Event Report

「チャットは効果が出ない」は本当か? CVR前年比50%増を実現したIDOMのチャット運用とは

株式会社IDOMのデジタルマーケティング セクションリーダーの中澤伸也氏が登壇したセッションでは、チャットの活用によりWebサイトを店舗化し、ユーザーの悩みに寄り添った接客で成果につなげた具体的な施策が共有されました。

2019年11月11日、「KARTEでできること」を「ユーザーの体験価値」に落とし込むための思考を学べるカンファレンス「KARTE CX Conference 2019」を開催しました。

同カンファレンス内のKARTEを導入する4社をゲストにお招きしたKARTE Sessionでは、各社の最新事例を通じて、CX(顧客体験) の「最前線」と「可能性」が語られました。

株式会社IDOMのデジタルマーケティング セクションリーダーの中澤伸也氏が登壇したセッションでは、チャットの活用によりWebサイトを店舗化し、ユーザーの悩みに寄り添った接客で成果につなげた具体的な施策が共有されました。

そもそも、なぜチャットを活用すべきなのか? チャットを運用する上で意識すべきポイントやPDCAの回し方とはどのようなものなのか。当日の様子をレポートします。

今、なぜチャットの必要性が高まってきているのか

IDOMが中古車販売、買取サービスの「Gulliver(ガリバー)」のサイトでKARTEを活用したチャット運用を始めたのは、2019年4月。同年5〜8月の3ヶ月間における、チャットを導入した商品詳細ページのCVRは前年比50%増となり、サイト経由の営業利益は10%増となったそうです。

中澤氏 「自社サイトを訪れるユーザーの7割以上がスマホからアクセスする現状や、PCと比較したときのユーザーニーズの変化などから、チャット運用の重要性は以前から感じていました。

PCに比べてスマホは、一画面で提供できる情報量が限られています。近年は、電車の移動中やテレビの視聴中にスマホを利用するお客様も多く、集中力が散漫した状態から目的の情報にたどり着くことは困難です。

求める情報をいち早く見つけるためには、自力で探すよりもサービスをよく知るスタッフに聞くほうが良いでしょう。『分からない』というモヤモヤした状況からお客様を救う点において、チャットの重要度は高いと考えています」

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コンタクトセンターを中心としたBPO事業を展開するKDDIエボルバが発表した調査によれば、「問合せの際に今後期待したい企業との窓口」として「Webチャット」を挙げた人が2018〜19年にかけて8.9%から20.6%と2倍以上となりました。Webチャットでの問い合わせ後の満足度は、「店舗」に次いで2位にランクイン。この結果に関して、中澤氏は次のように推測しました。

中澤氏 「お客様が抱えている複雑で曖昧な疑問に対して、明確な答えが提示されているかどうかが重要なのだと思います。問い合わせフォームやメールでは、ユーザーが自分の悩みをうまく言語化できなかったり、聞き方を間違えると求めていた答えが返ってこなかったりする。電話のお問い合わせでは録音しない限り、後で内容を確認できないのも不便ですよね。チャットは、曖昧な疑問にお答えできる点で店舗を訪れたときと似た対応ができるためユーザーの満足度を高められる。かつ、やりとりの記録が残ります」

成果が出ないのは、チャットの運用方針が間違っているから

Webサービスにおいて、ユーザーの課題解決や満足度向上につなげることが期待されるチャット機能。しかし、導入するだけで、成果が出るわけではありません。中澤氏は、「チャットの効果が感じられない」というマーケティング担当者の声を多く耳にしたと語ります。その原因の1つとして、中澤氏は「チャットの運用方針の間違い」を指摘しました。

中澤氏 「チャットの運用方針は、大きく分けて2つあります。1つ目は見込み顧客の“購入検討度”を引き上げるために、Webサイトの営業力や提案力を上げて購入を促す方針。2つ目は購入をほぼ決めているお客様の機会損失を減少する方針です。

成果が出ないと悩む企業の多くは、前者の方針を採用しています。しかし、これまでの経験上、チャットは『あとこれが分かれば購入する』というユーザーの悩みを解消することにフォーカスしたほうが、CVに結びつきやすいです」

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例えば、チャイルドシートの購入を検討するユーザーが、購入判断の最終材料として「保育園の送り迎えが始まる4日後までに確実に届くか」を知りたい場合、商品ページの備考欄に明記してある「配送には通常3〜5日ほどかかります」といった情報では不十分だと中澤氏は語ります。

中澤氏 「クレジットカードの情報を登録する画面で、『セキュリティコード』が何か分からず、郵便番号を入れて承認されなかったので、購入を断念したお客様がいると聞いたこともあります。

いくら購入の意思が強くても、購入の過程で困っていることを尋ねる人が近くにいなければ諦めてしまうお客様もいる。CVに近いほど機会損失のタネは多く眠っていて、それを解消するためにチャットを運用するのが一番だと考えています」

ページごとにユーザーのニーズを把握し、CTAを出し分ける

では、チャットの運用方針を明確にした上で、どのような点に気をつけてチャットを運用するといいのでしょうか? 中澤氏は、自社サイトの実例をもとに、チャットへ誘導するテキスト、CTAを工夫する重要性を訴えました。

中澤氏 「『なにかご質問はありますか?』といったオープンクエスチョンの場合、質問の抽象度が高く、お客様は反応してくれません。それよりも『◯◯についてお困りですか?』といったクローズドクエスチョンのほうが反応率は上がります。実際、KARTEを活用して施策を実施してみると、接客数に対してチャットのクリック率が2倍以上に伸びました」

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クローズドクエスチョンの内容を考えるためには、ユーザーのニーズを絞る必要があります。ユーザーの聞きたいことは訪問するページごとに異なるので、それに応じてCTAのテキストを出し分けることが重要です。

中澤氏 「例えば、商品の詳細ページであれば、車の購入金額の総額を知りたいのかもしれませんし、ハードディスクの商品ページであれば自分のPCに合うものかどうかを知りたいかもしれない。お客様が聞きたいであろうことを事前に絞って質問を投げかけることが、チャット運用では大切です。店舗で行っている会話をWebでも実現するような感覚ですね」

チャットのCTAを最適化するためのPDCAとKPIとは?

相手の顔が直接見えないWebサイトでは、店舗に比べて状況に応じた各ユーザーの意図を察するのは難しいでしょう。中澤氏は、ページごとのユーザーニーズに応じてチャットのテキストを最適化するため、IDOMが実践するPDCAの回し方を紹介しました。

中澤氏 「まずは、CTAを最適化したいターゲットページを決定。そこにオープンクエスチョンでチャットを設定し、お客様にフリーテキストで質問を記入してもらいます。寄せられた質問の内容を棚卸しして、配送、金額、オペレーション……とカテゴリーを分けます。

それをもとに質問内容の選択肢をチャットに設け、各選択肢のクリック件数の構成比を見ると、そのページを尋ねたお客様が最も知りたい質問を把握することができます」

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このPDCAを回す中で、中澤氏は予想していなかったユーザーのニーズが分かったと語ります。

中澤氏 「ページごとのお客様のニーズを考えているとき、中古車詳細ページでお客様が聞きたいのは在庫数や車の状態なのではないか、と思っていました。しかし、チャットを導入してお客様からの質問を棚卸ししてみると、同ページでは支払いの総額を知りたい人が一番多かったんです。この結果は、私たちの予想では気づけませんでした」

では、PDCAを回す中で、最適化を進めたCTAが成果を出しているかを確認するためには、何に着目すればいいのでしょうか? 一般的にはCTAから直接CVした割合を見ますが、中澤氏はこれに加えて、一度サイトに訪問したもののその時はCVせずに、再度訪問した際にCVする「間接CV」もウォッチすべきだと主張します。

中澤氏 「お客様が直前に悩んでいることを解決した場合、その場で受注してくれる可能性もありますが、当然ながら検討する場合も多くあります。チャット運用の方針で重要になるのが、先ほども話したように『提案力を引き上げる』のではなく、『機会損失を下げる』ことです。ですから、間接CVを確認するのが大切になると考えています。実際に前年比50%増となった当社のWebサイトにおけるCVの中で、約4割は間接CVによるものです」

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最後に、中澤氏はチャット運用における心構えを提案し、セッションを締めくくりました。

中澤氏 「『チャットを導入しても成果がでない』『チャットは役に立たない』といった声も耳にしますが、そんなことはありません。ちゃんと使えば必ず成果はでます。チャットの運用に関する施策を考える上で大切なのは、スピードと量です。3ヶ月かけて1本の練り上げた施策を考えるよりも、3ヶ月に10本の小さな施策をやるほうがチャットの精度は上がり、数値の改善にもつながります。私がここで紹介したことも、明日から試せることはぜひ試してください。それがチャットで成果を出すための一歩になります」

インタビュー:オフラインとオンラインを融合し、お客様と継続的なコミュニケーションを。IDOMが挑戦するデジタル時代の顧客体験

登壇資料

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