データで従業員の「内発的動機」をアクションへ繋ぐには? 丸亀製麺が実践するBtoEtoC戦略とその現在地
丸亀製麺の間部徹氏とプレイドの小國晴郎氏が登壇した「X DIVE 2026」のセッションレポートです。データを用いて従業員の「内発的動機」を引き出し、顧客体験(CX)を向上させるBtoEtoC戦略と、「ハピカンダッシュボード」導入による組織変革の軌跡を解説します。

AIの進化や顧客ニーズの多様化が進む中、企業には汎用的な解ではなく「自社のビジネスを変える力を持った独自のデータ戦略(価値を創るデータ)」が求められています。2026年7月9日、株式会社プレイドが主催するビジネスカンファレンス『X DIVE 2026』が開催され、「価値を創るデータとは何か」を全体テーマに多様なセッションが展開されました。
『データで従業員の「内発的動機」をアクションへ繋ぐには?丸亀製麺が実践するBtoEtoC戦略とその現在地』と題されたセッションでは、丸亀製麺がいかにデータを用いて従業員のハピネスと顧客の感動をつなぎ、接客によるCX(顧客体験)を向上させたのか、その軌跡を紐解きます。
登壇者は、株式会社丸亀製麺 マーケティング本部 エクスペリエンスデザイン部 部長の間部徹氏。モデレーターは株式会社プレイド PLAID ALPHA CX Design Team Team Head / Senior Managerの小國晴郎が務めました。
「人がすべて」の信念。従業員の“心の幸せ”とお客様の“感動”を可視化する挑戦
国内外で約900店舗(2026年7月時点)を展開する丸亀製麺は、「すべての店で粉からつくる」店内製麺による手づくり・できたてにこだわり、「食の感動で、この星を満たせ。」というスローガンを掲げています。五感を刺激するライブ感のある店内体験を重視する同社ですが、長年抱えていた本質的な課題がありました。
それは、お客様のお食事体験後の感情≒感動体験が数値として見えず、現場のスタッフさんに適切に還元・共有できないというポイントです。外食産業の多くが省人化へ向かう中、丸亀製麺はあえて「ヒトのちからがすべて」という信念を持っています。間部氏は行き詰まっていた当時の苦労をこう振り返ります。
「感動やお客様の心は、数値では見られない。これをどう定量化するか、そしてお客様の感動をどうお店の従業員さんに還元し、お伝えしていくのかという点に向き合ってきました」(間部氏)

株式会社丸亀製麺 マーケティング本部 エクスペリエンスデザイン部 部長 間部 徹氏
例えば、ただシステム的に「挨拶しなさい」と指示するのではなく、顧客への感謝から自然と生まれるような「内発的動機」に基づく接客を生み出すためには、見えない感情をデータ化し、現場とつなぐ仕組みが必要だったと考えたのです。
現場が自ら動く。伴走支援で生まれたハピカンダッシュボード
この壁を突破するきっかけとなったのが、2025年9月に発表された新たな経営思想である「心的資本経営」と、それを体現する経営モデル「ハピカン繁盛サイクル」の導入です。従業員の「ハピネス」と顧客の「感動」を資本と捉え、それを繁盛(売上)につなげるこのサイクルを回すため、同社はプレイドとともに「ハピカンダッシュボード」を開発しました。

丸亀製麺の「ハピネススコア」・「感動スコア」などの重要なKPIデータを集約・可視化する店舗向け「ハピカンダッシュボード」
単なるツール導入にとどまらず、徹底した現場理解と伴走による共創が行われました。プレイドの小國は開発のアプローチを次のように語ります。

株式会社プレイド PLAID ALPHA CX Design Team Team Head / Senior Manager 小國 晴郎氏
「我々が最初に行ったのは、インターフェースの要件を決めることではなく、店長インタビューや店舗視察といった1次情報の取得でした。徹底的な現場理解に基づいて、どうすれば内発的動機を刺激できるのか、どうすれば現場が動くのかといった仮説を形成した上で、サービス開発に進みました」(小國氏)
さらに、KARTEシリーズ(KARTE Web、KARTE Datahubなど)を活用し、データをリアルタイムに統合・解析する基盤を構築。ビジネスライクな横文字を排除して現場の負担に配慮しました。従業員のハピネスを測定するAIでは、オリジナルキャラクターと対話するインタラクティブなUIを採用しています。前日の顧客の声を翌日には店舗へフィードバックし、AIがアクションを提案するなど、データ活用に対するマインドセットを「管理」から「現場の支援・伴走」へと大きく変革しました。
全店長の約90%が活用。データから褒める文化とアクションを生む
この伴走型支援によって生まれたダッシュボードは、組織文化に劇的な変化をもたらしました。ローンチ後、全国の店長以上の層の約90%がダッシュボードを日常的に活用するまでになっています。
定性的な成果として最も大きかったのは、店舗内でのコミュニケーションの質の向上です。顧客のリアルな声が即座に現場に届くことで、店長がスタッフを具体的に褒めるきっかけが生まれました。社内からは「該当従業員を特定して褒めやすい」「従業員さんの内発的動機にも繋がっている」といった声が上がっています。間部氏は、こうしたデータが組織を変えた背景についてこう語ります。
「従業員さんの内発的動機が上がると、お客様の体験に繋がり、売上が上がる。この感覚的なイメージを、統計的なモデルで裏付けました。ハピネススコアが上がれば感動スコアが上がり、それが売上にどう繋がるのかが数式で表されたことで、社内でも迷いなく踏み出す大きな一歩になりました」(間部氏)
AI時代こそ人の温かみが鍵。内発的動機が切り拓く飲食業の未来
セッションの最後に示されたのは、従業員のアイデアに対する顧客の声をさらに可視化する「丸亀ファンスコア」の構想です。データを使って、「やってよかった(従業員)」と「また来たい(顧客)」の循環をさらに加速させる展望が語られました。
実際に、「子どもうどん教室」や「塗り絵・折り紙」、「クイズボード」の設置など、従業員の内発的動機から生まれたアクションが全国各地で続々と実現しています。
デジタルやAI時代が到来し、効率化が進む現代だからこそ、同社は「人ならではの価値」を再評価しています。小國はセッションの中で「人にしかできないことが差別化の要素になる。丸亀製麺さんは人の価値を最大化するために、データやAIを活用することでそれを実現している企業だ」と賞賛し、また、間部氏も力強くこう締めくくりました。
「あまたある外食店の中で記憶に残る外食体験を生み出すには、単にお腹を満たすという機能的な価値にとどまらず、お客様の感情を動かす体験を提供することが不可欠です。それにはやはり従業員さんがすごく重要で、内発的動機を刺激しながら店頭での体験を作ることが、丸亀製麺のブランドに繋がります」(間部氏)
データを「現場のパフォーマンス向上」のために活用し、従業員一人ひとりの内発的動機を引き出す。「価値を創るデータとは何か」というカンファレンスのテーマに対し、丸亀製麺とプレイドの取り組みは、自社独自のデータ戦略を模索するビジネスリーダーにとって、一つの具体的な解を提示していると言えます。