CXとは?CXの解説と取り組み事例のご紹介
消費者のニーズが多様化し、サービスや商品の差別化が難しくなってきた現在、顧客の体験や経験をどのように向上させていくかに注目が集まっています。
消費者のニーズが多様化し、サービスや商品の差別化が難しくなってきた現在、顧客の体験や経験をどのように向上させていくかということに注目が集まっています。
こうした顧客の体験に対する概念は「CX(顧客体験)」という言葉で表現され、世界中の企業で実践されています。優れたCXとは何なのか、どのように顧客体験を向上していくべきなのかという問いに、世界が向き合っている最中です。
より良い顧客体験の実現に向けて、CXとは何か、CXを向上させる具体的な取り組みについて考えていきましょう。
「CX(顧客体験)」とは何か?
商品やサービスの提供者は、これまでも顧客満足度の向上や顧客との関係性について考え、改善に取り組んできました。CXはこれらの従来の概念と、どのように違うのでしょうか。
CXはサービスを通じて顧客が体験する心理的な価値
CX=Customer Experience(カスタマーエクスペリエンス)は、 商品やサービスの「価格」や「機能性」といった物理的な価値だけではなく、それらを通して得られる「満足感」や「喜び」というような感情や経験の価値も含めた概念 です。
CXは日本語で「顧客体験」と訳されることが多く、Webサイトやアプリでの体験や実店舗での体験などの企業と顧客の直接的な接点の体験についての概念と考えられることもあります。しかし、サービスを利用した人の口コミやSNSでの投稿、衣服であれば街で着ている人の様子を見ていいなと思う部分など、企業が直接関与できない部分で顧客が体験する場面も含めます。そのため、 顧客が受け取る価値全体 だと考えることが必要になります。
また、モノ中心型からサービス中心型へ企業の経済活動が移っていく中で、顧客が受け取る価値が企業が一方的に提供するわけではなく、顧客と企業が常につながりながら、価値を共創していくという「サービス・ドミナント・ロジック」という考えもあります。顧客と新しい関係を築くためには、価値を生み出す主体は誰かという観点も大事になってきます。
価値は提供するものではなく、共創するものへ。「サービス・ドミナント・ロジック」で共創する顧客体験を考える|Experience Insights #9
CXが提供する5つの心理的な価値
物理的に顧客のニーズを満たすだけでは顧客の購買行動に繋がりにくくなっている今、顧客の心理的な価値を考慮して、商品やサービスを通して得られる顧客の経験を設計していく必要があります。
「心理的な価値」とは具体的に何を指しているのでしょうか。「経験価値」を提唱したアメリカの経営学者バーンド・H・シュミットは、心理的な価値を5つに分解しています。
1. Sence(感覚的提供価値)
視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五感を通じて、顧客が体験する価値を指します。前述の「スターバックス体験」では、店内でかかる音楽、店頭のコーヒーの香りといった雰囲気づくりにより得られる居心地のよさが感覚的提供価値だと言えます。
2. Feel(情緒的提供価値)
顧客の内面にある感情に働きかけて生み出される価値を指します。ディズニーランドや一流ホテルで見られるような丁寧な接客やホスピタリティーのある対応により、顧客に安心感や信頼、熱狂や感動を提供します。
3. Think(知的提供価値)
顧客の創造性や知的欲求を引き出すことで生まれる価値を指します。例えば知育玩具のLEGOは、多様な形のピースを使って「どんなものが作れるだろう?」と知的好奇心を駆り立て、「知りたい」「理解したい」という欲求を満たしています。
4. Act(行動、ライフスタイル全般の提供価値)
今までにない体験を提供することで、顧客の行動やライフスタイルに変化を起こし、普段生活してるだけでは得られない新しい価値提供を指します。アウトドアアクティビティや職業体験など、身体を通じて、未経験なものを体験したいという認知的欲求がベースにあります。
5. Relate(社会的提供価値)
顧客に特定の集団や文化に属しているという意識を感じてもらうことで、自尊心を高めたり、特別感などの価値を提供します。顧客限定のイベント開催や、そのブランド愛用者コミュニティの形成などがこの一例としてあります。
潜在的なニーズを掘り下げ期待以上の価値提供をする
CXでは、顧客自身が気づいていないような潜在的なニーズまで掘り下げてアプローチしていくことで体験の価値を提供します。
そのため、サービス提供者には顧客視点で顧客の心理状態を理解し、それに対し何を提供するべきか突き詰めて考えることが求められます。
家具メーカーのIKEAは「家具の選び方がわからない」という顧客の悩みに対しCXの観点から取り組んでいます。従来であれば、サイズを分かりやすく表記したり、店舗での見せ方を工夫したりするところを「自宅に合う家具を選びたい」という本来のニーズに着目し、IKEAの家具を自宅にバーチャルで設置できるアプリを開発。商品購入後に色やサイズが合わず後悔するような問題を軽減させました。
従来のCS(顧客満足度向上)が顧客の不満を解消していくことを前提に行われていたとしたら、CXは顧客を徹底的に観察することで顧客が何を欲しているのか知り、期待以上の体験を提供することを目指す概念だといえるでしょう。
なぜ、CX(顧客体験)が注目されるのか?
CXの概念は、顧客の消費スタイルに変化が生じたことによって注目され始めました。
「モノからコトへ」の変化
市場に商品やサービスがあふれるようになると、価格や機能の良し悪しでは差別化が難しくなり、商品開発に注力するだけでは顧客をひきつけにくくなります。
商品の開発だけではなく、モノをとりまく体験や経験を通して価値を提供することが、自社で商品やサービスを購入する価値だと感じてもらうことにつながるのです。
このような市場の変化を受け、体重計や血圧計などの計測機器を販売するTANITAは「共感」を通じてブランド価値の向上を目指す取り組みを開始。「タニタ食堂」の運営や健康リテラシーを高めるイベントを開催し、「健康をはかる」から「健康をつくる」企業へとシフトしていきました。
「所有から利用へ」の変化
デバイスの多様化やビッグデータを活用したテクノロジーの発展により提供できるサービスが増えたことや、過剰生産・過剰消費の経済活動が見直されてきたことも、企業と顧客との関係性に影響を与えました。
これまでの買い切りモデルから、シェアリングサービスや、動画・音楽配信サービスに代表されるような定期購買型(サブスクリプションモデル)のサービスが増えたことによって、短期的な売上よりも顧客との長期的な関係づくりを考える必要性が高くなっています。
従来のモノを売る業界にも「所有から利用へ」の波は広がっています。たとえば自動車業界では、2015年にはタイムズが定額制のカーシェアリングサービス「タイムズカープラス」をリリース。自動車メーカーであるトヨタも、2019年から車の月額定額利用サービスを開始すると発表しています。
今までの多くのビジネスが「売ることがゴール」だったのに対して、利用の時代のビジネスは「売ってからが始まり」といえるでしょう。
企業と顧客の接点の増加
企業と顧客の接点が増えたことも、マーケティング戦略を考えるうえで顧客体験が注目される理由の一つです。インターネットが普及し、スマートフォンやタブレット端末が手軽に手に入るようになった現在は、誰もがいつでも簡単に情報に接触できます。
従来は店舗や営業担当者が主な顧客接点だったのに対して、現在はWebサイトやスマートフォンのアプリ、メール、SNSといった新しい接点が増え、企業は位置情報やユーザー属性など価値の高いマーケティングデータを得られるようになりました。一方で顧客の購買行動は複雑化し考えなければいけないポイントも多くなっています。
サービスの認知からアフターケアに至るまで、あらゆる接点のなかで満足感を得られるサービスを提供するためにも、企業にはCXを突き詰めて考えていくことが求められています。
より良い顧客体験を実現するための基礎となる3つのステップ
では、企業が実際に顧客体験の向上をはかっていくためには、どのようなステップで取り組んでいったら良いのでしょうか。
1. 企業や組織におけるミッションステートメントを考える
CXの改善は、顧客と接する現場の努力によって行われるものだと思いがちです。しかし、より良い顧客体験を実現させるためには経営層の意識を高め、組織全体にCXへの理解を深めることが大切です。
CXについて設計する前に、まずは企業としてのミッションを明確にし、実際に行動をしてく際の指針を決めましょう。
例えば、AmazonのCEOジェフ・ベゾス氏はカスタマーエクスペリエンスの重要性を創業当初から指摘していました。また「地球上でもっとも顧客を大切にする企業」という同社のミッションを「私たちのDNA」と表現し、採用ページでも自社の行動指針を明確に記載しています。
「会社として何を大事にし、顧客にどのような価値を提供するのか」というミッションステートメントが社員に浸透していなければ、どんなにCXを向上させようとしても、会社全体で取り組むことは難しくなります。
誰もがCXを意識するのが当たり前になっている状態をつくるためにも、行動の指針や判断の基準となるミッションステートメントを企業全体で共有していきましょう。
2.顧客体験の現状と改善点を洗い出す
つぎに、自社の商品やサービスをとりまく顧客体験の現状について把握し、改善点を洗い出していきます。
デジタル化が進んだ現在は、顧客へのアンケート結果や評価などはもちろん、店舗やWebサイトでの行動履歴、カスタマーサービスへの反応率など、あらゆる顧客との接点でのデータを取得できるようになりました。
蓄積されていくデータから顧客の感情や行動を可視化することは、最適化されたサービスの提供につながります。
集まったデータは、顧客が商品やサービスを知ってから利用するまでの一連のプロセスのなかでどのような体験をしているのかカスタマージャーニーマップ等にまとめ、社内で共有しやすくしていきましょう。
カスタマージャーニーマップは顧客の行動を理解し、CXを改善するために有効なフレームワークです。LEGO社が発表したカスタマージャーニーマップでは、サービスの体験前と体験中、体験後にフェーズを分け、そのときどきの顧客の感情をアイコンで表しています。作成する際の参考にしてみてください。
参考:カスタマージャーニーとは?効果的なマップ作りのために知っておきたいこと
3.課題を改善するための仮説検証を行う
顧客体験のなかでの課題が特定できたら、課題を改善するための仮説検証を繰り返していきます。
顧客体験の向上を目指す施策に対しての効果は、サービスによってはデータの測定だけでははかりにくい部分もあります。実際に顧客とコミュニケーションをとっている店舗や会場などの現場を見ることで、どのような変化がおこっているのか確かめることも大切です。
「顧客目線」を社内の共通言語にし、顧客との信頼関係を築いていくことが、結果的にサービスの浸透や事業の拡大につながっていくでしょう。
CX(顧客体験)の向上に取り組む企業の事例
株式会社プレイドでは、CX Clipの「Experience Insights」というカテゴリにおいて、CXのヒントとなる企業の取り組みを取材しています。この中から、いくつかの事例をご紹介します。
プロダクト至上主義から顧客満足重視へ、企業文化変革への挑戦|レノボ・ジャパン
レノボ・ジャパンではカンパニービジョンにおいて、「お客様の満足度を最優先する」と明言されています。その背景には、コモディティ化が進むPC業界において、製品のクオリティを追求するだけでは生き残れないという同社の危機感がありました。製品以外の部分でもこれまで以上に顧客に喜んでもらうために、全社的にプロダクト性能や生産効率を重視していた文化から、顧客目線を重視する文化へと転換を図っているのです。
詳しくはこちら▼
なぜレノボ・ジャパンは人事評価にCX関連項目を組み込んだのか?プロダクト至上主義から顧客満足重視へ、企業文化変革への挑戦
通販も店舗もシステム部門も、皆で「お客様の喜び」を目指す。|株式会社ファンケル
2020年、創業40周年を迎えたファンケル。近年では顧客接点の見直しと大幅な改善に取り組んでいます。社内の基幹システムの刷新や、通販とECのデータの統合、また店舗でもデジタルとリアルを一気通貫した接客を実現しています。
通販営業本部は、「いかにファンケルのファン=ファンケラーとよい関係を築いていくか?いかにファンケラーを増やしていくか?」という問いに日々向き合っています。一方、同部門と両輪となるシステム部門は、過去2回にわたり「FIT(ファンケルIT)プロジェクト」と名付けた大規模なシステム改修を重ね、豊かな顧客体験を下支えしています。
詳しくはこちら▼
通販も店舗もシステム部門も、皆で「お客様の喜び」を目指す。ファンケルの終わりのないCXとDX
良い顧客体験の源は、従業員体験にある。|アップル引越センター
2006年に創業したアップル引越センター。2016年には業界初のオンライン見積&引越し予約システム『ラクニコス』をリリースするなど、デジタルを活用した新しい顧客体験を生み出してきました。年間売上は直近3年連続で前年比30%ペースで増加、ラクニコスからの受注件数も3年で6.5倍と、業績も順調に伸ばしています。
この数年間は、従業員の満足度や体験向上にも注力。AIによるシフト適正化やパーソナルトレーナーによる健康指導の導入、理念浸透や評価指標の設計などを行ってきました。
良い顧客体験の源は、従業員体験にある。アップル引越センターの「ワクワク」を生み出すEXとCX
CX(顧客体験)にフォーカスしたウェブメディア
株式会社プレイドでは、CX(顧客体験)にフォーカスしたウェブメディア「XD(クロスディー)」も運営しております。こちらではオンラインサービスだけではなく、場やメディア、コンテンツなども含めて、顧客に支持されている取り組みの裏側をインタビューを中心に取材しています。
CXプラットフォームを活用してCX(顧客体験)の向上に取り組む事例
最後に株式会社プレイドが提供するCXプラットフォーム『KARTE』を利用して顧客体験の向上に取り組む企業の事例を紹介します。
実店舗と一体化したオムニチャネル戦略を実践する|PAL CLOSET ONLINE STORE
約50に及ぶ、幅広い価格帯・顧客層のファッションブランドを擁するパルでは、ブランド全体のファンを増やしながら、能力と魅力ある店舗スタッフそれぞれのファンも増えるように、人と人との長期的な関係構築を目指しています。
顧客データやPOSデータをすべて「KARTE Datahub」という機能を使って蓄積するなどして、最適なタイミングで最適なメッセージを届ける精度を高めることで、One to Oneのコミュニケーションを模索しています。
詳しくはこちら▼
KARTE 導入インタビュー | PAL CLOSET ONLINE STORE
定量と定性、両面からのリサーチで顧客体験の向上をめざす|GDO
ゴルフに関するあらゆるサービスを提供する『ゴルフダイジェスト・オンライン』では、実店舗で商品を買うときと遜色なく、またはそれ以上にお客様に満足いただけるような体験をEC上で実現することを目指しています。
ユーザーのサイト上の行動を動画で見ることができる「KARTE Live」というKARTEのオプション機能を用いて、定量的な調査の背景にあるユーザーが抱えている課題を発見・改善しています。
詳しくはこちら▼
KARTE 導入インタビュー| GDO
店舗とWebが連動して一貫したサービスを提供する|HIS
海外・国内旅行の予約サイトを運営する株式会社エイチ・アイ・エス(以下、HIS)では、店舗とWebの両方を融合させてより良いサービスにして行くため、部門横断型のCXプロジェクトでKARTEを導入しました。
さまざまなデータベースを統合できる「KARTE Datahub」も活用し、お客様の嗜好やご旅行に期待されていることを踏まえて、適切なタイミング、チャネルで、適切なコミュニケーションを取っていくことを目指しています。
詳しくはこちら▼
KARTE 導入インタビュー | HIS
顧客に寄り添うシナリオを設計する|メディケア生命
主に20〜40代向けに、シンプルでわかりやすく、ニーズに合わせて選びやすい生命保険を提供しているメディケア生命では、顧客理解を深め、顧客に寄り添ったWebサイトを実現するためKARTEを活用しています。
ユーザー一人ひとりの行動を見れる「ユーザーストーリー画面」を活用し、データを見ながら、徹底的に顧客の視点に立って考え、具体的な施策に落とし込んでいます。
詳しくはこちら▼
KARTE 導入インタビュー | メディケア生命
CXに真剣に向き合うことがより良いサービス作りにつながる
CXを推進していくためには、顧客にとって価値ある体験とはなにか、商品やサービスに関わる全員が突き詰めて考えていく姿勢が求められます。
顧客を知り、顧客目線の体験作りを目指すことは、「顧客のための仕事」に組織一丸となって取り組むことにつながるはずです。
こうしたプロセスを経て自分の仕事がより良いCXにつながると実感できれば、組織全体のモチベーションも高まるでしょう。
これからの時代に求められるサービス作りと組織の成長のために、CXの推進に取り組んでいきましょう。
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