AI導入時につまずきやすい「データ活用の壁」と乗り越え方とは?リテールテック登壇レポート
2026年3月に開催された、店舗のデジタル化や流通DXに特化した展示会「リテールテックJAPAN」にて、プレイドは「AI導入が進むいま、つまずきやすい『データ活用の壁』と乗り越え方」と題したセッションを実施。
2026年3月に開催された、店舗のデジタル化や流通DXに特化した展示会「リテールテックJAPAN」にて、プレイドは「AI導入が進むいま、つまずきやすい『データ活用の壁』と乗り越え方」と題したセッションを実施しました。
登壇したのは、プレイドのPLAID ALPHA Chief CX Expertの青木 博信と、 Retail Industry Sales Managerの池田 桃子の2名です。
本セッションでは、小売業界におけるAI活用の現在地と課題を整理したうえで、プレイドの顧客コンテクストを自動理解するAI「Context Lake」の紹介や「データ活用の壁」をどう乗り越えるかをパネルディスカッション形式で紹介しました。
顧客や従業員のためにデータを活用する
セッションの冒頭では、プレイドが携わったデータ活用の実践例として、株式会社トリドールホールディングスが展開する「丸亀製麺」の従業員向けシステム「ハピカンダッシュボード」を紹介しました。
プレイド、「心的資本経営」を掲げるトリドールHDが運営する丸亀製麺の「ハピネススコア」・「感動スコア」などの重要なKPIデータを集約・可視化する店舗向け「ハピカンダッシュボード」を共同開発
「ハピカンダッシュボード」は、「ハピカン繁盛サイクル」における重要なKPIデータを集約・可視化するダッシュボードです。店舗で働く従業員の心の満足度を計る「ハピネススコア」、お客様の食後の感情を計る「感動スコア」、店舗の売上などの「繁盛スコア」の3つのデータを集約・可視化し、丸亀製麺の店舗で働く全ての従業員がいつでも参照できるダッシュボードとして開発されています。さらに、「ハピカンダッシュボード」では、トリドールHDがアルサーガパートナーズ株式会社と共同開発した気づきや改善アクションを提案するAIレコメンドも表示されます。
「ハピカンダッシュボード」は、ビジネスの場でイメージされるダッシュボードとは異なり、数値やグラフの羅列ではなく、従業員にとって毎日見るのが楽しみになるデザインやアニメーションを備えています。データをただ確認するためではなく、全ての従業員がハピネス・感動・繁盛の状態を正しく理解し、そのサイクルを楽しく前向きに改善するための動機形成と行動促進につながることを目的に開発されています。

青木「顧客から得られたデータを、従業員のみなさまが分かりやすい形で提示する。ITリテラシーを問わず、人々にとっても使いやすく、分かりやすいことに加え、それを見て従業員のみなさまの感情が動かされる。まさにテクノロジーによって人を生かしていく事例だと思っています」
実践例の紹介を踏まえて、本題である「AI導入が進むいま、つまずきやすい『データ活用の壁』と乗り越え方」の話に移っていきました。
提供価値の同質化を防ぐ顧客コンテクストの理解
AIの普及により、誰もが一定水準のアウトプットを低コストで得られるようになった一方で、企業視点では提供価値の同質化が進むリスクが懸念されています。こうした流れがあるなか、池田は次のように見通しを語りました。
池田「AIが普及し技術的な差が縮まる時代において、企業の差別化要因は、AIに学習・判断させる『自社独自のデータ』をどれだけ持っているかに集約されていくと考えています。世の中に溢れる一般的なデータではなく、自社の顧客だけが持つ固有の文脈を深く捉えることが、AI活用の成果を分ける境界線になるはずです。

プレイド Retail Industry Sales Manager 池田 桃子
この課題を解決するための鍵となるのが、画一的な基準では捉えきれない「顧客一人ひとりの意図や背景、行動の前後関係」を示すコンテクストデータです。たとえば、ECサイトで「美容液をカートに入れた」という同じ行動でも、「成分表示やレビューを何度も往復して慎重に検討した」のか、あるいは「SNSの広告から流入して迷わず指名買いした」のかによって、その文脈は大きく異なります。
前者は『成分や効果を重視する慎重な検討状態』、後者は『トレンドや利便性を重視する即決状態』という異なる意図が読み取れます。こうしたコンテクストを深く理解した上での体験設計が、AI時代において極めて重要です。
池田はプレイドが提供している、顧客コンテクストを自動で解釈・構造化し、AIの高度な活用を支えるデータ基盤「Context Lake(コンテクストレイク)」について紹介しました。Context Lakeは以下の3つの要素で構成されています。
・あらゆる種類の構造化および非構造化データから顧客コンテクストを自動で解釈する独自のAIエンジン「Context Lake」
・顧客コンテクストと経営指標を掛け合わせて成長ドライバーを分析する「Context Cube(コンテクストキューブ)」
・顧客コンテクストを深く理解し最適な体験を実現するAIエージェント「Context Agent(コンテクストエージェント)」

「Context Lake」は、構造化データや非構造化データ、行動解析データをシームレスに連携し、AIによって顧客一人ひとりの文脈を自動理解するデータ基盤です。最大の特徴は、バラバラで未整理だった生データを、LLM(大規模言語モデル)を用いてビジネスの現場で即座に活用できる「AI-Ready」な状態へ自動変換・構造化する点にあります。
これにより、従来はブラックボックス化されがちだったAIの判断プロセスを「人が解釈可能な言葉」として可視化します。単なる接客のパーソナライズに留まらず、顧客の真の動機を起点とした事業戦略の策定や、独自の体験価値を創出するAIエージェントの実装など、顧客理解と事業成長をダイレクトに結びつける役割を果たします。
セッションでは、動画配信サービスを例に、コンテクストデータの有無によるAIエージェントの対応の違いがデモ動画で示されました。コンテクストデータがない場合、AIはユーザーの好みを推測できず、「どのような作品の気分ですか」「お好みのジャンルはありますか」と一からヒアリングを行う必要があります。また、直近の視聴履歴に依存し、同じようなジャンルの作品ばかり提案してしまうといった課題が生じます。

一方、コンテクストデータがある場合、AIは過去の視聴履歴や傾向を把握しています。デモでは、90年代のSF映画や受賞歴のある名作に関心があるという文脈を読み取り、ヒアリングなしで『ブラックスーツ』という作品を提案しました。さらに「アカデミー賞メイクアップ賞を受賞したクオリティの高さも魅力です」と、ユーザーの関心に刺さる説明を付加し、シリーズ続編への導線も提示しました。
池田「AI時代において顧客から選ばれ続けるためには、一人ひとりのコンテクストに即した体験を、いかにタイムラグなく形にできるかが重要です。
顧客を深く理解し、それを具体的な体験として迅速に社会実装していく力こそが、企業の決定的な差別化要因になっていくはずです。

コンテクストデータを活かしたコマースメディア構築による、新たな価値創出
また、コンテクストデータを活用した新たな注力領域として、コマースメディア事業「KARTE Offers(カルテオファーズ)」が紹介されました。リテールメディア市場の拡大に伴い、近年は小売業に限らず金融や旅行など他業種の参入も相次いでいます。KARTE Offersでは、こうした業種を問わずトランザクションが発生するサービスを対象に、顧客体験を阻害しないコマースメディアの構築を支援します。
具体的には、企業が保有する1st Party Customer Dataをプレイド独自のAIモデルで自動解析し、マッチング精度の高い広告配信を実現します。KARTEで培ったオンサイトマーケティングの知見を活かし、広告クリエイティブや表示タイミングについても顧客体験への影響を考慮して最適化します。また、広告取引にはオークション形式を採用し、インプレッションが適正な価格で取引される仕組みを整えています。

池田「コンテクストデータがあることによって、お客様に本当に必要なサービスを広告体験として届けることができます。結果として広告主様のROIを上げることができたり、小売企業様にとってもユーザーさんにとっても良い体験になっていく、こういった三方良しを作っていきたいなと思っております」
1st Party Dataを活用することで、顧客の文脈に沿った「価値あるオファー」を実現し、良質な顧客体験とメディア収益の両立を図ることが可能になる、と池田は語ります。
AI導入における「はじめの一歩」の設計。目的定義から投資判断まで
後半のパネルディスカッションでは、AI導入・活用・定着において企業が直面しやすい課題について、一問一答形式で議論が交わされました。最初のテーマは、AIプロジェクトにアサインされた際の情報収集と導入準備についてです。そもそも、何から始めるべきなのでしょうか。

プレイド PLAID ALPHA Chief CX Expert 青木 博信
青木「よくお伝えしているのは、そもそも何のために使うのかという点です。どのような体験を実現したいのかをまず考え、そのうえでデータをどう活用するかをセットで設計する必要があると考えています」
AI導入自体が目的化するのを防ぐためには、理想の顧客体験を定義し、その実現に必要なデータ基盤を整理することが不可欠です。既存フローの全体像を可視化し、人がやるべき領域とAIに任せるべき領域を切り分ける設計が求められます。こうした設計と併せて難しいのが、ROIの判断です。
青木「数年先のROIを見通すよりも、足元の予算の中で何ができるかを短いスパンで考える必要があります。成長過程にあるAIを、いかに早く使える状態に持っていけるかが重要なポイントだと考えています」
すべてのユースケースを洗い出して要件定義を完了させてからシステムを構築するのではなく、最低限のユースケースでクイックにシステム設計を行い、概念検証を繰り返すアプローチが有効です。計画の肥大化ではなく検証の高速化を重視し、成果をもとに拡大の判断を行うことが成功の鍵となります。
現場への定着と人とAIの協働——業務負荷とブラックボックス化を乗り越える
導入の方向性が定まった後に立ちはだかるのが、現場での定着です。AIを導入した結果、逆に現場の入力作業が増加し反発を招くという課題も多く見られます。この現場とのすれ違いをどう埋めるべきでしょうか。
青木「たとえば旅行代理店で接客の高度化のためにAIを使いたいとなった場合、AIへのインプットのために大量の文字入力が必要になるのは本末転倒です。AIであれば非構造データを扱えるので、従業員とお客様の会話をリアルタイムで解析し、アドバイスを提示することができます。文字入力の負担をなくしつつ、接客の質を高めていく姿が描けるのではないかと考えています」
具体的には、マイクから音声ログを取り込み、システム側で自動要約を生成した上で、スタッフに対するヒアリングアドバイスやツアー検索に活用する仕組みが紹介されました。業務の追加ではなく既存フローの代替としてAIを組み込むことで、現場の心理的ハードルを下げることができます。
池田「実際に利用する方とシステムを導入する部門が異なるケースは多いと思います。実際に利用する部門の方々を常に意識し、連動しながら進めていくことがかなり重要だと感じています」

また、現場が実感できる小さな成功体験を設計するためには、対象店舗や領域を絞り込んでPoCを実施し、概念検証のサイクルを回すことが重要です。レストランの事例であれば、全店舗に一斉展開するのではなく、接客の高度化が必要な店舗に限定してプロトタイプをテストするアプローチが推奨されました。
さらに、定着が進む段階で浮上するのが、AIのロジックが分からずどこを改善すべきか分からないという「ブラックボックス化」の課題です。
青木「一連のプロセスの中で、人間がきちんと介在してAIのアウトプットを確認・レビューできる環境を作ることが重要です。AIが代替できた部分で人間が何をすべきかというと、価値検証を素早く回していくことです。そこに人間がフルパワーで取り組む価値が出てくるのではないかと考えています」
たとえばデザインプロセスにおいては、ブランド定義など対話による価値観の抽出は人間が100%担い、コンセプト策定では人間が方向性を決定しAIが支援する。そして画面展開の段階では確立したルールに基づきAIが高速に量産するといったように、段階に応じた役割分担が示されました。作業の自動化ではなく人間の創造性の拡張を目的とし、AIと協働するプロセスを設計することが求められます。

池田「すべてを理解する必要はありませんが、どのようなロジックや仕組みで動いているのか、デジタルリテラシーを少しずつ高めていく支援をしてほしいというご相談もあります。人間側がデータやテクノロジー、AIに歩み寄っていくことも必要だと感じています」
本セッションでは、AI導入における「データ活用の壁」を、目的の定義、現場への定着、人とAIの役割分担という3つの観点から掘り下げました。共通して語られたのは、テクノロジーの導入そのものではなく、その先にある顧客体験や従業員体験をどう設計するかという視点の重要性です。プレイドでは、顧客一人ひとりのコンテクストを理解し、データを活用した体験設計を支援しています。AI活用やデータ基盤の構築に関心をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。