらに、お客様の業務上の課題や役職情報を活用し、商談の売上金額の傾向も分析しています。特に、部長クラス以上のお客様に対する商談は売上規模が大きくなる傾向があるため、よりハイレイヤーな層へのアプローチを進める施策を実施しています。これにより、商談の質と量の向上を目指しています」
事業状況に応じて柔軟に指標を運用しているニフティライフスタイル

ニフティライフスタイル株式会社 第1サービスビジネス部 チームリーダー 増尾 健太さん
最後に登壇したのは、ニフティライフスタイルの増尾さんです。ニフティライフスタイルは、ニフティの子会社として2018年に設立。「ニフティ不動産」や「ニフティ温泉」などのサービスを提供しています。
増尾「現在、弊社のウェブ広告では、ディスプレイ広告、特にフィードを活用したダイナミック広告を主軸としています。そのため、LPの多くは物件や商品の詳細ページとなっており、そこからお客様によるフォーム入力が行われ、最終的には資料請求などの問い合わせや賃貸物件の場合は内見予約の完了といったイベントが発生する流れとなっています。
この一連のプロセスを通じて、資料請求完了1件あたりの手数料収入といった形でマネタイズを図っています。重要なKPIとしては、CVRやCPA、ROAS(広告費用対効果)といったものを設定し、成果を測定しています」

こうしたKPIを設定し、ROAS(Return On Advertising Spend)の効率をチェックしつつも、チームとしてはそれよりも「全社のKGI目標達成」を重視していると、増尾さんは語ります。
増尾「この背景には、ニフティ不動産がニフティライフスタイル全体の売上構成比率において重要な役割を担っていることがあります。たとえば、別のサービスであるニフティ温泉の売り上げが今月ショートしそうな場合、ニフティ不動産のROASを一時的に下げてでも投資し、全社売上のカバーに動くことがあります。一方で、ニフティ不動産が順調で目標達成が見えている場合には、拡販費を抑えて利益を確保する運用を選択することもあります。このように、全社的な損益バランスを考慮しながら柔軟に運用するようにしています」
そんな同社におけるダッシュボードやPDCAの回し方としては、媒体別や領域別に細分化して可視化し、ROASやCV算出、評価などを実施。その上で、予算のスライドや各種KPIがどう変化するかをチェックしているそうです。特に、不動産領域は賃貸、新築マンション、中古マンションなどの区分が多く、どの区分がもっとも効率が良いのかを可視化することにも取り組んでいるそうです。

同社では、プレイドが提供する1st Party Dataを活用して広告効果を改善する「KARTE Signals」を導入して以降、分析が進めやすくなり、広告効果も追いかけやすくなったと増尾さんは語ります。
増尾「会社の設立時からインハウス化を進めてきて、ずっとGoogle Analyticsを用いて集計していました。KARTE Signalsの導入により、トラッキングの対象期間が延長されたことで、CV地点までのリードタイムが長い不動産商材においても、再来訪ユーザーの後追いCVが計測できるようになりました。KARTE Signalsで柔軟に分析できる点は本当に助かっています」
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各登壇者のライトニングトークの後は、参加者がグループに分かれてコミュニケーション。トークを聞いていて印象に残ったところや、自社の課題、登壇者に聞きたいことを話してもらいました。


グループでの会話の後は、登壇者のみなさんでのパネルトークの時間に。聞き手はKARTE Signalsのプロダクトオーナーである武石 啓二朗が務め、登壇者のみなさんからお話を伺いました。

KARTE Signals プロダクトオーナー 武石 啓二朗
まず、投げかけられた質問は、現状のKPIを設定した背景について。山口さんは、自身のチームで「入会のCPO」をゴールに設定している理由を次のように述べました。
山口「以前は、KPIがマーケティングや営業などのチームごとに縦割りになっており、それによる衝突が多くありました。たとえば、マーケティングとしてはリードを増やしていても、営業にとっては入会につながりにくいリードになってしまっていた、などです。
そのため、全体で責任を持てるように、リード獲得の最大化だけでなく、その先の入会までを視野に入れるよう指標を変更しました。また、当時は数字を分析できる環境が整備されておらず、追いたい指標を十分に追えない状況でした。そのため、環境整備を進め、現在ではCPOまでの指標を誰でも追える体制を構築しています」
荒木さんは、「リード、商談、売り上げ」という一般的なKPIでありながら、売り上げまでを指標として採用している背景についてこう語りました。
荒木「もともとは商談獲得を目標にしていましたが、売上目標を達成するには商談獲得だけでは不十分だと気付きました。そのため、一歩踏み込んで、チーム全体で売上達成を目指すKPIに変更したという背景があります」
増尾さんは、KPIに対して向き合うチームの姿勢について次のように言及します。
増尾「弊社はメンバーが少ないため、横のつながりを強める必要があり、一人ひとりが数字に責任を持たなければなりません。その分数字が身近な存在となっており、たとえばリーダー会議では最初に必ず数字の話をします。事業継続に必要な数字や現在のパフォーマンスについて議論するなど、数字を基盤にして運営することで、全社のKGIを追いかけられていると考えています」

続いての質問は、広告運用における成功事例と失敗事例について。それぞれの登壇者がこれまでの経験から得られた学びが示され、運用の工夫や注意点が浮き彫りになりました。まず、山口さんからは広告媒体のCPA改善について紹介されました。
山口「媒体で確認できるCV数と自社で計測している数値がズレるという問題がありました。これを解消するために、ラストクリックで広告の成果を評価する方法を採用し、ポートフォリオを組み替えた結果、CPAを約4分の1にまで削減できました」
荒木さんは、低単価でリードを獲得できていたGDN(Google Display Network)の広告を停止した事例について語りました。
荒木「ちゃんと分析したところ、GDNはリード獲得にはつながっていたものの、売り上げへの寄与がほぼゼロに近いことが分かりました。そこで一旦停止し、悪影響が出るか様子を見ましたが、商談数や売り上げに大きな影響は出ませんでした。そのため、現状でも広告を停止しています」
増尾さんからは、不動産業界の繁忙期を見据えた広告運用の失敗談について共有いただきました。
増尾「繁忙期前に獲得数を増やそうと広告配信を強化したことがあるのですが、広告からのCVは増えたものの、全体を見るとオーガニックからのCVに悪影響が出てしまいました。意欲の高いお客様に対しても広告が配信されたことで、全体の数字が伸び悩んだのです。投資としては良い成果を出せなかったという失敗事例でした」

広告運用における過去の成功や失敗を踏まえ、最後に登壇者のみなさんから今後の取り組みにおける注力ポイントについて展望を語っていただきました。
山口さんは「定量データは整備が進んできたため、今後は定性データをマーケティングに活用したい。たとえば、n1分析ですね。最近、お客様へのインタビューを始めているので、今後得られたデータをマーケティングに活かしていきたいと思います」と述べました。
続けて、荒木さんは「効果的なeBookの量産による広告効果の向上、そしてお客様の情報をインサイドセールスと連携することにさらに注力して通電率を1%でも向上させていきたいですね」と語りました。
最後に、増尾さんは「ビジネス全体のことを考えて、ROASに加え、CAC(Customer Acquisition Cost)も考慮して、より効果的な広告運用ができるように社内指標を整備していきたいと考えています」と述べ、今後の展望を紹介してくださいました。
登壇者のみなさんとのパネルトークを終えて、最後にセッション中にも登場していたKARTE Signalsについて紹介するお時間をいただきました。

KARTE Signalsは、1st Party Dataを活用して広告効果を改善するためのプロダクトです。CPAやLTV、ROASなどの広告効果を可視化する「Signals Dashboard」やCV補完や精度の高いターゲティングによって事業収益につながる広告配信最適化を行う「Signals Connector」を提供しています。
パネルトーク、そしてプレイドからのお知らせを終えた後は交流会タイム。イベントの途中でもグループでのコミュニケーションなどを通じて、ゆるやかに交流できていたこともあってか、交流会もにぎやかな様子でした。


今後もマーケティングの課題解決につながるテーマを取り上げて「ふかぼりから新しい気づきを得る」ために、開催していけたらと考えています。お楽しみに!