旅の定番「るるぶ」はデジタルでどう進化したか。KARTEを活用した「るるぶ+」のグロース戦略と実践
株式会社JTBパブリッシングは、2024年4月に新たなデジタルサービス「るるぶ+」をリリース。プレイドではCXパートナーとしてサービスの立ち上げから、KARTEシリーズを使ったグロースまで支援しています。本記事では、KARTE シリーズの導入背景から活用方法と成果、そして今後の展望を伺いました。
株式会社JTBパブリッシングは、JTBグループで旅行・ライフスタイル情報を提供する会社です。同社が発行している、誰もが知る旅行雑誌「るるぶ」は2010年には発行点数世界最多のガイドブックシリーズとしてギネス世界記録™に認定され、2023年には誕生50周年を迎えました。
同社はデジタル領域での事業成長を目指し、2024年4月に新たな旅・おでかけのデジタルサービス「るるぶ+」を立ち上げました。プレイドでは「るるぶ」がこれまで培ったブランド力を活かしたデジタル変革を支援しており、その一環として「るるぶ+」にも伴走しています。
今回、JTBパブリッシング メディアコミュニケーション部 るるぶ+編集部 の阿部 誠司さん、荒川 真穂さん、武内 夏子さん、デジタルマーケティング デジタル営業戦略の伊藤 洋輔さん、沖本 和晃さんの5名にインタビューし、KARTEシリーズの導入背景から活用方法と成果、そして今後の展望を伺いました。
「るるぶ」の世界観を保ちながら、デジタルを活用して良質な体験提供を目指すサービス
まず、みなさまの役割について簡単に教えてください。
阿部:「るるぶ+」チームでサービス全体のマネジメントを担当しています。各種施策の管理をはじめ、提携している旅行サイトとの連携や、アプリの機能改善にも取り組んでいます。チーム全体を統括しながら、より良いサービスづくりを目指しています。
荒川:同じく「るるぶ+」チームで、アプリの運営を担当しています。KARTEを活用したポップアップやキャンペーン、プッシュ通知などの施策は私が作業することも多いです。以前は、観光データベースの管理・運用を担当していました。
武内:私も「るるぶ+」チームで、Webやアプリの運用を担当しています。現場で指示する立場のこともあれば、KARTEでの接客の設定などを行うときもあります。阿部と荒川のちょうど中間くらいのポジションですね。
伊藤:デジタルマーケティング領域を担当しています。「るるぶ+」やその他の自社オンラインメディアで、KARTEを導入・推進し、その魅力を最大限に引き出すための調整役として関わっています。
沖本:伊藤と同じく、デジタルマーケティングのチームに所属し、社内のオンラインメディア全体のKPIマネジメントを行い、KARTEをはじめとしたツールの導入や運用支援にも取り組んでいます。「るるぶ+」にはリリース当初から携わっており、サービスの成長を見守りながら日々業務に取り組んでいます。
サービス紹介動画「1分でわかる!『るるぶ+』」
「るるぶ+」はどのような背景で立ち上がったのでしょうか?
阿部: 大きく2つの目的がありました。ひとつはデジタル領域での顧客接点拡大、もうひとつはデジタル接点で得たユーザーデータを活用して顧客体験を良くすることです。
人々が旅行に関する情報収集をするとき、「るるぶ」のようなガイドブックを手に取るのは目的地が決まった後です。一方で、人々は目的地の検討に時間をかけており、ここはデジタルが主な場となっていると認識しています。
このデジタル領域において、「るるぶ」が培ってきたコンテンツの編集力を活かして価値を提供し、お客様に認知してもらうことによって、私たちが提供する商品の購入にもつなげていけないかと考えていました。
また、良質な体験の提供は、良質なユーザーデータの取得にもつながります。得られたデータを利活用することによって、アプリを利用していただいているお客様へのサービス向上に限らず、BtoBやBtoG(Business to Government)の領域における事業成長にもつながっていくだろうと。

株式会社JTBパブリッシング メディアコミュニケーション部 るるぶ+編集部 マネージャー 阿部 誠司氏
柔軟にセグメントを設定し、ユーザーが求める情報を適切に届ける
「るるぶ+」には、サービス立ち上げ前の段階よりプレイドが伴走させていただいています。きっかけはなんだったのでしょう?
阿部:もともと、プレイドさんとユーザー体験の向上を目指したアプリのリニューアルについて議論していました。その過程で、オンライン事業の全体像を描くことになり、その相談を入口としてるるぶ+アプリの立ち上げから運用まで、現在の「PLAID ALPHA」の方々に伴走していただく形で事業を進めてきました。
「るるぶ+」の立ち上げ当初は、KARTEをどのように活用されていましたか?
阿部:最初は「るるぶ+」のアプリ自体がローンチしたばかりということもあり、まずは利用していただいているユーザーを知ること、利用を継続してもらうことにフォーカスして、KARTEを活用しました。特に、回遊性や継続率を上げるための施策を考案・実行していきました。
武内:弊社の他のオンラインメディアでKARTEを使っていたのですが、そのまま施策の流用はできません。「るるぶ+」のリリース前は、まだユーザーデータがない中でどのように進めるかを議論し、リリース前には約20件ほどの施策を準備していました。
アプリリリース後に実際に試してみた結果、効果が良い施策もありましたし、中には的外れな施策や設定がうまくできておらず配信できない施策もありました。また、クリエイティブ面では、本来は簡潔でシンプルな色使いにするべきところ、デザインが過剰になってしまうケースも見受けられました。こうした経験から、実際にやってみなければ分からないことが多いと学びましたね。

株式会社JTBパブリッシング メディアコミュニケーション部 るるぶ+編集部 荒川 真穂氏
荒川:KARTEを使って、特定のページをレコメンドするポップアップやプッシュ通知などの施策を行いました。KARTEは初めて使いましたが、直感的に使える操作性の良さに加えて、テンプレートの豊富さや手厚いサポートにも助けられ、徐々に使い慣れていきました。
武内:「るるぶ+」を利用しているユーザーに対して、宿泊予約を促すタイミングやメッセージ内容を試行錯誤していて、ここでもKARTEは役立っています。いきなり予約を促しても、旅先のイメージが分からなければ行動にはつながりません。旅の魅力が最高潮に達したタイミングで予約を促す接客を出す必要があります。接客の文言などもA/Bテストで比較して、効果的な表現を追求しています。

株式会社JTBパブリッシング メディアコミュニケーション部 るるぶ+編集部 アプリ・Webサービス担当マネージャーの武内 夏子氏
その他にも、リリース後に実施した施策で印象的だったものを教えてください。
武内:「るるぶ+」をリリースした直後は、ログインに関する問い合わせが多数あり、対応する必要がありました。既存のWebメディアとログインの仕様が異なるため、分かりづらい部分が多かったのだと思います。この問い合わせを減らすために、KARTEをフル活用し、お問い合わせフォームに進む前にFAQを読んでいただくように促したり、どの場面でお困りかをユーザーストーリー機能で把握しました。
あのタイミングで印象的だったこととしては、ユーザーに記事を読んでもらった後、関連性の高い記事をレコメンドする施策を用意したのですが、その記事をレコメンドする際のコピーを考えるのが大変でした。350記事ほどを全員で分担して、ひとり20本くらいキャッチコピーを書いたと思います。この作業ばかりは現時点では自動化できないので苦労しました。KARTEによって他の部分を効率化できたからこそ、こうした編集者らしい仕事に集中できたとも言えます。
行動データからユーザーの解像度を上げ、施策を発想する
その後、アプリの運用が進む中で、施策に変化はありましたか?
武内:リリース時はユーザーデータがありませんでしたが、データが蓄積されてからは、仮説も立てやすくなり、できることの幅も広がってきました。
荒川:より効果的なセグメントを意識するようになりましたよね。たとえば、リリース当初はアプリをインストールしている全員にプッシュ通知を送っても、高い開封率を記録していました。おそらくユーザーは始まったばかりのサービスとして「るるぶ+」を魅力に感じてくれていたのですが、日を追うごとに新鮮味が薄れて開封率が徐々に下がってしまったのです。
そこで、社内で議論していくつかのセグメントを作り、セグメントごとに異なる内容を配信することにしました。たとえば、関東エリアの旅行情報が追加されたときには、関連記事を読んでいたユーザーに絞り込んでプッシュ通知を送る仕組みにしています。
ユーザーの行動をもとに、関連性の高い新着記事をプッシュ通知でお知らせ。全配信と比べ、開封率は約1.7倍に。
こうしたセグメントの設定が自由にできる点などが非常に便利ですね。以前運営していたアプリでは、セグメント設定などを手動で行っていましたが、KARTEではその大部分が自動化できています。
アプリへの再訪率を維持する仕組みや、休眠ユーザーを掘り起こす通知も社内で話し合って設定しました。ユーザーデータに基づいて議論して、仮説を立て、施策を実行して結果が出るのは面白いですね。

初回起動の翌日と4日後にプッシュ通知を配信。再来訪を促進し、新規ユーザーのリテンション率を向上。
ジャーニー機能でプッシュ通知の配信を自動化。一定期間アプリを起動していないユーザーの休眠を抑止。
ユーザーの理解を深められたと感じたエピソードはなにかありますか?
武内:定量的なデータも大事ですが、生の声も大切にしようとオンラインでのユーザーインタビューを実施しました。このときも対象者の絞り込みにKARTEを利用しました。特定のページを見ていたり、過去に何度も来訪していただいている方をセグメントで絞り込み、アンケートを表示。インタビューに協力してもいいという回答をしてくださった方にだけメールで詳細をお伝えしたところ、7名の対象となるユーザーを集められました。従来のようにメルマガなどで呼びかける手法もあったと思いますが、KARTEを活用した呼びかけのほうが断然効率的だと感じています。
KARTEを活用し、ユーザーインタビューの対象者選定と募集を実施。サービス価値や課題、顧客ニーズを言語化。
沖本:対象者を絞り込んだあとも、個別のユーザーの行動を詳しく見ることができる「ユーザーストーリー」機能でチェックをして、フィルタリングを進めました。ユーザーインタビューでは、旅先の検索以外にも「地元の情報を見る」「過去の旅行先を振り返る」といった想定外の使い方がいくつか判明しました。単に旅行先を検討するだけでなく、さまざまな用途で活用されているようです。こうしたニーズを踏まえながら施策を展開し、その結果で得られたデータをさらに次の取り組みに活かしていきたいと考えています。

株式会社JTBパブリッシング デジタルマーケティング デジタル営業戦略 リーダー 沖本 和晃氏
他にも、ユーザーの理解を深めるために実施していることはありますか?
荒川:いくつかありますが、ユーザーによる複数の行動をひとつの流れでチェックできる「行動チェーン」を見るのは面白いですね。その結果を見ながら、プッシュ通知を開封した人がなにをしているのか、なぜその記事が気になったのかを分析することは、さまざまな施策のアイデアにつながります。
沖本:行動チェーンで、5〜6つほど分岐をつくることで、どこでユーザーが脱落しているのかがすぐに分かりますし、クリックした人とクリックしなかった人の行動を簡単に確認できます。少しずつユーザーの理解が進んできたので、今後はさらに解像度高く把握できるようにしていきたいですね。
課題を考え、アイデアを出し、施策を回し続けるためのルーティンをつくる
施策のアイデア出しはどのように進めていますか?
武内:プレイドさんとは毎週定例ミーティングを開催しており、課題や次に挑戦すべき方向性について意見を交換し、実装中の施策に対するアドバイスやその結果を踏まえた改善策を話し合っています。
プレイドさんとの定例ミーティングを踏まえて、社内でも1時間ほどのミーティングを行います。持ち帰った課題を振り返り、具体的なアクションを計画し、得意不得意も考慮しながら担当者ごとに割り振ります。このルーティンを続けてまもなく1年が経過しようとしているところです。
伊藤:紙のコンテンツは、誰がどのように閲覧しているかはデータで把握できませんが、「るるぶ+」をはじめ、デジタルメディアはユーザーの行動も可視化できますし、施策の評価がすぐに分かります。必然的に紙の書籍よりもPDCAサイクルを早く回すことができますが、このサイクルを回していくうえでも、定例ミーティングに助けてもらっています。

株式会社JTBパブリッシング デジタルマーケティング デジタル営業戦略 マネージャー 伊藤 洋輔氏
KARTEを利用していて、施策以外で生じた変化はありますか?
荒川:コンテンツの方向性が変わりましたね。従来は通年のコンテンツが多かったのですが、KARTEを通じて分析したユーザーの傾向に合わせて季節に合わせた旬のコンテンツが増えたように感じています。
阿部:コンテンツチームでは、「るるぶ」で出版された情報をベースに記事を更新するスケジュールが基本となっています。その中で、季節感を意識して「るるぶ+」オリジナルのコンテンツを出す動きが活発になっていますね。
今後は、季節感のほかにもニーズに沿ったコンテンツの調整も検討しています。KARTEに基づいて、どのエリアの情報が求められているのか、どんな食べ物が人気なのかを分析した上で、既存コンテンツをブラッシュアップして提供する予定です。
多様なコンテンツとユーザー基盤を活かしてサービスの成長を描く
今後、KARTEを活用して挑戦したいことがあれば教えてください。
荒川:ユーザーには「るるぶ+」との接点を増やしてもらいたいので、毎日ログインするメリットを提供できるような施策を考えたいです。近い将来、「旅行の際には必ず見るアプリ」という存在になるのがひとつのゴールだと思っています。そのために、普段から接点を増やしてユーザーの記憶に残るような取り組みをしていきたいですね。
沖本:コンテンツをまとめた特集である「カード」という世界観を、もっと活かしたいと考えています。カードらしいギミックや動的な表現を取り入れて、毎日触れても飽きない仕掛けや、ページをめくるワクワク感をつくっていけたらと考えています。

伊藤:私のチームでは媒体としての「るるぶ+」の営業も担当しており、「るるぶ+」のマネタイズをKARTEを活用して推進していきたいと考えています。従来は、クライアント企業に広告を出稿していただき、媒体に掲載して案件が完了していました。KARTEがあることで、広告を掲載して終わりではなく、広告への反応を継続的に確認し、改善ができます。そうすることで、クライアント企業にも喜んでいただけ、さらなる案件にもつながります。このような提案を多くの営業パーソンが実現できるように、KARTEを活用していきたいです。

長期的なサービスの展望について教えてください。
阿部:当社の持ち味は旅行情報ですが、投資や知育ジャンル、時刻表などをはじめとする鉄道関連の書籍も扱っています。実は旅行よりも日常と接点の多いコンテンツを複数持っているんですよ。こうした強みを活かして、徐々に「るるぶ+」にも展開していきたいですね。
さらに、BtoBでは「るるぶ+」のユーザー基盤を活用し、価値を感じていただける企業と連携してタイアップ記事を展開していきたいと考えています。もちろん主軸であるおでかけ情報にも注力し、国内旅行だけでなく海外旅行もカバーできるアプリにしていきたいです。
荒川:「るるぶ+」を訪れる理由となるコンテンツをさらに充実させていきたいと考えています。ID登録済のユーザーは徐々に増えているため、さらなる接点をつくる環境は整っています。今後は、各々のアカウントを軸にユーザーの輪が広がるような仕組みを作れたらと思います。使いやすさを追求しながら、「るるぶ+」とユーザーの接点を増やす方針です。
伊藤:当社はWeb、書籍、リアル店舗など多様なメディアを展開していますが、「るるぶ+」がそれらすべての入り口になればと考えています。接点が減少している書籍の役割をデジタルで補完し、旅行やおでかけを考えるすべての方の起点となるサービスを目指したいです。
記事内でご紹介した施策以外に「るるぶ+」で実施している施策事例は下記よりご確認いただけます。