「お客様を基点」に発想する。三陽商会「CRESTBRIDGE ONLINE STORE」 の五十嵐さんが意識する習慣
長年にわたってEC/デジタルマーケティングの世界で活躍する三陽商会の五十嵐さんに、これまでのキャリアやお客様への向き合い方などのお話を伺いました。
1943年に設立された株式会社三陽商会(以下、三陽商会)は、自社ブランドに加えて海外ブランドと提携し国内で展開する総合アパレル企業です。2022年4月には、4つの実店舗とECサイトの顧客データを統合してCXを高めるための実証実験を実施しました(参考プレスリリース)。デジタルを活用した新しい取り組みにも挑戦しています。
三陽商会でEC/デジタルマーケティングを担当してきた五十嵐弦太さんは、2007年に新卒で入社。自社ECサイト「SANYO iStore」に携わった後、現在は「CRESTBRIDGE ONLINE STORE」の運営責任者を務めています。長年にわたってEC/デジタルマーケティングの世界で活躍する五十嵐さんに、これまでのキャリアやお客様への向き合い方などのお話を伺いました。
大学生時代のアルバイトで小売業に出会う
五十嵐さんの学生時代は、どのようなことをされていましたか?
大分昔の話ですが、大学生時代に総合スーパーでアルバイトをしていました。アルバイトにも裁量権を与えてくれるお店で、品出しやレジ打ちだけでなく発注業務などをやらせてもらいました。
私は割りばしやお弁当洋品などの発注をしていました。地域の運動会などのイベントや天気によって売上が上下する商材で、POSデータと天気予報、地域のイベント日程を見ながら売上の変化を予想しての発注業務は、とてもやりがいがありましたね。
これらをデータと呼ぶのは大袈裟かもしれないですが複数の要素を組み合わせて予測し、工夫をすることに面白さを感じていました。
大学ではアルバイトにのめり込んでいて、一時期は社員さん以上に出勤していました。今思えば、このアルバイトが小売との出会いで今の会社に入社する一つの要素だったのかもしれません。
大学生時代のアルバイト経験が契機となり、三陽商会に新卒入社されたのですね。入社後にどのような経緯でウェブやECに関わるようになったのでしょうか?
入社してから約1年間は、販売研修として店舗に勤務し、その後の配属で百貨店営業の担当となりました。私は2007年に新卒入社したので、2008年から百貨店営業をスタートし、2011年に三陽商会のECサイト「SANYO iStore」の運営部署に異動しました。
これからECをさらに成長させるというタイミングだったかと思います。それがEC/デジタルマーケティングのキャリアのスタートです。
EC/デジタルマーケティングのキャリアのスタート
ウェブビジネス部に配属された当時、五十嵐さんはウェブやテクノロジーに詳しかったのでしょうか?
ほぼ知識がない状態でスタートして、まずは業務の中で学んでいきました。分からない単語はその都度メモして後で調べてといった感じで手探り状態でした。
そのような状態からのスタートで、どのような業務を担当されていましたか?
百貨店営業で紳士服のブランドを担当していたので、そちらをメインにEC担当業務をしていました。それに加えてECサイトの商品撮影業務も担当していましたね。撮影事務所とのやり取り(スケジューリング物量調整)や納品物のチェック、サイトへの商品登録からサイトのメンテナンスまでさまざまです。
ただ、当時は少数のメンバーでの運営ということもあり、担当業務だけを行うというよりもメンバーが垣根なく業務にあたるという意識で働いていたように思います。例えばお客様のお問い合わせが多かった際にはみんなで電話やメールの対応もしていました。
当時、チーム内にもデジタルマーケティング担当はいましたが、同様にいい意味で垣根がなかったので、連携して業務にあたることも多かったです。早い段階でEC/デジタルマーケティングに関わる業務に網羅的に携わることができたのは貴重な経験だったと思います。
「届けたい対象に情報を届ける」。課題解決のためにKARTEを導入
2017年にKARTEを導入いただきました。五十嵐さんは導入に関わられていたのでしょうか?
はい。導入時点では、私はデジタルマーケティングチームに所属していたので、そこで導入に携わりました。
当時はウェブ接客ツールが世に出始めたタイミングと記憶していて、販促の最大化をするためにいくつかのツールの導入検討をしていました。例えば販促として効果が高かったメールマガジンでも、そもそも購読登録していない方には届けられません。オンライン広告も同じようにすべての人に情報を届けられるわけではありません。情報を届けたいお客様に届けられないという状況に課題を感じていました。そうした課題を解決できるツールの導入を検討し、最終的にKARTEを導入することになりました。
KARTEを初めて触ってみたときに、当時どう思われたか覚えていますか?
まず、管理画面が見やすく直観的に操作できるなと思った記憶があります。さらに機能としてもアップデートを頻繁にされていたので、要望を伝えれば柔軟に対応していただけるというところが伴走感もあり心強かったと感じていました。
初期のミートアップやイベントにも来ていただきましたが、どういうモチベーションで来ていただいていましたか?
イベントでは、KARTEの新しい機能アップデートの情報はもちろん、他社事例も交えた情報も得られます。それに加えて、横のつながりの有難みを非常に感じましたね。ざっくばらんに他社さんとお話しする機会がありました。他社の担当者とつながる機会というのはあまりないので、同じKARTEを使うもの同士、有意義な時間だと感じていました。
また、他社の方と連絡先を交換させていただく中で、気になるリリースなどがあれば後日個別に連絡することもありました。
メールマガジンやプレスリリースサイトを情報収集に活用
ウェブ、テクノロジー周りの進化のスピードはとても早いと思いますが、どのように最新の情報を得られていますか?
マーケティングやウェブ関連の情報サイトのメールマガジンは複数登録していて、そこから情報を得ています。他には、各社のプレスリリースを頻繁に見ています。そこで「こういうサービスもあるんだな」と情報を得て、気になるものはその後についても追いかけでチェックしています。あとは他社さんのサイトを定点観測することで情報収集もしています。
社内やチーム内で最新の取り組みやツールの情報を共有する取り組みはあるのでしょうか?
関連部署間で情報共有のためのミーティングを実施しています。部署ごとに何かを導入するとか、何かを始めたいときにはそのチーム内はもちろんですが関連部署にも周知されます。そうすれば、取り組みやツールの導入に相乗りしたいとなった場合に、スケールメリットで費用が安くなることもありますから。
KARTEについては私の部署でも他部署でも使っているので、お互いにアカウントを見に行けるようにしています。施策効果については定期的に担当者でミーティングを行う中で共有して、細かい施策設定については各自がアカウントを横断して確認をするなどしています。
ウェブ、テクノロジー周りに限らず、普段はどのようなところでどのような情報に触れることが多いですか?
SNSチェックは日常の情報収集の中で習慣化をするようにしています。InstagramやTwitter、TikTokは毎日複数回チェックしています。それに加えて、お店に足を運ぶことも大事です。EC化率が高まっているとはいえ、やはり実店舗が核になりますので、百貨店や商業施設にいらっしゃるお客様、また自社や他社の実店舗を実際に見ることで学びがあると考えています。
KARTEによってお客さまを「基点」として考えることが定着
五十嵐さんが普段CXやオンラインの体験を良くしていくために考えていることを教えてください。
お客様を「基点」として考えることが定着したのは、KARTEを導入してからだと感じています。他のツールは事業者目線で施策や訴求の最大化を設計しているのに対し、KARTEはお客様が「基点」になっており、また拡張性や応用性があります。実際にKARTEを触るようになって、お客様基点で発想することが自分の中で習慣化されていきました。
ECサイトは、訪れるお客様に商品を買ってもらうことが評価指標になります。といっても、実際にサイトに訪れ商品を購入されるお客様より何も購入されないお客様の方が圧倒的に多いという現実があります。例えば、ECサイトに来てくれるお客様の中には、購入は実店舗で行い、商品ラインナップをチェックしたり、キャンペーン情報を得る事を目的にサイトに訪れる方も多くいらっしゃいます。このようなECサイトを購入目的ではなく訪問されるお客様に対して、事業者目線で無理にECサイトで購入してもらおうとするのは乱暴だなと思いますし、この点はEC担当者としても運営上意識しておかなければならないポイントだと考えています。
ECサイトは購入という体験だけを提供するものではないと捉え、ECサイトをブランド体験のハブとして整備し、どのような役割がECサイトでできるかという視点は常に頭に置いています。
「なぜ、お客様がそう思ったのか」を深掘りする習慣を身につけてもらう
お客様がどのような気持ちになるかを想像しながらということですね。新しくKARTEを触る方が増える際に、そうした考え方を伝えることはあるのでしょうか?
KARTEを初めて触るメンバーに説明する際、KARTEで何ができるかという話よりもまずはお客様の理解をどのように深めていくかの話をします。KARTEを教えながら、「なぜ、お客様がそう思ったのか」を深掘りしてもらう習慣を身につけてもらうようにしています。先ずはお客様に寄り添ったうえで、どのようなことをやりたいのかというアイデア出しをすることが大事と考えているからです。
そのアイデアに対してKARTEを使ってできるのであれば使えばいいし、KARTEにとどまらず横断的に実店舗で何かする必要があるのであれば、部署を超えて連携しながら進めていければいいと思っています。
ツールありきではなく、お客様の「なぜ」を考えるということですね。その中でKARTEや当社のメディアは思考において役立っていますか?
すべて役立つものと考えています。特に他社さんの事例については、常に最新版をキャッチアップしようとしています。その際には別に業界が違っていてもいいと思うのです。その会社や担当者がお客様や生活者の困りごとや問題点をどのように捉えているのか、それをKARTEを使ってどのように解消しているのか、そうした事例を自分たちに応用したり、置き換えられないかと考えており、非常に参考にしています。
答えはないかもしれないけれど、深掘りして考える
これから新しくウェブやデジタルマーケティングを担当する方、KARTEの担当になる方に向けてアドバイスをください。
あまり難しく考えたり、心配しなくていいと思います。プレイドさんのセミナーやイベントで他社さんと話をすると感じるのですが、つまずく部分、問題に思う部分はみなさん共通していると思います。例えば、課題は明確であるが解決アイデアの数出しに苦労していたり、施策実行の際にデジタル理解度が異なる組織間の調整に苦戦したりといったことです。
これからぶつかる壁があるとすれば、大体みんな一緒なので社内の経験者の知恵を借りたり、他社事例などを参考にしながら焦らず取り組んでいけばよいと思います。
あとは個人的には深掘りして考える癖があるといいと思っています。理屈ではなく「そういうものだ」と理解しているようなことも、「何でだろう?」と考えます。その「何でだろう?」が重なっていくと、仕組みについての解像度が高まって思いがけずいいものにたどり着くことがあったりします。
それに仕組みをしっかりと考えることによって、失敗したときに改善点が明確になります。深掘りして考えることで、失敗の原因や改善点に気付けるようになるはずです。
今後、五十嵐さんはどのようなキャリアを考えていますか。今後のやりたいことや野望を教えてください。
以前はECでの顧客体験を店舗体験に近づけていきたいと考えていました。今までは、店舗体験が顧客体験としては一番良いと思っていて、それをEC上でもうまく表現する方法はないのかと考えていました。でも最近、少し考え方が変わってきました。店舗やECなど、チャネルごとに特性や良さは違います。当然、お客様の求めていることもそれぞれ違ってくると考えると、お客様がECサイトに期待していることは何だろうか?その部分の解像度を上げて顧客体験の1チャネルとしてECサイトに何ができるのかについて考えていく必要があるのではと思っています。
その一方でチャネル基点で顧客体験を設計してしまうのは、ある種の事業者目線になりがちです。お客様の多くは複数のチャネルを横断してブランドを体験します。事業者側も横断的にすべてのチャネル担当者が顧客基点で体験設計していくマインドセットができればと思っています。
何となくデジタルツールを入れるとデジタル化した感じになりますが、そうではなくてツールはあくまで手段です。どのように社内に「デジタル」を浸透させていくか、デジタルを使い顧客理解や課題の理解をより高めてもらい、課題解決にデジタルを使ったほうが良ければ使ってもらう。そのように社内のデジタル化を進め、顧客基点でチャネル横断的に体験価値を高めていく仕組み作りをしていきたいと思っています。