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セブン&アイ・ホールディングスがCX戦略で重視する “感情データ”とは。顧客の気持ちを可視化するNPS活用方法

2020年5月に株式会社プレイドは、NPS®といった指標を用い、感情データを可視化・分析するクラウドツールを展開している株式会社Emotion Techと戦略的パートナーシップを結びました。本セミナーでは、第1部でNPSの概要を説明し、第2部で株式会社セブン&アイ・ホールディングスの伏見 一茂 氏をゲストとしてお迎えし、Emotion TechのNPS調査を活用した実践例をご紹介します。

伏見 一茂
株式会社セブン&アイ・ホールディングス グループDX戦略本部DX統括部シニアオフィサー
1995年株式会社セブン-イレブン・ジャパン入社。加盟店を支援する現場でゾーンマネジャーを経験し、2011年からセブン&アイ・ホールディングス システム部 シニアオフィサー。オムニチャネル戦略参画、2016年からグループのID統合および統合Loyaltyprogramの立ち上げを実施しCRM戦略を担当。現在DX統括部シニアオフィサーとしてDX戦略を担当。
須藤 勇人
株式会社Emotion Tech マーケティング部 部長
大阪大学法学部卒業後、ソフトバンクグループ人事部門にて人事業務に従事。その後、IoTメディア・モバイルコマース領域にて起業、資金調達の実施などを経て現職。 株式会社Emotion Techにおいては、マーケティング部門及びHR事業領域の責任者として、企業の顧客評価や従業員評価向上を推進。
梅村 和彦
株式会社 プレイド VP of Operations
2003年新卒でExxon Mobilへ入社。2005年に楽天へ中途入社、楽天市場事業にて様々な部署やプロジェクトの責任者を歴任後、2011年から米国buy.com社へ赴任し米国でのECマーケットプレイスの立ち上げを行う。帰国後グリーにてマーケティングや新規事業の責任者を歴任し、2014年よりプレイドへ参画。良いCX(顧客体験)を提供するために様々な活動に従事中

2020年5月に株式会社プレイドは、データを活用したCX(顧客体験)向上に向けた企業活動を多面的に支援すべく、株式会社Emotion Techと戦略的パートナーシップを結びました。Emotion TechはNPS®といった指標を用い、感情データを可視化・分析するクラウドツールを展開しています。

2020年7月21日には、プレイドとEmotion Techがオンラインセミナー「デジタルシフトに欠かせない、これからの「CX戦略」とは ~セブン&アイ・ホールディングスが描く、顧客と共創する時代~」を共催しました。本セミナーでは、第1部でNPSの概要を説明し、第2部では株式会社セブン&アイ・ホールディングスの伏見 一茂 氏をゲストとしてお迎えし、Emotion TechのNPS調査を活用したCX向上の取組みについてお伺いしました。

注:ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

NPS®で「心の満足」を可視化し、真の顧客満足へアプローチする

Emotion Techでは、「最も優先的に改善すべきCX」を導くクラウドシステムを提供しています。Emotion Techマーケティング部 部長である須藤氏は、国内企業の取り巻く状況を、「デジタルシフトが加速し、顧客体験が180度変化している局面にある」と説明します。

須藤氏「SNSで商品をみつけ、動画で詳細を確認し、ECで購入する。そして商品が宅配で自宅に届く。そういった変化のなかで、顧客は『本当に必要なもの』だけを求めるようになってきています。企業は顧客のロイヤルティを形成し直し、『今私にとって本当に必要なものである』と顧客に自社のサービスを再認識してもらうことが重要です。」

ロイヤルティを形成する施策を展開する前に、まずは現状把握が必要です。今どれだけの顧客が自社サービスを自分にとって本当に必要なものだと認識してくれているか。Emotion Techはその調査・分析に、NPS®という指標を活用しています。

一般的な顧客満足度調査では「あなたは満足していますか」と問いかけます。一方でNPS®を利用した調査では、「今回利用したサービスを親しい友人や知人にどの程度おすすめしたいですか」と11段階でおすすめ度を評価してもらうことが特徴です。

須藤氏「ある銀行が行った満足度調査では、不満だと回答したユーザーの解約率と満足だと回答したユーザーの解約率は同じでした。満足という概念には2つあり、頭の満足と心の満足だといわれています。頭の満足は、安さ・便利さ・近さなど合理的な基準によって満たされる満足。心の満足とは、愛着・信頼・安心といった情緒的な判断によって満たされる満足。頭で満足している状態なのか、心の状態で満足している状態なのかを分けられていないため、例に出した満足度調査のような結果を生んでいるわけです。」

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顧客に満足してもらい、次の購買行動、そして事業成長につなげていくことがCX戦略の目的です。その目的を達成するためには、頭の満足ではなく心の満足を提供しなければなりません。この心の満足を測る指標こそがEmotion Techで活用されているNPS®です。

須藤氏「NPS®調査の前には、顧客目線でカスタマージャーニーマップをしっかりと整理していただきます。NPSを使えばカスタマージャーニーで整理したいくつかの体験ごとに、お客様のフィードバックを得ることが可能です。具体的な調査のイメージをご紹介します。おすすめしたいかどうかを1問目で尋ね、2問目で影響している体験がどの体験にあたるのかを探ります。」

1問目の質問で心の満足を問い、2問目で心の満足へ影響している体験を明らかにすることで、どの体験から改善していくべきかを明確に掴むことが可能です。顧客のフィードバックから効率的に課題を把握できるため、施策ごとにしっかりと結果が出るといいます。

須藤氏「今コロナの影響で起きている変化は、企業にとっても顧客にとっても初めて経験するものです。状況がガラッと一変すると、企業は顧客の要望を正しく見極めることが難しくなり、顧客の要望からズレた施策に取り組んでしまう場合も。NPS®などを使い顧客目線をしっかりとフォローすることで、ズレのない施策を提供することが可能だと考えています。」

本セミナーでは、KARTEを用いて感情のスコアリングを活用している企業の事例も紹介されました。とりあげられたのは、約50に及ぶ幅広い価格帯・顧客層のファッションブランドを擁するパル。実店舗、ウェブ、アプリ、それぞれのデータをKARTEで統合し、施策をパーソナライズしています。

感情のスコアリングを元にパーソナライズした施策は、主にECサイト上で実施されており、顧客がサイトで行動を行うごとに行動に応じた点数が付与される仕組みで自動化されています。スコアが高いお客様へはクーポンを発行するといった実際に購入につながる施策を実施。クーポンが乱立してしまうと、安売りのイメージやクーポンがないと購入しないという顧客を増やす原因になりえますが、感情のスコアリングを導入することで、クーポン施策の価値を向上することができています。

KARTEでは、Emotion Techと協業し、CX簡易診断サービス「Simple CX Survey」を提供しています。調査設計などが必要なく、NPS®調査を実施することが可能です。

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行動データに感情データを組み合わせ、顧客視点を得る

続いてのセッションでは株式会社セブン&アイ・ホールディングス グループDX戦略本部DX統括部シニアオフィサー 伏見 一茂氏から、NPS調査を活用したオンラインとオフラインの連携施策について話されました。

セブン&アイ・ホールディングスが展開するCX戦略の強みは、顧客との接点の多さです。オンラインとオフラインそれぞれで数々の接点をもち、消費者の日常へ溶け込んでいます。

伏見氏が担当されているオンライン施策が、セブン&アイグループの店舗や通販サイトオムニ7で買い物をするとマイルがたまるロイヤルティプログラム「セブンマイルプログラム」です。貯めたマイルはさまざまな特典と交換ができます。顧客のロイヤル化を図る施策として、2018年6月より開始されています。

セブン&アイ・ホールディングスは7iDのデータだけで1,175万人分(20年6月末時点)のデータを抱えています。7iDから取得した顧客属性と購買データだけでも、顧客動向を把握するには十分なデータ量です。それでもNPS調査をあわせて実施する理由は、「満足いただいているかどうかは定量のデータだけでは把握できない」からだと伏見氏は語ります。

伏見氏「2018年にセブンマイルプログラムをリリースし、同年に最初のNPS調査を実施しました。調査の結果を見たとき、愕然としました。私たちはできるだけシンプルにつくったつもりでいましたが、お客様からは、サービスの根幹であるマイルを貯める機能が分かりづらいという意見がたくさんあがってきたんです。問題を明確に把握し、企業側の目線と顧客目線に乖離があると理解できました。」

NPSの結果から、リリース後わずか1年にもかかわらず、全面リニューアルの決断。NPS調査で得た示唆を活用し、コンセプト設計からすべて見直しを行ったといいます。今年の6月には全面リニューアルを経て、新生セブンマイルプログラムをリリースしました。

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伏見氏「特典の設計も再考しました。たくさんある特典のなかで人気のある特典は、セブン&アイグループならではのオリジナル特典です。とくにセブンプレミアムのお菓子詰め合わせはお子様と一緒に召し上がって家族で楽しんでいただけるような商品を詰め合わせ、好評をいただいています。特典で食べてみて美味しかったからとリピートして買っていただける機会にもつながっており、お客様も嬉しい、私たちも嬉しいという現象が起きています。」

セブンマイルプログラムでは、お客様の声を吸い上げるレビュー機能を重視した設計が特徴的です。お客様はセブンマイルプログラム内に実装されたレビュー機能を利用して、マイルで交換した特典に関するレビューを投稿することができます。同社がお客様の声を重要視している様子が感じられます。

伏見氏「励みになる言葉がたくさんレビューとして集まってくるんです。ときには厳しいお言葉をいただくこともありますが、それも次へのステップにつながるありがたい言葉ですね。お客様の声を活かしながら、これからもお客様のためのCX改善をつづけていきたいと考えています。」

伏見氏とともにNPS調査を実施した須藤氏は、「サービスを開始した当初からCXを意識されていることに、セブン&アイ・ホールディングスの顧客に向き合う文化を感じた。」と振り返ります。

顧客の満足を向上するためには、企業側の意図と顧客の評価に表れる「ズレ」をいかに把握し解決していくかが重要です。NPSを実施するなかで、「うっ」と胸がつまるような厳しい顧客の声を受け止めなければいけないことも。しかし「顧客の声にパワーがあるからこそCX向上に向けての意志も高められていく」と伏見氏は語ります。

伏見氏「私たちは様々なデータをもっていて、データを元にした分析も行っています。しかしどこに不満をお持ちかという顧客の感情を行動データだけからつかむことは難しい。NPSでは顧客が持つ視点と自分が持つ視点のギャップが明確になるため、どの観点を改善すれば行動データや売上といった数字に跳ね返ってくるか検討することができます。情緒的な観点での分析と理論的な観点での分析を組み合わせて課題の優先度を見極めることが重要だと、実践してみてわかりました。」

「何回も利用してくれている顧客が満足しているとはかぎらない。」これは全体を通して、何度も挙がった教訓です。定量的な行動データと感情データを組み合わせて分析することで、数ある接点や多様な顧客のニーズを体系的に把握することができるようになります。心の満足を可視化し、重要度の高い問題点を捉えることが、顧客のロイヤルティを高める体験の実現へつながるのではないでしょうか。

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