サブスクリプションとは?顧客との関係構築が鍵になるビジネスモデル
今回は注目のビジネスモデル「サブスクリプション」について、定義やメリット、マーケティングへの影響を解説します。
音楽やソフトウェア、ファッション、交通など幅広い業界で、顧客が利用した期間に応じて料金を支払うサブスクリプションサービスが登場しています。
2019年10月に発行された「サブスクリプション・エコノミー・インデックス」によると、日本を含むアジア地域におけるサブスクリプションサービスの収益成長率は17.5%と日経株価指数の売上成長率を大きく上回りました。
今回は注目のビジネスモデル「サブスクリプション」について、定義やメリット、マーケティングへの影響を解説します。
サブスクリプションとは?
NTTデータ経営研究所はサブスクリプションを「製品やサービスを買い取る方式ではなく、製品やサービスを利用する権利を利用者が期間限定で借りて、借りた期間に応じた料金を支払う方式をとったサービス」と定義しています。
製品やサービスを利用する権利を一つのサービスとして提供する点で、特定の製品を貸し出すレンタルやリース、定期的に決まった製品を届ける定期購読とは異なるビジネスモデルです。
業界別のサブスクリプションサービス事例
サブスクリプションは音楽やソフトウェアに始まり、ファッションや自動車など幅広い業界で導入が進んでいます。以下では業界別に代表的なサービスを挙げます。
ソフトウェア
- Office365:WordやPowerPointなどMicrosoft Office製品をクラウドで定額利用できるサービス
- Adobe Creative Cloud:PhotoshopやIllustratorなどAdobe製品を定額利用クラウドサービス
デジタルコンテンツ
アパレル
美容・ヘルスケア
- Dollar Shave Club:月額1ドルから髭剃りの替刃を提供する米国のサービス
- Birchbox:月額15ドルから健康・美容関連商品のサンプルを届ける米国のサービス
建設・不動産
- スマートコンストラクション:建設機の管理状況や建設の施工状況をクラウドで管理できるICTソリューション
- ADDress:全国30拠点(2019年末時点)日本各地の家にすみ放題になる多拠点プラットフォーム
交通・旅行
なぜサブスクリプションが注目されているのか?
このように幅広い業界でサブスクリプションの導入が進んでいる背景には大きく二つの変化があります。
インターネットやデバイスの普及
一つ目はインターネットやスマートフォンの普及、 通信技術の発達です。著名投資家メアリー・ミーカーは、2017年の「インターネット・トレンド・レポート」のなかで、デジタル・ユーザーエクスペリエンスの改善によって、デジタルコンテンツのサブスクリプションが急増したと指摘しています。
多くの消費者がスマートフォンやパソコンを介し、膨大なデータをスムーズにやり取りできるようになった結果、音楽や動画、ソフトウェアなど、デジタルコンテンツを提供するサブスクリプションサービスが次々と登場しました。
所有から利用へ、消費者ニーズの変化
二つ目はモノの「所有」より「利用」を好む消費者の増加です。サブスクリプション管理プラットフォームを展開するZuoraが、日本を含む12ヶ国で18歳から59歳の男女を対象に行った調査によると、日本人の75%が「持っているモノを減らしたい」、72%が「人のステータスを『持っているモノ』ではかる時代ではない」と考えていました。「将来的には自分でモノを所有するよりもサブスクリプションを利用する人がさらに増える」と回答した人も68%に上ります。
こうした消費者のニーズの変化を踏まえ、アパレルや自動車業界など、従来はモノを販売していた業界においてもサブスクリプションの導入が進んでいます。
サブスクリプションサービスのメリット
それでは、提供する企業にとってサブスクリプションサービスは、どのようなメリットがあるのでしょうか。
継続的に安定した収益が見込める
サブスクリプションサービスでは顧客が定額料金を支払うため、顧客が解約しない限り、企業は安定した収益を得られます。ただしサービスの開始後、一定数のユーザー数を得るまで、一時的に収益は下がります。
顧客をより深く理解するための情報が得られる
顧客のプロフィールやサービスの利用状況を把握し、顧客の行動やニーズをより深く分析できます。それらの結果をサービス自体の改善や、他の事業にも役立てることができます。
新規顧客獲得のハードルが下がる
自動車など高単価な製品やサービスも、サブスクリプションサービスであれば比較的安価に利用を開始できます。従来獲得することが難しかった新規顧客にもリーチしやすくなります。
サブスクリプションでマーケティングはどう変わる?
このようにサブスクリプションは買い切り型とは大きく異なるビジネスモデルです。マーケターにも異なる役割が求められます。以下ではサブスクリプションによって、マーケティングがどう変わるのかを説明します。
継続した関係構築が重要になる
サブスクリプションサービスで利益を上げるには、顧客のニーズや期待に合わせたサービスを提供して既存顧客との関係を深め、契約更新や購入単価の向上(アップセル)を促すことが重要です。
一度の購買やコンバージョンだけでなく、その後の体験の満足度を高め、信頼関係を築くことがより重要になります。
そのため、製品やサービスを認知してもらい、見込み顧客を集め、契約を促すといった従来のマーケティング活動に加え、既存顧客と信頼関係を築き、契約更新やアップセルを促すことが重要になります。
見るべき指標が変化する
契約更新やアップセルに向け、一度のコンバージョン数や製品の購入数以外にも、幅広い指標をみて顧客の状況を把握する必要があります。
代表的な指標としては、顧客のサービス解約率を示すチャーンレート、顧客が利用期間を通じて企業にもたらすトータルの価値を示す顧客生涯価値(LTV)、顧客1人当たりの収益(ARPA)、顧客を1人集めるための平均コストなどが挙げられます。
複数部門との連携が不可欠になる
顧客と信頼関係を築くには、営業やカスタマーサポートなど複数部署との連携が欠かせません。あらゆるチャネルにおける顧客とのコミュニケーションの最適化が満足度の向上につながります。部署間での顧客データの共有や共通のKPIの設定が必要になります。
製品やサービス自体の本質的価値を高める
一度売って終わりではないからこそ、製品やサービス自体の本質的な価値向上もより重要になります。前述のKPIによって把握した顧客の状況を、マーケティングだけでなく製品やサービス企画にも活かし、改善サイクルを回していくことが重要です。
サブスクリプションサービスでのKARTE活用事例
顧客と信頼関係を築くには、顧客のニーズや行動を深く把握し、的確なコミュニケーションを図る必要があります。それらを効果的に行うにはツールの導入を検討しましょう。
CXプラットフォーム「KARTE」では顧客の情報やオンライン上での行動にもとづき、リテンションやアップセルなどを促すためのコミュニケーションを行えます。
以下ではサブスクリプションサービスにおけるKARTE活用事例を紹介します。
リテンションレート向上に成功:テレビ東京オンデマンド
テレビ東京の有料動画配信サービス「テレビ東京ビジネスオンデマンド」は、アプリ内の行動を分析、ニーズや関心に合わせたアクションを行う「KARTE for App」を導入しています。
同社はリテンションレート向上のため利用率の低い機能をポップアップで訴求。その結果、その機能を利用したユーザーの翌日におけるリテンション(継続)率は、実施前が32%だったのに対して、実施後は60%まで上がりました。
参考記事:アプリのリテンション率が約2倍に!テレビ東京ビジネスオンデマンドの事例
ヘルプへの的確な導線でユーザーをサポート:SmartHR
人事・労務ソフトウェアを展開する「SmartHR」ではユーザーの滞在ページや閲覧状況に合わせ、ヘルプページへの導線を表示。既存ユーザーが問い合わせ方法を把握できないことで、サービスの利用意向を失わないようにしています。
その結果、今までヘルプページに誘導できていなかったユーザーにページの存在を周知でき、ヘルプページ外の「よくある質問」からの問い合わせが減少しました。
参考記事:ユーザーのシーンに合わせた適切なサポートで利用促進(SmartHR)
ポップアップで有料会員化を後押し:マネーフォワード
家計管理アプリ「マネーフォワード ME」を展開するマネーフォワードは、KARTE for Appを活用して、有料プランへ移行するユーザーの割合(課金転換率)向上に成功しました。
同社はKARTE for Appを用いてユーザー行動を分析。有料会員のうち45%が初日に有料プランに転換していたため、会員登録後の有料会員化を促すポップアップをホーム画面に表示。その結果、ダウンロード後24時間以内の有料会員への転換率がおよそ2倍になりました。
参考記事:KARTE for App導入でアプリ改善スピードを高速化。マネーフォワードが成功&失敗事例から学んだこと
顧客と長期的な信頼関係を築くために
サブスクリプションでは、企業が顧客に価値あるサービスを届けている限り、安定した収益を得られます。顧客からのフィードバックや収益をもとに、さらにサービスを改善していく。そのサイクルを実現できれば、企業と顧客は長期的にWin-Winの関係を築いていけます。
SalesforceのCMOを経て、サブスクリプション管理プラットフォームZuoraを創業したティエン・ツォ氏は、サブスクリプションを「顧客がサービスにSubscribeする(申し込む)」モデルであり、「顧客を理解し、顧客が何に価値を感じるのかを把握した上で継続的にサービスを提供すること」と説明しています。サブスクリプションは企業と顧客の新しい関係を実現するビジネスモデルと言えるでしょう。