用語解説

オムニチャネルとは?顧客との接点が多様化する時代に求められる購買体験

インターネットやスマートフォンの登場により、企業と顧客の接点は多様化しています。こうした時代において、顧客と密接な関係を築くために注目されている概念が「オムニチャネル」です。今回は、オムニチャネルの概要や注目されている背景、オムニチャネルを成功させるためのツールを解説します。

インターネットやスマートフォンの登場により、企業と顧客の接点は多様化しています。こうした時代において、顧客と密接な関係を築くために注目されている概念が「オムニチャネル」です。今回は、オムニチャネルの概要や注目されている背景、オムニチャネルを成功させるためのツールを解説します。

オムニチャネルとは?

オムニは「あらゆる、すべての」といった意味を持ち、ここで言う「チャネル」は、実店舗やECサイト、アプリ、カタログなど、顧客が商品やサービスの購買までに利用する販売経路を指します。

デジタルマーケティングの教科書』を著した信州大学大学院准教授 牧田幸裕氏は、オムニチャネルを「企業が消費者と接するリアル店舗やECチャネルを統合し、チャネルをまたがった購買を可能にし、どのチャネルでも消費者に最適な購買体験を提供すること」だと定義しています。

“どのチャネルでも最適な購買体験”とはどのような体験を指すのでしょうか。牧野氏はオムニチャネルを体現している事例としてAmazonの取り組みを挙げます。

同社は、2016年よりレジを通らず決済できるコンビニエンスストア「Amazon Go」をシアトル・シカゴ・サンフランシスコなどで展開しています。同店舗では、店頭で手に取ったり、購入したりした商品のデータを、画像認識技術によって顧客のデータと紐づけています。これにより、来店後に顧客がAmazonのウェブサイトを訪れた際、Amazon Goで検討あるいは購入した商品にもとづき「おすすめ商品」が表示されるのです。

Amazonの事例を踏まえると、オムニチャネルは顧客のニーズや購買データをチャネル間で共有、それらをもとに個々の顧客にとって最適かつ一貫性のある体験を提供すること、とも言い換えられるでしょう。

オムニチャネルが注目された背景

シングル、マルチ、クロスのチャネルの進化

では、なぜ近年になってオムニチャネルが注目されているのでしょうか。その背景を理解するために、顧客が商品やサービスを購入する際のチャネルがどのように進化してきたかを押さえておきましょう。

通信販売やECサイトが登場する以前、顧客が商品やサービスを購入するには、実店舗に足を運ぶしかありませんでした。企業が顧客と接するチャネルが実店舗に限られている状態を「シングルチャネル」と呼びます。

実店舗以外にも、カタログ通販やテレビ通販、ECサイトなど、チャネルが複数ある状態を「マルチチャネル」と呼びます。特に、インターネットが普及し始めた2000年以降、実店舗を展開する企業が次々にECサイトを開設し、マルチチャネルに移行する企業が増えました。

その後、ECサイトの普及により、実店舗で気に入った商品やサービスをその場で購入せず、ECサイトで購入する顧客が増えました。彼らにとって、店舗が商品を見るだけの場所になったことから「店舗のショールーミング化」とも言われます。

当時、ほとんどの企業はショールーミング化に対応できず、顧客に商品を届ける機会を逃していました。というのも、企業は実店舗やECサイトを別々の部署で運営、在庫データや顧客データも分けて管理していたためです。例えば、実店舗に在庫があったとしても、ECサイトに在庫がなければ、ECサイトを利用する顧客には商品を届けられませんでした。

こうした課題を解決するため、企業は在庫データを一元化し、顧客がチャネルをまたいで商品を購入できる仕組みを導入しました。これにより、ECサイトで注文した商品を実店舗で受け取る、あるいは実店舗で見つけた商品をECサイトで決済するなど、顧客が複数のチャネルを行き来するようになりました。こうした仕組みは「クロスチャネル」と呼ばれます。

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クロスチャネルからオムニチャネルへ

クロスチャネルの登場後、スマートフォンの普及にも後押しされ、複数のチャネルを行き来して買い物をする顧客が増えていきました。そのなかで、クロスチャネルの次を模索する重要性を説いたのが、2011年に全米小売業協会が発表した年次報告書です。

同報告書では、複数のチャネルを利用する顧客が、とあるブランドの実店舗にいても、スマートフォンで競合ブランドの商品を検索し、いつでも競合ブランドの商品を選べる状態にあることが指摘されています。

その状態において、企業やブランドが顧客に選んでもらうには、各チャネルを通じて、顧客に一貫性のある体験を届け、親密な関係を築く必要があります。そのために、チャネル間で顧客データを共有し、顧客に寄り添う体験を届ける「オムニチャネル」が不可欠だと提案したのです。

同年には、ベイン・アンド・カンパニーのパートナーダレル K. リグビー氏が、ハーバード・ビジネス・レビューに発表した論文で、複数のチャネルがシームレスにつながり、顧客が快適にチャネル間を行き来できる“オムニチャネル体験”の重要性を指摘。米国を中心に「オムニチャネル」という言葉が注目を集めるようになりました。

オムニチャネルの成功事例

オムニチャネルに取り組む企業はどのように顧客に優れた体験を届けているのでしょうか。

米国のメンズアパレルブランド「BONOBOS」は、2016年より、顧客のプロフィールやアプリの利用履歴、実店舗での接客内容、決済データなどを一元的に管理するシステムを導入し、集めたデータを実店舗やアプリでのコミュニケーションに活かしてきました。

とくに実店舗では顧客一人ひとりに合わせた接客を徹底しています。同ブランドの店員は、手元のタブレットを用いて、顧客のプロフィールやお気に入りのスタイル、アプリの利用履歴などを閲覧し、それらのデータをもとに接客を行なっています。

同システムの導入後、1年間で平均購買額は12%増加、顧客のロイヤルティを示すNPS®や顧客満足度も向上しました。

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株式会社良品計画は、2013年に無印良品の会員向けアプリ「MUJI passport」をリリース、同アプリを通して集まったデータをもとに顧客理解を深め、施策に活かしています。

同アプリでは、顧客が決済時にレジで提示したり入店をアプリ上で記録したり、商品のレビューを投稿したりといった行動から、買い物で利用可能なポイントを得られます。アプリの起動を促すことで、同社は入店から商品購入後までの過程において、顧客との接点を増やしています。さらに、同アプリから集まった、実店舗とECサイトの購買履歴や来店した店舗などのデータをもとに、実店舗とECサイトの体験向上や新商品開発に取り組んでいます

MUJI passportのリリース以降、EC事業の増収率は毎年右肩上がりで成長。実店舗とECサイトを合わせた会員客数も、2015年以降、毎年20%以上の増加を記録するなど、同アプリを起点としたオムニチャネルが客数の増加に貢献しています

一人ひとりの顧客を知るためのデータ連携ツール

成功事例から伺える通り、オムニチャネルにおいて鍵となるのは、チャネル間のデータを連携させ、顧客一人ひとりに合わせた体験を提供することです。そのためには、顧客にまつわるデータを一元化し、管理や分析を行えるツールの導入が効果的です。

CXプラットフォーム「KARTE」を活用して、チャネルごとのデータを統合して管理し、顧客一人ひとりに合わせたコミュニケーションを可能にした例を紹介します。

スポーツ用品店を展開する株式会社アルペンは、KARTEを用いて、従来は別々で管理していた店舗とECサイトの顧客データを統合しました。これにより、顧客のプロフィールや購買履歴、興味関心に合わせ、LINEで送信するセール情報やおすすめ商品の内容を、細かく調整できるようになりました。

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ファッションブランドを展開する株式会社ストライプインターナショナルは、KARTEと合わせて「KARTE Datahub」を導入しています。「KARTE Datahub」は、社内外のツールで別々に管理されているデータを統合・分析することで、顧客理解を深め、一人ひとりに合わせたコミュニケーションを行えるプラットフォームです。同社は、外部ツールに蓄積された実店舗の接客データと、KARTEで収集したECサイトのデータを統合し、顧客体験の向上に役立てています。

例えば、両者のデータからは「実店舗とECサイトの両方で購買経験のある顧客のLTV(一人の顧客が、その取引期間を通じて企業にもたらすトータルの価値)が高い」といった結果が得られました。これをもとに実店舗で買い物をした顧客に対し、メールでECサイトの案内を送付、クーポンを添付しています。

顧客一人ひとりのニーズや興味関心に寄り添う姿勢が重要

オムニチャネルにおいて重要なのは、顧客一人ひとりのニーズや興味関心に寄り添う姿勢です。自社の顧客がどのような体験を求めているのかを常に念頭に置いて、オムニチャネルに取り組みましょう。

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