CX Story

コーヒー体験をスマホ時代にアップデート。店舗とLINEをつなげたUCCのサービス設計とは? |Experience Insights #5

2019年3月、UCC上島珈琲はエントリー層のハードルを下げるべく、ユーザーの好みを可視化し、”あなたにぴったりのコーヒーを提案”するプラットフォーム「My COFFEE STYLE」をローンチしました。「デジタルが浸透した生活者に、”スマホ×コーヒー”の環境を整えたい」と語るデジタル推進部長の染谷清史部長に、取り組みの意図と理想とする顧客体験について聞きました。

染谷清史そめや・きよし
UCC上島珈琲株式会社 マーケティング本部 デジタル推進部 部長
システムベンダーでキャリアをスタートさせた後、リクルートライフスタイルに転職。『じゃらん』や『ホットペッパー』の新規サービス立ち上げやプロダクトマネージャー、CRMグループマネージャーを担当。2018年にUCCホールディングスに入社、2019年から現職。

味覚って、自分で把握するのはけっこう難しいものです。

特にコーヒーは、香りや味が繊細であり、身近なものでありながら、自分に合ったコーヒーを選ぼうとすると迷ってしまいます。どれも飲めばおいしいと感じるし、次に買うときには前の味を思い出せない……。そんな感想からは、コーヒーのエントリー層のハードルが高いことがわかります。

2019年3月、UCC上島珈琲はエントリー層のハードルを下げるべく、ユーザーの好みを可視化し、”あなたにぴったりのコーヒーを提案”するプラットフォーム「My COFFEE STYLE」をローンチしました。

味覚という同社の事業に大きな意味を持つ領域のデータ化、サービス化と並行して、グループの多彩な顧客接点の連携とデータ統合にも乗り出しています。「デジタルが浸透した生活者に、”スマホ×コーヒー”の環境を整えたい」と語るデジタル推進部長の染谷清史氏に、取り組みの意図と理想とする顧客体験について聞きました。

「豆選びって難しい」……継続しにくいエントリー層をサポート

――2019年3月に開始した「My COFFEE STYLE」が好調だと伺いました。どのようなサービスか教えてください。

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「My COFFEE STYLE」は、お客様それぞれに合ったコーヒースタイルを提案するプラットフォームです。コーヒーギフトや自分用の豆を購入できるECサイト「COFFEE STYLE UCC」や、同名の直営店との連携のほか、好みに合った豆が毎月届くサブスクリプションサービス「My COFFEE お届け便」を提供し、Webマガジンを発行しています。

このサービスのコアとなるのは、あなたのおすすめのコーヒーをヒートマップ状に表示する「My COFFEE マップ」です。このマップは、LINEで実行できる「好み診断」の結果や、購入したコーヒーの「好き!」「う~ん‥‥」の感想結果に基づいて、あなたのコーヒーの好きなゾーンを表現します。

そして、その味覚データをもとに、毎月おすすめコーヒーを配送するのが、「My COFFEE お届け便」です。また、同データを元に、LINE上のbotでコーヒースタイリストの「おすすめコーヒー」の提案を受けることができます。

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「My COFFEE マップ」(左)と、ECサイトの香りガイド(中)、LINE上でコーヒーをおすすめしてくれるbot(右)。自分の好みに照らして、コーヒーを選びやすくしている。

――コーヒーに詳しくなくても、自分の好みを知りながらいろいろな味にも出会えるんですね。このサービスを始めるに至るまでに、どういった背景があったのでしょうか?

昨今、おいしいコーヒーを飲みたいという二ーズ自体は拡大しています。例えば、ここ数年で、コンビニでその場で淹れたコーヒーが普及しました。新型コロナウイルスの影響もあり、最近では家庭内でコーヒーにこだわる需要は増えています。

おいしいコーヒーを飲みたいと思ったとしても、豆を選ぶのって、難しいですよね。コーヒー豆を扱う店舗では、どれもガラスケースに豆がきれいに入っていますが、選ぶための情報となると味の傾向か産地などの話が中心で、エントリー層にはハードルが高い。私もそうでしたし、お客様にヒアリングすると「どの豆を選べばいいかわからない」という声が複数聞かれました。

――たしかに、産地や味の特徴を話してもらってもなかなか選べないですね。

もともと、このサービスは、豆を扱う市場でのシェア拡大と、お客様の困りごとをマッチさせたいというのが、企画の発端でした。

エントリー層に立ちはだかるハードルを解決し、コーヒーへの興味をもっと持っていただけるようにUCCがサポートできれば、店舗のCRMとしても成り立ち、ECにもつなげられるのでは、という考え方でサービスを設計していきました。

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入り口は店舗、オンラインで回遊してコーヒーの世界を楽しめる

――エントリー層に向けてサービスを企画していく上で、どういった体験の設計にこだわっていますか?

店舗を軸に体験を設計することにこだわりました。「My COFFEE お届け便」の申し込みやマップなどの操作は、LINE公式アカウントを入り口に主にスマホ上で行いますが、アカウント獲得で最も優先度が高いのは店舗だと考えています。

コーヒー豆をネットで売るのは、そもそも難しい。味や香りを体験していただけませんから。「リアル店舗を入り口にUCCに一歩近づいていただく設計が必要。それがエンゲージメントにつながるはず」と、最初から考えていました。

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――店舗を起点に体験を設計していったのですね。その視点がサービスにどのように影響したのでしょうか?

例えば、LINEをサービスの基盤として設計したことが挙げられます。途中、スマホのアプリを開発することも検討したのですが、LINEに体験の場を集約することにしました。

店舗でアプリをダウンロードしていただくより、LINEの友だち登録していただく方が、お客様にとってはずっと楽です。お客様が使い慣れていない場を新たに設けるより、使い慣れている場でやりとりしたほうがいいですよね。このように店舗を起点に、サービスに入る障壁をなるべく減らす設計にしています。

――LINEを活用することで、顧客との距離感を縮め、つながりを強めることになっているんですね。

実際、店舗からLINEの友だちになった人は、オンラインで友だちになった人と比べて継続してメッセージを受け取ってくれることが多く、その後のアクションの遷移も良いのです。対面での接客と、リアルなコーヒー体験が印象に残るからだろうと思います。

お客様のために、サービスはできるだけ簡単にすることを徹底しています。LINEの友だちになると、すぐポイントカードが出てきて貯められたり、レコメンドも「My COFFEE スタイリスト」という人格をつくり、店舗接客のような温かみとフレンドリーさをもってお勧めしたり。店舗体験をそのままスマホで再現するイメージです。

サービスの入口は店舗。そこからLINEでつながって、いろんな接点を持ちながらお客様にコーヒーの世界を楽しんでいただけるようにしています。

――自分の味覚がわかる、「My COFFEE マップ」も、そのための取り組みのひとつかと思います。マップについて詳しく教えてください。

酸味や苦味などのマトリックス図に、飲んだコーヒーと感想がプロットされていきます。好みが可視化していくので、それを基準に好きな豆を購入したり、あえてちょっと違うタイプの豆を試したりするのが容易になります。スタイリストのコメントも、選ぶ指針になればと盛り込んでいます。

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「My COFFEE お届け便」に申し込むと、届いたコーヒーを飲んで感想を選んでいくだけで、マップが充実していきます。お客様は「何を選べばいいのかわからない」ので、選ぶことから開放する仕組みですね。そのうちに「この味が好きだから単品の定期便にしよう」など、サービス体験を通じてエントリー層から自然と一歩踏み込んでいただくことを想定しています。

――運用を始めて約1年になりますが、反響やわかったことなどを伺えますか?

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LINE上の「My COFFEE STYLE」画面(左)と、「COFFEE STYLE UCC」公式Instagram。雑貨のような親しみやすいビジュアルに統一。

サービスとして提供していることで、お客様がコーヒーをいつ飲んでいるかということがわかるようになってきました。豆の感想を「好き!」か「う~ん……」で入力するタイミングは、つまり届いたコーヒーを飲んだタイミングです。

例えば、男女で比較すると、午前中に女性が多く飲んでいるので家事が一段落したところかなとか、若年層のほうがより夜に飲んでいるとか、意外と朝5時など早朝に飲む人も一定数、など定量分析からライフスタイルの推定ができるようになりました。この分析を、お勧めや商品開発に活かそうとしています。

多彩な顧客接点を連携すれば、もっと喜ばれるオファーができる

――「My COFFEE STYLE」立ち上げに先行して、オンラインとオフラインのポイントカードを統合するなど、データ統合に着手されています。どのような意図があるのでしょうか?

「My COFFEE STYLE」は、お客様の困りごとと企業としての課題解決をマッチさせようと考えてスタートしたのですが、そもそもはUCCのデータ利活用を推進する中で発案した新規事業なんです。

UCCグループには、さまざまなBtoCチャネルでの顧客接点があります。主に、①缶コーヒーなどの飲料商品、②カフェ「上島珈琲店」、③デパ地下のコーヒー豆物販店舗「UCC Cafe Mercado」の3領域です。メーカーなのに、お客様に対面して接客できる店舗があり、直販ECもあること、つまり今で言うD2Cのビジネスモデルが成立していることは、外から来た私にはとてもユニークに感じました。

しかし、事業会社が分かれていたり、システムもさまざまで、相互の連携があまりできていない状況がありました。相互連携できれば、カフェ利用の方に「このコーヒーがお好みでしたら家ではこんな製品を楽しめますよ」など、チャネル横断的なアプローチができます。

顧客から見ると、オン・オフを含めた生活圏で随時UCCが「それもいいな」と思える提案をしてくれるようになる。結果、UCCブランドの価値の向上につながると考えました。

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――実際には、連携のためにどのように具体的なデータ統合と利活用について進めていったのでしょうか?

2019年2月、上島珈琲店のLINE公式アカウントにポイントカード機能を追加し、7月に物販店のポイントカードを統合しました。並行して、2018年に先行オープンしていた店舗「COFFEE STYLE UCC」とも連携し、同店でのイベントで「My COFFEE STYLE」のプロトタイプを使っていただくなどしてUI/UXを改善、ローンチに漕ぎつけました。顧客のインターフェースは各サービスのLINEですが、裏で統合していて、アクションデータは共通して捕捉できます。

データの軸は大きく2つあります。ひとつは、購入データやWebのログデータを中心としたアクションデータ。もうひとつは、味の感想データです。その人それぞれの味覚の好みを、アクションとは違う次元で把握しています。

ECでは、ポイントを貯める条件としてLINEログインを必須にしたところ、75%の方が連携している状況です。これは非常に高い割合だと思いますね。ECの今後のコミュニケーションは、すべてLINEで展開する勢いで検討中です。

UCCはグループ全体のアセットが大きいだけに、データ統合と利活用にはとても魅力と可能性を感じています。

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”スマホ×コーヒー”の環境に企業理念をアップデート

――現状の手応えと、検討中の施策などについて教えてください。

LINE上のメッセージも前述の雑貨風のビジュアルで統一していますが、2カ月前に送った画像からECに遷移して購入されていたりします。接触がタイムラインに蓄積される強みを感じます。

思い出すことがエンゲージメントにつながっている手応えがあります。加えて、ふだん友達とやり取りしている親近感があるメディアなので、D2C時代のコミュニケーションのあり方ではないかと実感しています。

直近では、お客様がエントリー層から一歩踏み出すところを、もう少し後押ししたいです。例えば、好みに合った豆の提案などに加えて、もっと深いコーヒーの世界を感じてもらえる要素を広告で打ち出す、など。

全体の活動を通して、まだLTVやロイヤルティ向上を実感できるほどではありません。ですが、「My COFFEE STYLE」を通してより多くの方にコーヒーを楽しんでいただき、近いうちに手応えが得られるよう模索していきます。

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――これからUCCが目指す顧客体験とは、どのようなものでしょうか?

UCCは企業理念に「カップから農園まで」と掲げています。コーヒーの発展に多角的に取り組んできたもともとの強さがある上で、デジタル、あるいは私ができることは、スマホ前提の環境下に「カップから農園まで」をアップデートすることです。デジタルが浸透した生活者のあり方に、企業のコミュニケーション活動やビジネスの仕組み自体を寄せていくことが必要だと思います。

今や、待っていればスマホにいろいろな提案やコンテンツが届きますよね。なので、そこにどんなふうにコーヒーが存在すると生活者にとって自然で、興味を持てるかを考えています。また、企業からマスへ発信していた時代とは違って、スマホ時代、あるいはD2Cの時代は1対1が基本です。そこではまず1対1でつながることを起点に、その後のコミュニケーションをデザインしていく、単発で終わらない設計が大事になると思います。

そんな”スマホ×コーヒー”を具現化し、当たり前の状態にすること。それを継続していくことが今後目指すCXであり、私たちの部門の使命だと思っています。

・MyCOFFEEマップは、LINEアカウント「COFFEE STYLE UCC」と友達になることで、すぐにご利用いただけます。
https://page.line.me/tpz6577i

・COFFEE STYLE UCC online shop
https://coffeestyle.jp/

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