Event Report

シャープ「COCORO STORE」が取り組む顧客体験の進化と、プレイドが描くAIエージェント活用のこれから|KARTE Friends Meetup in KANSAI 2026

2026年9月10日、関西のKARTE Friendsが集う「KARTE Friends Meetup in KANSAI 2026」を開催しました。本イベントでは、KARTE STAR 2026でBRONZE STARを受賞したシャープ株式会社(以下、シャープ)から、マーケティング統轄部 デジタルマーケティング部 課長の髙尾広行さんと係長の太田昂志さんが登壇。語られたのは、KARTEを活用したECサイトにおける、顧客体験の進化の軌跡です。

同社の公式ECサイト「COCORO STORE」の運営を担うお二人は、2020年4月に開始したマスク販売をきっかけにマーケティングの重要性をあらためて認識。2024年10月のKARTE導入後は、導入プロダクトと活用領域を段階的に広げ、現在ではEC部門を越えた全社的な活用に浸透しつつあるといいます。トライアンドエラーを積み重ね、KARTEの活用を拡大してきた道のりが語られました。

イベント後半には、プレイドでプリセールスユニット マネージャーを務める矢島優人が登壇し、KARTEにおけるAIエージェント活用の方向性についてプレゼンテーション。
この記事では、髙尾さんと太田さん、そして矢島のプレゼンテーション内容を中心に、イベントの様子をレポートします。

きっかけはマスク販売。「商品を販売する場」から、ユーザーとつながるECサイトへ

イベント前半で登壇したのは、シャープでECサイト「COCORO STORE」の運営とCRMを担う髙尾広行さんと太田昂志さん。ともにテレビの開発・サービス企画を出発点に、ネットサービスやECの立ち上げを経て、現在の業務に携わっています。
COCORO STOREは、家電製品や交換用の消耗品をはじめ、マスクなどの生活関連商品も幅広く取り扱うシャープの公式ECサイト。当初は商品をサイト上に掲載・販売することが中心でしたが、マスク販売がCOCORO STOREの転機となりました。

image1

「COCORO STORE」のトップページ

髙尾さん 「マスクの抽選販売がスタートすると、約900万人のお客様からのお申し込みがありました。想定を遥かに超えた反響をいただき、驚くとともに『ECサイトの運営方法を変える必要があるのではないか』と考えるようになったんです。商品を販売するだけではなく、しっかりとデータを活用し、お客様とのコミュニケーションを図らなければならないのではないか、と」

こうした気づきを受け、COCORO STOREの運営チームは、マーケティング施策の幅を拡げていきます。しかし、当時導入していたMA(マーケティングオートメーション)ツールでは、施策の実施までに一定の時間を要し、アイデアを思うように形にすることが難しい場面もあったといいます。

そこで、新たなMAツールの導入を模索する中で出会ったのが、KARTEでした。同社は2024年10月にKARTE Web、KARTE Message、KARTE Datahubを導入し、その後、KARTE Blocks、KARTE Signalsへと活用の幅は広がります。

施策立案の軸としているのは、売上を「セッション数」「CVR」「ユーザー単価」に分解し、それぞれをターゲットとした施策を実行するという考え方。

実際の施策として最初に紹介されたのは、KARTE Webを活用したファンコンテンツの作成です。

COCORO STOREではポイント制度を導入しているものの、ポイントをより有効に活用できていない課題がありました。そこで導入したのが、1日1回ルーレットを回し、結果に応じてCOCORO STOREで利用できるポイントが受け取れる「ココロポイント毎日ルーレット」です。

髙尾さん 「KARTEのシナリオストアにある、ルーレットのテンプレートをダウンロードし、少しだけデザインを変えて使用しました。導入コストが少なく、すぐ始められたのがよかったですね。結果は想定を超え、いまではPCサイトでもっともセッション数の多いページになっています。

商品を購入するより、ルーレットを回すお客様の方が多く、週に6回、7回と回してくださる方が増え続けています。どこかで利用が頭打ちになると思っていたのですが、なかなかそうならない。この施策は、サイト全体のセッション数向上に大きく貢献してくれています」

image2

シャープ株式会社 マーケティング統轄部 デジタルマーケティング部 課長 髙尾広行氏

「ルーレットを多く回してくださっている方ほど、平均注文数も平均注文単価も高い」と太田さん。ルーレットの利用頻度と購買行動には一定の相関が見られる一方で、もともとロイヤルティの高いユーザーがルーレットを利用している可能性もあるため、「今後、より詳細にその効果を分析していきたい」としました。

ユーザーデータに基づいた商品レコメンドを、最小工数で実装

2つ目の接客施策は、カート画面でのレコメンド表示です。もともと利用していたカートシステムにもレコメンド機能はありましたが、特定の商品がカートに入ると、あらかじめ設定した商品を表示するという固定的な設定しかできませんでした。

髙尾さん 「従来は、ユーザーのデータに基づいたレコメンドができなかったため、レコメンド商品の選定の軸が『在庫状況を軸とした商品』になってしまっていたんです。しかし、それではお客様一人ひとりにとって納得感のある提案になりにくく、売上にもつながりづらいと感じていました。

そこでKARTEを活用し、COCORO STORE全体の閲覧履歴と購買履歴をベースに、一人ひとりの行動に応じたレコメンドを出すように変更したんです。その結果、購入単価と購入回数のどちらも向上し、大きな効果が得られました」

同施策の企画からシステム実装までを担ったのが太田さんです。データに基づいたレコメンド機能の実装は、KARTE導入以前から検討していたものの、レコメンドエンジンを単独で導入した場合の費用対効果を証明するのが難しく、導入には至っていなかったそうです。

太田さん 「KARTEなら、レコメンド『も』できる。それが大きかったですね。KARTE Datahubのクエリコレクションには、レコメンドに活用できるテンプレートが用意されています。それを最大限活用することで、最小限のコストで実現できました。

在庫管理や『このSKU(Stock Keeping Unit。在庫管理上の最小単位)とこのSKUは同時に出さない』といった細かい調整は必要でしたが、それでもかなり少ない工数で結果を出すことができました。ゼロから開発していたら何ヶ月もかかっただろうと思います」

image3

シャープ株式会社 マーケティング統轄部 デジタルマーケティング部 係長 太田昂志氏

KARTEシリーズを幅広く活用し、「オールシャープ」でCX向上に挑む

3つめに共有されたのは、一人のユーザーの行動を徹底的に分析し、その背景にあるニーズを捉えて施策につなげる「n1分析」です。

KARTE導入後、ユーザーの閲覧行動を確認しながらニーズの理解を深めていたものの、KARTE Friendsの戦略設計から実行までを一気通貫で支援するPLAID ALPHAが開催したワークショップへの参加をきっかけに、より体系的な行動分析に取り組むようになりました。

髙尾さん 「ワークショップに参加したことで、行動分析のノウハウが理解でき、お客様の行動をより深く読み解けるようになってきました。そこから、次の施策も考えやすくなっています。

たとえば空気清浄機のフィルターなどは、さまざまな販売チャネルで購入できます。それでもCOCORO STOREで購入してくれるお客様がいる。『この方はなぜここで購入してくださったのか』をお客様の属性と照らし合わせながら深掘りしていくと、その理由が見えてきました。ここでは詳しくお話できませんが、新たな施策につながる発見ができることに大きな価値を感じています」

太田さん 「ワークショップで、実は十分に活用できていなかった機能が多いと気づきました。さらにこのワークショップは、普段の業務ではKARTEに触れていないメンバーがその機能や価値を実感する機会にもなりました。これが非常に大きな効果で、その後のKARTEシリーズの別プロダクトの導入にもつながったと思います」

image4

4つ目の活用事例は、広告運用です。シャープでは広告運用を代理店に委託せず、自社で行っています。そこで、KARTE Datahubに蓄積された1st Party Customer Dataを広告にも活用することで、より効率的な運用を実現できると考え、KARTE Signalsを導入。サイトを訪れたユーザーへのリターゲティングや、メルマガをオプトアウトした方へのリーチに活用しています。

髙尾さん 「たとえば、シャープが展開している宅配クリーニングサービスでは、昨年は自分たちの手で広告配信をしていましたが、2026年に入ってからはKARTE Signalsを活用しています。リターゲティング広告を配信したところ、獲得効率は昨年対比で213%と、大きな成果が出ました。他のサービスや商品でも認知度やCVRの向上につながる高い効果をあげています」

image5

「以前はメール配信もUX改善も人手と時間がかかり、PDCAが回せない状態だった」と髙尾さん。しかし、KARTEシリーズの導入により、さまざまな施策の実装コストが低下。PDCAサイクルが回り始め、次々と施策を実行できる体制が整い、部内にはよりユーザーのことを理解し、施策につなげようとする機運が高まっているといいます。

さらに、その機運は部外にも影響を及ぼしています。

髙尾さん 「他部門から『KARTEって何?』と聞かれるようになり、現在はECサイトだけでなく製品ページやサポートページ、会員サイトにもKARTEのタグを設置し、活用の範囲を広げています。インターネットにつながる機器の利用状況などのデータも活用しながら、部門やサービスを横断した『オールシャープ』で一人ひとりのお客様に寄り添った提案を実現したいと思っています」

「MA」の枠を超えて。これからのマーケティングに求められるツールのあり方

続いて登壇したのは、プレイドでプリセールスユニットのマネージャーを務める矢島優人です。最初に矢島から共有されたのは、「KARTEが目指す姿」について。まず、顧客データをもとにマーケティング施策を効率化・自動化するMAをはじめとしたツールに求められる価値が、どのように変化しているのかを語りました。

矢島 「数年前までMAツールに求められていたのは、多機能であることに加えて、分析やセグメント作成、ジャーニー構築といったさまざまな機能を、わかりやすいUIで誰でも簡単にできることでした。しかし、ここ1〜2年で求められるものは変化しています。

現在求められているのは、AIをツールに組み込むことで、分析の自動化や自然言語による簡易的なHTML編集など、人の手で行っていた作業をAIに代替させること。

たしかに、AIの活用によって個々の作業は楽になります。しかし、僕もマーケティングを実際にやっていたのでわかるのですが、マーケターの仕事は『ポップアップやバナーをつくるだけ』『分析をするだけ』ではありませんよね。課題を特定し、分析をして、セグメントを考え、施策をつくって配信する。そんなプロセスに一貫して関わっている場合がほとんどで、どれだけAIで各機能が効率化されても、機能同士が疎結合である限り、別々に作業を進めなければいけないのが現状だと思います」

image5

株式会社プレイド プリセールスユニット マネージャー 矢島優人

そこで、今後KARTEは、各機能を密結合にし、AIエージェントをつくれるコンソールを提供することで、分析や施策の制作、配信までを一つのインターフェースで完結させることを目指していきます。

ここで矢島は、AIによる個別機能の効率化の具体的な例として、刷新中のジャーニー機能「Journey β」を紹介しました。この機能は、ユーザーの行動や状態の変化に合わせて、サイト内ポップアップやメール配信などのマルチチャネル施策を柔軟に設計・管理することを可能にします。機能にはJourneyAIが組み込まれており、AI Agentがマーケターと自然言語で会話を繰り返しながら、意図したJourneyを自動で構築します。

矢島 「KARTEにおける従来のジャーニー機能では、手作業でさまざまな条件と分岐を設定しなければなりませんでした。ただ、慣れていないとかなり時間を要する作業ですし、経験が浅い方だとそもそもどんなジャーニーを組めばいいかわからないという課題もあります。

そこで『Journey β』では、AIと壁打ちしながら施策をつくることを可能にしました。もちろん、これまで通り人の手によってジャーニーを設計することもできます」

矢島「現時点でメールの中身までは自動生成しませんが、分岐条件やエントリー条件、『コンバージョンしたらそれ以上メールを届けない』といった設定はすべてエージェントが代替してくれます。すでにWeb接客、アプリ接客、メール、プッシュ通知にも対応。今後はLINEにも対応する予定です。

現在(2026年9月10日時点)は一部の先行企業に使用していただき、価値検証を進めている段階です。皆さまへのご提供準備を進めておりますので、ご期待いただければと思っています」

KARTEはいかにAIエージェントと連携するのか

続いて矢島が触れたのは、AIエージェントによるKARTE操作について。「商談の場でも、『KARTE内にAIエージェントを組み込もうと考えているのか。それとも、外部のAIエージェントとの連携を前提に考えているのか』と聞かれることが多い」と矢島。その質問に対する答えを、こう語ります。

矢島 「私たちの答えは『どちらともやる』です。すでに活用されている外部のAIエージェントを使用したい場合は、MCP(AIと外部ツールやデータベースを共通の方法で接続するための通信規格)経由でKARTEを操作していただいてもいい。

一方で、手元のエージェントを気軽にカスタムできたり、トークンを気にせず使ったりできる環境の方ばかりではありません。そうした方々には、KARTE内にエージェントをつくれる『Agent Studio』をご活用いただきたい。部署によって外部のAIエージェントとAgent Studioを使い分けることもできますので、それぞれの環境に合わせて選択していただきたいと思っています」

Agent Studioでは、自然言語で「こういう作業をしてくれるエージェントをつくってください」と指示をすると、その内容に合ったエージェントが立ち上がります。ただしそれだけでは自社の業務や制約を理解しておらず、実務では使えません。

矢島 「まずはインストラクションをブラッシュアップする、つまりエージェントを“賢く”する作業をしていただきます。あわせて、どこまでの操作権限・データ閲覧権限を与えるかを定義。たとえば、KARTE Messageをご利用のお客様からは、メールアドレスという個人情報をお預けいただいている。エージェントが好き勝手にデータへアクセスできる環境は許容できないと思いますので、Agent Studioにおけるエージェントの操作権限については、ホワイトリスト方式(あらかじめ許可された動作以外をすべて制限する仕組み)を採用しています」

image7

イベント会場では、Agent Studioによって作成されたエージェントのデモが投影されました。

1つ目は、アクセスログからコンバージョン寄与度の低いページを分析し施策を提案する分析エージェント。抽象的な指示でも、SQLを多段階で組み立てながら分析を進めます。

2つ目は、その分析結果をA2A(Agent2Agent。異なるAIエージェント同士が、安全に連携し協働するための仕組み)で引き継ぎ、セグメント作成から接客キャンペーンの設定、クリエイティブ生成までを行う施策作成エージェント。Web接客であればHTMLやCSSの調整、画像の管理まで担います。

3つ目は、既存の接客を複製し、画像とリンク先を差し替えて新たな接客をまとめて作成する効率化エージェントです。

外部のAIエージェント活用についても、Databricksの「Genie」からKARTEのデータを参照し接客を編集するデモが紹介されました。

矢島 「現時点で操作範囲が広いのはAgent Studioなので、スムーズにAIエージェントにKARTEを操作させたいと考えている方は、こちらをご活用いただければと思っています。ただし、さまざまな事情から外部のAIエージェントを活用していきたいという方もいらっしゃるはず。最終的には外部のAIエージェントからでも同等の操作が可能になる予定なので、いろいろと試しながらお待ちいただければ幸いです」

矢島のプレゼンテーションの後は、来場者同士でKARTE活用の現状と悩みを共有するテーブルディスカッションを実施しました。その後は、軽食と飲み物を囲んでの交流会を開催。カジュアルな雰囲気の中で、自社におけるKARTEを活用した取り組みを共有したり、課題や悩みについて共有したりする様子が見受けられました。

image8
image9
image10
image11

約1年ぶりの開催となった、KARTE Friends Meetup in KANSAI。前回よりもたくさんの方々にお集まりいただき、関西の皆さまの盛り上がりや熱量を感じる時間となりました。KARTE Friends Meetupは東京での開催が中心ではありますが、今後もこのような実践知を共有し合える場を継続的につくっていきたいと考えております。

次回の開催もぜひご期待ください!

SHARE