Event Report

VoCを経営の武器に──auじぶん銀行・SBI証券・東京ガスが語る顧客の声の活かし方

株式会社RightTouch主催の「Beyond VoC Forum 2025 Summer」では、auじぶん銀行、SBI証券、東京ガスのトップランナーが登壇。顧客の声(VoC)を単なるサポート対応に留めず、経営の武器として活用する最前線が語られました。各社はAI技術を用いた全量分析により、部門横断的な課題解決や迅速な意思決定を実現し、組織変革とプロダクト開発を推進。VoC活用が事業成長に直結する戦略エンジンとなる重要性が示されました。

2025年7月、株式会社RightTouchは自社イベント「Beyond VoC Forum 2025 Summer」を開催しました。「“顧客の声”が変える、戦略と現場の次の一手」をテーマにした本イベントには、金融業界およびインフラ業界のトップランナーが集結。

各社が取り組むVoC(Voice of Customer)活用の最新事例や、それがもたらす組織変革について具体的な知見を共有しました。今回は、auじぶん銀行株式会社、株式会社SBI証券、東京ガス株式会社、そしてRightTouchによる各セッションの模様をレポートします。

※「QANT VoC」は2025年10月1日より「RightVoC」から名称変更しております。
※ 本記事では、RightTouchの表記ルールに基づき「VoC」を使用していますが、auじぶん銀行に関する記述については同社の表記に合わせて「VOC」を使用しています。

auじぶん銀行が語る、VOCを“経営判断”に昇華させる全社的アプローチ

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(auじぶん銀行株式会社 執行役員 CS本部長 兼 CS企画部長 堀野 和明氏)

最初のセッションには、auじぶん銀行の執行役員CS本部長 兼 CS企画部長である堀野 和明氏が登壇。「VOC改善強化の取り組み」と題し、顧客の声を全社的な経営課題として位置づけ、改善を推進するまでの道のりを語りました。

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堀野氏はまず、VOC活用の2つの重要事項として「一貫して網羅的に捉えること」と「どのように活かすのか」を挙げました。従来のVOC収集はオペレーターの主観に依存し、全問い合わせのわずか1.7%しか収集できていなかったという実態を明かします。さらに、収集から分析までには月290時間もの膨大な工数を要し、部門ごとに対応が分断される「部分最適」に陥っていたと課題を振り返りました。

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VOCの2つの重要事項

部門ごとの部分最適を脱し、VOCを全社的な改善につなげるには、顧客の声を届けるだけでなく、その声の信憑性や説得力を高め、経営層や各部門に重要性を認識してもらう必要があります。そこで同社は、その土台として、CS(カスタマーサポート)部門の社内でのポジション向上に着手しました。メディアへの掲載や外部での講演活動を積極的に行い、CSの取り組みが社外から注目される機会を増やすことで、社内での信頼性と説得力を高めたといいます。

さらに、VOCの捉え方そのものを見直しました。単なる「声」だけでなく、Webサイト上の行動履歴や第三者機関による評価なども含めてVOCと捉える「新しいVOCの考え方」を全社に提唱。その上で、2024年後半から「VOC改善強化プロジェクト」を本格化させました。

役員報告会:経営層に直接VOCを届け、改善へのコミットメントを促す。
VOC定例会:部門横断で改善ノウハウを共有し、部分最適を打破する。
VOC相談窓口:CS本部への相談窓口を一本化し、VOCの未然防止と迅速な対応を目指す。

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VOC改善強化の概要

これらの取り組みを支える技術基盤として、「QANT VoC」を導入。これにより、問い合わせ全量からのVOC抽出、生成AIを活用した分析、そして管理工数の大幅な削減という「量・質・効率化」の実現を目指しています。特に、従来のVOCの収集や分析では実現が難しかった、苦情や要望には至らないものの顧客が不便を感じている「潜在的不満」を可視化し、さらに顧客体験を変革していこうとしている点が特徴的です。

今後の展望として、堀野氏は「経営インパクト指標」の策定に取り組んでいると述べました。これは、VOC1件が経営に与える影響度を数値化し、改善の優先度を件数だけでなく経営へのインパクトで判断するための指標です。堀野氏は「CSが顧客と本社の間の翻訳家となる『B to (CS to) C』の考え方で、VOCを経営の中心に据えていきたい」と締めくくりました。

SBI証券が挑む“真の顧客中心主義”、問い合わせ爆増の危機を転機に変えた組織改革

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(株式会社SBI証券 カスタマーサービス企画部長 兼 金融教育推進室長 小川 正美氏)

続いて、SBI証券 カスタマーサービス企画部長 兼 金融教育推進室長の小川 正美氏が登壇。「声を聴き、価値を造る VoCで体現する顧客中心主義」をテーマに、「QANT VoC」導入を目前に控えた同社が、いかにしてVoC活用の重要性に至ったかを語りました。

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同社の転機は2023年、新NISA制度の開始などを背景とした問い合わせの急増でした。月次入電数は30万件近くに達し、電話が繋がらない状況から金融庁の指導を受ける事態にまで発展したといいます。小川氏はこの危機的な状況を「本社とカスタマーサービスセンターが、通常の連携体制をさらに強化して対応する必要があった」と振り返ります。

この経験から、本社と現場の連携の重要性を再認識し、2025年に「カスタマーサービス企画部」が新設されました。そのミッションは、短期的な収益目線ではなく「真の顧客中心主義」を体現すること、そして本社とコールセンターの架け橋となることです。

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カスタマーサービス企画部の設立背景

しかし、従来のVoC活用には大きな課題がありました。分析対象はオペレーターがフラグを付けた約1%の問い合わせに限定され、全容を把握できていませんでした。また、カスタマーサービスセンターからあがってくる要望は大規模なシステム開発を要するものが多く、改善が後回しにされがちでした。

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従来のVoC活用の課題

そこで同社は、「QANT VoC」の導入を決定。全件分析が可能な体制を構築することで、データに基づいた意思決定を目指しました。小川氏は、導入後に期待するユースケースとして以下の3点を挙げました。

  1. 施策優先度の可視化:全量データを客観的かつ定量的に分析し、「何が本当に今すぐに対応すべき課題なのか」を明確にする。
  2. 実施した施策の効果測定:改善施策の前後で関連する問い合わせ件数がどう変化したかを測定し、PDCAサイクルを確立する。
  3. データマーケティングへの応用:顧客の属性データや取引データに加え、VoCという顧客の「生の声」を掛け合わせることで、より顧客心理に寄り添ったサービスやコンテンツを提供する。
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VoC活用のユースケース

小川氏は「これまでは新規顧客獲得や新商品開発に目が向きがちだった。これからは既存顧客の“負”の解消にしっかりと目を向け、真の顧客中心主義を体現していきたい」と力強く語り、セッションを終えました。

東京ガスが実践するVoCを起点としたプロダクト開発、内製化組織が挑む“予兆の覚知”

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(東京ガス株式会社 リビング戦略部 デジタルプロダクト推進グループ グループマネージャー 及川 敬仁氏)

3番目に登壇したのは、東京ガス リビング戦略部 デジタルプロダクト推進グループ グループマネージャーの及川 敬仁氏です。「会員サイト『myTOKYOGAS』とVoCの活用について」と題し、ソフトウェア開発を内製化する組織が、いかにVoCをプロダクト改善に活かしているかを解説しました。

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創業140周年を迎えた同社は、現在を「第3の創業期」と位置づけ、脱炭素化とデジタル化を推進しています。特にエネルギー小売全面自由化以降、顧客から「選ばれる存在」になるため、デジタル接点での体験価値向上が急務となりました。この変化の速い市場に対応するため、同社は顧客向け会員サイト「myTOKYOGAS」の開発体制を内製化するという大きな決断をしました。

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東京ガスの「第3の創業期」、デジタル化が重要な経営課題となっている

内製化組織の強みは、顧客の要望に迅速に対応できることです。そのために不可欠なのがVoCの活用でした。しかし、VoCの活用を試みるなかで、大きな課題に直面します。2024年10月末に「検針票のペーパーレス化」を実施したところ、myTOKYOGASの会員数は大幅に増加したものの、それに伴い問い合わせも急増してしまったのです。

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デジタル化施策により問い合わせが増加

及川氏は「問い合わせが増えてしまっては、目指す体験価値向上に繋がっていない」と述べ、問い合わせ削減が急務となる中で、従来のVoC分析手法の限界が露呈したと語ります。

タイムリーさの欠如:月次報告会が翌月中旬以降の開催で、迅速な改善アクションに繋がらない。
全量性の欠如:VoCについて、現場のリーダークラスが要約した定性情報に依存しており、定量的な判断ができない。
属人化と工数:VoCを分析し、開発タスク(PBI)を作成するメンバーが実質1名しかおらず、運用がボトルネックになっていた。

これらの課題を解決するために、同社は「QANT VoC」の導入を決定。全量分析を可能にすることで、迅速かつ客観的な意思決定を目指しています。及川氏は「すでにQANT VoCの活用を開始し、コールリーズン分類の正答率は85%まで向上している」と初期の成果を報告しました。

今後の展望として、及川氏は「内製開発の良さを最大限発揮するため、VoCから必要なタスクを優先順位付きで並べたリストの要素であるPBI(プロダクトバックログアイテム)作成までの時間短縮、質の向上、作業負荷の低減を目指す」と述べました。さらに「問い合わせの“予兆の覚知”を早期化し、問題が大きくなる前に迅速に施策を反映したい」と、よりプロアクティブなVoC活用の未来像を示しました。

RightTouchが提唱する“データで終わらせないVoC活用”、生成AIが導く事業貢献への3ステップ

最後に、RightTouch 代表取締役 野村 修平が登壇。「データで終わらせないVoC活用」をテーマに、生成AIの技術がいかにVoC活用を進化させ、カスタマーサポートを事業貢献部門へと変革させるかを解説しました。

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(株式会社RightTouch 代表取締役 野村 修平)

野村は、多くの企業がVoC活用において「問い合わせをした顧客のうち、さらに絞られた一部の声しか分析できていない」という課題を抱えていると指摘。問い合わせをしなかった大多数の「サイレントカスタマー」のニーズは埋もれたままだと述べます。

この課題に対し、RightTouchは次世代のカスタマーサポート構築に向けた3つのステップを提唱しています。

1st Step: コスト削減期: 問い合わせの自己解決率を向上させ、効率化を図ることで、本来注力すべき業務のための「余白」を作る。
2nd Step: 顧客体験向上期: 創出した余白を顧客満足度向上に投資する。EX(従業員体験)の向上なくしてCX(顧客体験)の向上はないという視点も重要。
3rd Step: 事業貢献期: CS部門の貢献を可視化し、VoCを全社で活用することで、経営の中心となる。

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このステップを加速させる鍵が、生成AIの活用です。野村は生成AIを「優秀な新入社員」に例え、「会社の知識や文脈といったデータをインプットしなければ、個別の質問には答えられない」と述べ、AI活用の成功にはデータ整備が不可欠であると強調しました。

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その上で、AI活用を推進するポイントとして「データへの投資」「実用性を重視する」「Webサポート化を進める」の3点を挙げ、特に重要な「データへの投資」において、QANT VoCが果たす役割を説明しました。

「QANT VoC」は、音声やテキストなど多様なチャネルのVoCをAIが自動で要約・分類。応対時間と件数で課題をマッピングし、改善インパクトを可視化します。さらに、発見した課題をチケット化し、関連部門とシームレスに連携することで、分析から改善アクションまでのサイクルを高速化します。

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「活用できるVoC」への変革

最後に野村は、「QANT VoC」が経営に還元できるポイントとして「優先順位の可視化」「リアルタイムな顧客感情の把握」「経営インパクトの定量化」を挙げ、「VoCをカスタマーサポート部門だけのものにせず、経営の武器として活用する世界を実現したい」と語り、イベントを締めくくりました。

各社のセッションを通じて、VoC活用は単なる問い合わせ削減や顧客満足度向上に留まらず、組織変革、プロダクト開発、そして経営戦略そのものを動かす強力なエンジンとなりうることが示されました。それぞれの企業が置かれた状況や課題は異なりながらも、顧客の声を真摯に受け止め、事業の成長につなげようとする姿勢は共通しており、参加者にとってVoCの活用について多くの示唆に富むイベントとなりました。

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