AIオペレーターで自己解決率85%を実現。三方よしを掲げるSBI証券が「QANT スピーク」で生み出した成果
SBI証券は、問い合わせ急増と採用難に対応するため、RightTouchのAIオペレーター「QANT スピーク」を導入しました。音声の自然なヒアリングによる自動振り分けと、現場のSVやオペレーターを巻き込んだ運用改善を重ねた結果、振り分け精度90%超、平均通話時間の1.6分短縮(月間約2,933時間の削減)、自己解決率85%を達成。顧客・オペレーター・企業の「三方よし」を実現し、センターの効率化とCX向上を両立させています。

新NISAの開始やオンライン取引のセキュリティ強化を背景に、SBI証券のカスタマーセンターでは問い合わせが急増しました。オペレーターの人員を増やしても対応が追いつかず、従来の用件に応じて窓口を振り分ける電話ガイダンスも、選択肢を増やすほど顧客の負担が大きくなるという課題を抱えていました。Webからの問い合わせはQANT コネクトで最適化できていた一方、検索で電話番号を見つけて直接電話をかけてくる顧客を、いかに適切な窓口へどう振り分けると良いかが課題として残っていました。そこで同社は顧客が用件を話すだけで適切な窓口へ振り分け、自律改善によって精度向上と運用負荷の削減を両立するAIオペレーター「QANT スピーク」の本格運用を開始しました。
現場のスーパーバイザー(SV)とオペレーターを巻き込み、着信画面、トークフロー、スキル配置まで見直した結果、振り分け精度90%超、カスタマーセンター全体で月間2,933時間の対応時間の削減(平均通話時間1.6分短縮を対応件数に当てはめた推計値)、自己解決率85%を確認し、2026年6月に本格導入しました。
AIを現場に定着させながら、顧客、オペレーター、会社の「三方よし」をどう実現しようとしているのでしょうか。株式会社RightTouchでAIオペレーター事業責任者を務める武藤尚也が、SBI証券のカスタマーサクセス推進部 カスタマーサクセス推進部長 河田裕司さんとAI戦略推進部 兼 カスタマーサクセス推進部 課長 佐竹祐哉さんに聞きました。
増加する問い合わせ数に人員拡充だけでは追いつかなかった
武藤:QANT スピークの導入を検討した背景を教えてください。
河田:ここ数年、お客様の増加に伴って問い合わせが増え続けていました。なかでも新NISAの開始や、直近のオンライン取引におけるセキュリティ強化の影響は大きく、入電件数は約2.5倍になりました。電話がつながらずに切れてしまった呼量まで含めると、ピーク時には約5倍に達していたと見ています。
これに対応するため、人員拡充にも取り組んでいましたが、採用と育成の速度が問い合わせの増加に追いつきませんでした。また、証券業務は専門性が高く、研修後に電話へ出始めた時期に難しさや不安を感じ、定着しないケースもありました。人を増やし続けるだけでは、解決できない状況になっていたのです。
武藤:以前より、お客様のWeb行動データをもとに最適なオペレーターへ自動マッチングする「QANT コネクト」を活用いただいていましたが、それでも残っていた課題は何だったのでしょうか。
河田:QANT コネクトは、Webサイトから問い合わせ窓口を探すお客様に対して、非常に機能していました。ただ、実際には検索エンジンで電話番号を調べ、当社のWebサイトを経由せずに直接電話をかけるお客様も多くいらっしゃいます。そうしたお客様を、電話の入口からよりスムーズに適切な窓口へつなげられないかと考えるようになりました。

(株式会社SBI証券 カスタマーサクセス推進部 カスタマーサクセス推進部長 河田 裕司氏)
武藤:電話の入口での振り分けは、従来の電話ガイダンスでは難しかったのでしょうか。
河田:問い合わせ内容ごとに選択肢を増やせば、当社にとっては適切な窓口に振り分けやすくなります。ただ、その分、お客様にとってはガイダンスが長くなり、選ぶ負担も増えます。選択肢を増やす方法には限界がありました。
さらに、混雑している窓口を避けて、空いている別の窓口へ電話をかけるお客様もいらっしゃいます。そうすると、その窓口では回答できず、転送やかけ直しが発生します。オペレーターの負荷だけでなく、お客様にも不便をおかけしていました。
武藤:QANT スピークを導入するにあたり、重視していた点はありますか?
河田:SBI証券のCS部門では、お客様、オペレーター、会社の「三方よし」を大切にしています。中心にいるのはお客様です。ただ、最高のサービスは、お客様に向き合うオペレーターがいて初めて実現できます。お客様、オペレーター、会社の三者それぞれに価値をもたらすことが欠かせません。
この考え方の根底にあるのは、お客様が、自分の課題解決に最も適した手段を選べることです。そのため、AIへ強引に誘導したり、SMSを送っただけでお客様の課題が解決されたとみなしたりはしません。その後、お客様がスムーズに手続きを完了できたのか、別の窓口へ問い合わせていないかまで見て、初めてAIを活用できたと言えます。AIのほうが使いやすい方はAIへ、人の支援が必要な方は人へ。できる限り、お客様が選べる状態を残したいと考えています。この考え方は、AIオペレーターを構築できるQANT スピークの導入においても重視していました。
会話の自然さと運用性が決め手になり、QANT スピークを導入
武藤:その考え方を踏まえ、導入にあたり4社のサービスを比較したそうですね。最も重視した評価軸とQANT スピークを選んでいただいた決め手を教えてください。
佐竹:最初から最後まで最も重視したのは、CXです。自分がお客様だったら使い続けたいと思えるか。離脱を防ぐうえで、人と話すときに近い自然な会話ができるか。その点を見ていました。
比較したサービスの中には、生成した長い文章を一方的に読み上げるものもありました。文章で読めば理解できても、電話口で長く話されると内容をつかみにくい。QANT スピークは、たとえば「ログインできない」という漠然とした相談に対して、ユーザーネームやパスワードを忘れたのか、二要素認証で困っているのかと、短い問いを重ねながら原因を分けていきます。AIの発話中にお客様が話しても、その内容を聞き取って会話を修正できる。そこに自然さを感じました。
武藤:定型的なルールベースの会話ではなく、お客様の状況に合わせてインタラクティブに対応できる会話の自然さを意識されていたことは導入サポートを担当した私も感じていました。導入の決め手となったのもこの点でしょうか?

(株式会社SBI証券 AI戦略推進部 兼 カスタマーサクセス推進部 課長 佐竹 祐哉氏)
佐竹:もう一点、運用性も重視しました。証券会社の問い合わせは、市場の動きや制度変更によって急に増えたり、内容の傾向が変わったりします。従来型のシステムで、要件を固め、構築とテストを経てリリースする進め方では、変化に柔軟に適応できません。現場で新しいフローを作り、既存のフローをすぐに修正できることが必須でした。
QANT コネクトで振り分けを設計してきた経験や、電話基盤であるGenesys Cloudの設定で培った知見を生かせることも大きかったですね。新しい仕組みを単体で入れるのではなく、これまで経験してきた運用とつながっていく点を評価しました。
武藤:電話の後にSMSでWebページを案内するだけでは、その先はお客様自身が操作方法を理解し、解決まで進まなければなりません。そこで、QANT Webで捉えたWeb上の行動をもとに、電話の音声で操作を案内する体験をデモでご覧いただきました。河田さんは、あのデモをどのように受け止めましたか。
河田:あのデモを見たときは、「まさにこれだ」と思いましたね。当社の役員も、見たことがない体験だと驚いていました。Webと電話をつなげて体験を拡張できることは大きい。振り返ると、最後に導入を決めた理由の一つだったと思います。
オペレーターがプロダクトを利用する負荷をどう減らすか
武藤:お客様の状況や市場の環境などによってカスタマーセンターでは応対も変わります。変化に合わせたスピーディな対応が重視されるなかで、運用性は重要なポイントですよね。今回、PoCを実施する段階では、どのような効果を想定していましたか。
佐竹:通常の電話では、有人オペレーターにつながってから用件を聞き、必要に応じて本人確認をします。そこに2分から3分ほどかかるため、そのプロセスをAIが代替し、事前にお伺いすれば、オペレーターの通話時間をその分短縮できると考えていました。実際に、現在は平均通話時間を1.6分短縮できています。また、QANT スピークが一次受けをすることで、自分が対応できる問い合わせが届くようになり、心理的に楽になったというオペレーターの声も上がっています。
武藤:その成果を引き出すまでには、運用面の課題もあったそうですね。
佐竹:はい、スモールスタートで始めた分、その効果を最初から十分に引き出せる状態ではありませんでした。
まず、運用に慣れるまでの時間が必要でした。オペレーターが1日に受ける電話のうち、QANT スピーク経由の着信は少数だったため、たまにしか来ない電話のために、専用のマニュアルや対応方法を即座に思い出すのは難しい状況でした。加えて、何のために新しい対応をするのか、施策の意図を十分に共有できていませんでした。
もう一つは、画面の見せ方を運用に合わせて調整する必要があったことです。AIが聞き取った内容は、着信画面にあるリンクを押して、別のページを開かなければ確認できない仕組みだったため、着信直後にその操作をする余裕はなく、ページの表示にも時間がかかっていました。お客様は、AIに話した内容がオペレーターへ連携されているとは分からないため、用件を最初から話します。オペレーターはその話を遮れず、結局もう一度聞き取っていました。PoCを通じて、こうした現場の運用実態が見えてきたのです。

(株式会社RightTouch AIオペレーター事業責任者 武藤 尚也)
河田:導入したプロダクトが効果を発揮するには、使う側が無理なく使えることが前提です。応対をしてくれているオペレーターがストレスを感じれば、使うこと自体に抵抗が生まれます。自然な業務の流れの中で、負荷をかけずに使ってもらえるか。そこが最も重要だと、今回あらためて実感しました。
佐竹:そうですね。そしてPoCから本番導入の判断には、費用対効果を説明できる材料も必要でした。完成形に近いフローが整うまでRightTouchとも相談しながらPoCを続け、効果を確かめていきました。
地道に効果を検証、SVとの連携で現場の課題抽出から見えた突破口
武藤:効果を感じられるようになった、転機は何だったのでしょうか。
佐竹:横浜のカスタマーセンターで働くスーパーバイザー(SV)に、プロジェクトへ入ってもらったことです。管理画面の数値や録音された音声だけでは、なぜ効果が出ないのかは分かりません。現場の社員と委託先のSVに協力してもらい、オペレーターがどこでつまずいているのか、本音を集めました。
現場と普段から接点があるSVが伝えることで、新しい運用の意図も浸透しやすくなりました。オペレーターも、管理側には言いづらいことを率直に話せたのだと思います。そこで初めて、着信画面からリンクを開く操作が負担になっていることが見えてきました。
武藤:具体的には、画面と運用をどのように変えたのでしょうか。
佐竹:QANT スピークとGenesys Cloudを連携し、AIが聞き取った最低限の情報を、着信と同時にオペレーターの画面へ表示するようにしました。別のページを開かなくても、用件の要約を見ながら応対できます。オペレーターへのアンケートでも、事前に情報が分かり、応対に入りやすくなったという声がありました。
運用面では、QANT スピーク経由の電話を受ける担当者を絞り、集中的に検証しました。同じ窓口でも、AIを経由した電話と経由していない電話の両方を受けられるスキルを設定し、成果を比較しました。まず柔軟に対応できる経験者でモデルを作り、徐々にほかのメンバーへ広げました。

(Genesys Cloudの着信画面に表示されるAIの要約情報)
武藤:担当者を絞って集中的に検証するなかで、現場ではどのような変化がありましたか。
佐竹:少人数で応対をリアルタイムに確認する取り組みが生まれました。これは横浜のセンターが自発的に始めてくれたものです。うまく使えている人と、まだ慣れていない人が少人数で集まり、画面の使い方や応対のコツを共有します。そのなかで、トークフローの工夫も重要だと分かってきました。AIの応対から有人オペレーターに連携された際、お客様がAIに話した用件を有人オペレーターに繰り返し説明する前に、オペレーターが会話をリードする。その進め方を現場同士で共有したことで、応対の重複が減り、活用も進んでいきました。
武藤:私たちも横浜のセンターに伺い、オペレーターの皆さんとのディスカッションに参加させていただきました。振り分け結果を分析し、どの問い合わせが「その他」に流れているかを見ながら、追加すべき問い合わせ分類やタグを一緒に考えました。本番では、デモのときには見えなかった課題が必ず出てきます。プロダクトの設定だけでなく、課題を見つけて改善し続ける運用をどう仕組み化するかが大切だと考えています。
佐竹:現場の声をもとに、RightTouchのみなさんと画面と運用の両面を一緒に検討できた。それが成果につながっていると思います。
カスタマーセンター全体で月間2,933時間の削減と、85%の自己解決率
武藤:その後も改善を続けられていますが、手応えはいかがでしょうか。
佐竹:コールリーズンの振り分けは90%を超える精度に到達し、1件あたりの通話時間も平均で1.6分短縮されるという成果が出ています。
当初は、AIがコールリーズンを分類できず「その他」の窓口へ流れる問い合わせが多くありました。分析をもとに、問い合わせ分類や通話タグを追加し、網羅性を高めていきました。管理画面の自動テストも使い、フローを修正してテストし、結果が悪ければまた直す。そのサイクルを約1か月間、集中的に回し、90%を超える精度に到達しました。90%は高い目標だと思っていたので、達成できたと聞いたときには良い意味で驚きました。
通話時間の短縮も、カスタマーセンターに問い合わせがくる主要ダイヤルの対応件数に当てはめて試算すると、センター全体で月間約2,933時間になります。オペレーターの採用・育成コストに換算しても、大きなインパクトです。同じ人数で、より多くの問い合わせに対応できる可能性が生まれています。
こうした成果には、QANT スピークのUIの使いやすさや、音声の聞き取り精度も寄与したと思います。

河田: 音声の聞き取り精度といえば、AIによる本人確認の復唱には驚きました。氏名の認識に迷ったときには、複数の候補を示して確認する。そこまでできるのか、と衝撃を受けました。
これはお客様にとっても大きな意味があります。お客様はご自身の大切な時間を使って問い合わせをしています。通話が1分半ほど短くなれば、その分早く本来の用事へ戻れる。通話時間の短縮は会社側の効率化だけでなく、CXの改善にもつながっています。
佐竹:また、一部リーズンで自己解決率85%という結果が出ています。この数字は、やや想定を上回る結果です。人につながらなくても、AIのみで対応できる可能性があると感じました。ただし、今回の自己解決は、「応対中に転送なし、かつ応対後24時間以内に再入電なし」を条件に算出しています。まだまだ改善が必要という認識をしたうえで、現時点では期待に沿う結果だと考えています。
河田:今は、お客様が自然にAI応対を選んだ結果です。今後、お客様の属性や取引履歴なども踏まえて、AIで案内するほうがよいケース、リーズンを判断できるようになれば、さらに伸ばせる余地があると思います。
プロダクトだけでは解けない。AIへの心理的不安が本格展開の課題
武藤:QANT スピークの導入に対してオペレーターからは、どのような反応がありましたか。
佐竹:QANT スピークが一次受けをすることで、適切な窓口へ振り分けられ、自分が対応できる問い合わせが着信することで、心理的に楽になったという声がありました。AIが聞き取った要約があらかじめ表示されることも、応対に入る際の心理的な負荷を軽くしています。
一方で、全員から理解を得られたわけではありません。現場を知らない本部が、また新しい施策を始めたように感じたという厳しい意見もありました。プロダクトが良いだけでは、使う人が納得して新しい運用へ移れるとは限らないことも分かりました。
武藤:本格展開に向けて、どのような点が課題になると考えていますか。
河田:これからが本番です。平均通話時間が短くなれば、管理側は1人あたりの対応件数を増やしたいと考えるでしょう。伝え方を間違えれば、オペレーターには単に負担が増えたと受け止められます。AIを使いこなすほど、自分の仕事がなくなるのではないかという不安も生まれます。
プロダクトの良さは確かで、オペレーターの負担も減ります。そのうえで、心理的な不安をどう前向きな変化へつなげるか。導入の意図を丁寧にオペレーターのみなさんに共有し、現場が毎日使いながら改善できる体制を作ることが、今後の大きな課題です。専門的に運用と改善を担う人も必要になると考えています。
AIが担う範囲が広がるほど、人の役割と価値は高くなる
武藤:今後、QANT スピークをどのように広げていきたいと考えていますか。
佐竹:AIオペレーターの対象窓口は現時点でテクニカルな問い合わせ全体に広がっています。この運用を定着させて、さらに他の領域にも広げていきたいと考えています。平均通話時間の短縮に加えて、転送率の低減やAIによる自己解決の拡大にも取り組みたいです。将来的にはCRMと連携し、お客様を理解したうえで案内をパーソナライズすることも考えています。
もう一つ構想しているのが、問い合わせ内容だけでなく、お客様とオペレーターの相性を考えたマッチングです。話し方やコミュニケーションの特徴を捉え、相性の良いオペレーターへつなげられれば、応対はよりスムーズになります。お客様の満足度、生産性、オペレーター体験のすべてを高められる可能性があります。
武藤:河田さんは、AIによる振り分けが結果的に収益にもつながると考えているのですね。
河田:はい、さらにCRMとの連携で、過去の取引や関心に応じて、その商品に詳しいオペレーターや、提案力のあるオペレーターへつなぐことも考えられます。それがお客様の取引を後押しできれば、AIはコストを減らすだけでなく、収益に貢献する仕組みにもなります。そのときは、オペレーターに求める役割や、価値の測り方も変わります。振り分けの仕組みだけを整えるのではなく、育成や評価の仕組みまで見直す必要があると考えています。
武藤:AIが進化すると、人のオペレーターには何が求められるようになるでしょうか。

佐竹:AIで解決できる問い合わせが増えても、人と話したい方や、AIだけでは解決できない困りごとはなくなりません。その先を担うオペレーターの価値は、むしろ高くなります。より難しい相談に向き合える人を育てていく必要があります。
河田:必要なのは知識量だけではなく、相手の状況を理解し、対話を前へ進める力です。オペレーターに余分な労力を使わせず、人にしかできないコミュニケーションに集中できるように、AIが人を支える機能も欠かせません。そこまで設計して、CXとEX、会社の成果がつながるのだと思います。
武藤:AIオペレーターの導入を検討している企業へ、メッセージをお願いします。
河田:まずは、小さくても始めてみることです。実際に使わなければ、効果も良さも分かりません。カスタマーセンターは今、これまでの運営の前提を見直す転換期にあります。守るべき方針は守りながらも、過去の考え方を変えるくらいの気持ちで、AIに挑戦すべき時期に来ていると思います。