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顧客はなぜ「迷う」のか? 保険検討体験の解像度を上げ続けるデータ活用術

生命保険という検討ハードルの高い商材のダイレクトマーケティングにおいてCX(顧客体験)向上を推進している第一ネオ生命と、伴走パートナーであるSORAMICHI。顧客はなぜ「迷う」のかー単なる数字の分析にとどまらず、定性と定量の往復によって顧客の「迷い」を深掘りし、CXの向上と組織の意思決定プロセスを変革した1年間の軌跡が語られた。

AI技術が急速に普及し、顧客ニーズが多様化する現代。汎用的な答えに頼るのではなく、「自社のビジネスを変える力を持った独自のデータ戦略(価値を創るデータ)」の重要性がかつてなく高まっています。

2026年7月9日、株式会社プレイドが主催するビジネスカンファレンス『X DIVE 2026』が開催され、「価値を創るデータとは何か」を全体テーマに多様なセッションが展開されました。

本記事では、「顧客はなぜ迷うのか。保険検討体験の解像度を上げ続けるデータ活用術」と題したセッションをレポートします。登壇したのは、第一ネオ生命保険株式会社の西山修平氏(マーケットイノベーション部 ラインマネジャー)と鈴木圭祐氏(同部 アシスタントマネジャー)、そして伴走パートナーである株式会社SORAMICHIの酒井宏平氏(執行役員 CXコンサルティング部 部長)。モデレーターは株式会社プレイドの高島康輔が務めました。

単なる数字の分析にとどまらず、定性と定量の往復によって顧客の「迷い」を深掘りし、CX(顧客体験)の向上と組織の意思決定プロセスを変革した1年間の軌跡を紐解きます。

直前の離脱率だけでは見えない。数字の奥にある「顧客の迷い」

Daiichi Lifeグループに属する第一ネオ生命で、ダイレクトマーケティングを通じたCX改善を推進している西山氏と鈴木氏。生命保険という検討ハードルの高い商材において、同チームはデータ活用の「限界」に直面していました。

西山氏は当時の状況を次のように振り返ります。

「ファネルの歩留まりがどうかというところだけを見ていくと、限界が来ます。王道とされる施策を大量に打ったものの、徐々に勝ちパターンが減り、限界が近づいてきた感覚がありました。そのため、歩留まりだけではなく、その数字がなぜそうなっているのか、検討プロセス全体を捉えるためにデータの奥を見に行くところを出発点として置きました」(西山氏)

従来のアクセス解析のようなファネル分析では、直前の離脱率という結果しか見えず、顧客がなぜ迷うのかという思考プロセス全体までは捉えきれません。データ分析の罠として、SORAMICHIの酒井氏が挙げたのが「データ解釈の浅さ・甘さ」です。

例えば、「保険料の見積もりを編集した人ほど申し込み率が高い」というデータがあったとします。これを「編集を増やせば申し込みも増える」と解釈し、編集を促す施策を実施しても、結果的にコンバージョン(申し込み)は増えなかったといいます。

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第一ネオ生命保険株式会社 マーケットイノベーション部 ラインマネジャー 西山修平氏

「データそのものは数字なので正しいのですが、その解釈が浅かったり甘かったりすると打ち手を誤ります。編集は増えたのにコンバージョンが増えないという結果を受けて、『編集を増やすことにこだわり続けて大丈夫なのか』と視点を変える議論を行いました。申し込み意志の強い人を中心に考えるのではなく、『保険商品は難しい。そもそも顧客は迷うものだ』という前提で体験を再設計したのです」(酒井氏)

結果数値をただ見ているだけでは顧客の行動背景はわかりません。そこで同社は、KARTEを活用して画面遷移やボタン操作といった一人ひとりの細かな行動データを捕捉し、「なぜその行動なのか」に問いを集中することで「顧客のリアルな迷い」の解像度を上げるアプローチへと舵を切りました。

データから「答え」を急がない。問いを立て定性と定量を往復する

この壁を突破するブレイクスルーとなったのが、「問いを立てる」というマインドセットの変化と、定性と定量の往復アプローチでした。顧客がなぜ迷うのかを前提に、検討フェーズ全体を設計し直すという視点です。

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「データ計測の量や質も大事ですが、それだけでは実は全然わからない。試して、結果を見て、どうだったか観察しないと、Web上の行動は説明できません。定性的な『違和感』をきっかけに問いを立て、結果指標ではなく『行動データ』から迷いの兆候を見つける。この定性と定量の往復が重要です」(酒井氏)

現場でKARTE運用を担う鈴木氏は、KARTEで顧客の動きを1画面ずつ詳細にトラッキングし、スピード感をもってABテストを繰り返す中で、ある行動パターンの違和感に気づきました。

「申し込みへ進んだのにその前のページに戻るという動きがあります。1つ戻る程度ならわかりますが、結構先のページまで進んで行って何ページも戻る人もいる。戻る人はその時点で離脱したのかと思いきや、そこからまた申し込みまで至る人もいる。そこに違和感があり、深掘りしていきました」(鈴木氏)

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第一ネオ生命保険株式会社 マーケットイノベーション部 アシスタントマネジャー 鈴木圭祐氏

一般的なアクセス解析では見落とされがちな「一度進んでから戻る」といった行動も、KARTEであれば見積もりの保存、金額の変更、選択した商品の付け外し履歴まで追跡できます。

「KARTEで1画面ずつ戻った後の行動までトラッキングすることで、『この画面で何を確認し、なぜ戻ったのか』という疑問が生まれます。人間が議論するだけでは答えは見つからないので、こういった仮説を持ってKARTEで施策を打ち、定量的に評価・検証していくことが重要です」(酒井氏)

「データというのはあくまで『相関』です。『因果』があったかどうかを施策の内容と照らして確かめていく。狙った行動変容が起きて勝ったのか。負けた場合、仮説は合っていたがUIが良くなかっただけなのか。行動が変容したのに申し込んでいなければ、どこが仮説と違ったのかを次のテストで確かめていきました。合わせて気をつけていたのはスピードです。施策数を積み上げることで見えてくる価値があるので、意思決定が速くできるよう、スピード感を持って施策を展開してきました」(鈴木氏)

実際、KARTEを用いたABテストで「申し込み前の確認画面に選択プランを載せる」施策を実施したところ、コンバージョン率が向上しました。このように仮説検証を迅速に重ねて因果を確かめる取り組みが、顧客が納得感を持って手続きを進められる質の高い施策へと繋がっています。

施策の量をこなし仮説検証を習慣化。組織に根付く共通言語

取り組みの成果は、定量的な実績だけでなく、組織文化の劇的な変化として表れました。同社は過去1年間で204件の企画を立案し、KARTE上で131件もの施策を実行。しかし、そのプロセスは決して平坦なものではありませんでした。

「初期の頃は、CTAボタン周りのFAQや口コミの設置など、王道とされる施策を大量に回していました。半ば混乱しながらやっていましたが(笑)、そこに至るコミュニケーションや負荷の把握など、組織としての基礎体力がついたと思っています。その後、個人の勘や属人的な判断にならないよう、きちっとテーマと『問い』を決め、AB検証を行い、バックログに戻す。SORAMICHIさんとの週次定例でこの往復を1年間ずっと継続しました」(西山氏)

大量の施策をKARTEで回す中で組織としての基礎体力がつき、やがて「問い」の質が向上し、型化の手法が見えてきたといいます。

「最初は1ヶ月に十何本もやって驚異的でしたが(笑)、『問い』にフォーカスすることで、『これなんでだろう』という分析やディスカッションが増えてきました。施策と顧客行動の相関や因果は、試さないとわかりません。試行錯誤をしながら分析結果を蓄積してきて、今は仮説の段階から優先順位を決められる非常にいい環境ができ上がりました」(酒井氏)

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株式会社SORAMICHI 執行役員 CXコンサルティング部 部長 酒井宏平氏

さらに、日々の業務プロセスにおいても、KARTEのバックログや管理手法を通じて部署横断で施策を回すための「共通言語」が生まれました。

「施策の優先度をつけることが重要になりました。急ぎのものが10個溜まっている状況から、1番、2番と順番をつけ、『何かが割り込んだらこの6番を落とす』といった会話ができるようになりました。スケジュールを立て、施策の期間や実装を考えて順番をつける運用が根付きました」(鈴木氏)

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単なるWeb接客施策の試行錯誤にとどまらず、KARTEを軸に「意思決定を習慣に組み込む」ことで、なぜを考えるデータドリブンな組織が形作られてきたのです。

AI時代にこそ求められる、人の心を動かす「納得感」の創出

セッションの終盤、データ活用の未来と次なる展望について、三者三様の視点が語られました。

西山氏は、AI技術の進化で定量分析が高速化するからこそ、VoC(顧客の声)の価値が高まると指摘します。

「数字の分析が速くなってきているからこそ、お客様の声を集めて捉えて理解していくのが我々に求められていると思っています。コールログやアンケートなどのVoCと数字をどう組み合わせて顧客接点を改善していくかに今後取り組んでいきたいです。」(西山氏)

現場の最前線に立つ鈴木氏は、データには表出しない「お客様の熱意」を高めていきたいと言います。

「保険の手続きは、見ていただくべき情報もお客様に入力いただく情報も多くなります。『楽しいもの』にはならないので、UI改修だけでは限界が来ると感じています。だからこそ、お客様が納得して、熱意を持って申し込みをいただける体験を提供できているかという部分は大事にしたい。そのためのデータ活用をしていきたいです」(鈴木氏)

最後に、伴走者である酒井氏が変革に挑む読者に向け、力強いメッセージを送りました。

「ファクトや仮説、定性と定量の往復を1年間通じて高速化してきました。AI時代だからこそ、人間がデータを観る目を養うことが重要です。高速化できる部分はAIを活用し、人間は見る目を磨き続けることができるようなプロダクトを作り、世に出していきたいと考えています」(酒井氏)

「価値を創るデータ」とは、手っ取り早く提示される表層的なものではありません。顧客の迷いを観続け、組織の意思決定を前に進める次の「問い」を生み出すデータです。単なる分析ツールにとどまらず、顧客の「迷い」の解像度を上げ続けるためにKARTEを活用する第一ネオ生命の挑戦は、CX向上とデータ戦略のあり方を模索するすべてのビジネスリーダーにヒントを与えてくれます。

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