ユーザー起点の分析から導き出した注力すべき「6ページ」。ユーザーが求める情報を適切に届けるための、グロービス経営大学院の取り組み。
グロービス経営大学院では、KARTEを活用して「ユーザーが求めている情報」を分析し、適切な施策を実施することで大幅なCVR向上を実現しました。どのように活用を進めていったのか、学校法人グロービス経営大学院のマーケティングチーム WEBユニットの荒木伸哉氏にお話を伺いました。
グロービス経営大学院は、学校法人グロービス経営大学院が運営する、日本最大の入学者数を誇るビジネススクールです。ビジネスパーソンの学びの場として、将来のビジネスリーダーを目指す20代の若手から長いキャリアを持つエグゼクティブまで、多様なビジネスパーソンに選ばれ続けています。
グロービス経営大学院が抱えていた「大学院のホームページ上のユーザーの動きが把握できず、効果的なマーケティング施策が打てない」という課題を解決するために導入されたのがKARTEでした。
同法人では、KARTEを活用してユーザーが求めている情報を分析し、適切な施策を実施することで大幅なCVR向上を実現したといいます。どのように活用を進めていったのか、学校法人グロービス経営大学院のマーケティングチーム WEBユニットの荒木伸哉氏にお話を伺いました。
「世界ナンバーワンのビジネススクール」を目指す
まずは、グロービス経営大学院のミッションや目標を教えてください。
荒木:私たちは「創造と変革のリーダーを輩出する」をミッションに掲げ、MBAプログラムを提供しています。目標としているのは、「テクノベート*時代の世界No,1MBA」です。2024年4月には日本語プログラムで977名に達し、在校生・卒業生は合計1万2,000人を超え、日本最大のビジネススクールに成長しています。
日本国内に限って言えばトップシェアのビジネススクールですが、まだまだ世界No.1とは言えません。もちろん、何をもってNo.1とするかには議論の余地があります。私たちは、国内に留まらず海外にもキャンパスや学生の数を増やし、授業の質を高めることで、グローバルに活躍するたくさんの創造と変革のリーダーを輩出し続ければ、「世界No.1MBA」という評価が得られるのではないかと思っています。
*テクノベート:テクノロジーとイノベーションを掛け合わせた造語
学校法人グロービス経営大学院 マーケティングチーム 荒木伸哉氏
カリキュラムにはどのような特徴があるのでしょうか?
荒木:従来のビジネススクールでは「ヒト・モノ・カネ」に関するノウハウを学びますが、グロービス経営大学院では、独自の「思考」「テクノべート(テクノロジー×イノベーション)」「志」「創造」「変革」領域を追加したカリキュラムを用意しています。
いずれの領域においても、実践につながる知識の提供を重視していることも特徴です。グロービスは大学院の運営以外に、年間3,300社を超える企業に研修・人材育成サービスを提供し、ハンズオン型のベンチャーキャピタル事業も展開しています。
グロービス経営大学院のカリキュラムには、そういった研修やベンチャーキャピタル事業の中から得られた知見を反映しているんです。リアルなビジネス現場で培われたノウハウが詰め込まれているため、学生の皆さんが学んだ翌日からでも行動に移し、その後何度でも振り返ることで、実務で使いこなすための実践力が身につきます。
また、学びにも特徴があります。グロービス経営大学院では、「予習」「授業」「復習」のサイクルを重視し、受講前には必ず予習を行い、自らの意見を明確にした上で授業に臨む。授業は現役実務家の教員がファシリテーションし、座学ではなくディスカッション中心で進みます。
グロービス経営大学院のカリキュラムの全体像
在校生のみなさんは、働きながらスクールに通われているのでしょうか?
荒木:そうですね。日本語MBAプログラムに通われているみなさんは基本的に平日日中は働きながら、平日の夜か土日に授業を受けています。働きながらでも通いやすいよう、授業の振り替えを可能にし、オンラインでも授業を受けられるようにするなど、みなさんが学びやすい仕組みを整えています。
施策を“ラッキーパンチ”で終わらせないための、「ユーザー起点の分析」
マーケティングチームの一員として担当している業務について教えてください。
荒木:私はマーケティングチームのWEBユニットに所属しており、個人向けのマーケティングを担当しています。期待役割としては、大学院のホームページ経由の体験クラス・説明会への申し込み数の最大化です。体験クラス・説明会とは、主にクリティカル・シンキングの授業の一部を体験し、グロービス経営大学院独自のカリキュラムや学び方を説明するもので、実際の受講申し込みにつなげるための場となります。
申し込み数を増やすうえで、どのような課題がありましたか?
荒木:サイトに訪問したユーザーに体験クラス・説明会のお申し込みをいただく上での最大の課題は「ユーザーの行動が把握できていないこと」でした。私は、2022年5月に入社したのですが、2021年までのサイトはとても情報量が多く、構造も複雑だったと聞いています。
情報量が多くなってしまうのは、私たちが提供するサービスが無形かつ高単価であることも影響しています。特定の科目のみを履修する単科生の授業料は1科目あたり約13万円、2年間でMBA取得を目指す本科生は総額で約320万円ほどの受講料がかかりますし、決して安いお買い物ではありません。そのため、ユーザーのみなさんが比較検討できるようにと、サイトの情報を充実させてきた背景があります。
加えて、「どれくらいのユーザーが、どのページを見たか」などの数字は見られても、ユーザーの動きが把握しきれない状態。申し込み率向上のために改善しようにも、どこから手を付ければいいかわからない状況だったそうです。
そこで、2021年にサイトをリニューアルし、そのタイミングで情報を整理し、ページ数も大幅に削減しました。そのタイミングで、ユーザーの動きを把握し、ウェブサイトの改善につなげるためにKARTEを導入したと聞いています。
では、前任の方から引き継ぎを受けてKARTE活用を進めていったということですね。
荒木:そうですね。ただ、私は前職で広告の制作会社のプランナーをしていて、KARTEに携わったことはありませんでした。引き継ぎはあったものの、実際には自分でいろいろと触ってみないと理解が進まないなと思い、とにかくさまざまな施策を試しました。試行錯誤を繰り返し、ようやくKARTEを用いた施策で成果を出せたのは入社から約半年後のことです。
成果が出たのはどのような施策でしたか?
荒木:2022年12月末から「大学院スタッフがグロービスでの学び方を紹介する」内容の動画をポップアップで配信したところ、2023年1月から8月の間にいただいたお申し込みのうち、約6%がこの施策経由という結果になりました。一つの施策によって、こんなにもたくさんのお申し込みを獲得できることを実感し、KARTEの活用を加速するきっかけになりましたね。
ただし、このときの施策内容は何かしらの分析に基づいて考案したわけではなく、正直に言えば、結果的にうまくいっただけ。しっかりとユーザーの動きなどを分析した上で講じる施策を決定しなければ、再現性を担保できないと感じていました。
そこからどのように分析を進めたのでしょうか。
荒木:まずは成果をあげた施策に関するデータを見ながら、なぜうまくいったのかを検討していきました。例えば、スタッフが顔を出したことで親近感が湧き、申し込みに対する心理的なハードルが下がったのではないか、など。こうした分析や振り返りを通じて、施策期間中にユーザー層が変化していたことに気付けました。
一般的にビジネススクールの入試は1月頃と9月頃に実施されます。つまり、9月にビジネススクールの情報を集めている方は入試を受けることを前提に動いている方が多く、親しみを感じてもらう、あるいはハードルを下げることを目的とした施策の効果は薄いのではないかと。
実際、8月までは大きな成果を出していた施策が、9月に入った途端にこの施策経由のお申し込みが途絶えてしまった。その後も改善が見られなかったため、12月途中で施策を停止したんです。このことをきっかけに、施策の内容だけではなく、ユーザーの属性やサイト内での動きも含めて、ユーザー起点の細かな分析を実施する必要があると、より強く考えるようになりました。
PDCAサイクルを回し続けることで見えてきた「勝ち筋」と「限界」
その後は順調に施策で成果を出せたのでしょうか?
荒木:いえ、動画のポップアップ以外に大きな成果につながる施策を生み出せていなかったことに焦りを感じていました。そんな折、大阪で開催されたKARTE Friends Meetupに参加したんです。そこである企業がユーザーのセグメントを絞り、数多くの施策を実施することで、PDCAサイクルを回すスピードを上げて成果につなげていることを知りました。
KARTE Messageで“ユーザーに必要な情報だけ”を届ける。ネクイノのカスタマーサクセスによる継続率改善の取り組み | KARTE Friends Meetup in KANSAI vol.1
この事例を参考にして、年次が浅い2人のメンバーを巻き込み、1ヶ月間で考えつく限りの施策を試すプロジェクトを立ち上げました。目標は、50個の施策を企画し、配信すること。施策の作成とその振り返りは各メンバーごとに毎日実施し、毎週開催される定例会議の場で進捗と検証内容を共有。最終的には1ヶ月間で59個の施策を実施できました。そうして効果が期待できる施策とそうでないものを、ある程度絞り込んでいったんです。
1ヶ月で59件の施策を企画して、分析まで……。かなりの数ですね。
荒木:配信するセグメントを絞ることで影響範囲を抑えつつ、アイデアが出たらとにかく配信することを繰り返していました。プロジェクト期間が終了したのち、細かな振り返りをしたところ「鉄板」というか、高い確率で成果が期待できる施策のパターンが見えてきたのです。
しかし同時に、限界も感じ始めていました。アイデアは出し尽くしてしまい、これ以上できることはないのではないかと。
どのようなところから限界を感じたのでしょうか?
荒木:サイトにはたくさんのページがありますが、PDCAサイクルを回していく中で、お申し込みにつながるページは全部で10ページほどしかないのではないかという感覚を得ました。それらのページを閲覧しているユーザーをセグメント化し、そのセグメントに向けた施策を出し尽くしていたんです。
一定の成果を挙げられていましたが、すでに思い浮かぶアイデアはすべて実施したのに、目標に掲げていた数字にはまだまだ遠い。目標達成のためには接客を配信するだけではなく、新たなアプローチが必要だと考えるようになりました。
そのとき思い出したのが、プレイドのカスタマーサクセスの方から提案をいただいていた「KARTE Datahub」です。KARTE Datahubを導入すれば、ユーザーのデータや行動データ、オフラインデータなど、分断されているデータベースを統合でき、ユーザーの解像度を上げられるのではないかと。Salesforceに蓄積されている顧客情報とKARTE上のデータを連携させることで、より多角的に分析が進められると考え、2023年10月から本格的にKARTE Datahubの活用を開始したんです。
KARTE Datahubを活用した分析で導き出した、注力すべき「6ページ」
KARTE Datahubを活用して、どのような分析を実施したのでしょうか。
荒木:Salesforce上で管理していた過去にお申し込みに至った方々のデータと、KARTEで分析していたサイト上での行動データをKARTE Datahubで統合して分析することで、ホームページのどのページを見て実際にお申し込みに至ったのかを見ていきました。そうして割り出した「コンバージョン経路」が判明したことがとても大きかったです。
2021年のリニューアルによってかなり情報が整理されたとはいえ、現在もホームページにはたくさんの情報が載っており、その量は100ページ以上にも及びますが、KARTE Datahubを導入して分析した結果、コンバージョン経路となる重要な6ページを発見できたんです。
KARTE Datahubを用いたコンバージョン経路の分析内容
その6ページとは、どのようなページなのでしょうか。
荒木:「単科生制度の概要」「入試概要・募集要項」「学費・教育訓練給付金」「カリキュラム」「オンラインMBA」「はじめての方へ」の6ページです。お申し込みに至った方が他のページも見ていたとしても、基本的にはこの6ページが主なコンバージョン経路になっている。であれば、この6ページにリソースを集中させ、これらのページ上で施策を配信するべきだと判断しました。
また、顧客情報と紐付けてコンバージョン経路を分析した結果、本科生(大学院に入学した方)の多くが「入試概要ページを見た上で体験クラスや説明会に申し込んでいる」ことがわかったんです。従来は、入試概要ページは「単科生制度を利用して何科目か受けた方が出願前に閲覧するページ」という位置づけでした。
しかし、分析によって、体験クラス・説明会に申し込む前から入試に関する情報を確認する、モチベーションの高いユーザーが一定数いることが見えてきたのです。そこで、ページ数の多いサイトのなかでモチベーションの高いユーザーが入試概要ページを見つけられていないのではないか、という仮説のもと、現在は「出願スケジュールを確認しましょう」といったメッセージで入試概要ページへとリンクするポップアップを配信しており、これが大きな成果を出しています。
KARTE Datahubを活用した分析も、荒木さん自身が担当されていたのですか?
荒木:そうですね。ただ、KARTEの運用を担当するようになった時点では、データベース言語に関する知識はありませんでした。分析のためのクエリを書いた経験もなく、KARTEに触れながら学んでいました。
そんな私でもすぐにさまざまな分析ができるようになったのは、KARTE Datahubにクエリコレクションがあったからです。クエリコレクションがあったからこそ、比較的すぐにデータベース言語の構造が理解できましたし、クエリの組み合わせと調整、そして失敗を繰り返すうちに、さまざまな分析ができるようになっていましたね。
その他、KARTE Datahubを導入して詳細な分析ができるようになったことで生まれた変化はありますか?
荒木:はい。これらの分析結果を他チームに共有して、さまざまな波及効果が生まれています。たとえば、実際にお申し込みに至った方に単体で最もよく見られているのは「単科生制度の概要」ページだという分析結果を、ホームページの改修を担当するメンバーに共有。共にページに記載する内容を検討しました。その結果、単科生制度のメリットを訴求する前に、グロービス経営大学院自体の特徴を端的にまとめた内容を追加。ページの改修によって、このページからの申し込み率が向上しました。
数字を元に他チームのメンバーにも「今取り組むべきはこれだ」と伝え、共通認識を持って改善に取り組めるようになった影響は大きいですね。
「単科生制度」の概要ページには、大学院の特徴が掲載されている(2024年7月18日時点のキャプチャ)
分析を深め、ユーザーが必要としている情報を「掘り起こす」
他にも、社内でKARTEやKARTE Datahubの活用が進んでいるのでしょうか?
荒木:そうですね。私たちのチームがこれまでに得た知見を、他チームに共有することで、これまでにはなかった取り組みが生まれています。たとえば、学生募集企画チームでの活用。
2023年5月頃、学生募集企画チームがコロナ禍以降オンライン中心になっていた体験クラス・説明会をキャンパスでの開催中心に戻すことを検討しており、ユーザーのみなさんがこの変更を好意的に受け入れてくれるかどうかをKARTEで確認しました。
どのように確認をしていったのでしょうか?
荒木:体験クラス・説明会の申し込みページでは「キャンパスで参加」「オンラインで参加」を選択できるようになっており、コロナ禍の間は「オンラインで参加」をデフォルト表示にしていました。
この「キャンパスで参加」をデフォルト表示にしてA/Bテストを実施しました。その結果、全体のCVRに影響はなく、オンライン参加申し込みの減少分とキャンパス参加申し込みの増加分がほぼ一致したのです。それで、切り替えて問題ないという判断になりました。
現在の体験クラス・説明会申し込みページ。「キャンパスで参加」がデフォルト表示されている(2024年7月18日時点のキャプチャ)
KARTE Datahubを導入してより多角的な分析が可能になった後は、学生募集企画チームとの協働もより一層強化しました。同チームが体験クラス・説明会を通じて参加者から直接得た情報と、KARTEのデータを組み合わせてサイトの改善につなげるUX改善プロジェクトを推進しています。
今後、KARTEを活用してどのようなことにチャレンジしていきたいと考えていますか?
荒木:分析をパワーアップさせたいですね。KARTEを導入したことによって、サイト上でのユーザー起点の分析ができるようになり、さらにKARTE Datahubによってユーザーに関する他のデータと統合した分析が可能になりました。その分析内容を施策につなげられるようになったとはいえ、まだまだできることがあると思っています。
現在は主要なCV経路である6ページの改善に注力している段階ではありますが、やがて出せる成果も限界を迎えると思うので、その次のステップに挑んでいきたいですね。分析の結果を踏まえて、ユーザーのみなさんに届けるべき情報を見出し、それらの情報をしっかりと届けるための施策につなげていきたいです。
あとは、他チャネルとの連携も強化したいですね。広告など流入チャネル別の行動分析はまだ着手し始めたばかり。今後は広告を運用しているチームとも連携してユーザーが必要とする情報を届け、事業にインパクトを与える施策を実行していきたいと考えています。